魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第18話 ゴブリンの群れ

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(どうしてバレたんだ!?殺気が漏れてた?でも三匹同時に気付かれるなんて……)


昨日と同じく矢を放つ寸前に敵に勘付かれたことにレノは動揺を隠せず、今はともかく逃げることに専念する。


「くそっ!!」
「ギギィッ!!」
「ギィイッ!!」
「ギィアッ!!」


三匹のゴブリンはレノを獲物を定めて追跡し、武器を振り回しながら後を追いかけてきた。レノは強化術を発動させて身体能力を上昇させ、全速力で森を駆け抜けた。


(どうして気付かれたんだ!?いったい何が悪かったんだ!?)


走りながらもレノはゴブリンの群れに自分の存在が気付かれたことに疑問を抱き、逃げ続けながらも自分の行動を振り返る。これまでの狩猟で失敗した際の出来事を思い出し、遂にレノは真実に辿り着く。


(まさか……!?)


弓を撃つ際にレノは強化術を発動させて筋力を強化させ、今までよりも矢を遠くに飛ばせるようになった。だが、矢を撃つ際に強化術を発動する癖が身についてしまい、それが原因で獲物に勘付かれた可能性があった。

理由は不明だが強化術を発動させると動物や魔物はレノの存在に勘付くらしく、実際に弓を撃とうとすると必ず獲物はレノに顔を向けて存在に勘付いていた。狩猟が失敗した原因は殺気などではなく、今まで頼りにしていた強化術が原因かもしれないと知ってレノは衝撃を受ける。


(もしかしてこいつらも魔力を感知する能力があるのか!?いや、でも最初に隠れていた時は気付いていなかったはず……きっと強化術を使うと気配か何かが強まるんだ)


理屈は不明だが強化術を使用するとレノの居所は動物や魔物は感知するらしく、だから今までの狩猟も失敗に終わった。矢を撃つ前に存在に勘付かれたら獲物が逃げ出すなど当たり前だった。


(まさか強化術にこんな弱点があるなんて……)


想像もしなかった強化術の弱点を知ってレノは悔しく思い、自分が慢心していたことに気付く。身体能力を上昇させる便利な術で特に弱点などないと勝手に思い込んでいた自分を恥じる。


(反省は後だ!!今は何としても逃げないと……しまった!?)


考えごとをしながら走っていたせいでレノは足元の注意が疎かになってしまい、走っている途中で小石に躓いて転んでしまう。


「うわぁっ!?」
「ギギィッ!!」


地面に転んだレノに目掛けて石槍を抱えたゴブリンが真っ先に追いつき、石槍を突き刺そうとしてきた。それを見てレノは咄嗟に繰り出された槍を掴み取る。


「このぉっ!!」
「ギィアッ!?」


自分の顔面に突き刺そうとしてきたゴブリンに対してレノは石槍を掴み取り、反射的に蹴りを繰り出してゴブリンを吹き飛ばす。


「寄越せっ!!」
「ギャアッ!?」
「ギィッ!?」
「ギギィッ!?」


アル仕込みの喧嘩殺法でレノは石槍を奪い取ると、蹴り飛ばしたゴブリンに視線を向けた。思わぬ反撃を受けたゴブリンは仲間の二匹に身体を起こされるが、それを見てレノは今の自分なら戦えると判断した。

奪い取った石槍を握りしめるとレノは強化術の効力が切れる前に全力で投擲を行う。身体能力を限界まで上昇させた状態でレノは石槍を投げつけてゴブリンを狙う。


「喰らえっ!!」
「ギャウッ!?」
「「ギィアッ!?」」


仲間の手を借りて立ち上がろうとしたゴブリンにレノは石槍を投げつけ、頭部に的中させることに成功した。ゴブリンは頭を槍で貫かれて絶命し、それを見た他のゴブリンは慌てて手放す。


(倒した!!俺の手で魔物を……)


初めて魔物を倒したレノは興奮するが喜んでばかりはいられず、ゴブリンを一体仕留めてもまだ二匹残っていた。仲間を殺されたゴブリン達は怒りの表情を浮かべ、今度は左右に分かれてレノに近寄る。


