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人間の国

第31話 二人目の勇者候補

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話し込んでいる間にナイト達の部屋に辿り着き、ナイトは自分の隣の部屋の「101号室」に視線を向ける。この部屋にもハルカと同様に勇者候補生が宿泊しているはずであり、どんな人物なのか気になった。


「まお……さん」
「マオさん?」
「ちょっとちょっとお兄ちゃん、他人行儀なんて止めてくださいよ。いつもどおりにマオちゅわんと呼んでください」
「ええっ!?ナ、ナイト君……妹さんのことをそんな風に呼んでるの?」
「呼んでないよ!?」


マオの発言にハルカは若干引いてしまうが、慌ててナイトは否定しながらも101号室の客を尋ねる。


「マオ……ちゃん。こっちの部屋の人はどんな人?」
「御二人と同じで勇者候補生ですよ。他所の街からやってきたんです」
「え?私達よりも早く来たの?」
「王都から一番近い街からみたいですね」


ハルカが暮らしていた街は王都から二番目に近い街であり、ナイト達よりも先に来た勇者候補生は一番近い街からきたらしい。昨日から宿屋で宿泊しているらしく、飯の時以外は部屋から出てこないらしい。


「魔王様はもう会ったんですよね?どんな人ですか?(ぼそぼそ)」
「素質は高いと思うんですが、性格に難ありですね(ぼそぼそ)」
「あの……二人で何を話してるの?」


内緒話を行うナイトとマオにハルカは首を傾げるが、急に101号室の扉が開かれる。中から現れたのはナイト達と同じぐらいの年齢の黒髪の少年だった。


「さっきからうるさいんだよ!!人の部屋の前で何を騒いでるんだ!?」
「わっ!?」
「ご、ごめんなさい!!」
「すいません、少し騒ぎ過ぎましたね」


部屋から現れたのはナイト達と同じく勇者候補生に選ばれた少年であり、身長はナイトよりも少し高く、わかめのように特徴的な髪の毛だった。顔立ちはそれなりに整っているが、体型は肥満気味だった。

遂にハルカ以外の勇者候補生と出会ったナイトは試しに魔力感知を行うと、少年は驚くべき事にハルカにも匹敵する魔力を有していた。黒色のローブを着こんでおり、恐らくは闇属性の魔法を扱う「黒魔術師」だと思われた。


「ローブが黒いということは、もしかして君は黒魔術師なの?」
「お前な!!黒魔術師が全員黒いローブを着てると思い込んでないか!?」
「え、じゃあ違うの?」
「……まあ、間違ってはないんだけど」
「え~!?じゃあ、何で怒ったの?」
「う、うるさい!!」


いきなり部屋から現れた少年は胸を張りながら自己紹介を行う。


「僕の名前はヤミン!!あの選定の儀式に選ばれた勇者なんだぞ!!」
「えっと、私達も選定の儀式に合格したんだけど……」
「それに勇者じゃなくて勇者でしょ?」
「う、うるさい奴等だな!!そんな細かい事はどうでもいいだろ!!」
「じゃあ、私は仕事があるので失礼しますね~」


マオはナイト達を置いて早々に立ち去り、残された三人は気まずい雰囲気になる。ハルカは自分の部屋に慌てて移動し、ナイトを置いて部屋に入った。


「じゃ、じゃあ私は荷物をまとめないといけないから……ナイト君、また後でね!!」
「えっ……う、うん。またね」
「ふんっ、お前が僕の隣の部屋か……言っておくけど、僕の部屋の前で騒いだりしたら許さないからな!!」
「あ、ちょっと待って」


ヤミンは部屋に戻ろうとするが、ナイトは慌てて引き留めた。マオによれば彼も勇者としての素質はあるらしく、一応は交友を深めるために話しかける。ナイトに引き留められたヤミンは面倒くさそうな表情を浮かべて振り返る。


「な、何だよ?何か文句があるのか!?」
「いや、さっき騒いだ事は謝るよ。本当にごめんね」
「ま、まあ分かればいいんだよ」


ナイトがあっさりと頭を下げるとヤミンは驚き、自分が大人げなかったと自覚したのかばつが悪そうな表情を浮かべる。


「僕の方こそ急に怒鳴って悪かったな。実は昨日から全然眠れなくてぴりぴりしてたんだ」
「そうなの?いったいどうして?」
「……とりあえず、外で話すのもなんだから部屋に入れよ」
「え?いいの?」


意外な事にヤミンの方から部屋に招かれ、ナイトは一緒に部屋に入ると凄い光景を目の当たりにした。彼の部屋にはたくさんの荷物が置かれており、まるで引っ越しでもしてきたかのような荷物量だった。


