魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ

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第4話 師との狩猟

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「おい、何時まで寝てるんだい!!さっさと朝飯を食べな!!」
「うっ……し、師匠?」
「たくっ、いつもは私より早く起きてるくせに……今日はお前が飯当番の日だったんだよ」


アルの声でレノは目を覚ますと自分がいつのまにか眠っていたことに気が付き、いつもより大分遅い時間に起きたことに気が付く。昨日の吸魔石の影響がまだ残っており、頭が痛くて身体もだるかった。


「あんた、顔色が悪いぞ?風邪でも引いたのかい?」
「だ、大丈夫……」
「……まあいい、それならさっさと飯を食べな」


レノの様子がおかしいことに気付いたアルだったが本人が大丈夫というのならばそれ以上は追及はせず、彼女は早く朝食を食べるように促す。アルが出て行くとレノは昨日の出来事を思い出して顔色を青くする。


(昨日は本当にやばかった。もしも吸魔石を手放していなかったら……)


不用意に吸魔石に触れたせいで大変な事態を引き起こし、もしも吸魔石を引き剥がすことができなかったらレノはどうなっていたのか分からなかった。一晩眠っても疲労は完全に回復しきれておらず、この調子でレノは今日を過ごせるのか不安に思う――





――レノの日常は朝にアルと飯を食べた後、彼女から弓の指導を受ける。アルは狩猟を行う際は弓で獲物を仕留めることが多く、自分の弓の技術をレノに伝授しようとする。しかし、未だにレノは的に当てることもままならない。


「だから構え方がなってないんだよ!!ほら、ちゃんと私が撃つのを見てな!!」
「は、はい……」


アルは50メートルほど離れた木に括り付けた的に狙いを定めて矢を打ち抜く。彼女の撃ちこんだ矢は真っ直ぐに的に向かって真ん中を見事に貫く。


「どうだい!!こうやって撃てば当たるんだよ!!お前も真似してみろ!!」
「……こ、こう?」
「違う!!全然構え方が違うだろうが!!こうだよこう!!」


弓の指導を行う際はアルは口で説明するのではなく、自分でレノの身体に触れて構え方の修正を行う。だが、今までに一度もレノはまともに矢を当てたことはない。


「えいっ!!」
「……って、全然届いていないだろうが!!もっとちゃんと弦を引け!!」
「やあっ!!」
「今度はどこに撃ってんだ!!全然違うだろうが!!」
「このぉっ!!」
「うおおっ!?おいこら、今の私を狙っただろ!?」
「そ、そんなつもりは……」


まじめに的に目掛けてレノは矢を放ったつもりだが、毎回見当違いの方向に逸れて当てることができなかった。残念ながらレノは弓矢の才能はないのかどんなに練習してもアルのように上手く撃てなかった。


「たくっ、今日はもう終わりだよ!!落ちた矢は全部拾っとくんだよ!!」
「す、すいません……」
「拾い終わったら次は狩猟に出るよ」


片付けはレノに任せた後、アルは家に戻って今度は狩猟の準備を行う――





――訓練を終えた後はレノ達は食料集めに出向く。もうじきに冬を迎えるため、その前に大量の食料を確保しておく必要があった。冬の間は動物達も冬眠するので狩猟は当てにならず、完全に冬を迎える前に獲物を狩っておかなければならない。

狩猟の際はレノは弓を持つ事は許されず、アルの代わりに食料を運ぶために大きな籠だけを渡される。一応は自衛用に短剣を渡されているがアルが傍にいるときは彼女が動物の気配を察知して事前に警告してくれるので使ったことはない。


「しっ……静かにしろ、近くに兎がいるな」
「え?何処に……」
「あそこの茂みの中だよ。気付かれないように注意しな」


森を歩いているとレノはアルに注意され、彼女の示した先に視線を向けると確かに茂みが揺れ動いていた。だがそれだけで兎が隠れているのかどうか分からないが、アルは確信を抱いたように足元に落ちている石を拾い上げる。


