文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ

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廃墟編

食料・水の確保

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「身体の怪我と疲れは取れたけど、腹は膨れないんだな。まあ、我慢できない程じゃないけど……」


解析の能力で映し出した画面を改竄した事で肉体の不調は治ったが、空腹や喉の渇きは回復せず、レアは食料と水を探すために仕方なく出発しようとした時、ある考えを思い付く。


「いや、待てよ……鑑定と文字変換の能力を利用してどうにか出来ないかな?」


鑑定の能力を利用すれば物体の詳細ステータスが視界に表示されるため、この特性を利用して彼は廃墟内に取り残されている椅子を発見し、最初に「鑑定」の能力を発動させて画面を表示させる。


『椅子――木造製の椅子 状態:老朽化』
「あ、やった。無機物にも発動出来るんだ。でも生物の時と違ってなんかやたらと簡素な画面だな」


視界に表示された画面を確認したレアはゴブリンや大臣の時と違い、無機物の場合は画面が異なる事を知り、物体の名前と説明文の他に「状態」の項目が存在するだけだった。彼は画面に指を構え、問題なく文字変換の能力が発動する事を確認し、実験を行う。


「まずは名前から変更するか。えっと、どう書こうかな?」


色々と考えた結果、レアは「椅子」という文字を「パン」と変化させる。しかし、画面の文字を切り替えても椅子に特に変化は訪れず、詳細の部分を変更しないと変化は生じないのかもしれない。


「特に変化は無しか。どう見てもパンになったようには見えないし……」


名前を変更させるだけでは椅子には特に変化は起きず、今度は詳細と状態の説明文に指を向け、適当な文字に変換させる。


『パン――クリームパン 状態:焼き立て』
「これでどうだっ!?」


状態の項目に関しては文章として成立しているのかは疑問だが、彼が文字変換の能力を発動させた瞬間、右手に持っていた椅子が唐突に発光する。数秒後、彼の掌の上には現実世界ではよく食していた「クリームパン」が誕生し、中身の方も確かめると熱々のクリームが入っていた。


「あちちっ……でも、美味いっ!!けど、喉がより乾いちゃったよ……」


やっと食事にありつけた事にレアは感動するが、今度は強い喉の渇きに襲われ、仕方なく次は椅子の傍にあった「机」を利用して飲料水を作り出せないのかを試す。


『机――木造製の机 状態:老朽化』
「今度はこいつを利用するか。でも待てよ……説明文だけを変化させたらどうなるのかな?」


レアは先に説明文の項目だけを変更させた場合はどうなるのかが気になり、試しに彼は名前を変更せずに説明文の文章だけを文字変換で変化させる。


『机――飲料水 状態:老朽化』
「この場合はどうなるんだ?」


説明文だけを変更させた場合、特に机の外見に変化は起きず、触れてみてもただの机にしか感じられない。それを確認したレアは今度は状態の項目も変化させるが、全ての項目を変換させないと変化は起きないのか机に変わりはなかった。


「よし、これなら問題ないだろ」
『水――飲料水 状態:冷えている』
「これでよし……うわっ!?」


レアが文字変換の能力を発動させた瞬間、彼の目の前で机が発光し、そして床に大量の水溜まりが発生する。その光景にレアは唖然とするが、即座に原因に気付く。


「しまった……容器がなければ水を回収出来ないのか。そこの所も考えて能力を発動しないといけなかったな……」


椅子をクリームパンに変化させた時は彼が椅子を抱えていた状態だったので問題なかったが、今回の机は容器の類を用意していなかったので机が水に変化した瞬間、床に零れ落ちてしまう。


「ペットボトルと書いて置けば良かったな……勿体ない」


机を無駄にした事でレアは溜息を吐きながら代わりになる物体を探すが、外が騒がしい事に気付き、彼はゴブリンが引き返してきた事に気付いて身を隠す。


「ギギィッ……?」
「ギィイッ!!」


壁際にレアが移動すると、扉から2体のゴブリンが出現し、彼は即座に「隠密」と「擬態」のスキルを発動させる。体力を消費するが無駄な戦闘は避けるため、ゴブリンの様子を窺いながら逃げる準備を行う。


「ギィッ!?」
「ギギッ!!」


ゴブリン達は床に広がっている水溜まりに気付いて驚いた声を上げ、周囲を警戒しながらも水溜まりに近付き、臭いを嗅ぐ動作を行う。やがて舌をゆっくりと水溜まりに舌を伸ばし、美味しそうにすすり上げる。


「ギギィッ」
「ギィイイッ」


楽しそうに水溜まりを吸い上げるゴブリンに対し、こういう時は彼等が羨ましく思いながらもレアは気付かれない様に移動する。流石にゴブリンのように水溜まりを吸い上げて補給する事など出来るはずがなく、彼は安全な場所を探す。


「お、ここの建物は屋根が残っているな」


移動の際中に屋根が健在の建物を発見し、元々はこちらの世界の「教会」だったのか扉を開いて早々にレアは向かい側の壁にステンドグラスがはめ込まれている事に気付く。ステンドグラスにはこちらの世界で信仰されていると思われる天使のように翼を生やした女性の姿が描かれており、中の方も非常に綺麗な状態だった。


「誰かここに住んでいるのか?少なくとも最近までは人が居たようだけど……」


教会の建物の中には最近まで人が住んでいた痕跡が残っている事にレアは気付き、室内にも関わらずに焚火の後や古い鍋が放置されている事に気付いた彼は魔物以外の存在がこの場所に居た事を確信する。焚火の周囲には何かの動物の骨が落ちており、解体に利用したのかナイフが突き刺さっている事に気付く。


「今も住んでいるのかは分からないけど、人が居たのならここは比較的に安全かも知れないな」


魔物が入り込んだ痕跡は見つからず、理由は不明だがこの場所には魔物が侵入して来ない仕掛けが施されているのかもしれない。レアはやっと安全な場所を発見したと確信し、その場に座り込んで身体を休ませる。


「うっ……本格的に喉が渇いた。この鍋を使わせてもらうか」


鍋を拾い上げた彼は傍に落ちていた鍋の蓋を発見し、試しに鍋を握りしめながら「解析」の能力を発動させた。


『鍋――鉄製の鍋 状態:汚れている』
「これをこうして……どうだ」
『鍋――鉄製の鍋。中身は冷たくて美味しい麦茶が入っている 状態:清浄』


画面の文字を変換させた瞬間、レアの目の前で「鍋」が光り輝き、やがて彼の手元に新品のような状態の光り輝く鍋が存在した。蓋を開くと中身は冷え切った麦茶が入っており、それを確認したレアは我慢できずに鍋を口に運んで服が濡れるのも構わずに一気に飲み込む。


「んぐっ……んぐっ……ぷはぁっ!!生き返ったぁっ!!」


やっと水分補給を果たした彼は歓喜の声を上げ、一気に鍋の中の水を飲み干してしまう。事前に状態の項目に「美味しい」という文字を書きこんでいたお陰か、非常に冷たくて味も素晴らしい麦茶が誕生したらしく、これで空腹と喉の渇きから解放された。
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