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廃墟編

こちらの世界の銃器

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「ふうっ……どうやら諦めたみたいだな」
「本当ですか?良かったぁっ……私だけだったら確実に殺されていましたよ」


一角狼が見えない距離まで移動してから数分後、イリスは馬車の速度を緩める。レアは新しく手に入れた狙撃銃を地面に置き、弾丸を確認すると拳銃と同様に自動的に新しい弾丸が装弾される事を確認した。


『弾丸――スナイパーライフルの弾丸 状態:使用可能』
「お、名前が同じ弾丸でも文章が違うのか」
「え、何の話ですか?」
「気にしないでいい。それより、あんな危ない奴等がごろごろいるの?」
「いや、あれは本当に運が悪かっただけですよ。普通は滅多に遭遇しませんから……」


草原で一角狼と遭遇する事は非常に珍しく、イリスもあれほどの大群と遭遇したのは初めてらしい。だが、結果的にレアは狙撃銃を作り出す事に成功し、強力な武器を手に入れる。拳銃と比べても威力と射程距離は大幅に上昇し、ゴブリンよりも手強いはずの一角狼にも通用する事が証明された。


「連射はできないけど、いい武器を手に入れたな。だけど、よく当てられたな……初めて使う武器なのに」


現実世界で拳銃を扱った事はないが、意外とレアには狙撃の才能があるかもしれず、彼は狙撃銃をしまうケースも作り出す。するとイリスが何時の間にかレアが所持している狙撃銃に視線を向け、不思議そうな表情を浮かべる。


「あれ?何ですかそれ?さっきは持ってなかったはずですよね?それも能力で作り出したんですか?」
「そうだよ。まあ、正直自分でも作り出せるとは思えなかったけど……」
「それも銃と呼ばれる武器なんですか?私の知り合いの銃士はそっちの銃しか扱っていませんでしたけど……」


イリスによると彼女の知り合いはレアが装備している「拳銃ハンドガン」しか装備していないらしく、少なくとも彼女の記憶の限りではレアが作り出した「狙撃銃スナイパーライフル」のような銃器を扱っていた事はないらしい。

彼女の話から察するにレアはこちらの世界には銃器を作り出す技術が存在するのは確かだが、それでも現実世界程の科学が存在するわけでもないらしく、詳しく話を聞く限りでは彼女が使用している拳銃も「リボルバー式」らしく、あくまでも彼の予想に過ぎないがこちらの世界の拳銃の技術は西部開拓時代程度の技術しか存在しないのではと考える。


「こっちの世界には拳銃の種類はどれくらいあるの?」
「え?種類?さあ……そこまでは分かりません。銃士の職業の人間は滅多にいませんし、それに銃器を販売しているのは大きな都市だけですからね」
「こっちの世界……いや、国では兵士とかが銃を使わないの?」
「いやいや、そんな扱いに難しい武器を利用するのは銃士ぐらいですよ。普通の人間が使おうとしても扱える代物じゃないですし、第一に銃は物凄く高価なんですよ?弾丸1つでも最低でも銀貨を消費する値段なんですから滅多に銃を扱う人なんていませんよ」
「そうなのか……」
「大抵の人間は銃よりも安くて扱いやすくて弓矢を選びますよ。私も試したことがあるですけど、撃つ度に身体に衝撃が走るし、標的に当てられるようになるまでかなり練習しないといけないじゃないですか?だから銃士以外の人間は銃なんて使いませんよ」


こちらの世界では銃器はそれほど重要視されてはおらず、まず銃器を制作するだけでも莫大な費用が掛かるらしく、しかも扱いにくいという点から普通の人間は銃器よりも扱いやすい弓矢を選択する傾向が多い。折角作り出した銃器も魔物が相手の場合は弾丸が通用しない場合も多く、せいぜいゴブリン程度の相手にしか通用しない。人間を相手に使用される事もあるが、こちらの世界の人間は「レベル」という概念が存在するせいなのかレアが暮らしていた地球の人間よりも肉体が優れており、拳銃は決して驚異的な武器にはなり得ない。


「昔は処刑用の道具として使用されていた時期もあったようですけど、レベルが20を超えている人間には殆ど通用しません。一般人を相手なら猛威を震えますけど、冒険者稼業を行う人間には脅威にはならないので現在は使用する人間は銃士の職業の人しかいませんね」
「そうなの?」
「銃士の人の場合は銃の威力や命中力を引き上げるスキルを持っているらしいので魔物にも対抗できます。だけど、銃はさっきも言ったように高級品なので壊したりすると破産してしまう可能性があるからここぞという時にしか使用できないはずなんですけど……レアさんの場合はどうなんですか?」
「あ、えっと……俺はそういうスキルは持ってないけど、狙撃には自信があるから……」
「その言葉、きっと私の友人なら凄く羨ましがるでしょうね……一角狼を追い払える実力を持ちながら銃士の職業じゃないなんてレアさんは凄い人だったんですね」
「あははっ……」


