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第6話 魔力操作

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――翌日の朝、レノは目を覚ますと小屋の中にいることに気が付く。自分がいつの間にか眠っていたことに気付いた彼は慌てて起き上がった。


「しまった、何時の間にか眠って……吸魔石は!?」


訓練の際中に寝落ちしてしまったらしく、慌ててレノは吸魔石を探し出すと床に転がっている吸魔石を見つけた。それを見てレノは反射的に拾い上げる。


「良かった、ここにあった……あっ!?」


無意識に拾い上げる際にレノは両手で吸魔石に触れてしまい、気を抜いていた彼は魔力を吸魔石に吸われると思った。だが、昨日の夜までと違って吸魔石に触れても何も起きない。

不思議に思ったレノは吸魔石を覗き込むとただの水晶玉と化したように光り輝かないことに気が付き、まさか壊れてしまったのかと思ったがそれがすぐに誤りだと気が付く。無意識にレノは吸魔石に奪われそうになる魔力を体内に押し留めていた。


「あれ?なんで平気なんだ?」
「……お前が魔力操作の技術を身に着けた証拠だよ」
「わあっ!?」


後ろから声を掛けられたレノは驚いて振り返ると、いつの間にかアルが立っていた。彼女は呆れと驚きが入り混じった表情を浮かべてレノを見下ろしていた。


「し、師匠!?どうしてここに!?」
「お前が家にいないから探してたんだよ!!まさかこんな場所でそいつに手を出していたなんて……」
「す、すいません!!」


吸魔石を手にした状態でレノは頭を下げるが、アルはレノが持っている吸魔石を見て冷や汗を流す。彼女は吸魔石がどれほど危険な代物なのかを知っているのでレノから吸魔石を取り上げる。


「とりあえずはそれを返しな」
「あ、はい」
「……壊れてるわけじゃないみたいだね」


吸魔石を受け取ったアルは自分の魔力を吸い上げようとしているのを確認し、吸魔石が壊れているわけではないと知る。それはつまりレノが魔力操作の技術を身に着けたことを意味していた。

実を言えば吸魔石は普通の人間にとっては非常に危険な代物であり、吸魔石は触れた生物の魔力を吸収する力を持つ。そのために魔力を碌に扱えない人間が触れれば根こそぎ魔力を奪われてしまい、最悪の場合は死に至る。だからアルはレノの手には届かない場所に吸魔石を隠していたのだが、自分が知らぬうちにレノは吸魔石に触れても大丈夫なほどに魔力操作の技術を身に着けていた。


(こいつ……何時の間に吸魔石に触れられるようになったんだい)


魔法に長けた種族と言われるエルフでさえも吸魔石に触れられるようになるには1、2週間はかかると言われている。ましてや普通の人間だったら才能がある人間でも一か月はかかると言われているが、レノは一週間で魔力操作の技術を身に着けた。その事実にアルは動揺を隠しきれない。


(人間のガキがこんな短期間で魔力操作の技術を身に着けるなんて聞いたことがない……こいつ、天才か?それとも考え無しの馬鹿か?)


アルは床に落ちている水筒に気付いて拾い上げると薬茶の香りが残っており、それだけで全てを察した。レノは夜な夜な忍び込んで吸魔石に触れて魔力操作の技術を磨き、薬茶を飲んで体力を回復させながら練習に励んでいたことを知る。


(なるほど薬茶《これ》を飲んで練習していたわけか。道理で薬の減りが早かったわけだね)


薬茶の材料の減りが妙に早かった原因を知り、アルは改めてレノが魔力操作を習得したのかを確かめるために吸魔石を放り投げた。


「ほれ、受け取りな」
「うわっ!?」


投げ出された吸魔石をレノは両手で掴み取ると、普通の人間ならば吸魔石に触れた時点で魔力を吸い上げられる。しかし、レノが触れても吸魔石は変化は起きず、完全に彼が体内の魔力を制御している証拠だった。

子供のころのアルでさえも吸魔石に触れられるようになるまでは二週間はかかった。それなのにレノは薬茶を飲んでいたとはいえ一週間で修行を終えたことにアルは苦笑いを浮かべる。


