文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ

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文字変換の能力

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――トイレで用事を済ませたレアは訓練場には戻らず、廊下で座り込んで溜息を吐き出す。先ほどのダマラン大臣に言われた事を思い出し、彼は悔し気に歯を食い縛る。


「くそっ……あの剥げ頭大臣めっ」


馬鹿にされた事に腹を立てながらもレアは自分のステータス画面を開き、能力値の項目に視線を向ける。全ての数値が「無」と表示されているが、彼はステータスの一番下に表示されている「異能」の項目が気にかかり、文字変換という単語に疑問を抱く。


「文字変換……駄目か」


どのように発動すればいいのか分からず、適当に名前を告げてみるが特に何も起きる様子はない。それでもステータスの項目に表示されている以上は自分が扱える能力である事は間違いなく、レアは能力を発動させるために色々と試す。


「魔法やスキルを発動するときは発音する事が重要だと言ってたけど、この異能は違うみたいだな……文字変換という能力名なんだから文字が描かれた者にしか使用できないのか?」


レアは自分の胸元のポケットに入れている「学生手帳」を取り出し、表面に刻まれている学校名に視線を向ける。手帳の表紙には「黒鐘中学校」と表示されており、試しに彼は指先を構える。


「こんな事で変わるのかな……おっ?」


文字に人差し指を押し当てた瞬間、レアの指先が光り輝き、表面に「魔法陣」のような文様が浮き上がる。彼は驚いて指先を学生手帳から放した途端、指先の発光が消えてしまう。


「な、何だ今の?」


指に起きた異変に戸惑いながらもレアはもう一度だけ学生手帳に人差し指を触れるが、文字変換の能力を発動させると念じなければいけないのか変化は起きず、彼は自分の能力を発動させる事を強く願いながら指先を押し当てる。


「おおっ……成功したのか?」


再び指先が光り輝き、人差し指に紋様が浮き上がる。そして徐々に指先が触れた個所の文字に異変が生じ、彼の指先の魔法陣に飲み込まれるように文字が消失してしまう。


「あ、消えちゃった……うわっ!?」
『新しい文字を入力してください』


視界に画面が表示され、ステータス画面とは異なる説明文の画面だった。その内容は新しく書き込む文字を入力するように促しており、レアはどうやって文字を入力すればいいのかと考えると、彼の頭に思い描いた文字が自動的に表示されるらしく、指先の魔法陣から様々な文字が誕生する。


「印鑑のように押し込めばいいのかな……あ、出来た」


試しにレアは指先に「白」という文字の紋様を浮き上がらせ、指先を学生手帳の表紙に押し込むと新しい文字が刻まれる。そして表紙には元の「黒鐘中学校」とは一文字違いの「白鐘中学校」という文字が刻まれていた。確かに凄い能力ではあるが、特に何の役に立つのか分からない力にレアは眉を顰める。


「……中身は特に変わりはないな。普通に黒鐘中学校と描かれているし、表紙の文字だけ変化してるだけか」


学生手帳に描かれている校則にはあくまでも「黒鐘中学校」として表記されたままであり、表紙の文字だけを変化させた所で中身にまで影響を受けた様子はない。あくまでも触れた文字だけを変化させる能力らしく、戦闘では役立つ能力ではない事は間違いない。


「何だよこれ……テストの時ぐらいしか役に立たなそう」


自分の能力を確かめたレアはあまりにも役に立ち無そうな事に拍子抜けし、他の勇者を羨む。


「……いや、他に使い道があるかもしれないな。文字数とかに制限はないようだし、他にも試してみるか」


しかし、レアに残された可能性はこの「文字変換の能力」だけであり、彼はもう少しだけ能力の分析を行う。まず変更出来る文字の数には制限がないらしく、一気に複数の文字を変換させる事も可能。さらに文字の追加や削除は行えるらしく、手帳に記載されている文章を跡形もなく消し去り、全く新しい文章を刻む事も出来た。


