貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1071話 最終決戦

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『最上級魔法《オーバーマジック》……プロメテウス!!』
『あちちっ!?』


ゴウカに肩車してもらった状態でマリンは杖を天に抱えると、彼女の杖の先端に取り付けられた魔水晶から複数の魔法陣が展開される。その後、魔法陣が一か所に重なり、より複雑な紋様の魔法陣へと変化する。

紋様が複雑化する中、魔法陣の中央部分だけが空白であり、やがて中心の部分から一筋の光が放たれる。その光は徐々に強まっていき、魔法陣の前方に巨大な火球が出現した。



「ッ――!?」



ダイダラボッチは森の中から放たれた光に気付き、驚いたように振り返るとそこには自分の足元に目掛けて巨大な火球が迫っている事に気付く。火球の大きさは10メートルを超え、まともに衝突したら危険だと察する。

咄嗟にダイダラボッチは上空へ飛んで火球を回避しようかと思ったが、ダイダラボッチの行動を予測してマリンたちとは反対方向から近づく人影があった。


「うおおおおっ!!」
「ギアッ!?」


駆けつけてきた人物の正体は「ロラン」であり、彼は双紅刃を高速回転させながら両端の刃に紅色の魔力を宿す。彼の持つ双紅刃は回転させる事に刃に魔力を蓄積させ、強烈な一撃を繰り出す事ができる。

事前にロランは魔力を限界まで刃に蓄積させ、彼はダイダラボッチの左足に目掛けて双紅刃を振りかざす。ロランの狙う箇所は膝などではなく、地面を踏みしめる左足だった。


「はあああああっ!!」
「ギアアアアッ!?」


空中に跳躍したロランはダイダラボッチの足に目掛けて双紅刃を放ち、投げ放たれた双紅刃はダイダラボッチの足元を貫き、奥深くまで突き刺さる。ダイダラボッチは悲鳴を上げ、左足が地面に固定されてしまう。

ダイダラボッチの左足が双紅刃によって地面に串刺しとなり、これでダイダラボッチはマリンの生み出した火球を避ける事はできなくなった。しかし、ダイダラボッチに攻撃を仕掛けるためにロランは近づきすぎてしまい、このままでは爆発に巻き込まれかねない。


「ロラン大将軍!!」
「よし、伸ばせ!!」


しかし、ロランも自分が爆発に巻き込まれる前の脱出方法は考えており、森の中から鎖の魔剣を手にしたフィルが現れる。彼はロランに目掛けて鎖を放ち、彼を空中で鎖で拘束して引き寄せる。


「おもいっきり引っ張って下さい!!」
「よし、任せな!!」
「うおおおっ!!」
「ていっ」
「ふんっ!!」
「ぬあっ……!?」


鎖の魔剣には事前にテン、ルナ、ミイナ、ランファンの怪力自慢の女性陣が集まり、人間の中では巨体のロランだが、この四人が力を合わせて引っ張ると彼の身体は凄まじい速度で引き寄せられる。

引き寄せたロランはランファンが抱き留めると、即座にフィルたちは撤退した。撤退の理由はダイダラボッチから逃げるためではなく、既にマリンの放ったプロメテウスがダイダラボッチの足元の地面に接触しようとしていたからだった。


「伏せろ!!」


ロランの掛け声を聞いて全員がその場を伏せ、この時に巨人族で一番の巨体のランファンが全員を抱えるように身体を伏せる。その直後、太陽を想像させる巨大な火球が地上に衝突し、地中の中に埋もれたマグマゴーレムの核が反応して大爆発を引き起こす。



――ギィアアアアアアッ!?



地上から発生した爆炎にダイダラボッチは飲み込まれ、巨大な火柱が上がった。イチノを襲撃したゴブリンキングやグマグ火山に出現したゴーレムキング程度の敵ならば、この爆発で確実に仕留められる程の威力はあった。

しかし、ダイダラボッチは火柱の内部でもがき苦しみ、必死に両腕を振り払う。生身の生物にも関わらず、燃え盛る炎の中でも動き回る姿を見て討伐隊の面々は顔色を青ざめる。


「嘘だろ、おい……何で生きてるんだ!?」
「くっ……この程度の火力で倒しきれないという事ですわね」
「ふん、怖気づいたか?」
「まさか……リンさんこそ震えていますわよ」
「武者震いだ!!」


ドリスとリンは自分達の騎士団の団員を引き連れてロラン達とは別の場所で待機していた。二人の傍にはガオウの姿も有り、他にもヒイロの姿もあった。

巨大剣から左側は金狼騎士団と銀狼騎士団が待機し、反対の右側には猛虎騎士団と聖女騎士団が待機する配置になっていた。どうしてこの班分けになったのかというと、ドリスとリンはお互いにいがみ合いながらも共闘の場合は二人が一緒の方が色々と都合がいい。

お互いに対抗心を抱きながらもドリスとリンの魔法剣の相性は最高であるため、二人が一緒にいると本来の実力以上の力を発揮できる。だからこそ今は争っている場合ではなく、共に戦う時が来た。


