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プロローグ
勇者の儀式
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レア達はバルトの案内で城内を移動の途中、色々と情報を教わる。まず、ここはバルトロス帝国の首都である「帝都」と呼ばれる場所だと判明する。ちなみに城の構造は中世の西洋の城に近く、レア達の世界程に科学は発展している様子はなかった。
この帝都には10万人以上の人口を誇り。先ほど相対した皇帝はバルトロス帝国の現皇帝、そして案内役のバルトはこの国の将軍の中では最も偉い「大将軍」を務めている。また、皇帝の傍に控えていた禿げ頭の男はダマランと呼ばれる大臣らしく、この国では皇帝の次に権力を持つ人物らしい。
「ここが勇者殿達の特別訓練場ですぞ」
「ここって……」
「今の時間帯ならば人も通りませんのでここで勇者殿達の適性検査と、習得しているスキルの確認を行いましょう」
バルトが案内したのは王城の裏庭であり、簡単な検査を行うと言われていた5人は自分達の身体を調べられるのかと思い込んでいたが、案内されたのは石畳で敷き詰められた地面に周囲が石柱で囲まれた不思議な空間だった。バルトによると今からここでレア達には自分の力を自覚して貰うために簡単な検査を行うらしい。
「それでは説明に入る前に勇者殿には先ほど某が使用した魔法を思い返して欲しい。あれは某が習得した戦技を発動させて生み出した魔法である」
「……スキル?」
唐突に「スキル」というゲームでよく耳にする単語が出てきた事に5人は戸惑うが、バルトはスキルの説明を行う。
「スキルというのはこの世界の人間ならば誰もが扱う能力の事だ。スキルは無数に存在し、複数の系統に分かれている。職業、戦技、技能、固有、主にこの4つに分けられている」
「なんかゲームみたいだな……」
「それで、どうやって僕たちはそのスキルというのを習得できるんですか?」
「まずはステータスの確認からだな。全員、言葉で口にするか、それとも頭の中で『ステータス』と唱えてくれれば視界に画面が表示されるはずだ」
「画面……ステータス画面の事かな?」
「本当にゲームみたいね」
バルトの指示に従い、全員が心の中で「ステータス」という言葉を唱えた瞬間、5人の視界に異変が訪れた。
「うわっ!?」
「なに!?」
「きゃっ!?」
「わあっ!?」
「これは……」
全員の視界にゲームの画面のような映像が出現し、表示された画面上には彼等の名前が一番上に記されていた。バルトの説明によると現時点の自分の能力が表示されるらしく、成長する事に画面の内容は変更されるらしい。
「恐らく、今の勇者殿の視界に薄透明な四角い板のような物が出現したと思われるが、それが現在の勇者殿達の身体能力や魔力、習得しているスキルの種類を表示するステータスと呼ばれる魔法だ。これは誰にでも扱える魔法であり、このステータスを参考にしながら我々は訓練を行っている。ちなみに他の人間にはステータス画面は見えないから気を付けろ」
「す、すげぇっ……」
「レベル1か……」
「……えっ」
他の人間が視界に現れた画面に驚く中、レアは自分の視界に表示された画面の内容に目を疑う。
――霧崎レア――
職業:無職
性別:男性
レベル:無
SP:無
――――――――
能力値
体力:無
魔力:無
腕力:無
脚力:無
魔法威力:無
魔法耐性:無
幸運値:無
――――――――
戦技
・
―――――――
技能
・翻訳――この世界の言語・文章を日本語に変換し、全て理解できる
――――――――
固有
・
――――――――
異能
・文字変換――あらゆる文字を変換できる
――――――――
レアは自分のステータス画面に表示された文章を確認するが、何度も見直しても表示されている全ての数値が「無」で統一されていた。しかも最後の「異能」という項目には謎の能力が表示されており、文字を変換する能力の説明文に彼は動揺を隠せない。
「体力が500……これって低いのか、高いのか?」
「基本的に何の訓練も受けていない一般人の体力は200~300、この城の兵士は1000~1500、将軍クラスになると2000を超える者で構成されていますな。ちなみに某は2500だ」
