異世界召喚に巻き込まれた一般人、馬鹿にされたので勇者より先に悪者を倒します

カタナヅキ

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プロローグ

強制転移

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「逃がすなっ!!絶対に捕まえろっ!!」
「逃げられると思っているのかっ!!」
「くそっ……!!」


後方から聞こえてくる兵士達の声にレアは必死に逃げようとするが、こちらは全速力で動いているにも関わらずに鎧や武器を身に付けている兵士達の方が遥かに早く、彼等との身体能力の差を嫌でも思い知らされる。自分の能力値が最低である事を思い出し、それでも捕まる度にスキルを発動して抜け出す。


「よし、捕まえた……うわっ!!」
「離せっ!!」


身体を掴まれる度に「脱出」の技能を発動させて拘束から逃れるが、技能を発動する度にレアは体力が削られている感覚を抱く。そのせいですぐに息切れを起こして立ち止まってしまう。


「な、何だ!?急に身体が……」
「逃すかっ!!バインド!!」
「うわっ!?」


後方からダマランの声が上がり、彼は空中に縄を放り投げて魔法名と思われる言葉を口にすると、縄が生きた蛇のように動いてレアの両脚を拘束する。こちらの縄は技能を発動しようとても抜け出すことができず、必死に振りほどこうとするが恐ろしい力で締め付けられ、力尽くでは抜け出す事ができなかった。


「な、何だ……!?」
「ふんっ!!手こずらせおって……腐っても異界人ということか。だが、ここまでだな」
「くっ……!?」


レアの目の前にダマランが現れ、醜悪な笑みを浮かべて彼の身体を掴んで持ち上げる。必死に彼も逃げ出そうもがくが能力値に圧倒的な差が存在し、そのままダマランは杖を握りしめて彼の頬を軽く叩く。


「この愚か者がっ!!」
「ぐふっ!?」
「だ、大臣!?」


頬に強い衝撃が走り、レアは地面に倒れこむ。ダマランとしては軽く杖を突いただけだが、今現在のレアにとってはプロボクサーに殴り込まれたのと同程度の威力であり、視界が揺らぐ。


「くっ……」
「ふんっ!!この小僧がっ!!」
「大臣お止め下さい!!抵抗できない相手にこれ以上は……」
「ちっ……!!」


流石に哀れに思ったのか周囲の兵士達が大臣の行動を引き留め、彼は舌打ちを行いながらもレアに向けて杖を構える。最初はまた殴りつけられるのかと思ったレアは咄嗟に両腕で顔を覆うが、その様子にダマランは笑い声を上げる。


「安心しろ、殺しはせん……丁度良い。ここで私が長年研究していた魔法を試してやるか」
「え?な、何をする気ですか?」
「要はこいつを直接手を出して殺さなければ良い話だ。ならば転移魔法で別の場所に送り届けやろう」
「転移魔法!?し、しかし異界に送り返すには転移石が必要なのでは?」
「誰がこいつを送り返すと行った?もしもこいつがあちらの世界に戻した時、あちらの世界の人間に何を吹き込むか分からん。だから敢えて「無作為転移《ランダムテレポーション》」を発動させる」


ダマランは杖を構えた瞬間、兵士達は慌ててレアの元から離れる。ダマランは懐から無色の水晶玉を取り出し、自分の杖に取り付ける。そしてレアに杖先を構えながら意識を集中させるように唸り声を上げる。


「ぬぅううううっ!!」
「くっ……!!」
「動くなっ!!魔法が失敗すれば貴様が死ぬだけだぞっ!!」


今の内に離れようとしたレアに対してダマランは怒鳴りつけ、やがて地面に魔法陣のような紋様が浮かぶ。唐突に現れた魔法陣にレアは目を見開くが、ダマランは激しく汗を流しながら距離を開く。


「最も動かずとも貴様は十中八九死ぬことになるがな……この転移魔法は何処に飛ぶのかは発動者の儂にもわからん。せいぜい自分の行先が水中や空の上でない事を祈れっ!!」
「なっ……!?」



――ダマランが発動しようとしている転移魔法は行先が指定出来ず、こちらの世界では「古代魔法《ロスト》」と呼ばれている魔法の一種であり、この魔法は大量の魔力を消耗するにも関わらずに転移の移動先を指定する事ができない。過去に使用した人間は高度が数千メートルの上空、あるいは海底に飛ばされた人間も存在した。最悪なのは建物の壁や地面の中に転移された人間は抜け出す事も出来ずに死亡してしまう。

大量の魔力の消耗と引き換えに行先が指定できない場所に転移すること、さらに魔法陣の発動に時間が掛かり過ぎるという理由からこの魔法を使用する魔術師は滅多にいない。それでもダマランがレアに対して使用したのは転移魔法ならば自分の手で直接殺した事にはならないと確信していた。転移先でレアが死亡する事態に陥っても自分は送り出しただけで別に直接手を下したわけではないので自分が殺した事にはならないと考えての行動だった。



「ふははははっ!!仮に安全な場所に生き残れたとしても貴様のような最低値の人間を必要とする人間が存在するはずがないがな!!」
「ふ、ふざけるなっ!!」
「ふんっ!!貴様のような無能などこの国には必要ない!!さあ、行けっ!!」


魔法陣の発光が一段と強くなり、間もなく魔法が発動すると察したレアは責めて最後の抵抗を試みるため、両足を拘束された状態でも両手を動かすことは可能であり、彼は自身のステータス画面を開く。


(この手しかない!!)


完全に転移を追える前にレアはダマランに対抗する技能を習得するため、未収得技能一覧を確認する。少し前に開いた時に気になる能力が記されていたことを思い出し、急いでSPを消費して新しい技能を習得する。


『解析――対象が生物ならばステータス画面、物体の場合は詳細を確認できる(消費SP:2)』


説明文を確認した上でレアは即座に「解析」の技能を習得し、自分に向けて杖を構えるダマランに視線を向ける。するとレの視界にダマランのステータス画面が表示された。


――ダマラン――

職業:魔導士

性別:男性

状態:健康

レベル:51

SP:0


――――――――


視界にダマランのステータスが表示されると、急いでレアは文字変換の能力を発動させて画面に指先を構える。一方でダマランはレアが唐突に何もない空間に指をなぞる姿を見て疑問を抱く。


「貴様、何をして……」
「できたっ!!」


レアの足元の魔法陣の発光が強まり、瞼を開き続けるのも難しい状況に陥りながらもダマランのステータスの改竄に成功した。


――ダマラン――

職業:魔導士

性別:男性

状態:健康

レベル:01

SP:0


――――――――


改竄に成功したのはレベルの項目だけであり、画面に指が離れた瞬間にダマランに異変が生じ、唐突に彼はその場に倒れ込んで杖を手放してしまう。


「ぬおぉおおおおっ……!?」
「だ、大臣!?」
「どうされたんですかっ!?」


レアの目の前で唐突に大臣の身体が一気に痩せ細り、何が起きたのか分からないという表情を浮かべながら地面に倒れこむ。その光景に兵士達は動揺し、その光景を確認したレアは魔法陣に視線を向ける。


「そんなっ!?」


魔法の発動者であるはずの大臣が倒れても魔法陣が消える様子はなく、やがて魔法陣が光の柱と化した瞬間、内部に存在するレアの視界が光に包み込まれた――
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