貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1079話 新たなる魔導士

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――ダイダラボッチの討伐が果たされてから数か月後、王国には新しい魔導士が誕生した。マジクは死亡し、マホも未だに意識不明のため、これまで王国にはイリアしか魔導士はいなかった。しかし、国中の魔術師を選抜して新たに魔導士に相応しい人物が選ばれる。

新しく魔導士に選ばれたのはマホの弟子の「エルマ」であり、彼女はマホが目を覚ますまでの間は自分が彼女の代役として魔導士の座に就く事にした。エルマはマホの弟子であり、聖女騎士団に在籍していた頃の功績も考慮され、王国側も彼女ならば魔導士に相応しいと判断した。

エルマの実力はマホには大きく劣るが、彼女が扱う魔弓術は普通の魔術師には真似はできず、遠距離からの攻撃において彼女に勝る人間はいない。今現在のエルマならば数百メートル離れた的に矢を当てる事は容易い。そのせいで巷では彼女の事を「魔弓姫」と呼ぶ人間もいるという。


「やっぱりここにいたんですか、エルマ魔導士」
「イリア殿……どうしてここに?」


ある時にエルマの元にイリアが訪れ、この時のエルマはマホの様子を見ていた。彼女は一向に目覚める様子がなく、もう数か月も目を覚まさない。しかし、未だに生きているのは間違いなく、エルマはマホが目を覚ます事を信じて毎日訪れていた。


「容体はどうですか?」
「時々ですが、身体が震える事があります。前までは全く動かなかったのに……」
「少しずつですが快復しているようですね。といっても完全に目を覚ますのはいつになる事やら……」
「どれだけ時間が掛かろうと構いません。私が面倒を見ます」


仕事がある時は王城の使用人にマホの世話を任せているが、それ以外の時間はマホは付きっ切りでマホの世話を行っていた。彼女は休日の時もマホの世話を行い、その事に他の者たちも心配していた事をイリアは話す。


「ガロさんとゴンザレスさんが心配してましたよ。エルマさんが無理をしているんじゃないかって……」
「大丈夫です、私は平気です」
「そうは見えませんね。大分痩せたんじゃないですか?マホさんが身体を壊したら元も子も有りませんよ」
「……老師が大変な時に私がゆっくりしていられません」


イリアの言葉を聞いてもエルマはマホから離れようとせず、そんな彼女を見てイリアはため息を吐きながら訪れた用件を話す。


「……エルマさん、私が薬の開発を行っている事を知っていますね」
「え?ええ、確か精霊薬の開発に挑んでいるとか……ですが、本当に精霊薬を作れると思っているのですか?今まで何百人の薬師が精霊薬を作り出そうとしましたが、全員が失敗に終わっています」


エルマは精霊薬を現代の人の手で作り出す事は不可能だと思っていた。確かに過去の時代には実在した薬だが、今の時代ではその製造方法は失われ、大勢の薬師が制作のために生涯を捧げたが、結局は全員が失敗に終わっている。

しかし、イリアは未だに諦めずに精霊薬の開発に勤しみ、かつて精霊薬の開発に取り組んだ薬師たちの意思を継いで、自分の生きている間に精霊薬を作り出す事を心の中で決めていた。


「確かに大勢の薬師が精霊薬を開発に失敗したのは事実です。ですが、失敗は成功の母という言葉があります。失敗する事は悪い事じゃありません、本当にまずいのは失敗しても反省せずに挫折する事です」
「挫折……」
「エルマさんだってマホさんが起きるのを諦めずに待っているんでしょう?私だって死ぬまで諦めるつもりはありません」
「なるほど……確かにそうですね」


イリアの言葉にエルマは感慨深げな表情を浮かべ、失敗する事は悪い事ではなく、その失敗を生かさずに前に進む事を諦める事こそが一番やってはいけない事だと悟る。それにイリアが精霊薬の開発に成功すればマホを目覚めさせる事ができるかもしれない。


「イリアさん、私にできる事はありますか?」
「え?手伝ってくれるんですか?」
「そのために私の元へ来たのでしょう?」


白々しく驚いた表情を浮かべるイリアにエルマは苦笑いを浮かべ、こうして二人の魔導士は手を組んで精霊薬の開発に勤しむ――
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