「ばりばりの初期数値ってところか……まあ、レベルを上げれば上昇するんだろ?」
「うわっ……最初から所有しているスキルも豊富だな。20個ぐらいあるぞ」
「そうなんですか?私はそれほど……あ、だけど何個か魔法を覚えています!!」
「あ、私は回復魔法が使えるみたい~」
「……え?」
しかも他の勇者達は彼と比べると普通に表示されているらしく、しかも既に教わっていない魔法さえも習得している人間も存在した。レアが覚えているのは「翻訳」のスキルだけであり、この能力のお蔭でこちらの世界の言葉と文字を完璧に理解出来るらしいが、それ以外の能力は何も覚えておらず、最後の異能と呼ばれる能力に関しては使い道が全く思いつかない。
「レベルが上昇すれば当然ステータスの数値も更新され、さらに新しいスキルを覚えたり、場合によってはSPを消費して新しいスキルも習得できますぞ」
「SP?レベルの下にある項目の奴か?」
「SPとはスキルポイントの略、これを利用すればスキルの習得、あるいは能力の強化に扱えます。但し、スキルを覚える場合はSPの消費量が毎回増加されますから気を付けて下され。それとSPはレベルの上昇以外で入手できないので必要ないスキルを覚えるように注意するように」
「能力を覚えたり、強化するのに必要な物という事ですね」
バルトの説明によるとSPを消費する事で未収得のスキルを覚えたり、あるいは既存のスキルを強化が出来るという。但し、スキルを覚える場合はSPの消費量が使用ごとに増加するらしく、例えば最初のスキルを覚えるときに必要なSPは「1」だが、次以降のスキルを覚える場合はSPの消費量が「1」ずつ増加するという。つまりは覚えた数のスキルの分だけSPの消費量が必要となり、無暗に必要のないスキルを覚える行為は避けなければならない。
「では、早速ですが勇者殿の職業を教えてくれないか?」
「この、ステータス画面の一番上の奴か?」
「そうです。職業によっては能力値の成長に差が出てくるから早めに教えてほしい。ちなみに剣士や格闘家ならば身体能力方面が伸びやすく、逆に魔法方面の能力は伸びにくい。魔術師の場合は反対に魔法関連の能力が向上しやすいが、反面に身体能力の成長は低い」
「なるほどな……僕は剣士だ」
「私は魔術師と書いてあります」
「えっと、私は医療魔導士と書いてあるよ」
「俺は戦士か……剣士とどう違うんだ?」
「なるほど……剣士に魔術師に医療魔導士、そして戦士か……ん?キリサキ殿は何の職業ですかな?」
一人だけ黙っていたレアに気付いたバルトが振り返ると、彼は言いにくそうにステータス画面に表示されている職業の項目を口にする。
「えっと……無職と書いてあるんですけど」
「「は?」」
「……だから「無職」です」
彼の発言に全員が呆気に取られた表情を浮かべ、バルトは考え込む素振りを行い、彼の他の能力を確かめる。
「無職?……そんな職業は聞いた事が無いが、では、他のステータスの数値はどのような感じですか?」
「能力値の数値も「無」としか表示されていないんですけど……」
「えっ!?」
「そ、それでは修得しているスキルは?」
「翻訳スキルだけ……」
「ええっ!?」
「まさか……レア殿、ちょっと失礼!!」
「うわっ!?」
バルトは彼の前で恐ろしい速度で拳を突き出し、驚いたレアは尻もちを着いてしまうが、そんな彼の反応に周囲の人間達は訝し気な表情を浮かべた。
「だ、大丈夫かい?」
「おい、どうしたんだよ急に……別に悲鳴を上げるほどの事でもないだろ。びびり過ぎじゃねえのか?」
「えっ……えっ?」
他の人間に反応にレアは戸惑い、彼の視界にはバルトの拳がプロボクサー顔負けの速度で迫ったように見えたのだが、他の人間はどうして彼がそこまで驚いたのか分からないように不思議な表情を抱く。
「やはり……すまないが、キリサキ殿以外の者達は今の某の攻撃を見えてましたかな?」
「攻撃って……ゆっくりと拳を突き出したようにしか見えなかったけど」
「うん、私でも避けられそうだったよ~」
「え!?」
他の人間の言葉にレアは驚愕し、彼にとってはバルトの拳が気付いた時には目の前に存在した感覚だったが、他の人間達はバルトの攻撃を完全に捉えていたらしく、即座にバルトはある考察を行う。
