異世界召喚に巻き込まれた一般人、馬鹿にされたので勇者より先に悪者を倒します

カタナヅキ

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廃墟編

命中の技能

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――ウォオオオンッ!!



馬車の背後には何時の間にか額に角を生やした狼の群れが追跡しており、徐々に距離を縮めていた。それを見たレアは驚いてリリスに尋ねる。


「な、何だこいつ!?」
「一角狼ですよ!!よりにもよって最悪な奴が来ましたっ!!」
「一角……狼?」


初めて見た狼のような姿をした魔物にレアは戸惑うが、既に群れの一番先頭を走っている一角狼は馬車の真後ろまで迫っており、慌ててレアは拳銃を構える。狙いを定めて撃つ前にリリスに魔物の特徴を伺う。


「こいつらはゴブリンよりやばいの!?」
「やばいですよ!!だから逃げてるんじゃないですかっ!?」
「反響石を取り付けたばっかりなのに現れたけど、本当にそれ効果あるの!?」
「反響石が効果を発揮するのは基本的に通常種にだけなんです!!一角兎は狼型の魔物の上位種なので効かないんですよ!!」
「くそっ、そういうことか……!!」


廃墟街に生息するゴブリンに解析を発動した際、名前の横に「通常種」という文章が表示されていたことをレアは思い出す。リリスの説明を聞いて教会にゴブリンが押し寄せて来なかった理由が判明し、同時に上位種や亜種には反響石が通じないことも知る。

会話を行っている間にも馬車の後方から一角狼が近付いており、先頭の個体が馬車に目掛けて飛び掛かろうとした。それに対してレアは冷静に対処する。


「ガアッ!!」
「帰れっ!!」
「ギャンッ!?」


馬車の中に入り込もうとした狼にレアは荷物の中から鍋を取り出して殴り飛ばす。思いもよらぬ反撃を受けた一角狼は車外に吹き飛び、即座にレアは拳銃を抜いて馬車を追いかける他の狼に狙いを定めて撃つ。


「このっ!!近寄るな!!」
「わあっ!?な、何ですか今の音!?」
「「ヒヒンッ!?」」
「うわわっ!?い、いいから馬車の運転に集中して!!」


拳銃の発砲音にリリスは驚き、その際に走らせている馬達が動揺して馬車が揺れる。危うく落ちそうになったレアはどうにか踏み止まり、リリスに注意しながら拳銃で狼を狙い撃とうとする。だが、動き回る相手を狙い撃つのは非常に難しく、しかも揺れる車体の上での発砲なので上手く当てられない。


「くそっ、全然当たらない!!」
「わ、私は運転しているので見えないんですけど、何をしてるんですかっ!?」
「いいから運転に集中してろって!!」


馬車に接近する一角狼に向けてレアは発砲を繰り返し、こんな時のために用意しておいた大量の弾丸を利用して打ち込む。何発にかに一発は一角狼に的中し、走行中に打たれた狼達が次々と倒れる。


「ギャンッ!?」
「ガウッ!?」
「ギャインッ!?」
「最後の奴だけ可愛い鳴き声だったな……うわっ!?」


拳銃を発砲している途中で車体が大きく揺れ動き、レアは体勢を崩して床に倒れ込んでしまう。何事かとリリスに振り返ると、彼女は慌てふためく馬達を必死に操作しようとしていた。


「ヒィンッ!?」
「わわわっ!!ちょ、落ち着いてください!!どうどうっ!!」
「どうしたっ!?」
「そ、その武器のせいですよ!!音がでかすぎて馬が怯えるんですっ!!これ以上それを使われると転倒しますよっ!?」
「マジかよ……」


馬車を引く馬が拳銃の発砲音に反応したらしく、二頭の馬が混乱して制御が効かなくなる。どうにかリリスは落ち着かせようとしているが、これ以上に拳銃を使用すると本当に転倒する恐れがあり、仕方なくレアは拳銃を胸元のポケットに戻して別の方法を考える。


「このままだとまずいですよ。追いつかれたら終わりです!!」
「言われなくても分かってるよ!!けど、どうすれば……待てよ?」
「何か作戦を思いついたんですか!?」


レアはリリスと遭遇する前にホブゴブリンとゴブリンメイジを倒したことを思い出し、即座にステータス画面を開く。案の定というべきかレベルがいつの間にか「18」に上昇していた。それを確認したレアは今ならば新しい技能を習得できることに気が付く。

事前に目星をつけていた技能は「剣術」と「命中」であり、当然ながら現在の状況で役立つのは「命中」だった。この技能を習得すれば的を外すことはなう、確実に一角狼を狙い撃てる。しかし、これ以上に拳銃を発砲すると馬が音に驚いて馬車が転倒する恐れもあった。


(普通の銃じゃ駄目だ!!この状況で役立つ銃と言えば……あれしかない!!)


地球から召喚された際に持って来た道具の中でレアは一番最初に文字変換の能力を試した「学生手帳」を取り出す。少し惜しいが他に四文字の道具は持ち合わせておらず、解析を発動して文字を書き替える。


『学生手帳――異世界に存在する学校の学生用の生徒手帳 状態:普通』
「これを……こうだっ!!」
『ライフル――消音機能が搭載されたスナイパーライフル 状態:普通』
「上手く行けっ!!」


文字変換の能力を発動させた瞬間、レアの手元に存在した学生手帳が光り輝き、やがて拳銃よりも大きな銃器が誕生する。デザインはレアが現実世界で遊んでいたFPSのゲームでよく利用していた「狙撃銃スナイパーライフル」と非常に酷似していた。


「えっと……どう使うんだろう?映画やゲームだとこんな風にしていたような……」
「あの、何をしてるんですか!?こっちは運転に集中しているんで本当に何も見えないんですけどっ!!」
「ああ、話し掛けないでよ!!集中してるんだから……これでいいのかな?」


初めて扱う銃器なので使い方を調べるのに苦労したが、どうにか使用法を見出したレアは銃を構え、スコープを通して狙いを定める。


「喰らえっ!!」



――ギャンッ!?



狙撃銃の引金を引いた瞬間、馬車から10メートル以上も離れていた一角狼が吹き飛び、頭部を撃ち抜かれた狼が悲鳴を上げて地面に倒れ込む。後方から続いていた複数の狼も先頭を走っていた個体の肉体に足を引っかけて転倒してしまう。


「よっしゃっ!!」
「え?何が起きたんですか?」
「いいからそのまま走ってて……次っ!!」


消音機能サプレッサーが搭載された狙撃銃は発砲音を限りなく抑えており、そのお陰で馬達が発砲音で混乱する事もなく、レアは次々と馬車を追跡する一角狼達を撃ち抜く。スコープ越しの発砲とはいえ、的確に狼を狙い撃ちできるのは先ほど覚えた「命中」の技能のお陰だと思われた。

最初の内は執拗に追いかけていた狼達も次々と仲間たちが倒される事に危機感を抱いたらしく、合計で5体目の仲間が倒れた時点で完全に諦めてしまったのか立ち止まる。



――ウォオオオンッ……!!



悲し気な一角狼の咆哮が響き渡り、無事にレア達は草原を駆け抜けて一角狼の追跡を逃れる事に成功した。
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