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最終章
第1058話 全てを賭けて
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「殺しなさい!!」
「グァアアアアアッ!!」
「くぅっ!?」
牙竜はアンの命令を受けると額の契約紋が浮き上がり、一段と威圧感が増す。アンは魔物使いの能力で牙竜を強制的に成長させた。
アンは知らぬ事だがかつてナイが戦ったゴブリンキングは、アンが過去に使役していたゴブリンであり、彼女が見捨てた後もゴブリンは成長を続け、最終的にはゴブリンキングにまで進化を果たす。
魔物使いに使役された魔物は野生の頃と比べて成長速度が格段に高まり、竜種である牙竜も例外ではない。昨日の戦闘で受けた傷はアンが治療を施したとはいえ、既に塞がっていた。これは自然治癒力が高まった事を意味しており、万全の状態で牙竜は戦闘に挑める。
「グアアッ!!」
「くっ……!!」
牙竜は巨体でありながら白狼種のビャクよりも素早く移動し、その動きの早さにナイは目で追うのがやっとだった。一瞬でも視界から外れれば命取りになりかねず、ナイはここで「観察眼」の技能を発動させて牙竜の動作を見逃さない。
(これなら見える!!)
観察眼の技能は普段からナイが多用している技能であるため、動きの速い相手には有効な能力だった。相手がいかに早くとも事前に動作を見抜いて行動すれば対処する事はできた。
「グアアアッ!!」
「ここだっ!!」
「グギャアッ!?」
ナイの正面から突っ込んで攻撃を繰り出そうとした牙竜だったが、それを見抜いたナイは「跳躍」の技能を生かして横に跳ぶ。攻撃を繰り出す前にナイは回避行動に移ったため、牙竜は振り下ろした右前脚を止める事ができずに地面に叩き付ける。
馬鹿力で地面に叩き付けたせいで牙竜の右前脚が地面に埋まり、一瞬だが隙ができた。その隙を逃さずにナイは牙竜の目元に目掛けて刺剣を放つ。
(ここだっ!!)
命中と投擲の技能を同時に発動させたナイは刺剣を牙竜の右目に向けて投げ放ち、それを見たアンは慌てた様子で牙竜に指示を出す。
「頭を下げなさい!!」
「グギャッ!?」
アンが命令を与えると牙竜の額の紋様が浮き上がり、勝手に身体が動いて頭を下げる。そのせいでナイの投げ放った刺剣が頭上を通り過ぎてしまうが、それを予測していたナイは闘拳を構える。
(ドルトンさん、アルト、力を貸して!!)
腕鉄鋼にはフックショットが内蔵されているため、それを利用してナイは牙竜の右目に向けてフックショットを放つ。ミスリル製の刃が腕鉄鋼から発射され、頭を下げた牙竜の右目に向かう。
命令を出した直後のためにアンも反応する事ができず、牙竜の右目に目掛けて刃が突き刺さった。牙竜の悲鳴が山中に響き渡り、右目から血が迸る。
――グギャアアアアアッ!?
右目を潰された牙竜は悲鳴を上げると、ナイは即座に闘拳に嵌め込まれた風属性の魔石を回すと、鋼線を手繰り寄せて牙竜の元へ向かう。
「うおおおおっ!!」
「なっ……避けなさい!?」
「ッ……!?」
フックショットを利用して牙竜の元にナイは突っ込むと、それを見たアンは慌てて牙竜に指示を与えた。しかし、右目の痛みのせいで牙竜はまともな判断ができず、無造作に前脚を振り払う事しかできなかった。
「グギャアッ!?」
「当たるかっ!!」
無造作に振り払われた前脚を避けるのは容易く、この時にナイは「迎撃」の技能を発動させて右手に握りしめた旋斧を牙竜の額に向けて放つ。彼の狙いは牙竜の契約紋であり、この契約紋を切り裂けばアンの支配下から牙竜が解放される可能性があった。
牙竜がアンに従っているのはあくまでも契約紋の効果のお陰であり、この契約紋がなくなればアンの命令に従う事はない。むしろアンの事を敵だと認識して襲い掛かる可能性も十分に有り得る。
(この契約紋をなんとかすれば……!?)