「魔導大砲はまだぶっ放せないのか?」
「駄目ですわ、まだダイダラボッチと巨大剣の距離が遠すぎます」
「奴を巨大剣の方に追い込まなければ魔導大砲は撃ちこめない」
「ちっ……やっぱり戦いは避けられないか」


マリンの魔法によってダイダラボッチに損傷を与える事には成功したが、爆発に巻き込まれた際にダイダラボッチは巨大剣から離れてしまう。そのせいで魔導大砲をダイダラボッチに撃ち込んだとしても巨大剣に接触しない位置に倒れてしまう。

魔導大砲が発射するのはダイダラボッチが巨大剣の前に立った時であり、何としてもダイダラボッチを地面に突き立てられた巨大剣側に倒さなければならない。そのためには各王国騎士団と冒険者達が力を合わせ、ダイダラボッチを追い込まなければならない。


「み、見てください!!ダイダラボッチが動いています!?さっき、ロラン大将軍に足を貫かれたのに……」
「さっきの爆発で大将軍の双紅刃も地面から抜けたようですわね……」
「むしろ好都合だ。足元が固定された状態では動かす事もままならないからな……よし、合図を確認したら突撃するぞ!!」
「「「はっ!!」」」


火炎が収まるとダイダラボッチは全身に煙を舞い上げながらも僅かに動き、この時にロランに突き刺されたはずの左足も動いていた。先ほどの爆発で地面から刃が抜けたらしく、双紅刃の方も何処かに吹き飛んでしまったらしい。



――ギァアアアアアアアッ!!



森中に再びダイダラボッチの怒りの咆哮が響き渡り、この時にダイダラボッチの身体から舞い上がっていた煙が消え去る。そして討伐隊は信じられない光景を目にした。


「そ、そんなまさか……」
「あれだけの爆発をまともにうけて……何で平気なんだ!?」
「馬鹿な……奴は本物の化物だとでもいうのか!?」


ゴーレムキングでも木端微塵にできるほどの火力の爆発を浴びたにも関わらず、ダイダラボッチは数箇所だけ火傷した程度で大怪我という程の傷は負っていなかった。生身の生物にも関わらず、超火力の爆炎を浴びて軽い火傷程度の損傷しかない事に誰もが唖然とする。

天をも貫く火柱に飲み込まれたにも関わらず、ダイダラボッチが軽い火傷程度の傷しか負っていない事に誰もが混乱した。しかし、いち早くダイダラボッチの肉体の異変に気付いた人物がいた。



(あれって……まさか、そういう事なの!?)



その人物の正体は黄金級冒険者のリーナだった。彼女は猛虎騎士団と聖女騎士団と共に行動しており、彼女の傍にはガロとゴンザレスの姿もあった。ガロもダイダラボッチの肉体を見て異変を感じ取り、目つきを鋭くさせてダイダラボッチの傷を確認する。


「野郎、まさか……してやがるのか!?」
「再生、だと!?」
「うん、間違いないよ……あいつ、凄い速度で傷を再生させてる!!」


ガロの言葉にリーナも賛同し、この二人は討伐隊の中でも特に視力が鋭く、ナイと同様に「観察眼」の技能を持ち合わせていた。その二人がダイダラボッチの身体を確認すると、ダイダラボッチの怪我が急速的に治っている事を見抜く。

ダイダラボッチの火傷がまるで時間を加速させるかのように徐々に元の皮膚へ戻り、最初にロランが繰り出した双紅刃に貫かれた左足の傷も塞がっていた。どうやらダイダラボッチは高い自然治癒力を持つらしく、先ほどの爆発で受けた怪我も十数秒で再生を果たす。


「ギアアアアアアアアッ!!」
「ば、化物め……」
「どうしよう、これじゃあいくら攻撃しても傷が治っちゃうよ!?」
「なんだと……では、奴は本当に不死身なのか!?」


大怪我を負っても数十秒程度で肉体を完治させるほどの再生能力をダイダラボッチが持ち合わせている事が判明し、これではダイダラボッチにいくら損傷を与えても再生して元通りの状態に戻る。ただでさえも厄介な敵だというのに再生能力まで持ち合わせているなど予想もできず、リーナ達は取り乱してしまう。

しかし、混乱している間にも完全に怪我を治したダイダラボッチが動き出し、最初にダイダラボッチが狙いを定めたのは自分の足を串刺しにしたロランだった。


「ギアアアッ!!」
「やばい!?お前等、伏せろ!!」
「きゃっ!?」
「うおっ!?」


ガロは獣人族の野生の本能で危険をいち早く察知し、彼は「獣化」を発動させてリーナとゴンザレスの身体を掴んで伏せさせる。その直後にダイダラボッチはロラン達が隠れている森へ目掛けて腕を振り払う。


「ギアアアアッ!!」
「まずい!?逃げるよ!!」
「逃げるって……うわぁっ!?」
「ぐっ……間に合わん!?」
「伏せろっ!!」


振り払われた腕は樹木を次々と薙ぎ倒し、最初に攻撃を仕掛けたロラン達の元へ迫る。慌ててロラン達は逃げようとしたが間に合わず、彼等は吹き飛ばされる。
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