貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1073話 立ち向かう戦士達

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「竜巻!!」
「火炎槍!!」
「ギアアアアアッ!?」


二人の魔剣と魔槍の魔力が合体し、火炎の竜巻と化して正面から迫ってきたダイダラボッチの左拳を吹き飛ばす。ダイダラボッチは左拳を焼かれて悲鳴を上げ、その様子を見てドリスは確信する。


「やはりそうですわ!!いくら高い再生能力を持っていると言っても、火傷の類ならば再生に時間が掛かりますわ!!」
「だが、最初に爆発した時はすぐに再生したぞ!?」
「いいえ、奴だって無限に再生できるはずはありませんわ!!最初よりも再生速度が明らかに落ちていますわ!!最初の攻撃の時も無理をしたようです!!」
「まさか……そういう事か!!要するに奴の再生能力は「再生術」みたいなものか!?」


ドリスの指摘を聞いてリンはダイダラボッチに視線を向けると、確かに先ほどの攻撃で弾き返された左拳の火傷は再生を始めているが、最初の頃と比べて再生速度が格段に落ちていた。

イチノを襲撃したゴブリンキングを遥かに上回る体躯と、常識はずれの高い再生能力を持っているせいで忘れていたが、如何にダイダラボッチでも生物であるならば「限界」は存在する。不死身や無敵の生物などいるはずがなく、戦えば体力も消耗するし怪我も負う。


「この調子で行きますわよ!!」
「ああ……全員、突撃!!」
「「「うおおおおっ!!」」」


ほんのわずかな勝機を見出した途端、先ほどまでの恐怖が嘘のように消え去り、王国騎士達はダイダラボッチに目掛けて飛び掛かる。ダイダラボッチは勢いづいた王国騎士達に対して苛立ちを抱くように今度は右拳を振りかざす。


「ギアアアッ!!」
「まずい、避けろ!?」
「離れて!!」
「「「うわぁあああっ!?」」」


ダイダラボッチが地面に目掛けて拳を振り下ろした瞬間、強烈な振動が地面に伝わり、あまりの威力に王国騎士達が巻き込まれてしまう。拳を叩き付けるだけで衝撃波が発生し、普通の人間ならば耐えられなかっただろう。

しかし、この場に集まっているのはこの世界の人間の中でも選りすぐりの戦士達であり、彼等は立ち上がって最後まで諦めずに戦い抜く事を誓う。


「立て……立つんだ!!」
「諦めるな!!」
「絶望するな……まだ、戦える!!」


王国騎士と冒険者は自力で立ち上がり、その光景を見てダイダラボッチは戸惑う。自分よりも遥かに小さくて力も弱い生物であるはずの彼等が自分に立ち向かう事に戸惑い、どうしてそこまで戦えるのかと疑問を抱く。


『何を驚いた顔をしている……まだ我等は戦えるぞ!!』
「その通りだ……くそ野郎が!!」
「よくも皆を……絶対に仇を討つ!!」


黄金級冒険者のゴウカ、ガオウ、リーナは真っ先に立ち上がって武器を構えた。その姿にダイダラボッチは無意識に後退り、自分が後退した事に呆気を取られる。




――恐れている?たかが人間を相手に?




ダイダラボッチの頭の中に声が響き、その声が自分の心の声だと気付くのに時間はかからなかった。ダイダラボッチは自分自身がを相手にして恐怖を抱いている事を自覚し、同時に激しく怒りを抱く。




――ふざけるな!!人間如きに怯えるなど有り得ない!!




自分自身に怒りを抱いたダイダラボッチは地上の者達を睨みつけ、今度こそ確実に仕留めるために右足を振りかざす。今度は火炎の竜巻を受けようと力でねじ伏せるため、腕よりも力が強い足で攻撃を繰り出そうとした。


「ギアアアアッ!!」
「来ますわよ!!」
「くっ……受け切れるか!?」
「僕も手伝うよ!!」
『ふはははっ!!かかってこい!!』
「やるしかねえか!!」


右足を振りかざしたダイダラボッチに対して各自が防御態勢を整える中、ダイダラボッチの足元に目掛けて動く人物が二人存在した。

その二人の手には赤と青に光り輝く魔剣が握りしめられ、ダイダラボッチが右足を蹴り出す寸前に軸足の左足に目掛けて刃を振りかざす。二人は左右から全く同時に攻撃を行う時。


「氷華!!」
「炎華!!」
「ギャアアアアッ!?」


ダイダラボッチの左足に炎と氷が駆け巡り、初めてダイダラボッチは痛々しいを上げる。これまで受けた攻撃の中でも一番の痛みを感じ、左足は火傷と凍傷を同時に引き起こす。


「これは……まさか!?」
「ガロ!?お前……どうしてその剣を!?」
「ヒイロさん!?」
「まさか、その魔剣は……」


ダイダラボッチに最初に有効的な攻撃を与えたのは「ガロ」と「ヒイロ」であり、二人の手元には氷華と炎華が握りしめられていた。

ヒイロはともかくガロの場合は普段から魔法剣の類は使用する事がないため、一度魔法剣を使っただけで魔力と精神力が大きく削れる。しかも氷華の力は彼では抑えきれず、刃から冷気を放出が止まらなかった。


