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最終章
第1056話 追跡再開
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――夜明けを迎えるとアンは目を覚まし、牙竜を起して移動を再開した。先に起きていたナイとビャクは彼女達の追跡を再開する。
(まだ気づかれていない……のか?)
一定の距離を保ちながらナイとビャクはアンと牙竜の後を追いかけるが、この時点でナイは疑問を抱く。牙竜の嗅覚ならば既にナイ達の存在に気付いていてもおかしくはない。
今の所はアンと牙竜は不審な行動は取っていないが、それでもナイは警戒心を緩めずに後を追う。仮に尾行に気付かれていたとしても、森の中ならばナイ達は逃げ切れる自信はあった。
(森や山の中なら白狼種のビャクに足で勝てる奴なんていない……けど、何だろう。この嫌な感覚……)
ナイは安全だと判断した距離を保ちながら移動を心掛けているが、このままアンの追跡を行うべきか悩む。ナイ以外の討伐隊も後を追いかけているはずだが、それでも追いつくのには時間が掛かる。
アンを見逃すわけにはいかず、ナイはビャクと共に彼女の後を追う事しかできない。仮にアンがナイ達に罠を仕掛けるつもりだとしても、狩人であるナイは罠を見抜く自信はあった。
(爺ちゃんから森の中で罠を仕掛ける方法は一通り叩き込まれている。罠を仕掛けるゴブリンだっていたんだ、絶対に気付かないはずがない)
狩人である養父《アル》から森で有効な罠の種類は教わっており、仮にアンが罠を仕掛けたとしてもナイは自分なら見抜ける自信があった。観察眼の技能で調べている限りはアンが罠を仕掛けている様子はなく、移動に集中している様子だった。
(少し休んだお陰で体力も戻った。戦闘になっても十分に戦えるぞ……魔石の予備も持ってきてよかった)
万が一の事態に考えてナイは魔法腕輪の魔石の予備も身に着けており、万全の準備を整えていた。しかし、彼の警戒とは裏腹にアンは怪しい行動は一切取らず、遂にはムサシ地方を抜けてイチノ地方へと入った。
(この先は……まさか、山?)
アンの移動方向を確認してナイは驚きを隠せず、子供の頃に自分が良く養父《アル》と共に訪れていた「山」に向かっている事に気付く。
こちらの山は元々は赤毛熊が住処としていたが、ゴブリンキングに追い払われ、そのゴブリンキングの配下のホブゴブリン達が要塞を築いた場所でもある。この場所に王国軍が立ち寄り、飛行船からイリアが作り出した樽型爆弾を落として要塞を破壊した。
(何でこの山に……!?)
ナイはアンが山に登ろうとする姿を見て嫌な予感を抱き、後を追いながらもアンが間違いなくかつてゴブリンキングの軍勢が築いた要塞へ接近している事に気付く。要塞は飛行船が投下した爆弾で跡形もなく吹き飛ばしたが、飛行船が爆弾を落とした本当の理由は要塞の爆破ではない。
(まさかあいつ……知っているのか!?)
かつて王国軍がこの山に辿り着いた際、恐るべき存在を確認した。ゴブリンキングの軍勢がどうしてこの山を拠点にした理由、それはゴブリン達が築いた要塞には巨大な穴が存在し、そこにはゴブリンキングを遥かに上回る巨躯の怪物が封じられていた。
――遥か昔、和国が滅ぼしたのは超大型のゴブリンキングであり、その姿を見た和国の人々は「ダイダラボッチ」と恐れた。彼等の国は怪物によって滅ぼされ、生き残った和国の人々は他国に逃げ延びたが、一部の人間は和国の旧領地に引き返して他の人間に気付かれないようにひっそりと暮らす。
ダイダラボッチは国を滅ぼした後に姿を消したと言われるが、実際の所はダイダラボッチは山の中に封じらていた。ゴブリンキングを討伐した後、ナイ達はゴブリンキングの配下の軍勢が拠点にしていた要塞にて大穴を発見し、その底に潜ると古に姿を消した「ダイダラボッチ」を発見して真実を知る。
ゴブリンキングの軍勢がどうしてダイダラボッチの存在に気付いたのかは不明だが、何年もの時を費やして山を掘り起こし、地中に封じられたダイダラボッチを発見した事は間違いない。しかし、完全に掘り起こされる前に王国軍はゴブリンキングの軍勢を殲滅し、樽型爆弾を投下して要塞ごと吹き飛ばして大穴を塞いだ。
(どうしてアンがこの場所へ……いや、そんな事より他の皆に知らせないと!!)