「やはり……どうやらキリサキ殿はこの世界に訪れた時に何らかの不具合が生じたのか、全てのステータスが子供並、いや下手をしたら赤子並に落ちているようですな」
「赤子!?」
「キリサキ殿、落ち着いて聞いて下さい。体力が「無」というのはもしかしたら数値ですら表示できない程の低い能力値かもしれない。つまりは「0」を表しているのかも知れん」
「えぇえええええっ!?」
バルトの発言にレアは驚愕の声を上げ、彼の予測では下手に足を転ばせただけでも死亡する危険性があるらしく、他の人間達も同情するように彼に視線を向ける。
「お、落ち込む必要はないさ。三日後には元の世界に帰れるんだからさ」
「そ、そうですよ。仕方がない事です……まだ私達よりも子供なんですから、ステータスが低くても気にする必要ないです!!」
「こ、転ばないように気を付けてね?」
「まあ……その、どんまい」
「…………」
優しく言葉を掛けられる方が逆に心が傷付く事もあり、他の人間に同情されたレアは自分が悪いわけではないのにいたたまれない気持ちを抱き、自分が「勇者」ではない事が判明してしまう。
――最初にバルトが召喚される勇者が「4人」だけだと言われた時からレアは薄々と自分が勇者ではないのかと疑っており、召喚の際に現れた魔法陣が他の4人の足元に現れた時、偶然にも彼等の傍に居た自分が魔法陣に巻き込まれたのではないかと考えていた。
この理論が但しければ5人の中で勇者ではない存在が「レア」である事は間違いなく、ステータス画面にすら数値として表示されない自分の能力値にレアは愕然とする。
「まさかこのような結果になるとは……申し訳ない!!恐らく、召喚魔法の不具合でキリサキ殿は他の方の召喚に巻き込まれたのであろう!!」
「……ですよね」
「それと申し訳ないが……今のキリサキ殿の状態では今後の戦闘や魔法の訓練には参加させることはできない。流石に転んだだけで死亡する可能性がある人間に激しい運動を避ける訳にはいかないからな」
「はあ……」
「まあ、子供は無理すんなよ。ガキは大人しく見学してろ」
「何か気づいたらお姉ちゃんたちに相談してね~」
バルトの説明によると他の勇者達はこれから訓練を行うらしく、能力が下手をしたら他の勇者の数百分の一にも満たないレアは当然だが訓練に参加する事は許されない。それでも一応は見学は許可されたので彼は折角だから他の勇者の訓練を観察する事にした。
「では、キリサキ殿を除いて……これから勇者殿には簡単な訓練を受けて貰う。まずは攻撃系統のスキルの訓練を行おう。ちなみにスキルを発動する際は必ずスキルの名前を発音させる事が重要だぞ。基本的に魔法の場合は掌か、あるいは杖などを装備していた場合は杖の先端から発言する事が出来るが……」
「ふむふむ……」
「なるほど~」
バルトが説明を行う間、何も出来ないレアは彼の説明を聞きながらも自分のステータス画面を開き、何度見直しても全ての数値が異常に低い事に溜息を吐く。しかし、彼が落ち込んでいる間にもバルトの説明は続く。
「先程も説明したSPの使い方も説明しておきましょう。最もあくまでも使い方を教えるだけですから無暗に新しいスキルを覚えようとはしないように気を付けて下され」
「分かってるよ。早く教えてくれよ」
「それでは……ステータス画面を開き、そこでSPを消費して新しいスキルを覚えたいと念じれば視界に新しい画面が表示されるはず。それが未収得スキル一覧と呼ばれる画面です」
説明を聞いたレアは自分の「SP」の項目に視線を向け、彼はバルトの説明通りにSPを使用する事を強く念じると、彼の視界に新しく「未修得スキル一覧」という画面が表示された。
「うわっ……こんなにあるのか」
レアの画面に表示されたスキルの数は数百を超え、スキルの1つ1つに細かな説明文が表示されており、全てのスキルを確認する事は不可能だと判断した彼は後で確かめる事を決め、画面を閉じる。不意にレアは尿意に襲われ、バルトにトイレの場所を問い質す。
「あの……将軍さん」
「バルトで構いませんぞ。どうかしましたかキリサキ殿?」
「その、トイレは何処に……」
「ああ、それならばあちらの階段を上がった後、すぐ傍の通路を左に曲がると存在するぞ」