刃が額に当たる寸前、ナイは嫌な予感を抱いた。昨日の戦闘でもナイは牙竜に止めを刺そうとした時に邪魔を受けた事を思い出し、彼は一瞬だけ横に視線を向けるとアンがボーガンを構えていた。
「死ねっ!!」
「くぅっ!?」
左腕はフックショットを引き寄せているので動かす事ができず、反魔の盾も左手に装着しているので使用できない。ナイは自分の頭部に目掛けてアンが矢を放つのを確認すると、仕方なく攻撃を中断して旋斧を振り払う。
「このっ!!」
今度は放たれた矢を旋斧で破壊する事はできたが、そのせいでナイは絶好の好機を失い、牙竜は無理やり頭を振って右目に突き刺さったフックショットを引き抜く。
「グアアアッ!?」
「うわっ……くそっ!!」
「惜しかったわね……でも、今度は外さないわ」
敵は牙竜だけではなく、アンも相手にしなければならない事をナイは思い知らされる。せめてビャクがいればいくらか戦いようがあったが今更後悔しても遅い。
(まだだ!!まだ戦える、絶対に諦めるな!!)
自分自身を鼓舞しながらナイは牙竜とアンの様子を伺い、先ほどの攻防で牙竜の右目を封じる事はできた。それでもアンが戦闘に参加した事でもう片方の目を狙うのは難しくなったが、先ほどよりは状況は好転した。
ナイは体勢を整えながらも周囲を確認し、利用できそうな物がないのかを探す。その間にアンは牙竜に視線を向け、右目の負傷を見てどうしようもない事を悟ると、彼女は忌々しそうにナイを怒鳴りつける。
「何処まで私の邪魔をすれば気が済むのよ!!もういい、全力を出しなさい!!」
「グァアアアアッ!!」
「くっ……」
アンはナイが対抗策を思いつく前に牙竜に襲い掛かるように命じると、牙竜は凄まじい咆哮を放つ。先ほどよりも殺気が増したのを感じ取ったナイは両手の武器を背負い直し、ここは反撃を中断して逃げる事に集中した。
「逃がすな!!殺しなさい!!」
「グギャアッ!!」
「うわっと……当たるか!!」
ナイが逃げようとしている事に気付いたアンは牙竜に指示を出すと、牙竜は即座にナイの後を追いかけて牙を繰り出す。その攻撃に対してナイは跳躍の技能で後方に跳んで回避し、全速力で逃げ回る。
強化術で身体能力を限界まで高め、他にも「脚力強化」や「俊足」の技能も発動させている。しかし、それでも本気となった牙竜の移動速度には及ばず、徐々に距離を詰められていく。
「グアアッ!!」
「くっ……吹き飛べっ!!」
背後から爪を突き立てようとしてきた牙竜に対してナイは反魔の盾を構えると、それを見た牙竜は本能的に危険を感じ取った。もしも牙竜が爪を放っていたら反魔の盾に衝撃を跳ね返され、牙竜の方が逆に吹き飛ぶところだった。
「グギャッ……!?」
「何を止まっているの!?早く踏み潰しなさい!!」
「……なるほど、知能が高くなったせいでこの盾の恐ろしさも理解したのか」
攻撃を途中で止めた牙竜にアンは怒りを抱くが、ナイは牙竜が攻撃を中断した理由はアンのせいだと判断する。彼女の魔物使いの能力によって牙竜は確かに強くなった。肉体が成長した際、脳も発達して知能が格段に高まった。
高い知能を得た事が災いして牙竜は昨日の戦闘で反魔の盾の恐ろしさを身を以て知っており、不用意に攻撃をすれば自分が痛手を負う事を学習していた。それを利用してナイは反魔の盾を生かして戦う。
(ゴマン、力を貸して!!)