素直に感心した風に答えるイリスにレアは苦笑いを浮かべ、彼の場合は自分の能力を頼りに「弾数が無限」の銃器を作り出しただけに過ぎず、こちらの世界の銃士が味わう苦労を体験する事はない。


「それよりも今日はもう少し進んだら夜営しましょう。何時の間にか夕方を迎えていますし……」
「え?」
「魔物は基本的に昼行性なんです。だから夜間の時は活発的に行動する事はないので日中よりも安全ですから夜営を行いましょう」
「そうなの?」


イリスの言葉にレアは驚くが、言われてみれば廃墟に過ごしていた時も夜間の間に移動している時にゴブリンが普通に眠っている姿を見かけた事を思い出す。魔物と言っても生物である事に変わりはなく、睡眠を必要とするのは当たり前の話だが、先程襲われたばかりなのに草原で野営など大丈夫なのか不安を抱く。

それでも近くの街までは1日で辿り着ける距離ではない以上、何処かで夜を過ごす必要があり、草原で一夜を迎えるしかない。馬車よりも早い自動車ならば街に辿り着けたかもしれないが、今更馬車を放置するわけにはいかない。


「夜に魔物が襲ってこないの?」
「そんなわけないじゃないですか。あくまでも昼間と比べたら活発的な行動を取らないだけですよ。だから下手にこんな見渡しの良い草原の場合だと焚火も控えないといけません。灯りに釣られて魔物が近寄ってくる危険性もありますからね」
「でも、夜に襲われたら戦えるの?」
「その場合は止むを得ませんが灯りを点けるしかありませんね」
「運頼りという事か……」
「あの廃墟で過ごすよりはマシですよ。あ……私が魅力的だからと言っても寝込みを襲わないでくださいね?」
「夜の間に洗濯バサミを鼻に付けてやる」
「辞めてくださいよ。そんな地味な嫌がらせっ」


馬車が再び動き始め、出来るだけ完全に夜を迎える前に移動したい所だが、結局は30分も移動しない内に日が完全に暮れてしまう。仕方ないので移動は中断し、レアとイリスは軽い食事を行うと明日の朝に移動する事を決める。


「今日は馬車で過ごしましょう。見張り役は私が先に行いますのでレアさんは休んでください」
「大丈夫なの?」
「何か起きたら必ず起こしますよ。こんなふうに耳に息を吹きかけますから……ふうっ」
「ちょ、止めなさいっ……耳は弱いから」


イリスとも大分打ち解け始めたレアは彼女の言葉に甘えて先に休ませてもらう。だが、教会に居た時には気付かなかったが夜を迎えると随分と気温が低くなり、毛布が無い状態では風邪を引いてしまうと判断したレアは拳銃の弾丸を利用して暖を取る道具を作り出す。


『弾丸――拳銃の弾丸 状態:使用可能』
「これをこうして……とうっ」
『毛布――毛皮の大きな毛布 状態:使用可能』


能力を使用して「弾丸」を「毛布」に変えるとレアは自分の身体に巻き付け、イリスの分も作り出そうとした時、彼女が虚空に向けて掌を伸ばす姿を目撃する。


「流石に寒くなってきましたね。よいしょっと……」
「うわっ!?」
「え?どうかしました?」


彼女が自分の前方の空間に掌を伸ばした瞬間、イリスの掌の前に「黒色の渦巻き」を想像させる空間の歪みが誕生し、渦巻きに腕を入れて彼女は毛布を引っ張り出す。そんなイリスの行動にレアは驚愕し、その一方で彼女もレアの反応に気付いて説明を行う。


「ああ、そういえば記憶を失っていたんですね。これはアイテムボックスの魔法ですよ」
「アイテムボックス?」
「異空間に物体を収納させる特別な魔法です。魔術師なら誰でも覚える事が出来る生活魔法ですよ」
「へ、へえっ……」


空間に誕生した渦巻きから毛布を取り出したイリスにレアはこちらの世界が本当に異世界である事を再認識させられ、自分が習得した「火球」とは根本的に違う魔法に興味を抱いて彼女に問い質す。


「それは無限に物体を回収出来るの?」
「いえ、それは無理ですね。この収納魔法は使用者のレベルに応じて収納出来る量が制限されます。だいたいレベル×10キロという具合ですね。私のレベルは10なので最大で100キロの物体しか回収できません」
「物体という事は液体とかは回収出来ない?」
「無理です。だけど容器とかに密封した状態なら大丈夫です。分かりやすく言えば水その物は駄目でも水が入った水筒なら問題ないです」
「なるほど……でも魔術師しか使えないの?」
「使えません。それにこのスキルは貴重なSPも10も消費するので習得するときは慎重に考えた方がいいですよ?」
「そうなのか……」


SPに関しては文字変換の能力を利用すればレアは無限に増やす事が可能であり、職業に関しても剣士から魔術師に変更させれば問題なく、レアは後でステータス画面を改竄して覚える事を決めた。
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