「すいません……」
バルトからトイレの居場所を聞き出したレアは彼に礼を告げ、トイレの場所に向かうために離れる。急ぎ足で彼は通路を通り過ぎようとすると、途中で最も出会いたくはない人間と遭遇してしまう。
「勇者殿」
「うわっ!?」
移動の際中にレアは後方から唐突に声を掛けられ、振り返ると何時の間にか彼の背後には禿げ頭の大臣の「ダマラン」が立っており、彼はあからさまな愛想笑いを浮かべて近づいてくる。そのわざとらしい笑顔にレアは嫌悪感を抱き、無意識に後退りながらも彼の名前を口にする。
「ダマラン大臣……さん」
「キリサキ殿は何をしておられるのですかな?他の方のように訓練には参加されないのですかな?」
「いや、その……俺は訓練に参加する事は危険らしいので……」
「ああ、そう言えばステータスに不具合が生じて参加できないのでしたな。まさか勇者に巻き込まれた人間がいるとは……はっはっはっはっ!!」
どうやら事前にバルトとの会話を盗み聞きしていたのか、ダマランはレアの事情を知っていたようであり、わざわざ彼自身に意地悪く問い質して彼の口から訓練を参加できない理由を聞いた後、彼は高笑いを行いながら立ち去る。そんな彼の後ろ姿にレアは悔し気に歯を食い縛り、自分が悪いわけではない事は頭で分かってはいても、馬鹿にされた事に腹が立った。
この帝都には10万人以上の人口を誇り。先ほど相対した皇帝はバルトロス帝国の現皇帝、そして案内役のバルトはこの国の将軍の中では最も偉い「大将軍」を務めている。また、皇帝の傍に控えていた禿げ頭の男はダマランと呼ばれる大臣らしく、この国では皇帝の次に権力を持つ人物らしい。
「ここが勇者殿達の特別訓練場ですぞ」
「ここって……」
「今の時間帯ならば人も通りませんのでここで勇者殿達の適性検査と、習得しているスキルの確認を行いましょう」
バルトが案内したのは王城の裏庭であり、簡単な検査を行うと言われていた5人は自分達の身体を調べられるのかと思い込んでいたが、案内されたのは石畳で敷き詰められた地面に周囲が石柱で囲まれた不思議な空間だった。バルトによると今からここでレア達には自分の力を自覚して貰うために簡単な検査を行うらしい。
「それでは説明に入る前に勇者殿には先ほど某が使用した魔法を思い返して欲しい。あれは某が習得した戦技を発動させて生み出した魔法である」
「……スキル?」
唐突に「スキル」というゲームでよく耳にする単語が出てきた事に5人は戸惑うが、バルトはスキルの説明を行う。
「スキルというのはこの世界の人間ならば誰もが扱う能力の事だ。スキルは無数に存在し、複数の系統に分かれている。職業、戦技、技能、固有、主にこの4つに分けられている」
「なんかゲームみたいだな……」
「それで、どうやって僕たちはそのスキルというのを習得できるんですか?」
「まずはステータスの確認からだな。全員、言葉で口にするか、それとも頭の中で『ステータス』と唱えてくれれば視界に画面が表示されるはずだ」
「画面……ステータス画面の事かな?」
「本当にゲームみたいね」
バルトの指示に従い、全員が心の中で「ステータス」という言葉を唱えた瞬間、5人の視界に異変が訪れた。
「うわっ!?」
「なに!?」
「きゃっ!?」
「わあっ!?」
「これは……」
全員の視界にゲームの画面のような映像が出現し、表示された画面上には彼等の名前が一番上に記されていた。バルトの説明によると現時点の自分の能力が表示されるらしく、成長する事に画面の内容は変更されるらしい。
「恐らく、今の勇者殿の視界に薄透明な四角い板のような物が出現したと思われるが、それが現在の勇者殿達の身体能力や魔力、習得しているスキルの種類を表示するステータスと呼ばれる魔法だ。これは誰にでも扱える魔法であり、このステータスを参考にしながら我々は訓練を行っている。ちなみに他の人間にはステータス画面は見えないから気を付けろ」
「す、すげぇっ……」
「レベル1か……」
「……えっ」
他の人間が視界に現れた画面に驚く中、レアは自分の視界に表示された画面の内容に目を疑う。
――霧崎レア――
職業:無職
性別:男性
レベル:無
SP:無