「うぐぅっ……!?」
「ガロさん、しっかりして下さい!!火炎剣!!」
「あちちっ!?」


暴走しかけたガロを見て咄嗟にヒイロは烈火を抜いて火炎の刃を放ち、強制的に彼を凍り付かせようとしていた氷華を叩き落す。


「お、お前な……他に助ける方法はなかったのか!?」
「甘えないでください!!こっちだって炎華で精いっぱいなんです!!」
「ちくしょうがっ……」
「お前等、呑気に話している場合か!!上を見ろ、上を!!」
「「えっ?」」


ガオウの言葉を聞いてヒイロとガロは顔を見上げると、そこには憤怒の表情を浮かべたダイダラボッチが彼等を睨みつけていた。そして二人の頭上に目掛けて右足を振り下ろす。


「ギアアアッ!!」
「ひぃっ!?」
「ちっ、逃げるぞ!!」


反射的にガロは氷華を拾い上げるとヒイロを抱きかかえて駆け出す。彼はこの際に獣化を発動させて身体能力を上昇させ、間一髪でダイダラボッチの攻撃を躱す。

右足が地面に踏みつけられると亀裂が広がり、もしも反応が遅れていたガロとヒイロは踏み潰されていただろう。二人は他の元に向かうと、どうして魔剣を所持しているのか問い質される。


「ヒイロさん!!それは炎華ですわね、どうして貴女が王妃様の魔剣を!?」
「ガロ、お前その魔剣は何処から盗んできやがった!?」
「ぬ、盗んでねえよ!!ちゃんと許可は貰ったんだ!!」
「これはその、話すと長くなりますが……」
『むむむ、言い争っている場合じゃないぞ!!あれを見ろ!!』


二人が質問攻めを受けていると、ゴウカが大声を上げてダイダラボッチを指差す。全員が振り返るとそこにはダイダラボッチが攻撃を受けた左足を抑えていた。


「ギアアッ……!?」
『奴め、相当に痛がっているようだな。しかもあの傷跡を見ると奴の再生能力も限界があるみたいだな!!』
「はっ……そりゃそうだ、いくら化物といっても生物なら何かしらの弱点があるはずだ」
「この調子ならいけるかもしれませんわ!!」


炎華と氷華の攻撃を受けた左足は怪我が酷く、あちこちが火傷と凍傷を負っている。この調子で攻撃を繰り返せばダイダラボッチは限界を迎え、再生能力でも追いつけない程の傷を与えれば倒せる。

討伐隊の勝ち筋が見え始め、このまま戦い続ければダイダラボッチを倒せるかもしれない。だが、すぐに彼等はダイダラボッチの恐ろしさを思い知る事になる。ダイダラボッチは怪我を負った事で激しい怒りを抱き、見境なく攻撃を繰り出す。


「ギアアアアッ!!」
「うおおっ!?」
「まずい、離れろ!!巻き込まれるぞ!!」
「一時撤退ですわ!!」


ダイダラボッチは両拳を振りかざして無茶苦茶に地面に叩き付け、地上の人間達を押し潰そうとする。それを見た討伐隊は慌てて撤退するが、地面に拳が叩き付けられる度に衝撃と振動が襲い掛かって移動も上手くできない。


「ぐああっ!?」
「ぎゃああっ!?」
「た、助け……ぐはぁっ!?」
「そ、そんな……」
「振り返るな!!今は走れ!!」


次々と王国騎士や冒険者達がダイダラボッチの拳に押し潰される光景を見て、リーナは彼等を助けようとしたがガオウが腕を掴んで無理やりに引き寄せる。この状況では他の人間を助ける余裕はなく、逃げ遅れた者達は次々と餌食になる。

損傷を与えたと言ってもダイダラボッチとの力の差は大きく、このままでは討伐隊が先に全滅してしまう。反撃を繰り出そうにも逃げるのが限界で数が圧倒的に足りなかった。


『ええい、こうなったら俺が……』
「無茶を言うな!!今は退くんだ!!」
「くっ……誰か、一瞬でもいいのでダイダラボッチの動きを止める事はできませんの!?」
「な、なら私達が……」
「ちぃっ……やるしかねえか」


ヒイロとガロが氷華と炎華を手にしてダイダラボッチに立ち向かおうとした時、この時にダイダラボッチの後方から近づく人影が存在した。


「うおおおおおっ!!」
「くたばれぇっ!!」
「ギアアアアッ!?」


両拳を地面に叩き付けるためにダイダラボッチが四つん這いになっていた事が功を奏し、ダイダラボッチの首の後ろに目掛けてテンとロランが同時に刃を叩き込む。先のダイダラボッチの攻撃で死んでいたと思われた2人の登場に誰もが驚く。


「ロラン大将軍!?」
「テンさん!?」
「私達もいるぞぉおおおっ!!」
「てやぁっ」


ロランとテンが生きていた事にドリスとリンは驚きの声を上げるが、更に二人の後ろから戦斧を振りかざすとルナと、相変わらず気合の入っていない掛け声を上げるミイナの姿があった。

ルナとミイナは自分達が手にした戦斧を振りかざし、先に刃を喰い込ませたロランとテンの武器の刃に叩き込む。これによって刃がさらに首に押し込まれ、ダイダラボッチの悲鳴が森中に響き渡る。



「ギャアアアアアアアッ!?」
「はっ……人間みたいな悲鳴を上げるね!!」
「今だ、全員攻撃を開始しろ!!」
「「「うおおおおおおっ!!」」」


ロランが掛け声を上げると森の中から聖女騎士団と猛虎騎士団の団員が現れ、全員がかりでダイダラボッチに飛び込む。その光景を見て他の者たちは彼等が生きていた事を知る。
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