「この野郎、大した成長ぶりだね……ガキの頃の私よりも筋が良いのはちょっと癪だけどね」
「し、師匠?」
「お前がどうして吸魔石のことを知っていたのかはこの際にどうでもいい。だが、魔力を操作できるだけで魔法が扱えるようになると己惚れるなよ!!そいつをしまってさっさと外に出ろ!!」
「は、はい!!」


レノは吸魔石を持ち出したことを怒られると思ったが意外にもアルは説教はせず、彼女は吸魔石を片付けさせるとレノを連れて外に出た。


「吸魔石に触れても大丈夫ということは魔力を操れるようになったんだな?」
「はい!!」
「それなら魔力を一点に集中させてみろ。面白いことが起きるよ」
「一点に集中?」
「そうだ。まずは右手に魔力を集中させてみろ……今のお前ならできるはずだ」


アルに言われた通りにレノは右手を握りしめて拳を作ると魔力を集中させた。吸魔石のお陰で魔力操作の技術を身に着けた今ならば体内の魔力を自由自在に操れるようになっていた。

体内に流れる魔力を右拳に一点集中してみるが特に変化は起きず、何も起きないのでレノは困った様子でアルに振り返る。すると彼女は何時の間にか棒切れを手に持っていた。


「あの、師匠……」
「魔力を集中させたか?ならそのまま右手を伸ばせ」
「こうですか?」
「そうだ、そのまま動くんじゃないよ……おらぁっ!!」
「うわぁっ!?」


レノが右拳を伸ばした瞬間、アルは手に持っていた棒を叩きつけた。拳に当たった瞬間に棒は砕け散り、レノの右手首に痛みが走った。


「いったぁっ!?な、何するんですか!?」
「痛かったかい?」
「そりゃ痛いに決まってるでしょ!?」
「でも痛みは弱まって来たんじゃないか?」
「そんなこと……あ、あれ?」


アルに言われてレノは痛めた手首に視線を向けると、不思議と痛みが引いていく感覚を抱く。それに棒を叩きつけられたのは拳のはずだがこちらの方は痛みも感じない。

棒が砕けるほどの強い勢いで叩きつけられたにも関わらず、レノが痛めたのは手首だけで棒に当たった拳自体は怪我どころか痛みも全く感じなかった。しかも右拳を開いた途端に手首の痛みが消えていき、何が起きたのか分からずにレノはアルに尋ねる。


「これっていったい……」
「ははっ、驚かせて悪かったね。だけどその様子だとどうやら本当に魔力を操れるようになったんだね」
「師匠!!何をしたんですか?」
「魔力のお陰さ。お前の拳が怪我をしなかったのも痛みがすぐに治ったのも魔力のお陰なんだよ」
「えっ!?」


魔力のお陰で自分が怪我をせずに済んだと言われてもレノには理解できなかったが、アルはレノの身体に何が起きたのかを詳しく説明した――





――魔力とは全ての生物が持ち合わせる特殊な力であり、この魔力を利用すれば肉体の機能を強化させることもできる。先ほどのレノは右拳に魔力を集中させたお陰で知らず知らずのうちに右拳をしていたらしく、アルが全力で振り下ろした棒切れを受けても平気だった。

右手首を痛めたのは魔力で強化したのが右拳だけだったため、右拳に受けた衝撃が手首に伝わってしまったのが原因だった。だが、右拳を開いた際にレノは無意識に右手に集中させていた魔力が元に戻った。その際に痛めていた手首に魔力が一瞬だけ戻った際、肉体の再生機能が強化されて痛みが治ったという。


「魔力を操れるようになれば身体を鋼のように硬くもできるし、怪我をしてもすぐに治すことができる。他にも筋力を強化すれば一時的に普通の人間なら有り得ないほどの力を得ることだってできるんだよ」
「へえっ……魔力は魔法を生み出すだけの力だと思ってました」
「驚いただろ?魔法なんか使えなくても魔力を使えるだけで十分に凄いんだよ」


説明を受けたレノは自分が知らない内に凄い行為をしていたことを知り、アルは身体能力を上昇させる「強化」と再生機能を高める「再生」の能力を使い分けていたらしい。
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