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能力値
体力:無
魔力:無
腕力:無
脚力:無
魔法威力:無
魔法耐性:無
幸運値:無
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戦技
・
―――――――
技能
・翻訳――この世界の言語・文章を日本語に変換し、全て理解できる
――――――――
固有
・
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異能
・文字変換――あらゆる文字を変換できる
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レアは自分のステータス画面に表示された文章を確認するが、何度も見直しても表示されている全ての数値が「無」で統一されていた。しかも最後の「異能」という項目には謎の能力が表示されており、文字を変換する能力の説明文に彼は動揺を隠せない。
「体力が500……これって低いのか、高いのか?」
「基本的に何の訓練も受けていない一般人の体力は200~300、この城の兵士は1000~1500、将軍クラスになると2000を超える者で構成されていますな。ちなみに某は2500だ」
「ばりばりの初期数値ってところか……まあ、レベルを上げれば上昇するんだろ?」
「うわっ……最初から所有しているスキルも豊富だな。20個ぐらいあるぞ」
「そうなんですか?私はそれほど……あ、だけど何個か魔法を覚えています!!」
「あ、私は回復魔法が使えるみたい~」
「……え?」
しかも他の勇者達は彼と比べると普通に表示されているらしく、しかも既に教わっていない魔法さえも習得している人間も存在した。レアが覚えているのは「翻訳」のスキルだけであり、この能力のお蔭でこちらの世界の言葉と文字を完璧に理解出来るらしいが、それ以外の能力は何も覚えておらず、最後の異能と呼ばれる能力に関しては使い道が全く思いつかない。
「レベルが上昇すれば当然ステータスの数値も更新され、さらに新しいスキルを覚えたり、場合によってはSPを消費して新しいスキルも習得できますぞ」
「SP?レベルの下にある項目の奴か?」
「SPとはスキルポイントの略、これを利用すればスキルの習得、あるいは能力の強化に扱えます。但し、スキルを覚える場合はSPの消費量が毎回増加されますから気を付けて下され。それとSPはレベルの上昇以外で入手できないので必要ないスキルを覚えるように注意するように」
「能力を覚えたり、強化するのに必要な物という事ですね」
バルトの説明によるとSPを消費する事で未収得のスキルを覚えたり、あるいは既存のスキルを強化が出来るという。但し、スキルを覚える場合はSPの消費量が使用ごとに増加するらしく、例えば最初のスキルを覚えるときに必要なSPは「1」だが、次以降のスキルを覚える場合はSPの消費量が「1」ずつ増加するという。つまりは覚えた数のスキルの分だけSPの消費量が必要となり、無暗に必要のないスキルを覚える行為は避けなければならない。
「では、早速ですが勇者殿の職業を教えてくれないか?」
「この、ステータス画面の一番上の奴か?」
「そうです。職業によっては能力値の成長に差が出てくるから早めに教えてほしい。ちなみに剣士や格闘家ならば身体能力方面が伸びやすく、逆に魔法方面の能力は伸びにくい。魔術師の場合は反対に魔法関連の能力が向上しやすいが、反面に身体能力の成長は低い」
「なるほどな……僕は剣士だ」
「私は魔術師と書いてあります」
「えっと、私は医療魔導士と書いてあるよ」
「俺は戦士か……剣士とどう違うんだ?」
「なるほど……剣士に魔術師に医療魔導士、そして戦士か……ん?キリサキ殿は何の職業ですかな?」
一人だけ黙っていたレアに気付いたバルトが振り返ると、彼は言いにくそうにステータス画面に表示されている職業の項目を口にする。
「えっと……無職と書いてあるんですけど」
「「は?」」
「……だから「無職」です」
彼の発言に全員が呆気に取られた表情を浮かべ、バルトは考え込む素振りを行い、彼の他の能力を確かめる。
