貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1074話 王国騎士団の力

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「行くぞっ!!アリシア、エリナ!!」
「ええ!!」
「はい!!」


ランファンの両肩にアリシアとエリナが乗り込み、エリナは弓矢を構えてエルマ仕込み「魔弓術」を発動させ、的確にダイダラボッチの傷口に目掛けて矢を放つ。


「まだエルマさんのように上手く当てられるか分かりませんけど……いっけぇっ!!」
「ギアアアッ!?」


エリナはエルマのように完璧な魔弓術は扱えないが、それでも彼女の弟子として毎日修行を行っていた。その成果が発揮され、彼女の放った矢は全て左足の傷口に突き刺さる。

傷口を抉られたダイダラボッチは悲鳴を上げ、それを見たランファンとアリシアは左足が狙い処だと察して動き出す。ランファンはアリシアを掲げると、勢いよく彼女を投げ飛ばす。


「ふんっ!!」
「はあああっ!!」
「ギャアアッ!?」


投げ飛ばされたアリシアはレイピアを正面に構えると、彼女の繰り出したレイピアの刃はダイダラボッチの左足を貫く。当然だが傷口を狙っての攻撃であるため、体内に深く刃が突き刺さるとダイダラボッチは悲鳴を上げる。


「左足だ!!奴の左足に攻撃を集中しろ!!」
「行くぞぉおおおっ!!」
「うおりゃああっ!!」


聖女騎士団と猛虎騎士団は最も損傷が大きいダイダラボッチの左足に攻撃を集中させ、それに対してダイダラボッチは逃げようとしたが、四つん這いの状態では上手く動けない。

まさか死んだと思われた聖女騎士団と猛虎騎士団が復活するなど予想もできず、それは味方である他の騎士団の者も同じだった。どうして彼等が復活したのかと戸惑っていると、ダイダラボッチの背中に乗り込んだテンが声をかける。


「あんたら、何をぼさっとしてるんだい!!さっさと手伝いな!!」
「テンさん!!どうして無事だったんですの!?」
「無事なわけあるかい!!イリア魔導士が渡してくれた新しい薬のお陰だよ!!」
「イリアさんの!?」


実は作戦が開始される前に討伐隊の全員にイリアはを渡しておいた。今現在の彼女の技術で造り出せる最高の薬である事は間違いないが、その反面にこれまでの薬と違って大きな副作用があった。


『皆さんにはこれを渡しておきます。私が作った特製の薬です』
『ん?こいつは仙薬とやらかい?』
『はい、今までの薬の技術を集約して作り出した最高傑作……のはずですが、これを飲むとちょっと問題がありましてね』
『何だい、問題って……危ない薬じゃないだろうね?』
『いえいえ、これを飲んだら再生能力が活性化されて大抵の傷は完璧に治りますよ。しかも怪我が治るだけではなく、魔力が活性化されます。つまり、強化術と再生術を同時に発動するのと同じ効果を引き出します』
『何だって!?そいつは凄いじゃないか!!』


イリアの作り出した新薬は「強化術」と「再生術」を参考にした薬であり、これを飲めばどんな人間も強制的に二つの術の効果を引きだす。大怪我を負っても即座に再生し、更に肉体の限界まで身体能力を高める。

この薬の最大の利点は強化術や再生術を完璧に身に着けていない人間でも扱えるという点だが、その反面に薬の効果が切れると二つの術を発動させた反動で酷い筋肉痛に襲われて動けなくなるという。


『この薬の効果は5分が限界です。それを越えると薬の反動で動けなくなります』
『つまり、強化術と再生術を発動させた後の反動が一気に襲い掛かってくるわけかい……並の人間が飲んだら死んじまいそうだね』
『だからこの薬を飲むのは最終手段です。危険だと思うなら飲まなくてもいいです』
『なるほど……肝に銘じておくよ』


テンはイリアから受け取った新薬を使う機会が訪れない事を祈ったが、結局は彼女を含めて殆どの人間が新薬を服用する状況に追い込まれた。

最初のダイダラボッチの攻撃でテン達は戦闘不能になるほどの損傷を負い、仕方なく全員が新薬を飲むしかなかった。そうしなければ死んでいたかもしれず、しかも完全に動けるようになるまで大分時間が掛かってしまった。

彼等に残された時間は恐らくは2、3分しかなく、もしも薬の効果が切れれば彼等は倒れて動けなくなり、ダイダラボッチに止めを刺されるだろう。そうなる前に勝負を決する必要があった。


「はあっ!!この薬凄いぞ、力がみなぎる!!」
「全然疲れない……けど、後で怖い事になりそう」
「だから今のうちにこいつをぶっ倒すんだよ!!ほら、あんた等も見てないで手伝いな!!」
「お、おう!!」
『よし、行くぞぉっ!!』


四つん這いの状態となったダイダラボッチにめがけて討伐隊は殺到し、この好機を逃さずに止めを刺すために急所に攻撃を繰り出す。ダイダラボッチは予想外の騎士団の復活によって追い詰められ、それでも諦めずに怒りの炎を瞳の中に宿す。


「ギアアアアアッ!!」
「ぬあっ!?」
「ちぃっ!?こいつ、まだ立ち上がる力が……うわぁっ!?」
「退避」
「あいてぇっ!?」


ダイダラボッチは首を攻撃していたテン達を振り払うために立ち上がり、テン達は地上へ落下する。ダイダラボッチは身体を起き上げる事に成功したが、左足の負傷が大きくて左膝が崩れてしまう。