「ギィイイッ!!」
「ギギィッ!!」
「うわっ!?」


別々の方向から攻撃を仕掛けてきたゴブリン達に対してレノは慌てて距離を取って体勢を立て直そうとした。だが、ゴブリン達はレノに反撃の隙を与えずに連続攻撃を仕掛ける。


「「ギィイッ!!」」
「くっ!?こいつら……しつこいっ!!」


連携で攻撃を仕掛けてくるゴブリン達にレノは焦りを抱き、このままでは強化術の効力が切れてレノは動けなくなってしまう。強化術が切れると無理に筋力を強化した代償として酷い筋肉痛に襲われ、しばらくの間はまともに動けない。今のレノの再生術では動けるように回復するまで多少の時間が掛かり、完全回復する前にゴブリンに殺されてしまう。

どうにかして強化術が切れる前にレノはゴブリン達から離れなければならないが、手元には武器になりそうなのは弓と矢しかない。敵から近すぎると弓で狙う前に相手から攻撃を仕掛けられてしまい、どうにか距離を取る必要があったがゴブリン達は決してレナを逃さない。


(このままだとまずい!!どうすれば……そうだ、これがあった!!)


レノはゴブリン達の攻撃を躱しながら懐に手を伸ばすと、吸魔石が嵌め込まれた腕輪を取り出した。アルがレノの修業のために新しく用意してくれた腕輪であり、腕輪越しに吸魔石に魔力を送り込んで発光させる。


「喰らえっ!!」
「「ギィアアアッ!?」」


魔力を取り込んだ吸魔石が光り輝き、一瞬だけ閃光のように輝きを放つ。ゴブリン達はたまらずに目元を閉じて動きを止め、その間にレノは反撃に出た。


「おらぁっ!!」
「ギャウッ!?」
「ギィアッ……!?」


目が見えない内にレノは片方のゴブリンの顔面に目掛けて拳を繰り出し、まるで猪の突進でも受けたかのようにゴブリンの身体が吹き飛ぶ。子供とはいえ強化術で身体能力を上昇させたレノの一撃を受ければ無事で済むはずがない。

殴り飛ばされたゴブリンは地面に倒れて動かなくなり、それを確認したレノはもう片方のゴブリンに視線を向けた。まだ完全に視力が戻ってないのか仲間の悲鳴を聞いて戸惑っており、絶好の攻撃の機会だった。


(あとはこいつだけ……!?)


ゴブリンにもう一度殴りかかろうとした瞬間、レノは激しい頭痛を覚えた。強化術と吸魔石を利用したせいで一気にレノは魔力を削られてしまい、このままでは強化術が解けてしまう。


(まずい、ここで倒れたら死ぬ!!)


強化術が完全に切れる前にレノは逃げ出そうとするが、10メートルほど離れたところで強化術の効力が切れて激しい筋肉痛に襲われる。


「っ――――!?」


あまりの痛みに悲鳴をあげそうになるがレノは必死に堪え、どうにかゴブリンの視界が回復する前に近くの茂みに身を隠す。身体中に激痛が走って声を抑えるのがやっとであり、とても再生術を施す余裕もない。


(駄目だ、こんな場所に隠れてもすぐに見つかる……もう魔力も殆ど残っていない)


茂みの中でレノは身体を震わせてゴブリンが気付かないことを祈り、もう殆ど魔力は残っていなかった。その一方で視力がようやく回復したゴブリンは姿を消したレノを探す。


「ギギィッ!?」


茂みの中に隠れているレノはゴブリンの鳴き声を耳にして口元を抑え、決して声も物音も立てないように気を付ける。ゴブリンは消えたレノを探して歩き始めた。


「ギィイッ……!!」
「っ……!!」


魔力感知の技術を覚えていたお陰でレノはゴブリンの居所を察知し、少しずつではあるが自分の元に接近していることに気が付く。まだ完全にバレたわけではないようだが、このままでは見つかって殺されてしまう。


(駄目だ、もう逃げられない。どうすればいいんだ……待てよ?)


絶対絶命の状況の中でもレノは生き残る可能性を見出し、駄目元で試してみることにした。
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