「無職?……そんな職業は聞いた事が無いが、では、他のステータスの数値はどのような感じですか?」
「能力値の数値も「無」としか表示されていないんですけど……」
「えっ!?」
「そ、それでは修得しているスキルは?」
「翻訳スキルだけ……」
「ええっ!?」
「まさか……レア殿、ちょっと失礼!!」
「うわっ!?」
バルトは彼の前で恐ろしい速度で拳を突き出し、驚いたレアは尻もちを着いてしまうが、そんな彼の反応に周囲の人間達は訝し気な表情を浮かべた。
「だ、大丈夫かい?」
「おい、どうしたんだよ急に……別に悲鳴を上げるほどの事でもないだろ。びびり過ぎじゃねえのか?」
「えっ……えっ?」
他の人間に反応にレアは戸惑い、彼の視界にはバルトの拳がプロボクサー顔負けの速度で迫ったように見えたのだが、他の人間はどうして彼がそこまで驚いたのか分からないように不思議な表情を抱く。
「やはり……すまないが、キリサキ殿以外の者達は今の某の攻撃を見えてましたかな?」
「攻撃って……ゆっくりと拳を突き出したようにしか見えなかったけど」
「うん、私でも避けられそうだったよ~」
「え!?」
他の人間の言葉にレアは驚愕し、彼にとってはバルトの拳が気付いた時には目の前に存在した感覚だったが、他の人間達はバルトの攻撃を完全に捉えていたらしく、即座にバルトはある考察を行う。
「やはり……どうやらキリサキ殿はこの世界に訪れた時に何らかの不具合が生じたのか、全てのステータスが子供並、いや下手をしたら赤子並に落ちているようですな」
「赤子!?」
「キリサキ殿、落ち着いて聞いて下さい。体力が「無」というのはもしかしたら数値ですら表示できない程の低い能力値かもしれない。つまりは「0」を表しているのかも知れん」
「えぇえええええっ!?」
バルトの発言にレアは驚愕の声を上げ、彼の予測では下手に足を転ばせただけでも死亡する危険性があるらしく、他の人間達も同情するように彼に視線を向ける。
「お、落ち込む必要はないさ。三日後には元の世界に帰れるんだからさ」
「そ、そうですよ。仕方がない事です……まだ私達よりも子供なんですから、ステータスが低くても気にする必要ないです!!」
「こ、転ばないように気を付けてね?」
「まあ……その、どんまい」
「…………」
優しく言葉を掛けられる方が逆に心が傷付く事もあり、他の人間に同情されたレアは自分が悪いわけではないのにいたたまれない気持ちを抱き、自分が「勇者」ではない事が判明してしまう。
――最初にバルトが召喚される勇者が「4人」だけだと言われた時からレアは薄々と自分が勇者ではないのかと疑っており、召喚の際に現れた魔法陣が他の4人の足元に現れた時、偶然にも彼等の傍に居た自分が魔法陣に巻き込まれたのではないかと考えていた。
この理論が但しければ5人の中で勇者ではない存在が「レア」である事は間違いなく、ステータス画面にすら数値として表示されない自分の能力値にレアは愕然とする。
「まさかこのような結果になるとは……申し訳ない!!恐らく、召喚魔法の不具合でキリサキ殿は他の方の召喚に巻き込まれたのであろう!!」
「……ですよね」
「それと申し訳ないが……今のキリサキ殿の状態では今後の戦闘や魔法の訓練には参加させることはできない。流石に転んだだけで死亡する可能性がある人間に激しい運動を避ける訳にはいかないからな」
「はあ……」
「まあ、子供は無理すんなよ。ガキは大人しく見学してろ」
「何か気づいたらお姉ちゃんたちに相談してね~」
バルトの説明によると他の勇者達はこれから訓練を行うらしく、能力が下手をしたら他の勇者の数百分の一にも満たないレアは当然だが訓練に参加する事は許されない。それでも一応は見学は許可されたので彼は折角だから他の勇者の訓練を観察する事にした。
「では、キリサキ殿を除いて……これから勇者殿には簡単な訓練を受けて貰う。まずは攻撃系統のスキルの訓練を行おう。ちなみにスキルを発動する際は必ずスキルの名前を発音させる事が重要だぞ。基本的に魔法の場合は掌か、あるいは杖などを装備していた場合は杖の先端から発言する事が出来るが……」
「ふむふむ……」
「なるほど~」