「そこだ!!」
「キュイッ!?」
「わっ!?」


アルが茂みに目掛けて石を投げつけると悲鳴が響き、茂みの中から額に角を生やした兎が飛び出してきた。それを見たアルは笑みを浮かべ、背中の弓を抜いて瞬時に撃ち抜く。


「ふんっ!!」
「ギュイイッ!?」
「す、凄い!?」


一瞬にして矢を射抜いたアルは見事に兎の頭部を貫き、絶命した兎は地面に倒れた。それを見たレノはあまりの早業に驚くが、アルは倒れた兎の額の角を掴んで持ち上げる。


「ははは、ただの兎かと思ったが一角兎だったね!!こいつは大当たりだよ!!」
「一角兎……確か兎型の魔物ですよね」
「そうさ。普通の兎は大して美味しくないがこいつの肉は最高に美味いからね。今夜はご馳走だよ!!」


アルが仕留めたのは「一角兎」と呼ばれる魔物であり、普通の兎と違って額に角を生やしている。一角兎は見た目は可愛らしいが実は狂暴な生き物で獲物を見つけると額の角で全力で突き刺してくる。

一角兎の角は非常に頑強で石のような硬さを誇り、小さな子供は一角兎の可愛らしい外見に騙されて近付いた瞬間、急所を突き刺されて死んでしまう事件も多い。どんなに可愛らしい見た目をしていても魔物を相手にするときは決して油断は許されず、レノも常日頃からアルに注意されていた。


「こいつの角を細かく砕けばの効果もあるからね。肉も美味しく食べれて薬も手に入る。お前も一人で狩猟できるようになったらこういう獲物は絶対に逃がすんじゃないよ」
「はあっ……でも、どうして師匠は隠れてると分かったんですか?」
「そんなもん、気配と音を感知しただけだ。お前も慣れればできるようになるよ」
「なれるかな……」


当然のようにアルは告げるがレノはいくら頑張っても彼女の様に動物や魔物の気配を敏感に察知できる自信はなかった。そもそもアルはエルフであるため人間よりも聴覚に優れており、どんなに小さい音も聞き分けることができる。彼女の耳の良さは人間離れしており、遠くにいる獲物の足音さえも聞き取れるほど優れていた。


「そうだ、こいつはお前が解体しろ。やり方は覚えてるね?」
「ええっ!?」
「嫌そうな顔すんな!!解体しないと肉がまずくなるだろうがっ!!」
「は、はい……」


獲物の解体を任されたレノはあからさまに嫌な顔を浮かべるが、狩人として生きていくのならば解体技術は必ず身に付けなければならない。どんなに美味しい獲物でも解体作業をしなければ味は劣化する。

アルから学んだ通りにレノは最初に血抜きを行い、続けて短剣で毛皮を剥ぎ取る。その後にレノは額の角をどうにか引き剥がすとアルに渡した。


「どうぞ」
「おう、帰ったらこいつを磨り潰して薬を作ってやるよ。それを飲めば疲れなんて一気に吹き飛ぶからね」
「え、でもそれって……凄く苦いんですよね」
「それぐらい我慢しな。苦ければ苦いほど効果があるんだから」
「うぇ~……」


以前に一度だけレノは一角兎の角の粉末薬を飲んだことはあったが、あまりの苦さにしばらくは舌がおかしくなった。だが効果は本物で薬を飲んだ日はいつもよりも身体の調子が良かった気がする。


(あんなまずいのをまた飲むのは嫌だな……待てよ、さっき師匠は滋養強壮の効果があるって言ってたよな)


薬を飲むことに辟易していたレノだったが、先ほどのアルの言葉を思い出す。一角兎の角には滋養強壮の効果があり、実際に過去に飲んだことがあるレノはその効果を身を以て体験している。

今のレノのように疲労が蓄積されている人間にはうってつけの薬であり、レノはアルの持っている一角兎の角を見て考え込む。急に黙り込んだレノにアルは不思議に思うが、とりあえずは獲物を手に入れたので今日のところは帰ることを告げた。


「もう十分だろ。家に戻るぞ」
「あ、はい」


アルに言われてレノは正気に戻り、ひとまずは家に戻る事にした――
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