貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1072話 絶望に抗え

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「「「うわぁあああああっ!?」」」


森の中で悲鳴が響き渡り、ダイダラボッチが振り払った腕によって大勢の人間が吹き飛ばされる。ロラン、テン、ルナ、ミイナ、ランファン、フィル、他にも森の中に待機していた騎士達も巻き込まれた。

ただの一度の攻撃でダイダラボッチは森の中に隠れていた聖女騎士団と猛虎騎士団の団員の殆どを蹴散らし、吹き飛ばされた者達は地面に倒れた。


「なっ……何だと!?」
「そんな……ロラン大将軍にテンさんまで!?」
「マジかよ……化物がっ!!」
「う、嘘です!!こんなの……有り得ません!!」


ダイダラボッチの攻撃によって討伐隊の半分近くの戦力が失われてしまい、残されたのは金狼騎士団と銀狼騎士団、そして離れた場所にいるゴウカとマリンぐらいだった。魔導大砲を設置しているイリア達も戦力に加えたとしても、ダイダラボッチとの戦力差は絶望的だった。


(まさかロラン大将軍が……いや、落ち着け!!焦るな、冷静になれ!!)


リンはロランやテンが敗れた事で心が折れそうになったが、それでも彼女は現状を打破するために必死に頭を巡らせる。呑気に考えている暇はなく、ダイダラボッチが森の中に隠れている自分達に気付く前に行動を移す必要があった。


(考えるんだ、奴を倒す方法を……違う、今回の作戦は奴を事が目的だ!!奴を倒す必要はない!!)


今回の作戦の内容はダイダラボッチを巨大剣に追い詰め、再びダイダラボッチを封じるのが作戦内容だった。アルトの推測が正しければ巨大剣を再びダイダラボッチの身体に突き立てる、あるいは広範囲に身体に接触させればダイダラボッチにを封じる可能性が高い。

ダイダラボッチが如何に強大な力を持とうと、怪我を一瞬で治す高い再生能力を持っていようと封印できれば討伐隊の勝利となる。今回の作戦の要はダイダラボッチを巨大剣の傍に追い込むだけであり、リン達の役目はダイダラボッチを巨大剣の方に誘導させるだけである。


「ドリス!!何時まで呆けている!!私達も行くぞ!!」
「えっ?あっ……わ、分かってますわ!!」
「おいおい、本気かよ!?俺達だけで作戦を続けるつもりか!?」
「どうせここで逃げても死ぬだけです!!」


ガオウはリンの言葉を聞いて驚愕するが、ヒイロは涙を浮かべながらもリンの言葉に賛同する。彼女は他の仲間の仇を討つため、命を賭けて戦う事を誓う。


(烈火……そして炎華、貴方達の力を貸してください!!)


ヒイロは自分の愛剣の烈火と、そしてシノビから託された炎華を握りしめる。ロラン達が敗れた以上はもうダイダラボッチを追い詰める事ができるのは自分達しかいない。

二つの魔剣を引き抜いたヒイロを見てリンとドリスは驚くが、いち早く覚悟を決めた彼女を見て他の者たちも頷く。如何に強大な相手だろうと退くわけにはいかず、ドリスとリンは剣を掲げて突撃の合図を下す。


「行きますわよ!!金狼騎士団、私に続きなさい!!」
「銀狼騎士団!!突撃!!」
「「「うおおおおっ!!」」」


森の中に隠れていた金狼騎士団と銀狼騎士団が駆け出し、山のように巨大なダイダラボッチに目掛けて突っ込む。その光景を見てガオウはため息を吐き出し、彼も騎士団の後に続けて駆け出す。


「ちぃいっ……こうなったら、やってやらぁっ!!」
『ふはははっ!!その意気だぞ!!』
『はあっ、はあっ……ま、魔力を使いすぎた!!』
「うおっ!?お前等……ここまで来てたのか!!」


ガオウは後ろから聞き覚えのある声を耳にして振り返ると、そこには魔力を使い果たした状態のマリンを抱えて駆けつけるゴウカの姿があった。この状況でこれ以上ないほどの援軍の登場にガオウは笑みを浮かべ、二人と共に彼は駆け抜ける。


「ゴウカ!!こういう時はお前が頼もしく見えるぜ!!」
『はははっ!!何という巨体、威圧感!!これほどの敵、生涯に一度しか出会えんぞ!!』
『ま、待て……私は置いて行け、というか何で連れてきた……!?』
『おっと、すまんすまん!!つい忘れていた!!』


マリンは先ほどの「最上級魔法」で魔力を使い果たし、その影響で彼女はもう魔法を使えない。魔力が回復するには時間が掛かるため、ゴウカが連れ出しても彼女は役に立てない。

しかし、今更マリンを置いて行く暇もなく、ダイダラボッチは自分の後方から現れた騎士団に気付き、怒りの咆哮を上げながら右足を振りかざす。


「ギアアアアッ!!」
「正面、来るぞ!!」
「全員、左右に避けなさい!!」
『うおおおおおっ!!』
『ひいいっ!?』
「あぶねぇええっ!?」


ダイダラボッチが前脚を繰り出すと、王国騎士達は左右に回避して攻撃を回避した。巨大な前脚は地面を抉り、周囲に激しい振動と衝撃が広がる。


「ひぃいいいっ!?」
「な、情けない声を上げるな!!それでも誇り高き騎士か!?」
「リ、リンさんこそ声が震えてますわよ!?」


ダイダラボッチの攻撃を何とか回避したドリスとリンだったが、距離が縮まる程にダイダラボッチの体格差と威圧感を思い知らされ、身体が震え出す。

戦う意思を固めたにも関わらず、本能が目の前の敵から逃げろと告げて誰もが思うように戦えない。この場に集まった人間の殆どは一流の武人であるが故、普通の人間よりも優れた感覚を持ち合わせ、それが仇になってしまう。


(くそっ、震えるな……ここで戦わないと死ぬんだぞ!!)
(どうして言う事を聞きませんの……!?)


