魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第32話 見えない敵が見える方法

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――三日後、レノは未だに化物魚を討ち取れずにいた。この三日の間に化物魚を誘き寄せる方法や居場所を見抜く術がないのか色々と試してみたが全て失敗に終わる。


「はあっ……駄目だ、目がおかしくなりそうだ」


泉の水底で輝き続ける苔を見続けたせいでレノは目が痛くなり、隠れた化物魚を探し出すことを諦めてしまった。どんなに目を凝らしても光苔(勝手に名付けた)に紛れている化物魚を見つけられず、目視で化物魚を探し出すのは不可能だと判断した。

この三日の間にアルが訪れることは一度もなく、彼女との約束で家に戻ることはできない自給自足の生活を送ってきたが、そろそろ限界を迎えていた。


(この辺で採れるのは魚ぐらいしかいないし、動物も魔物も見かけなくなったな……)


初日は運よく一角兎を狩ることができたが、それ以降は魔物や動物の姿は一切見かけていない。恐らくではあるが世界樹の周辺に生き物が近付かないのは無意識に世界樹から放たれる魔力の圧に耐えられずに逃げていくのが原因だと思われた。

世界樹は凄まじい魔力を宿しており、その魔力は他の生物にも影響を及ぼす。ただの魚が魔物のように変貌したのは世界樹の放つ魔力を間近で受けたせいであり、光苔も世界樹の影響で変異した植物なのは間違いない。


「はあっ……ここにいるとそのうちに俺もおかしくなりそうだな」


最初の内は意識してなかったがレノは世界樹の魔力を感じ取った日から自分が常に強大な魔力に包まれている感覚を抱く。流石に魚のように肉体が変貌することは有り得ないと思うが、この場所にいるだけで妙な気分を抱く。


(餌で釣り上げるのも駄目、隠れている場所を見つけるのも無理、こんなのどうすればいいんだよ)


この三日の間に罠を仕掛けたり、化物魚を釣り上げようとしてみたがどれも失敗に終わった。どうやら化物魚の主食は光苔らしく、どんな餌を用意しても食いつきもしない。しかも肝心の光苔はいくらでも生えてくる始末だった。


「くそっ、腹が減ってきた……しょうがない、今日も魚を取りに行くか」


空腹を抱いたレノは弓矢を手にして川へと向かい、弓魔術を利用して魚を取ることにした――





――川へ辿り着いたレノは大きな岩の上に乗り込み、上から見下ろして水中を泳ぐ魚を探す。魚を見つけたら即座に弓魔術で矢を撃ち込み、仕留めた魚が水面に浮きあがるのを待つ。


「結構いるな、これなら食べ放題だな……もう魚は飽き飽きだけど」


幸いなことに世界樹の近くに流れている川にはいつでもたくさんの魚が泳いでおり、ここに来れば食料に困ることはない。流石に毎日魚を食べ続けたら飽きるが、空腹の状態ではまともに動けないので仕方なく矢を討つ準備を行う。


「うっ……目がちかちかしてきた」


先ほどまで化物魚を探していたせいで目の調子がおかしく、魚を撃ち抜くのを中断してレノは目を閉じた。しばらくは岩の上に座り込んで休もうとした時、不意にレノは違和感を抱く。


(何だろうこの感覚……今までと違う)


目を閉じた状態でレノは座っていると、何故だか分からないが魔力感知を発動させた。魔力感知は生物が放つ魔力を感知する技術だが、不思議なことに以前よりも精度が増している気がした。

視力に頼らずともレノは水中を泳ぐ魚の群れを正確に把握し、試しにこの状態で弓矢を構えた。目が見えぬ状態でレノは弓を構えていると、一匹の魚が水面に向かって移動していることに気が付く。


(今だっ!!)


