文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ

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廃墟編

ゴブリンメイジ

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「くそっ、遅かったか!!」


悲鳴の方向へ駆けつけたレアは焦げ臭さを嗅ぎつけ、街道に人間の死体らしき物体を発見する。今度の死体は全身が焼け焦げており、しかも1人ではなく、3人の焼死体が存在した。


「……焼かれたばかりのようだな。でも、いったい誰がこんな事を……」


ゴブリンが死体を焼いたとは考えにくく、わざわざ餌となる死体をゴブリンが焼却するとは考えにくい。レアは死体の様子を確認し、人間の肉が焼けた臭いに顔を顰めながらも何か手掛かりが残されていないのかを調べる。


「これは……この人たちの物か?」


死体の傍に武器らしき物が落ちている事に気付き、レナは男性と思われる死体の傍に落ちていた短剣を拾い上げる。普通の短剣ではないのか、刃の部分には紫色の液体が塗り付けられており、下手に触れるのは危険と判断した彼は柄の部分を握りしめながら解析の能力を発動させた。


「毒か?あ、そうだ鑑定を使えば……」
『短剣――鉄製の短剣 状態:刀身に血液が付着』
「血液?これが?」


毒だと思われた紫色の液体が「血液」だと判明した事でレアは驚きを隠せず、どう見ても人間の血液とは思えない。しかし、考えられるとしたら人間以外の生物の血液であり、レアは紫色の血液を確認しながらゴブリンの存在を思い出す。


「この血の色……そうだ!!ゴブリン達の血だっ!!」


ゴブリンの血液の色が紫色であった事を思い出し、レアは目の前の3人がゴブリンと交戦したと判断する。短剣に血液が付着していたのはゴブリンに損傷を与えた事は間違いないが、その場合だと死体が燃えている理由が分からない。


「本当にゴブリンと戦っていたのか?という事は、まだこの近くに居るのか?」


念のために短剣を回収すると、レアは周囲に視線を警戒しながらも他の死体も調べる。だが、生憎と短剣以外には特にめぼしい物は存在せず、仕方なく彼は死体に両手を合わせて引き返す事にした。


「この短剣は持っていこう。何かに使えるかもしれないし……」


死体の所有物を勝手に持っていく事に罪悪感は覚えたが、どうしても短剣に付着した血液が気にかかり、レアはその場を離れようとした時に奇怪な鳴き声が響き渡る。



――マギィイイイイッ!!



ゴブリンと似たような声音の咆哮が傍の建物から放たれ、同時に謎の熱風がレアの身体に襲い掛かる。驚いた彼は視線を向けると、そこには自分に向けて近付いてくる球体状の炎の塊が近づいてくる事に気付く。


「何っ!?」


自分に近付いてくる30センチ程の「火球」に対し、咄嗟にレアは横に移動して回避する。速度自体は時速100キロ程度であり、身体能力が大幅に上昇している彼にとっては避けられない速度ではないが、避けた先にも別の火球が接近していた。


「嘘っ!?」


複数の火球がレアの元に放たれ、彼はその場に地面に転がり込みながら回避を行うと、爆発音が次々と響き渡る。回避した火球が次々と別の建物や地面に衝突した瞬間に小規模な爆発を引き起こしたらしく、レアは爆風に巻き込まれないように気を付けながら火球が放たれた方向に視線を向けると、そこには廃墟の屋根の上からレアを見下ろす存在が居た。


「マギマギマギッ……!!」


屋根の上に存在したのは全身に灰色のローブを着こんだゴブリンが存在した。その手元には赤色の宝石を取り付けた杖が握りしめられており、身に纏っているローブは元々は人間の物だったのか、身長が小さいゴブリンとはサイズが合っていない。


「マギィイイッ!!」
「うわっ!?」


唐突に現れたゴブリンは杖を掲げた瞬間、杖の先端の宝石が光り輝き、次々と小さな炎の塊が生み出される。その光景を確認したレアは先ほどから攻撃をしていたのは屋根の上のゴブリンだと気づき、彼は苛立ち気に拳銃を構える。


「舐めんなっ!!」
「ギィアッ!?」


相手が魔法を放つ前にレアは発砲して弾丸をゴブリンの右足に的中させる。だが、ホブゴブリンと同じように普通のゴブリンよりも頑丈な肉体なのか、ローブを纏ったゴブリンは右足を抑えながら片足だけで屋根の上を跳ね回る。その光景を確認したレアは普通の弾丸では致命傷は与えられないと判断し、近付いて切る事にした。


「とうっ!!」
「マギィッ……!?」


日本刀を引き抜き、勢いよく地面を踏み込んだレアは建物の屋上まで一気に跳躍する。脚力の数値が高い彼ならではの移動法であり、まさか自分の元にまで訪れるとは思わなかったのか、杖を持ったゴブリンは驚愕の表情を浮かべる。