アンがダイダラボッチが封じられた山に訪れた事にナイは危機感を抱き、このまま彼女を行かせるのはまずいと直感で判断した。しかし、仮にナイとビャクが戦闘を仕掛けても牙竜に勝てる保証はない。
昨日の戦闘でもナイは牙竜に殺されかけており、仮にビャクと力を合わせても勝てる見込みはない。他の人間が追いつくまで時間が掛かり、援軍が期待できない状況で戦闘を仕掛けるのは悪手だった。
(早く皆に知らせないと……)
ナイは悩んだ末に他の討伐隊にアンの行動を知らせるため、急いで手紙を書く事にした。ナイは追跡の中断し、自分の身に着けていたマント(グマグ火山でアルトから受け取った耐火性のマント)を広げて親指を噛んで血を滲ませる。そして彼はマントに文字を書き込み、それをビャクに託す。
「ビャク、よく聞け……これを他の仲間に渡すんだ」
「ウォンッ!?」
「しっ……静かに」
ナイはマントをビャクの首に括り付けながら命じると、ビャクは戸惑う表情を浮かべるが今は時間がなかった。もしもアンの狙いが「ダイダラボッチ」だった場合、最悪の事態が引き起こされるかもしれない。
心の中ではナイも有り得ないと思いながらも、アンの能力を思い知らされたナイは最悪の可能性が頭に浮かぶ。その事を他の者に一刻も早く知らせる必要があり、この役目はビャクにしか頼めない事を伝える。
「ビャク、お前の鼻と足ならすぐに他の人達を見つけ出せる。急いでこれを渡すんだ」
「クゥ~ンッ……」
「大丈夫、僕一人でも何とかなるよ……いざという時は本気で逃げるから」
ビャクはナイを一人残していく事に心配するが、今は彼と話している時間も惜しく、こうしている間にもアンと牙竜は移動して見失う可能性もあった。
「頼んだぞ、相棒」
「……ウォンッ」
ナイが拳を突き出すとビャクは頷いて自分の前脚を伸ばし、お互いに手を重ね合わせる。マントを首元にしっかりと括り付けたビャクは、討伐隊の捜索のために先に下山する。
ビャクを見送った後、ナイは「隠密」と「無音歩行」の技能を発動させ、更に「索敵」「気配感知」の技能を同時に発動させる。技能を複数発動させると体力の消耗が激しくなるが、今は気にしている場合ではない。
(絶対に見失ったら駄目だ……)
牙竜の移動速度は山に登り始めてから落ちており、ビャクが傍に居なくても山に慣れているナイならば追いつく事ができた。臭いや気配で勘付かれないように気を付けながらナイは後を追いかける――
――移動を開始してから一時間後、アンを乗せた牙竜はゴブリンの要塞の跡地に到着する。かつてゴブリンキングが従えたホブゴブリンの軍勢が築き上げた要塞は、前回の討伐隊が投下させた樽爆弾によって完全に崩壊していた。
牙竜は要塞の跡地に踏み込むと、アンは牙竜から降りて周囲の様子を伺う。彼女は背中に手を伸ばし、隠し持っていた羊皮紙を取り出す。
(あの羊皮紙は……?)
アンの取り出した羊皮紙が気になったナイは、牙竜に見つからぬように気を付けながら接近する。地図の中身はどうやらこの周辺一帯の地図らしく、前回に王国軍がこの要塞に辿り着いた時に製作された地図だと思われる。アンが王城に忍び込んだ時に巻物と一緒に盗んだ物だった。
地図を王国軍が描いたのはこの地に「ダイダラボッチ」が封じられている事を証明するためであり、地図を頼りにアンは大穴があった場所へ辿り着く。樽型爆弾によって大穴は崩れて現在は埋もれているが、完全に埋まる事はなくクレーターのように変化していた。
「ここね……確かに力を感じるわ」
「グゥウウウッ……!!」
クレーターを見下ろしながらアンは地面に掌を伸ばすと、彼女は何かを勘付いたように冷や汗を流す。牙竜はクレーターを見下ろして警戒し、威嚇するように唸り声を上げる。
(まさか、気付いた……!?)