水中から魚が飛び跳ねようとしていることに気が付いたレノは弓魔術を使わずに弓を構え、魚が飛び出した瞬間に矢を放つ。そして射抜いた矢は見事に魚を撃ち抜いた。


「当たった……!?」


まさか弓魔術も使わずに自分の矢が魚に当たったことにレノは驚きを隠せず、慌てて水面に浮かんだ魚を回収した。魚の腹の部分に矢が突き刺さっており、それを見たレノは考え込む。


(まさか師匠が言ってた見えない敵が見えるようになるって……)


アルが立ち去る前に告げられた助言を思い出し、やはりあの言葉は自分の目で敵の位置を確認するのではなく、魔力感知で敵の位置を把握しろという意味ではないかと考える。

見えない敵というのは目では捉えきれない場所にいる敵のことを差し、敵が見えるようになるという言葉は魔力感知で敵の位置を把握すれば視界に頼らずとも敵を狙い撃てるという意味ではないかとレノは真っ先に考えた。だが、仮にレノの考えが合っていたとしても魔力感知で化物魚の位置を特定するのは不可能だった。


(魔力感知で化物魚を探すなんて無理だ!!あの世界樹のせいで化物魚の魔力がどこにあるのかなんて分からなかったんだぞ!!)


最初に魔力感知を試した時にレノは世界樹が放つ凄まじい魔力を感じ取り、あまりの存在感に腰が抜けそうになった。そんな世界樹の傍に潜む化物魚の魔力を感知するなど無理だと思った。


「あんな馬鹿でかい魔力の傍で他の魔力を探すなんて無理に決まってる。でも他に方法なんて……」


いくら考えても魔力感知以外で化物魚の位置を特定する方法は思いつかず、自分が何か見落としていないのかをレノは考える。岩に背中を預けてレノは目を閉じると、魔力感知を発動して周囲の様子を伺う。


(ここら辺まで来れば世界樹の魔力は感じられないな。まあ、世界中が放つ魔力のせいで生物が近寄れないなら当たり前か……)


世界樹の魔力が漂う場所には生物は近づこうとせず、例の化物魚も川が氾濫していなければ泉に来ることもなかったはずである。心を落ち着かせてレノはもう一度だけ魔力感知を試すと、不思議なことに前よりも遠くの場所まで感知できるようになっていた。


(おかしいな、疲れてるはずなのに前より魔力を感じ取れるようになった気がする……)


川の中を泳ぐ魚だけではなく、近くの木々の枝に留まっている小鳥や茂みに隠れている蛙や蛇などの小動物の魔力も感じ取れる。それどころか今までは感じ取れなかった樹木や雑草などの植物まで魔力を感じた。


(そうか、動物だけじゃなくて植物にも魔力は宿っているのか……よくよく考えたら世界樹も植物なんだよな)


魔力を有しているのは人間や動物だけではなく、植物なども例外ではない。世界樹の魔力を感じ取ったせいかレノは今まで意識してこなかった生物の魔力も感知できることに気が付く。


(こうしてみると……一つ一つの魔力に特徴があるんだな)


たくさんの魔力を感じ取りながらレノは一つ一つの生物に宿る魔力には違いがあることを知り、改めて意識を集中させる。


(もっとだ……もっと深く魔力を感じ取るんだ)


今までの自分は魔力のしか感じてこなかったことに気が付き、意識を集中させてより正確に魔力を感じ取る。そして遂にレノは新たな境地へ達した。


(何だ……この光は?)


目を閉じているはずなのにレノにはが見えた。しかも数は一つだけではなく、たくさんの光がレノの周りには存在した。その光の一つ一つが生物の魔力だと知った悟ったレノは身体が震えた。

自分が気付かなかっただけで全ての生物は独自の魔力を形成し、全く同じ魔力を持つ存在などいなかったことに気が付く。そしてレノは世界樹がある方向に顔を向けると、そこには強烈な光を放つ存在を感知する。


(これが世界樹の光……なんて神々しいんだ)


世界樹から大分離れているのにレノは魔力の光を確認できた。他のどんな生物よりも強くて神々しい光を放ち、それを見てレノは改めて世界樹の偉大さを思い知る。


「これが世界樹か……はは、それに比べて俺のはちっぽけだな」


より深く魔力を感知できるようになったお陰か、レノは自分の身体に宿る魔力も感知できた。世界樹の光と比べたらレノの光はあまりにも小さくて弱々しく、とても頼りになりそうではない。


「でも、いつかきっと……」


自分が成長すれば自然と自分の中に宿る光も強くなると信じ、まずはアルに課せられた最後の課題を果たすためにレノは世界樹の元へ戻ることにした――
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