反魔の盾を左腕で構えた状態でナイは岩砕剣を引き抜き、盾に目掛けて刃を放つ。その結果、岩砕剣が衝突した瞬間に軽い衝撃波が走り、牙竜へと襲い掛かる。
「喰らえっ!!」
「グギャアッ!?」
「なっ!?このっ……」
「邪魔をするな!!」
衝撃波を受けて牙竜が怯んだのを見てアンはボーガンを構えるが、それに対してナイは刺剣を取り出して彼女に放つ。投げ放たれた刺剣は彼女が手にしていたボーガンに突き刺さり、破壊する事に成功した。
「きゃあっ!?」
「今だっ!!」
「グギャッ!?」
ボーガンを失った事で遠距離攻撃の手段を失ったアンに対し、彼女に向けてナイは駆け出す。それに気づいた牙竜は慌てて主人を守るためにナイの後を追う。
この戦闘の勝利条件は牙竜を倒す事ではなく、アンをどうにかする事こそが最善の手段だった。アンを拘束するか、あるいは彼女を倒せば牙竜は解放される。そうなればダイダラボッチを復活させる手段は失われるため、急いでナイはアンの元へ向かう。
(走れ!!今ならこっちが速い!!)
牙竜に追いつかれる前にナイはアンの元へ駆け出し、彼女を倒すかあるいは人質にすれば牙竜は止まる。アンは自分に迫るナイに気付いて顔色を青くするが、彼女は咄嗟に背中に手を伸ばして隠し持っていた小袋を取り出す。
「このっ!!」
「うわっ!?」
アンが隠していたのは毒草を磨り潰した粉末であり、ボーガンの矢に仕込んでいた毒薬の素材でもあった。これを浴びれば普通の人間ならば身体が痺れてしばらくは動けなくなるが、ナイの場合は「毒耐性」の技能のお陰で毒薬の類は効きにくい。
「うおおおおおっ!!」
「な、何で止まらな……あぐぅっ!?」
「グギャッ!?」
粉末を浴びながらもナイは動きを止めず、遂にアンに目掛けて大剣の腹の部分を叩き込む。彼女は衝撃を受けて吹き飛び、それを確認した牙竜は目を見開く。
ナイの一撃を受けてアンは白目を剥いて倒れ込み、主人であるアンが攻撃を受けて倒れたのを見て牙竜は動作を停止した。ナイはその間にアンの元へ向かい、彼女の首元を掴んで無理やりに立たせる。
「降参しろ!!もう終わりだ!!」
「うぐぅっ……!?」
「グゥウウウッ……!!」
アンが捕まったのを見て牙竜は唸り声を上げるが、主人が危険に晒されているにも関わらずに動こうとはしない。ナイは牙竜が止まっている間にアンに話しかけた。
「グァアアアアアッ!!」
「くぅっ!?」
牙竜はアンの命令を受けると額の契約紋が浮き上がり、一段と威圧感が増す。アンは魔物使いの能力で牙竜を強制的に成長させた。
アンは知らぬ事だがかつてナイが戦ったゴブリンキングは、アンが過去に使役していたゴブリンであり、彼女が見捨てた後もゴブリンは成長を続け、最終的にはゴブリンキングにまで進化を果たす。
魔物使いに使役された魔物は野生の頃と比べて成長速度が格段に高まり、竜種である牙竜も例外ではない。昨日の戦闘で受けた傷はアンが治療を施したとはいえ、既に塞がっていた。これは自然治癒力が高まった事を意味しており、万全の状態で牙竜は戦闘に挑める。
「グアアッ!!」
「くっ……!!」
牙竜は巨体でありながら白狼種のビャクよりも素早く移動し、その動きの早さにナイは目で追うのがやっとだった。一瞬でも視界から外れれば命取りになりかねず、ナイはここで「観察眼」の技能を発動させて牙竜の動作を見逃さない。
(これなら見える!!)
観察眼の技能は普段からナイが多用している技能であるため、動きの速い相手には有効な能力だった。相手がいかに早くとも事前に動作を見抜いて行動すれば対処する事はできた。
「グアアアッ!!」
「ここだっ!!」
「グギャアッ!?」
ナイの正面から突っ込んで攻撃を繰り出そうとした牙竜だったが、それを見抜いたナイは「跳躍」の技能を生かして横に跳ぶ。攻撃を繰り出す前にナイは回避行動に移ったため、牙竜は振り下ろした右前脚を止める事ができずに地面に叩き付ける。
馬鹿力で地面に叩き付けたせいで牙竜の右前脚が地面に埋まり、一瞬だが隙ができた。その隙を逃さずにナイは牙竜の目元に目掛けて刺剣を放つ。
(ここだっ!!)