「文字を変換というよりは文字その物を書き換える能力みたいだな。これさえあれば鉛筆やシャーペンにも頼らないで生活出来そうだけど……地味な能力だな」


地球で生活していた時に覚えれば便利な能力だったのかもしれないが、とてもではないが戦闘で役立つとは思えず、仕方なくレアは立ち上がって訓練場に戻ろうとした時、ある疑問を抱く。


「文字を書き換える……文字?」


レアは文字変換の能力のある利用法を思い付き、ステータス画面を開いて表示された画面に指を向ける。


「まさかな……でも、成功したらとんでもないな」


レアは画面に表示された画面に人差し指を向け、ゆっくりと近づける。ステータス画面は実体が存在しないので普通ならば触れる事は出来ないが、彼の人差し指が画面に触れた瞬間、一瞬だけ波紋が生じた。


「うわっ!?」


指先に感触が広がり、レアは画面に触れる感覚を覚える。但し、あくまでも画面に触る事は出来るのは人差し指だけらしく、試しに彼が左手を画面に触れようとしてもすり抜けてしまう。


「触れられるのは人差し指だけか……でも、能力は発動できるのか?」


画面に触れた状態で能力が発動できるのかを確かめるため、彼はステータスの項目の「レベル」に視線を向け、試しに表示されているレベルの数値の文字を変化させる。


「上手く行けっ」


緊張しながらもレアは表示されている「レベル:無」の部分に指先を向け、数字の部分に指先を触れた瞬間、学生手帳の時のように触れた文字が指先の魔法陣に吸収される。


「うわっ!?本当に出来た……じゃ、じゃあ数字を書き換えればどうなるんだ?」


能力の発動に成功したレアは試しに「無」という文字から「10」に変化させる。元の文字数よりも多くても問題なく変換できるらしく、ステータス画面に一瞬だけノイズが走り、画面が更新された。



――霧崎レア――

職業:無職

性別:男性

レベル:10

SP:10

――――――――

能力値

体力:500

魔力:500

腕力:500

脚力:500

魔法威力:500

魔法耐性:500

幸運値:500


――――――――

魔法

・無し

――――――――

戦技

・無し


――スキル一覧――

・翻訳スキル(技能)
(この世界の言語・文章を日本語に変換し、全て理解できる)


――――――――

異能

・文字変換――あらゆる文字を変換できる


――――――――


「おっしゃあっ!!」


画面が切り替わった瞬間、レアは握り拳を作って歓喜の声を上げる。役に立たないと思われた文字変換の能力だが、ステータス画面にも通用する事が判明した。しかもレベルを上昇させると全体の能力が上昇しており、これで他の勇者達の初期ステータスに追いついた。


「あれ?だけど他の人はレベル1で能力値は500はあったはずだよな……どうして俺の場合はレベル10でやっと追いつけるんだろう。勇者じゃないから?それとも……職業が無職だから?」


バルトの説明では職業によってステータスの能力値が変化するらしく、試しに彼は指先を職業の項目に構え、別の職業に変更を試みる。


「えっと……とりあえず、剣士でいいかな?」


この世界の職業の種類や数はどの程度存在するのか分からないが、バルトとの会話で聞いた職業を思い出し、レアは「無職」の文字を「剣士」に変更した瞬間、画面が再び切り替わった。


――霧崎レア――

職業:剣士

性別:男性

レベル:10

SP:10

――――――――

能力値

体力:750

魔力:250

腕力:750

脚力:750

魔法威力:250

魔法耐性:250

幸運値:500


――――――――


「あ、やっぱり変化するのか。剣士の場合だと身体能力関連の能力値が高まるのか……半面に魔法関連は半減したな」


職業によっては能力値が変動する事が確定し、レアは自分の画面に視線を向け、自分の能力が凄まじい力を秘めている事を確信した。
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