「この荷物、全部君の?」
「ああ、そうだよ。僕が家を出る時に全部持って来たんだ」
「家を出る?」
「……実は父さんに勇者学園に入学する事を反対されてさ。もしも勇者学園なんかに入るつもりなら勘当すると言われて、それで本当に家から追い出されたんだよ」
「ええっ!?」


ヤミンの話にナイトは信じられず、普通であれば勇者候補生に選ばれるのは名誉ある事なのだが、ヤミンの家庭は少々特別だった。


「僕の家は商人の家系でさ、昔は王都で暮らしてたんだけど祖父ちゃんの元で商売の勉強をしてこいと言われて子供の頃に別の街に引っ越したんだ」
「あれ?でもヤミン君は魔術師なんだよね?」
「僕の祖母ちゃんが魔術師だったんだよ。商人の勉強の合間に祖母ちゃんが僕に魔法の使い方を教えてくれたんだ」


ヤミンが祖母が魔術師だったらしく、彼女の指導の下で魔法を扱えるようになったらしい。だが、本人は本格的に魔術師になるつもりはなく、せいぜい商人の修業の暇つぶしがてらに魔法を習っていたのだが、選定の儀式を受けて勇者の素質がある事が判明した。


「僕は今までずっと商人に祖父ちゃんや父さんみたいな商人になるんだと思ってた。けど、選定の儀式を受けた時に僕は勇者候補生になれると聞いて決めたんだ。僕が目指すの商人じゃなくて勇者……いや、魔導士になるんだって!!」
「魔導士になりたいの?」
「当たり前だろ!?勇者も格好良いけど、僕は魔導士の祖母ちゃんみたいになりたいんだ。祖母ちゃんみたいな立派な魔導士になるために僕は勇者学園で勉強するって決めたんだ!!でも、父さんからは大反対されて……」
「それで追い出されたの!?」


これまでヤミンを自分の跡取りとして育てていた父親は彼が勇者学園に入学するのを良しとせず、最初は彼を説得しようとしたがヤミンは聞き入れなかった。それに激怒した父親はヤミンを追い出してしまった。


「母さんがいなくなってから父さんは変わったんだ……昔はよく一緒に遊んでくれたけど、母さんが死んでからは仕事にばかりかまけて僕の相手もしてくれなくなった。祖父ちゃんも祖母ちゃんも僕の夢には賛成してくれたけど、父さんは最後まで認めてくれなかった」
「そっか……辛いね」
「ふん!!あんな父さん……いや、糞親父なんかもうどうでもいい!!こうなったら意地でも僕は勇者学園を卒業して黒魔導士になるぞ!!」
「へ、へえ……でも、これだけの荷物をよく運んで来たね」


ナイトは部屋の中を埋め尽くす荷物に圧巻されるが、ヤミンは心底困った表情を浮かべた。


「父さんが人を雇って僕の荷物を全部運んできたんだよ。けど、勇者学園に入学するなら学生寮に住まないといけないんだろ?一応は学園側の人と連絡を取って部屋を見せてもらったんだけど、これだけの荷物を運び込むのは無理だって……」
「だろうね……」


ヤミンの荷物の量は尋常ではなく、学生寮の一生徒の部屋に収められる量ではない。それならば不必要な荷物を捨てればいいと思われるが、彼にとっては大事な物ばかりで捨てる決心がつかないという。


「学校が始まる前に荷物をまとめないといけないのは分かってるんだけど、昨日から荷物を整理してるけど全然終わらないんだよ!!どれもこれも僕にとっては思い出深い物ばかりで捨てられないんだ!!」
「えっと、この水晶の髑髏は何?」
「あ、それは前に祖母ちゃんが僕のお土産にくれたんだ」
「じゃあ、こっちのヤミン君にそっくりな木彫りの像は?」
「それは子供の頃に祖父ちゃんが僕の誕生日に彫ってくれたんだ。上手くできてるだろ?」
「……この馬鹿でかい金庫は何?」
「あ、それは金庫じゃなくて保冷庫だよ。水と風の魔石を嵌めると中身を冷やしてゥくれるんだ。食べ物とかを保管するのに便利だと思って持って来たんだよ」
「ねえ、真面目に荷物をまとめる気あるの!?」
「ひいっ!?」


あまりにもツッコミどころがある荷物にナイトは怒鳴りつけてしまうが、本人としてはどれも大切な代物らしく、どうしても捨てる事ができなかった。他人にとってはくだらない物だと思われても、ヤミンにとってはどれも思い出深い品物ばかりだった。

ナイトはため息を吐きながら荷物を確認し、これらの荷物を全て片付ける方法は一つだけしかない。それはナイトが所有する「収納鞄」のように異空間に物を預ける魔道具を手に入れるしかなかった。
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