命中と投擲の技能を同時に発動させたナイは刺剣を牙竜の右目に向けて投げ放ち、それを見たアンは慌てた様子で牙竜に指示を出す。
「頭を下げなさい!!」
「グギャッ!?」
アンが命令を与えると牙竜の額の紋様が浮き上がり、勝手に身体が動いて頭を下げる。そのせいでナイの投げ放った刺剣が頭上を通り過ぎてしまうが、それを予測していたナイは闘拳を構える。
(ドルトンさん、アルト、力を貸して!!)
腕鉄鋼にはフックショットが内蔵されているため、それを利用してナイは牙竜の右目に向けてフックショットを放つ。ミスリル製の刃が腕鉄鋼から発射され、頭を下げた牙竜の右目に向かう。
命令を出した直後のためにアンも反応する事ができず、牙竜の右目に目掛けて刃が突き刺さった。牙竜の悲鳴が山中に響き渡り、右目から血が迸る。
――グギャアアアアアッ!?
右目を潰された牙竜は悲鳴を上げると、ナイは即座に闘拳に嵌め込まれた風属性の魔石を回すと、鋼線を手繰り寄せて牙竜の元へ向かう。
「うおおおおっ!!」
「なっ……避けなさい!?」
「ッ……!?」
フックショットを利用して牙竜の元にナイは突っ込むと、それを見たアンは慌てて牙竜に指示を与えた。しかし、右目の痛みのせいで牙竜はまともな判断ができず、無造作に前脚を振り払う事しかできなかった。
「グギャアッ!?」
「当たるかっ!!」
無造作に振り払われた前脚を避けるのは容易く、この時にナイは「迎撃」の技能を発動させて右手に握りしめた旋斧を牙竜の額に向けて放つ。彼の狙いは牙竜の契約紋であり、この契約紋を切り裂けばアンの支配下から牙竜が解放される可能性があった。
牙竜がアンに従っているのはあくまでも契約紋の効果のお陰であり、この契約紋がなくなればアンの命令に従う事はない。むしろアンの事を敵だと認識して襲い掛かる可能性も十分に有り得る。
(この契約紋をなんとかすれば……!?)
刃が額に当たる寸前、ナイは嫌な予感を抱いた。昨日の戦闘でもナイは牙竜に止めを刺そうとした時に邪魔を受けた事を思い出し、彼は一瞬だけ横に視線を向けるとアンがボーガンを構えていた。
「死ねっ!!」
「くぅっ!?」
左腕はフックショットを引き寄せているので動かす事ができず、反魔の盾も左手に装着しているので使用できない。ナイは自分の頭部に目掛けてアンが矢を放つのを確認すると、仕方なく攻撃を中断して旋斧を振り払う。
「このっ!!」
今度は放たれた矢を旋斧で破壊する事はできたが、そのせいでナイは絶好の好機を失い、牙竜は無理やり頭を振って右目に突き刺さったフックショットを引き抜く。
「グアアアッ!?」
「うわっ……くそっ!!」
「惜しかったわね……でも、今度は外さないわ」
敵は牙竜だけではなく、アンも相手にしなければならない事をナイは思い知らされる。せめてビャクがいればいくらか戦いようがあったが今更後悔しても遅い。
(まだだ!!まだ戦える、絶対に諦めるな!!)