「待てこらっ!!」
「マギィッ!?」


慌てて屋根の上から飛び降りようとしたゴブリンに対し、レアは日本刀を握りしめ、相手が地面に向けて跳躍した瞬間に剣の戦技を発動させる。


「疾風剣!!」
「ギィアアアアッ!?」


空中に飛び込んだゴブリンに対してレアは日本刀を振り抜き、ゴブリンの両脚と左腕を切り裂く。熟練度は高いほど攻撃回数が増加する事は承知済みであり、相手に地面に着地させる暇もなく切り裂く。


「マギィイイッ……!?」
「うわ、まだ生きてるのか!?」


身体を切り裂かれながらも地面に這いつくばるゴブリンに対し、レアは解析の能力を発動させて正体を調べる。魔法を使う時点で普通のゴブリンではないと予想していたが、視界に表示された画面は予測通り初めて見る魔物の名前が表示された。


――ゴブリンメイジ――

種族:ゴブリン(亜種)

性別:雌

状態:瀕死

レベル:25

能力:風属性と火属性の魔力を所持している


――――――――――


『魔杖――火属性の魔力を宿す魔石が取り付けられた杖。火属性魔法の補助を行う 状態:魔力残量(小)』


レアの視界にゴブリンの能力ステータスと身に付けている杖の詳細が画面に表示され、先日に遭遇した「ホブゴブリン」と同様に普通のゴブリンではないらしい。

「ゴブリンにも色々種類があるんだな……今、楽にしてやる」
「マギィイイ……!!」
「遅い」


往生際が悪く、ゴブリンメイジは杖を構えてレアに向けて魔法を放とうとしたが、先にレアは日本刀を振り下ろして頭部を貫く。魔物との戦闘で躊躇すればこちらの身が危うい事は承知済みであり、確実に止めを刺すとゴブリンメイジが所持していた杖を拾い上げる。


「この杖を使って魔法を使っていたのか。俺の火球も強化できるかな?」


落ちた拍子に折れたのか杖が中腹部分が砕けており、レアは説明文に存在した魔石という名前の宝石に視線を向け、火属性の魔法を強化する事を思い出し、試しに杖を構える。


「どう使うのかな……持っているだけでいいのか?」


魔石を掲げながらレアは自分が唯一覚えている「火球」の魔法を発動させ、ゴブリンメイジの死体に向けて発動させる。


「火球……おっ?」


魔法を発動させた瞬間、通常よりも大きめの火球が誕生し、ゴブリンメイジの肉体に衝突すると火球が巨大化して死体を焼き尽くす。今までは爆発か火柱と化して火球の炎だが、魔石を使用した場合は規模が拡大化するらしく、徐々に縮小化して消え去る。ゴブリンメイジの死体は跡形もなく消えており、確かに威力は上昇していた。


「へえ、これは中々凄い……うわっ!?」


だが、魔法が切れた直後、魔石の表面に亀裂が生じると即座に砕け散ってしまう。その様子を確認したレアは地面に散らばった魔石に視線を向け、砕けた破片は色を失い、硝子のように変化してしまう。どう考えても壊れて使い物にならず、たった一度使用しただけで効果を完全に失ったらしい。


「使用回数が存在するのか?それとも何か使い道を間違ったのかな……どっちにしろ勿体ないな」


魔石が砕けた理由は不明だが、レアは魔法を強化する道具を失ってしまった事になり、仕方なく彼は杖を手放して探索を再開する。他に生き残っている人間が居れば良いが、少なくとも既に彼は4人の人間の死体が存在する事から甘い希望を抱かない事に決めた。


「お~いっ!!誰か居ませんかっ!?」


それでも生きている人間に出会える可能性があるのならば諦めず、危険を犯してでも生きている人間を探す。当然だが周囲に存在するゴブリンが彼の声を耳にして現れる可能性もあるが、ゴブリン程度ならば彼の敵ではなく、躊躇せずに大声を上げる。


「誰かぁっ!!返事をして下さいっ!!俺は人間ですっ!!」


必死に叫び声を上げながら歩き回り、レアは街道を移動し続けていると、彼の耳元に人間らしき声が聞こえてきた。



――だれ……けてぇっ……!!



間違いなく、人間の女性らしき声が彼の耳に届き、即座にレアは声が聞こえた方向に走り出す。今度こそ生きた人間と遭遇するため、そして危機的状況に陥っていたら助け出すため、彼は急いで駆け抜ける。


「いやぁあああっ!!私の貞操がゴブリンなんかに奪われますぅっ!?」
「ウギィイイッ……!!」


レアが全速力で駆け抜け、悲鳴が聞こえた場所に辿り着くと、金髪の女性が額に傷が存在する大柄のゴブリンに襲われており、即座にレアは女性を襲っているのが「ホブゴブリン」だと気付く。そして額から流れる紫色の血を見てレアが回収した短剣で傷つけられた個体だと判断し、彼は女性の身体に覆いかぶさるホブゴブリンに向けて発砲した。


「離れろっ!!」
「ギャアッ!?」
「えっ……!?」


女性の目の前で額を撃たれたホブゴブリンが後方に倒れ込む光景が映し出され、彼女は呆然とした表情を浮かべた。
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