バルトが説明を行う間、何も出来ないレアは彼の説明を聞きながらも自分のステータス画面を開き、何度見直しても全ての数値が異常に低い事に溜息を吐く。しかし、彼が落ち込んでいる間にもバルトの説明は続く。
「先程も説明したSPの使い方も説明しておきましょう。最もあくまでも使い方を教えるだけですから無暗に新しいスキルを覚えようとはしないように気を付けて下され」
「分かってるよ。早く教えてくれよ」
「それでは……ステータス画面を開き、そこでSPを消費して新しいスキルを覚えたいと念じれば視界に新しい画面が表示されるはず。それが未収得スキル一覧と呼ばれる画面です」
説明を聞いたレアは自分の「SP」の項目に視線を向け、彼はバルトの説明通りにSPを使用する事を強く念じると、彼の視界に新しく「未修得スキル一覧」という画面が表示された。
「うわっ……こんなにあるのか」
レアの画面に表示されたスキルの数は数百を超え、スキルの1つ1つに細かな説明文が表示されており、全てのスキルを確認する事は不可能だと判断した彼は後で確かめる事を決め、画面を閉じる。不意にレアは尿意に襲われ、バルトにトイレの場所を問い質す。
「あの……将軍さん」
「バルトで構いませんぞ。どうかしましたかキリサキ殿?」
「その、トイレは何処に……」
「ああ、それならばあちらの階段を上がった後、すぐ傍の通路を左に曲がると存在するぞ」
「すいません……」
バルトからトイレの居場所を聞き出したレアは彼に礼を告げ、トイレの場所に向かうために離れる。急ぎ足で彼は通路を通り過ぎようとすると、途中で最も出会いたくはない人間と遭遇してしまう。
「勇者殿」
「うわっ!?」
移動の際中にレアは後方から唐突に声を掛けられ、振り返ると何時の間にか彼の背後には禿げ頭の大臣の「ダマラン」が立っており、彼はあからさまな愛想笑いを浮かべて近づいてくる。そのわざとらしい笑顔にレアは嫌悪感を抱き、無意識に後退りながらも彼の名前を口にする。
「ダマラン大臣……さん」
「キリサキ殿は何をしておられるのですかな?他の方のように訓練には参加されないのですかな?」
「いや、その……俺は訓練に参加する事は危険らしいので……」
「ああ、そう言えばステータスに不具合が生じて参加できないのでしたな。まさか勇者に巻き込まれた人間がいるとは……はっはっはっはっ!!」
どうやら事前にバルトとの会話を盗み聞きしていたのか、ダマランはレアの事情を知っていたようであり、わざわざ彼自身に意地悪く問い質して彼の口から訓練を参加できない理由を聞いた後、彼は高笑いを行いながら立ち去る。そんな彼の後ろ姿にレアは悔し気に歯を食い縛り、自分が悪いわけではない事は頭で分かってはいても、馬鹿にされた事に腹が立った。
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長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。
コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。
ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。
実際の所、そこは異世界だった。
勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。
奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。
特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。
実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。
主人公 高校2年 高遠 奏 呼び名 カナデっち。奏。
クラスメイトのギャル 水木 紗耶香 呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。
主人公の幼馴染 片桐 浩太 呼び名 コウタ コータ君
(なろうでも別名義で公開)
タイトル微妙に変更しました。
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