身体の震えが止まらない事にはまともに戦えず、ドリスとリンは必死に身体を動かそうとするが、足元がふらついて立つ事もままならない。こうしている間にもダイダラボッチは攻撃の準備を行い、二人に目掛けて足を振り下ろそうとした。


「ギアアアアアッ!!」
「くぅっ!?」
「きゃああっ!?」
「うおおおおっ!!」


二人に目掛けてダイダラボッチが右足で踏み潰そうとした時、何処からか声が響く。その声を耳にしたリンとドリスは顔を向けると、そこには「獣化」したガロが駆けつける姿があった。


「おらぁっ!!」
「うぐっ!?」
「きゃうっ!?」
「ギアアッ!?」


獣化した事によって限界近くまで身体能力を強化させたガロはドリスとリンに飛びつき、二人を抱えた状態でダイダラボッチの攻撃を躱す。もしもガロが遅れていたら二人とも踏み潰されていたのは間違いなく、間一髪のところで助けられた。


「はあっ、はあっ……!!」
「た、助かりましたわ……」
「礼を言うぞ……いや、まだだ!?」


ガロは二人を救う事に成功したが、ダイダラボッチは今度は三人に狙いを定めて腕を伸ばす。それに気づいたリンはガロに注意すると、ガロは慌てて逃げ出そうとしたが二人を抱えていたせいで上手く動けず、体勢を崩してしまう。


「しまっ……!?」
「大丈夫、僕に任せて!!」
「ガロ、こっちだ!!」


ダイダラボッチの右手が迫った瞬間、三人の間に蒼月を構えたリーナが駆けつけ、彼女は槍に氷の刃を纏わせて迫りくる手を斬りつける。一方でゴンザレスの方はガロ達を抱えて距離を取った。

リーナの攻撃を受けたダイダラボッチは伸ばしていた右手を反射的に引っ込め、自分の凍り付いた掌を見て戸惑う。リーナの蒼月は切りつけた箇所を水属性の魔力で凍結化させるため、思いもよらぬ攻撃を受けたダイダラボッチは後退る。


「ギアアッ……!?」
「あれ……思ったより効いてる?」
「まさか……そう言う事か!!奴は傷を回復する事はできても、その傷を凍り付かせれば再生できないんだ!!」
「何ですって!?」
「へっ……それなら俺等の出番だな」


蒼月に切り付けられた箇所は傷口ごと凍結化させられるため、如何に高い再生能力を持つダイダラボッチであろう傷を治す事はできない。それを見抜いたリンの言葉を聞いてガロは笑みを浮かべ、彼は氷華を手にした。


「要するにこいつを氷漬けにすれば再生を防げるんだろ?なら、やってやるぜ!!」
「ガロ!?駄目だ、それを使えばお前の身が……」
「どうせ戦わないと死ぬんだよ!!そんな事を気にしている場合かっ!!」


氷華を抜こうとしたガロを慌ててゴンザレスが止めようとするが、確かにガロの言う通りにここで戦わなければ全員が死んでしまう。しかし、かつてガロは氷華を一度使おうとしただけで身体中が凍りいて危うく死にかけた。その事を知っているだけにゴンザレスはガロが氷華を使う事を止めようとする。


「その力を使うとしても今じゃない!!奴にもっと傷を与えてからでも……」
「だったらいつ使うんだ!?この化物に誰が傷を与えるんだよ!?」
「お前等、言い争っている場合か!!前を見ろ馬鹿!!」


自分を止めようとするゴンザレスをガロは振り払おうとするが、後ろからガオウの声が響き渡り、二人は顔を見上げるとダイダラボッチが左拳を握りしめて彼等に目掛けて振り翳していた。


「ギアアアアッ!!」
「うわぁっ!?」
「し、しまった!?」


迫りくる巨大な左拳にガロとゴンザレスは慌てて逃げようとしたが、既にダイダラボッチの左拳は回避が間に合わない速度で迫っていた。しかし、そんな二人の前にドリスとリンが立ちはだかる。


「リンさん、私に合わせて下さい!!」
「ちっ、失敗するなよ!!」


先ほどガロに救われた二人はお互いの魔剣と魔槍を組み合わせると、ドリスは左拳に狙いを合わせて真紅を構える。それを見てリンは風属性の魔力を暴風に纏わせ、それを真紅に送り込む。

これによって真紅の周囲に風属性の魔力が渦巻き、更にその状態でドリスは真紅の先端部分に火属性の魔力を集中させ、二つの魔力が混ざり合って火炎の渦巻が発生した。
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