貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1069話 復活の刻

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――日の光が届かない地の底、緑の巨人が横たわっていた。巨人は休んでいるわけではなく、自分が活動できる時間が訪れるのを待っていた。

ダイダラボッチの目的は自分を何百年も封じていた「巨大剣」を破壊する事であり、あの巨大剣さえなければダイダラボッチを封印できる唯一の武器は消え去る。その後は自分を暗い地の底に封じ込めた種族に復讐を誓い、この地上から一匹たりとも逃さずに「人族」を殺す事を決意していた。


「ギァアアアアアッ……!!」


怒りのあまりにダイダラボッチは鳴き声を上げると、大穴の内部に衝撃が伝わって岩壁の一部が崩れ落ちてしまう。上から降りかかる瓦礫に対してダイダラボッチは気にもせず、いくら身体に当たろうと構わずに時がくるまで待ち構える。

太陽が完全に沈むまでの間、ダイダラボッチはこれまでの出来事を思い出す。ダイダラボッチは遥か昔、同胞を引き連れて和国を襲撃した。イチノを襲撃したゴブリンキングのようにこの時にダイダラボッチはまだ若く、身体も今ほど大きくはなかった。


『ダイダラボッチだ!!ダイダラボッチが現れたぞぉっ!!』
『逃げろ、逃げるんだ!!』
『妖怪め……ここは我々の土地だ!!』


和国に攻め入った時にダイダラボッチは大勢の「妖刀使い」と対峙し、配下達と共に激闘を繰り広げた。激戦の末に和国の都を破壊する事に成功したが、ダイダラボッチは当時の和国のが手にした武器を刺される。


『くらうがいい!!これこそが我が国の至宝……クサナギノツルギを!!』
『グギャアアアアアッ!?』


クサナギノツルギと呼ばれた剣を手にした将軍はダイダラボッチの背中に剣を突き刺し、この時点では剣の大きさは普通の剣と大して変わりはなかった。しかし、剣はダイダラボッチの身体を貫いた途端に異変が起きる。

剣が突き刺さった途端にダイダラボッチは力を失い、動く事もままならなかった。ダイダラボッチは必死に配下に命令して和国から離れたが、それは敵の仕掛けた罠だった。


『よし、来たぞ!!』
『穴の中に誘い込め!!』
『落とせぇっ!!』
『ギアアアアッ!?』


ダイダラボッチは和国の軍勢から逃れるために山の中に逃げ込んだが、それは和国の軍隊が仕掛けた罠であり、彼は地中深くまで掘り起こされた穴の中に封じ込められる。当時は今ほどの巨体と力を持っていなかったダイダラボッチは抵抗すらできずに地の底に封じ込められた。

背中に突き刺さった剣のせいでダイダラボッチは本来の力を引きだせず、配下も皆殺しにされた。その後はダイダラボッチが落ちた穴は和国の軍勢が埋め立て、彼等こそがシノビ一族の先祖だった。

結果から言えば和国は滅ぼされたが、その代わりにダイダラボッチの封印に成功する。しかし、ダイダラボッチは地の底に封じ込められながらも生き延び、それから何百年も眠り続けた。



――どうしてダイダラボッチが何百年の時も生き延びられたのかは本人も分からない。しかし、ダイダラボッチは地の底に眠りながらも身体の成長は止まらず、そして背中に突き刺された「クサナギノツルギ」もダイダラボッチの生命力を吸い上げて巨大化していく。



最終的にはダイダラボッチが目覚めたのは数百年後であり、ダイダラボッチの意識が覚醒したのは魔物使いのアンが原因だった。アンは魔物使いとして高い資質を誇り、そのせいで彼女は魔物が近くに居る場合、その力を感じ取る一方で魔物の方もアンの存在を認識する。

ダイダラボッチが封じられている地にアンが辿り着いた時、ダイダラボッチは彼女の存在を感じ取った。アンの目的もダイダラボッチであり、彼女がこの場所に訪れたのは偶然ではなく、アンもダイダラボッチもお互いに惹かれ合うように巡り合う。

しかし、両者の違いはアンの場合はダイダラボッチを自分の手駒に仕立て上げるつもりだったが、ダイダラボッチは彼女のお陰で意識が覚醒した。しかし、当のアンはダイダラボッチの狂人の如き意識を感じ取って恐れを抱く。

アンはダイダラボッチから逃げようとしたが、何としてもダイダラボッチは彼女を行かせないために無理やりに身体を動かす。この時にダイダラボッチが動いたせいで地面が割れ、その地割れに巻き込まれた牙竜がダイダラボッチが封じられた地の底に落ちる。


『グギャアアアアッ!?』


地の底に落下した牙竜は不運にもダイダラボッチの背中に突き刺さっていた巨大剣と接触し、生命力を奪われた。この時に牙竜の生命力を吸い上げた事で巨大剣はダイダラボッチに与える負荷が激減し、その一瞬の隙を逃さずにダイダラボッチは身体を動かして巨大剣を引き抜いて復活を果たす。