「グギィッ……!?」
「やった、効いているぞ!!」
「このまま後ろに追い込め!!」
「あと少しだ!!」


戦闘の最中にダイダラボッチは何時の間にか巨大剣を背にしており、このままダイダラボッチが巨大剣の方に倒れ込めば後は魔導大砲を準備しているイリアが攻撃を行い、ダイダラボッチを巨大剣の方に押し込む。

本来の作戦はダイダラボッチの討伐ではなく、巨大剣を利用してダイダラボッチの動きを封じめる事が討伐隊の目的である。巨大剣がダイダラボッチに触れれば生命力を奪い、ダイダラボッチは身動きすらままならくなる。そうなれば止めを刺す事も再び封印する事も可能だった。


「追い込めぇえええっ!!」
「「「うおおおおおっ!!」」」
「ギャアアアアアッ!?」


全員が力を合わせてダイダラボッチの左足に攻撃を加え、徐々に傷跡が深まっていく。このまま左足の攻撃を続ければいずれ体勢を保てなくなったダイダラボッチが後ろ向きに倒れるのは間違いなく、全員が技を繰り出す。


「爆槍!!」
「嵐突き!!」
「うおりゃあああっ!!」
「はあああああっ!!」
『ぬぅうんっ!!』


ドリス、リン、テン、ロラン、ゴウカの5人が同時に攻撃を繰り出して左足に喰らわせると、遂にダイダラボッチの左足の骨が折れる音が鳴り響く。



――ウギャアアアアアッ!?



ダイダラボッチの悲鳴がムサシノ地方へ響き渡り、遂に巨体が後ろ向きに傾き始めた。ダイダラボッチが背後の巨大剣に近付けば、イリアの魔導大砲で押し込めるところだったが、ダイダラボッチは倒れる寸前に目を見開く。

あと少しという所でダイダラボッチは歯を食いしばり、両手を後ろに回して完全に倒れ込むのを阻止する。そして攻撃を受けた左足に視線を向け、驚くべき行動を取った。


「グギャアアアアアッ!!」
「なっ!?」
「馬鹿な!?」
「な、何をっ!?」


無理やりに立ち上がったダイダラボッチは怪我をした左足を巨大剣に目掛けて振り翳し、回し蹴りの要領で叩き込む。その結果、左足は刃によって切断されたが、同時に地面に突き刺さっていた巨大剣も引き抜かれて倒れてしまう。

左足を犠牲にして巨大剣を地面から引き抜いたダイダラボッチに討伐達は硬直し、何が起きたのか理解するのに時間が掛かった。しかし、ダイダラボッチは左足を切断しながらも地上の者達に顔を向け、醜悪な笑みを浮かべた。


(馬鹿な……我々の狙いが気づかれていたというのか!?)


ロランはダイダラボッチの行動が明らかに巨大剣を引き抜くための行為だと知り、どうやら討伐隊の狙いが読まれていた事が発覚する。ダイダラボッチは討伐隊が自分を巨大剣の元まで誘導している事に気付き、左足を犠牲にして巨大剣を地上から引き抜く。

討伐隊の立てた作戦は地上に突き刺さった巨大剣を利用し、ダイダラボッチの身体に巨大剣を食い込ませるのが目的だった。しかし、巨大剣が地上に引き抜かれてしまっては作戦の失敗を意味しており、さらに最悪な事にダイダラボッチは地面に横たわる巨大剣に手を伸ばす。


「ギアアアアッ!!」
「いかん!?奴に巨大剣を奪われるな!!」
「くそったれが!!」
「や、止めろぉおおおっ!!」


巨大剣がダイダラボッチの手に渡れば作戦どころか討伐隊が殲滅される恐れがあり、何としてもダイダラボッチが巨大剣に触れる前に討伐隊は止めようとした。しかし、既にダイダラボッチの腕は巨大剣の柄の部分に伸びていた。

巨大剣に触れればダイダラボッチも生命力を奪われるが、柄の部分と刃の部分では吸収させる生命力には大きな差があり、実際に地上に抜け出した時にダイダラボッチは巨大剣を武器として使用していた。柄の部分ならば弱り切ったダイダラボッチでも生命力を一気に吸い取られる事はなく、巨大剣を利用してダイダラボッチは討伐隊に攻撃を加えようとした。


「リーナ!!止めろぉおおっ!!」
「は、はい!!」
「お、俺も……!!」


ロランは咄嗟にダイダラボッチを止められるのはリーナしかいないと判断し、彼女の蒼月の力でダイダラボッチの足元を凍らせて止めるように指示を出す。ガロも彼女に続いて氷華の力を解放させ、二人は同時に地面に刃を繰り出す。


「「凍りつけ!!」」
「グギャアッ……!?」


残された右足のみで体勢を保っていたダイダラボッチだったが、リーナとガロが地面に突き刺した蒼月と氷華によって冷気が伝わり、右足が徐々に凍結化される。しかし、ダイダラボッチは完全に凍り付く前に腕を伸ばす。


「駄目ですわ!?止まりません!!」
「何とかしろ!!止めろぉおおおっ!!」


ダイダラボッチの腕が巨大剣の柄に迫り、その光景を見た者達はもう駄目かと思った時、思いもよらぬ事態が発生した。
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