文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ

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廃墟編

ビゾン

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「さてと……ビゾンとやらが現れる前にゴレム達が間に合うといいけど」


拳銃を握りしめながらレアは周囲に視線を向け、家の中にも関わらずに白霧が視界を遮って1メートル先の景色しか見えない。壁伝いに移動を行い、何度か家具に衝突してしまうが、窓に辿り着く。


「うわ、本当に何も見えないな……これだと移動するのも大変そうだ」


窓の景色を確認し、白霧で覆われているため何も見えない。まるで霧の海に家が沈んだような感覚に陥り、レアは霧に対して解析の能力を発動させようとしたが、物体以外には発動しないのか画面は表示されなかった。


「駄目か……大人しくここはゴレム達を待っていた方がいいな」


街中には100のロボ・ゴーレムが配置されており、街の中央部に要塞を建設するために建物を解体を行っている。流石に現在は作業は中断されているだろうが、彼等ならば霧の毒に侵される心配はない。


「それにしても本当に何も見えないな。油断しないようにしないと……何だ!?」


唐突にログハウスに衝撃が走り、二階から轟音が響き渡る。何事かとレアは天井に視線を向けると、亀裂が生じていることに気付き、このままでは天井が崩れると判断し、レアは窓の外に飛び出す。


「危ないっ!!」


身体能力を高めていた事が功を奏し、窓を破壊してレアは街道に飛び出した瞬間、建物が崩壊する音が響く。白霧に覆われているので建物に何が起きたのか理解できなかったが、やがて白霧から巨大な影が出現した。


「シャアアアアッ……!!」
「この声……!?」


嫌に聞き覚えのある声が街中に広がり、最初にレアが想像したのは街の外で遭遇した「ワイバーン」だが、白霧から伺える影の形は明らかにワイバーンとは異なっていた。それでも巨大な生物がログハウスの屋根に降り立ち、建物を崩壊させたことは間違いなく、レアはその場を駆け抜ける。


「くそっ!!何なんだよ!!」
『ゴロロロロッ!!』
『キュロロッ!?』
「ゴレム!?」


前方からゴレムの声が響き渡り、白霧を振り払って完全武装状態のゴレムが姿を現す。肩にはマカセの姿があり、必死に落ちないようにゴレムにしがみついていた。


『ゴロロッ!!』
「良かった、迎えに来てくれた……うわっ!?」
『キュロッ!?』


ゴレムが両腕を広げて喜びを表すようにレアの前に立ち止まった瞬間、レアの背後から巨大な尻尾が出現し、ゴレムの肉体を吹き飛ばす。その光景にレアは目を見開き、ゴレムとマカセは地面に転倒する。


「ゴレム!!マカセ!!くそっ……!!」


レアは拳銃を両手に構えて振り返ると、そこには巨大な両翼を広げて霧を振り払う巨大な生物の姿があり、西洋のドラゴンを想像させる外見の魔物が立っていた。ワイバーンが蜥蜴に酷似しているのに対し、こちらの生物は神話の世界に出てくるような神秘的な雰囲気を纏っていた。


「こいつは……」
「シャアアッ……!!」



――レアの前に存在するは白銀の鱗に覆われた巨大な「竜」であり、その全長はワイバーンを一回りほど大きく、まるで人間のような意思があるようにレアの瞳を捉える。そのあまりにも幻想的な美しさを誇る竜にレアは見惚れてしまうが、その竜の背中に何者かが立っている事に気付く。



「おやおや……こんな場所に誰が家を建てているかと想えば、随分と変わった格好をした子供が出てきましたねぇっ」
「お前は……」
『キュロッ!?キュロロロッ!!』


姿を現したのは何故かマジシャンのようなシルクハットを頭に被せた黒スーツの青年であり、身長は180センチを超えているが全体的にやせ細っている。顔立ちはそれほど悪くはないが細目が妙に目立ち、人を小馬鹿にするような笑顔を浮かべていた。

その人物を見た瞬間、マカセは慌ててレアの元に移動し、彼の足元に隠れる。それを見た青年は首を傾げ、初めて見る生物に興味を示す。


「ほほう、何ですかそれは?変わった魔物を引き連れていますねぇっ……よく見ればその後ろの方に倒れているのも見たことがない姿をしていますねぇっ」
「……こいつらは魔物じゃない」
『キュロロッ……!!』


青年はロボ・ゴーレムに興味を示し、何処からか片眼鏡を取り出して観察するように細目を広げる。その間にもマカセはレアを別の場所に移動させようと引き寄せるが、逃走しようにも白霧で視界が悪い中、無暗に走り回るのは危険である。


「ふむ……随分と貴方に懐いているようだ。その生物は何処で拾ってきたんですか?気になりますねぇっ」
「あんたの語尾の方がおかしい」
「おや、これは手厳しい。すいませんねぇっ」


言葉では謝罪しているが、全く反省の色は見られず、レアは青年に対して嫌悪感を抱く。


「……そちらはどちらさん?」
「質問しているのはこちらなんですがねぇっ……まあ、いいでしょう。答えて差し上げますよ……私の名前はビゾン、霧魔将と名乗った方が分かりやすいですかねぇっ」
「霧魔将……」


予想していたとはいえ、こうも早く街に毒霧を送り込んだ原因と巡り合えるとは思わず、レアは自分の運の悪さに溜息を吐く。後でステータスの幸運の数値を高める事を割と真面目に考えながらもレアは拳銃を握りしめ、相手の隙を伺う。
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