思いもよらぬ事故によってダイダラボッチの封印が弱まり、忌まわしい巨大剣を引き抜く事に成功した。ダイダラボッチは数百年の封印から解放され、地上に進出するとアンとに気が付く。

自分の意識を覚醒させる切っ掛けを与えたにも関わらず、アンと少年の姿を見た途端にダイダラボッチは「人族」に対する怒りを思い出す。自分を何百年も地の底に封じ込めた人族に対し、ダイダラボッチは烈火の如く怒りを抱き、二人を殺すために攻撃を行う。


『ギアアアアアアッ!!』


二人は確実にダイダラボッチが手にしていた巨大剣によって押し潰され、死体ははずだった。だが、ここでダイダラボッチにとって予想外だったのは「太陽」の存在だった。


『ギィアアアアッ……!?』


太陽の光を浴びた途端にダイダラボッチは言葉にはしがたい熱が全身に走り、何百年も暗い地の底に潜り続けていたせいで太陽の光に耐え切れず、逃げるように地の底に再び戻ってしまう。

何百年も動かなかったせいかダイダラボッチの体質が変化しており、太陽の下ではまともに行動する事ができない。そのように悟ったダイダラボッチは「夜」が訪れるまでの間は大人しく地の底で身体を休める事にした――





――夜を迎えるとダイダラボッチは再び地上に出現し、数百年ぶりの食事を本格的に味わう。実を言えば地の底に落ちてきた牙竜はダイダラボッチが目を覚ました時、餌として捕食しようとした。だが、思っていた以上に牙竜は骨が硬くてまともな栄養源にならず、吐き捨ててしまう。

地上に抜け出したダイダラボッチは獲物を探すが、ダイダラボッチが姿を現した時点でムサシ地方の魔物や動物は逃げ出してしまう。仕方がないのでダイダラボッチは樹木を引き抜いて食事を行う。

通常種のゴブリンは果物や茸の類は食べられるが樹木などは食べる事はできない。しかし、進化の過程でダイダラボッチは新しい能力が目覚め、その能力は口にした物はどんな物でも栄養源にする能力だった。

この能力のお陰でダイダラボッチはあらゆる植物や鉱石さえも食べて栄養源に変換する事ができるようになり、封じられていた時もダイダラボッチは無意識に土砂を喰らって生き延びていた。数百年の間もダイダラボッチが生き残る事ができたのはこの能力のお陰であり、生命力を巨大剣に吸われながらも生き延び続ける所か肉体が成長していた理由もこの能力の恩恵である。


『ギアアッ……!!』


食事を終えて十分な栄養源を確保すると、ダイダラボッチは自分が手放した巨大剣の元へ向かう。この巨大剣を放置する事はできず、またこの巨大剣が突き刺さればダイダラボッチは再び封じられて動けなくなってしまう。

この巨大剣が存在する限り、ダイダラボッチは安心して暮らす事はできない。また人族がこの巨大剣を利用して自分を封印する可能性が残っている以上、ダイダラボッチは何としても巨大剣を破壊しなければならなかった。


『ギアアアアアッ!!』


巨大剣に対してダイダラボッチは持ち前の怪力を発揮して破壊を試みた。しかし、何百年もダイダラボッチの生命力を吸い上げて進化した「クサナギノツルギ」は破壊する事はできず、それどころかダイダラボッチが触れる度に生命力を吸い上げる。

いくら攻撃を加えようとクサナギノツルギが壊れる様子はなく、それを確認したダイダラボッチは体力の消耗と数百年ぶりに身体を動かしたせいで身体が鈍っている事を悟り、仕方なく地の底に戻って身体を休める事にした。

地の底に戻ったのは太陽から避けるためだが、十分に休養を取った後はダイダラボッチは再びクサナギノツルギを破壊する事を決意する。クサナギノツルギを確実に破壊するまでダイダラボッチは安心はできず、彼は地の底で再び夜を迎えるのを待ち続ける――





――そして時は流れ、ダイダラボッチが復活を果たしてから二日目の夜、遂にダイダラボッチの肉体は完全復活を果たす。数百年も動かなったせいで碌に動く事ができなかった肉体も自由に動かせるようになり、それを確認したダイダラボッチは地上へ向けて岩壁を登り始める。


「ギアアアッ……!!」


既に太陽の光は見えず、その代わりに月の光が差していた。月を見上げながらダイダラボッチは岩壁をよじ登り、一日ぶりの地上へ抜け出す。大穴から這い出てきたダイダラボッチは周囲の光景を確認し、咆哮を放つ。



――ギアアアアアアアアッ!!



自分こそがと言わんばかりにダイダラボッチは咆哮を放つと、クサナギノツルギと名付けられた巨大剣の元へ向かって移動を開始した――
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