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廃墟編

教会への帰還

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どうにか教会に帰還したレアは回収した道具を利用し、文字変換の能力で色々な物を作り出す。説明文に合わせて文字を書き替えるのは面倒な作業だったが、それでも十分な食料と水を確保できた


「ふうっ、ようやく一息付けたな」


手に入れた鍋に水を保管し、落ちていた木材の破片や瓦礫を利用して次々と食べ物へと造り替える。ようやく腹いっぱいになった頃には夜を迎え、事前に回収していた燭台に文字変換で造り出した蝋燭と火を灯す。


「結局、誰も戻ってきていないみたいだな。最近まで人が住んでたとは思うんだけどな……」


教会に人が住んでいた痕跡が残っていたので夜を迎えれば人が戻って来るのかと期待したが、残念ながら深夜を迎えても人が来る気配はない。事前に教会で発見した毛布にくるまりながら考え込む。


「この教会も絶対に安全かは分からないし、早いうちに街から脱出した方がいいと思うけど……行く当てもなく外に出ても野垂れ死にしそうだしな」


当面の目標は廃墟の街を抜け出すことだが、教会の一歩外はゴブリンの巣窟だった。今日は運良く生き残れたが明日も無事に生き延びられる保証はない。

ちなみに今日だけ相当な数のゴブリンを倒したはずだが、肝心のレベルは最初にゴブリンを倒した時だけしか上がっていなかった。未だにレアのレベルは「10」のままであり、レベルが上がらなければSPも入手できないので新しい技能を覚えることもできない。


「技能は便利だけど、使用すると体力を使うから気を付けないとな……でも、体力の数値を上げてからは別にそんなに疲れなくなったな」


城に居た頃は「脱出」の技能を二度使っただけで疲弊したが、体力の数値を上げてからは殆ど疲れなくなった。このことから体力の数値を増やすほどに技能を利用できる回数が増えると思われた。


「せめて文字変換の能力が一度しか使えないという条件がなければな……でも、あの時に体力と筋力を上げていなかったら今頃は死んでたかもしれないし、仕方ないか」


せめて一緒に召喚された大地達と同程度の能力値ならばこんなにも苦労することはないと思うが、泣き言を言っていても仕方がないのでレアはステータス画面を開く。


「数値を上げることは……やっぱり駄目か」
『一度変更した文字は変化できません』


能力値の数値に指を押し当てても警告文が表示され、試しに警告文の画面に文字変換できないのか試そうとしたが一瞬で消えてしまう。文字変換の隠し条件がステータス画面に反映されないのは文字変換の能力で条件の変更をできないようにしているのかもしれない。


「はあっ、色々と面倒な能力だな……けど、その能力のお陰で生き延びられてるのも事実か」


条件付きとはいえ文字変換は能力は十分に凄く、これを利用すれば魔物を「死亡」させたり、あらゆる物体を別の物に造り替えることもできる。さらには自身のステータスを改竄して能力の強化だって行えた。

この文字変換の秘密をダマラン達に知られていれば今頃はレアも冷遇されず、大地達のように丁重に扱われていたかもしれない。だが、自分を役立たずと判断して追放するような輩に利用されるのは御免であり、仮に帝国の人間が迎えに来てもレアは従うつもりはない。


「一緒に召喚されたお兄さんたち、無事だと良いけど……」


帝国に残された大地達のことは気掛かりだが、帝国の人間の話によれば大地達は「勇者」として迎え入れられ、丁重に扱われるそうなのであまり心配する必要はないのかもしれない。そもそも人の心配をする余裕はなく、レアは自分の身を案じなければならない。


「……駄目だ、寒すぎて寝付けない。こんな毛布一枚だけじゃ風邪ひくぞ」


夜を迎えた途端に教会内は冷え切り、あまりの寒さにレアは起きてため息を吐き出す。昼間のうちに集めた道具の中から適当な物を選び、眠るのに最適な道具を作り出すことにした。


「仕方ない、またこれを使うか」
『破片――椅子の破片 状態:劣化』


日本刀で試し切りした椅子の破片を利用し、様々な道具を作り出す。数分後にレアの周りに様々な物が誕生した。


『電灯――小型の電灯 状態:新品』
『寝袋――封筒型寝袋 状態:新品』
『時計――金無垢時計 状態:新品』


寝袋の他に蝋燭以外の灯りと時計も用意しておく。この世界が地球と同じ時間軸なのかは不明だが、とりあえずは高価そうな金無垢時計を装着しておく。

どうして効果そうな時計を作り出したのかというと、人が暮らす街に辿り着いてもレアは数枚の銅貨しか所持していない(そもそも銅貨の価値も把握していない)。だが、高級そうな時計を所持していればそれを売って路銀を稼げるため、腕時計ならば身に着けていてもそれほど邪魔にはならないと判断して作っておく。改めてレアは新しい寝袋に入り直すと、朝まで眠ろうとした時、建物の外からおぞましい鳴き声が響く。



――グギィイイイッ!!



外から聞こえた鳴き声にレアは目を見開き、慌てて傍に置いていた日本刀と電灯に手を伸ばす。間違いなく聞こえてきたのは魔物の鳴き声だと思うが、建物内ではなく外から聞こえてきたことにレアは疑問を抱く。


(なんだ!?今の鳴き声……怖いけど調べておくか)


鳴き声が気になったレアは慎重に扉へと移動し、意を決して扉を開くとまたもや鳴き声が聞こえた。


「……あっちからか」


鳴き声が聞こえた方角は少し前にレアが幻惑作用のある煙幕でゴブリンの群れを仕留めた方角であり、気になったレアは調べに行くことにした。本当は危険な行為を避けるべきなのだろうが、教会に残っていても安全という保障もない。


(さっきの鳴き声、ゴブリンと似ていた気がする。それにこっちに近付いている気がする……)


偶然なのかそれとも鳴き声の主が近付いているのか、徐々に声の大きさを増していた。仮に教会に残っても相手の目的がレアだとしたら隠れていても意味はなく、武器を手にしてレアは夜の街を歩く。

昼間に何体もゴブリンを倒したことでレアは自分が強くなっていると自覚し、少なくともゴブリンの一匹や二匹が相手ならば負ける道理はない。それに自分にはいざという時に相手のステータス画面を開いて「死亡」の文字を書き込めば勝てるという自信もあった。


(大丈夫だ、やばそうなら逃げればいいだけだ。拳銃の弾丸も新しく作ったし、平気なはずだ)


ゴブリンと戦った際に失った弾丸は既に新しいのを制作済みであり、拳銃用のホルスターも用意していた。仮にゴブリンの群れが現れても昼間の時のように弾丸を煙幕に変化させて逃げることもできる。


(行くぞ!!)


勇気を振り絞ってレアは鳴き声が聞こえる方角に向かい、しばらくの間は夜道を走り続けた。そして昼間にゴブリンの群れと遭遇した街道に辿り着くと、予想だにしなかった光景が広がっていた。


(な、何だこれ……まさかなのかっ!?)


街道には無数のゴブリンの死骸が散らばっており、まるで獣に食い荒らされた様に無惨な肉塊と化していた。それを見たレアは吐き気を催し、口元を手で塞ぐ。


(やばい、吐きそうだ……けど、音を出したらまずい気がする)


どうにか吐き気を堪えながらレアは引き下がろうとした時、何処からか咀嚼音を耳にした。嫌な予感を抱いたレアは顔を向けると、ゴブリンの死骸に喰らいつく得体の知れない化物を発見した。
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