自分自身を鼓舞しながらナイは牙竜とアンの様子を伺い、先ほどの攻防で牙竜の右目を封じる事はできた。それでもアンが戦闘に参加した事でもう片方の目を狙うのは難しくなったが、先ほどよりは状況は好転した。
ナイは体勢を整えながらも周囲を確認し、利用できそうな物がないのかを探す。その間にアンは牙竜に視線を向け、右目の負傷を見てどうしようもない事を悟ると、彼女は忌々しそうにナイを怒鳴りつける。
「何処まで私の邪魔をすれば気が済むのよ!!もういい、全力を出しなさい!!」
「グァアアアアッ!!」
「くっ……」
アンはナイが対抗策を思いつく前に牙竜に襲い掛かるように命じると、牙竜は凄まじい咆哮を放つ。先ほどよりも殺気が増したのを感じ取ったナイは両手の武器を背負い直し、ここは反撃を中断して逃げる事に集中した。
「逃がすな!!殺しなさい!!」
「グギャアッ!!」
「うわっと……当たるか!!」
ナイが逃げようとしている事に気付いたアンは牙竜に指示を出すと、牙竜は即座にナイの後を追いかけて牙を繰り出す。その攻撃に対してナイは跳躍の技能で後方に跳んで回避し、全速力で逃げ回る。
強化術で身体能力を限界まで高め、他にも「脚力強化」や「俊足」の技能も発動させている。しかし、それでも本気となった牙竜の移動速度には及ばず、徐々に距離を詰められていく。
「グアアッ!!」
「くっ……吹き飛べっ!!」
背後から爪を突き立てようとしてきた牙竜に対してナイは反魔の盾を構えると、それを見た牙竜は本能的に危険を感じ取った。もしも牙竜が爪を放っていたら反魔の盾に衝撃を跳ね返され、牙竜の方が逆に吹き飛ぶところだった。
「グギャッ……!?」
「何を止まっているの!?早く踏み潰しなさい!!」
「……なるほど、知能が高くなったせいでこの盾の恐ろしさも理解したのか」
攻撃を途中で止めた牙竜にアンは怒りを抱くが、ナイは牙竜が攻撃を中断した理由はアンのせいだと判断する。彼女の魔物使いの能力によって牙竜は確かに強くなった。肉体が成長した際、脳も発達して知能が格段に高まった。
高い知能を得た事が災いして牙竜は昨日の戦闘で反魔の盾の恐ろしさを身を以て知っており、不用意に攻撃をすれば自分が痛手を負う事を学習していた。それを利用してナイは反魔の盾を生かして戦う。
(ゴマン、力を貸して!!)
反魔の盾を左腕で構えた状態でナイは岩砕剣を引き抜き、盾に目掛けて刃を放つ。その結果、岩砕剣が衝突した瞬間に軽い衝撃波が走り、牙竜へと襲い掛かる。
「喰らえっ!!」
「グギャアッ!?」
「なっ!?このっ……」
「邪魔をするな!!」
衝撃波を受けて牙竜が怯んだのを見てアンはボーガンを構えるが、それに対してナイは刺剣を取り出して彼女に放つ。投げ放たれた刺剣は彼女が手にしていたボーガンに突き刺さり、破壊する事に成功した。
「きゃあっ!?」
「今だっ!!」
「グギャッ!?」
ボーガンを失った事で遠距離攻撃の手段を失ったアンに対し、彼女に向けてナイは駆け出す。それに気づいた牙竜は慌てて主人を守るためにナイの後を追う。
この戦闘の勝利条件は牙竜を倒す事ではなく、アンをどうにかする事こそが最善の手段だった。アンを拘束するか、あるいは彼女を倒せば牙竜は解放される。そうなればダイダラボッチを復活させる手段は失われるため、急いでナイはアンの元へ向かう。
(走れ!!今ならこっちが速い!!)
牙竜に追いつかれる前にナイはアンの元へ駆け出し、彼女を倒すかあるいは人質にすれば牙竜は止まる。アンは自分に迫るナイに気付いて顔色を青くするが、彼女は咄嗟に背中に手を伸ばして隠し持っていた小袋を取り出す。
「このっ!!」
「うわっ!?」
アンが隠していたのは毒草を磨り潰した粉末であり、ボーガンの矢に仕込んでいた毒薬の素材でもあった。これを浴びれば普通の人間ならば身体が痺れてしばらくは動けなくなるが、ナイの場合は「毒耐性」の技能のお陰で毒薬の類は効きにくい。
「うおおおおおっ!!」
「な、何で止まらな……あぐぅっ!?」
「グギャッ!?」
粉末を浴びながらもナイは動きを止めず、遂にアンに目掛けて大剣の腹の部分を叩き込む。彼女は衝撃を受けて吹き飛び、それを確認した牙竜は目を見開く。
ナイの一撃を受けてアンは白目を剥いて倒れ込み、主人であるアンが攻撃を受けて倒れたのを見て牙竜は動作を停止した。ナイはその間にアンの元へ向かい、彼女の首元を掴んで無理やりに立たせる。
「降参しろ!!もう終わりだ!!」
「うぐぅっ……!?」
「グゥウウウッ……!!」
アンが捕まったのを見て牙竜は唸り声を上げるが、主人が危険に晒されているにも関わらずに動こうとはしない。ナイは牙竜が止まっている間にアンに話しかけた。
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