アンは魔物使いであるため、魔物に対する気配には敏感だった。彼女は地中の中から感じる強大な「生命力」を感じ取り、興奮した様子で牙竜に命令を与えた。
「掘り起こしなさい」
「グギャッ……!?」
「二度は命令しないわよ」
冷たい瞳でアンは牙竜を睨みつけると、彼女の命令に牙竜は驚いた様子を浮かべるが、指示通りにクレーターに向かう。
牙竜の力を利用してクレーターを掘り起こし、地中に眠っている「ダイダラボッチ」を目覚めさせるつもりかだと気付いたナイは愕然とする。確かに牙竜の力ならばそれほど時間を掛けずにダイダラボッチが眠る地層まで掘り起こす事ができるかもしれないが、それでも簡単な話ではない。
(牙竜に掘り起こさせてダイダラボッチを目覚めさせるつもりか……なら、やっぱりアンの目的はダイダラボッチを使役する事か!?)
――魔物使いのアンならば和国を滅ぼした伝説の魔物「ダイダラボッチ」を従えさせる可能性は十分にあった。実際に彼女は災害の象徴と恐れられる竜種をも支配下に置いており、もしもダイダラボッチを目覚めさせてアンが魔物使いの能力で使役した場合、彼女は国を亡ぼす力を持つ魔物を意のままに操る事ができる。
そんな事態に陥れば王国は火竜以上の脅威を敵に回す事を意味しており、冗談抜きで国が滅びるかもしれない。アンの目的を知ったナイはなんとしても止めるべく、危険を承知で彼女の前に姿を現す。
(まだ気づかれていない……のか?)
一定の距離を保ちながらナイとビャクはアンと牙竜の後を追いかけるが、この時点でナイは疑問を抱く。牙竜の嗅覚ならば既にナイ達の存在に気付いていてもおかしくはない。
今の所はアンと牙竜は不審な行動は取っていないが、それでもナイは警戒心を緩めずに後を追う。仮に尾行に気付かれていたとしても、森の中ならばナイ達は逃げ切れる自信はあった。
(森や山の中なら白狼種のビャクに足で勝てる奴なんていない……けど、何だろう。この嫌な感覚……)
ナイは安全だと判断した距離を保ちながら移動を心掛けているが、このままアンの追跡を行うべきか悩む。ナイ以外の討伐隊も後を追いかけているはずだが、それでも追いつくのには時間が掛かる。
アンを見逃すわけにはいかず、ナイはビャクと共に彼女の後を追う事しかできない。仮にアンがナイ達に罠を仕掛けるつもりだとしても、狩人であるナイは罠を見抜く自信はあった。
(爺ちゃんから森の中で罠を仕掛ける方法は一通り叩き込まれている。罠を仕掛けるゴブリンだっていたんだ、絶対に気付かないはずがない)
狩人である養父《アル》から森で有効な罠の種類は教わっており、仮にアンが罠を仕掛けたとしてもナイは自分なら見抜ける自信があった。観察眼の技能で調べている限りはアンが罠を仕掛けている様子はなく、移動に集中している様子だった。
(少し休んだお陰で体力も戻った。戦闘になっても十分に戦えるぞ……魔石の予備も持ってきてよかった)
万が一の事態に考えてナイは魔法腕輪の魔石の予備も身に着けており、万全の準備を整えていた。しかし、彼の警戒とは裏腹にアンは怪しい行動は一切取らず、遂にはムサシ地方を抜けてイチノ地方へと入った。
(この先は……まさか、山?)
アンの移動方向を確認してナイは驚きを隠せず、子供の頃に自分が良く養父《アル》と共に訪れていた「山」に向かっている事に気付く。
こちらの山は元々は赤毛熊が住処としていたが、ゴブリンキングに追い払われ、そのゴブリンキングの配下のホブゴブリン達が要塞を築いた場所でもある。この場所に王国軍が立ち寄り、飛行船からイリアが作り出した樽型爆弾を落として要塞を破壊した。
(何でこの山に……!?)
ナイはアンが山に登ろうとする姿を見て嫌な予感を抱き、後を追いながらもアンが間違いなくかつてゴブリンキングの軍勢が築いた要塞へ接近している事に気付く。要塞は飛行船が投下した爆弾で跡形もなく吹き飛ばしたが、飛行船が爆弾を落とした本当の理由は要塞の爆破ではない。
(まさかあいつ……知っているのか!?)
かつて王国軍がこの山に辿り着いた際、恐るべき存在を確認した。ゴブリンキングの軍勢がどうしてこの山を拠点にした理由、それはゴブリン達が築いた要塞には巨大な穴が存在し、そこにはゴブリンキングを遥かに上回る巨躯の怪物が封じられていた。
――遥か昔、和国が滅ぼしたのは超大型のゴブリンキングであり、その姿を見た和国の人々は「ダイダラボッチ」と恐れた。彼等の国は怪物によって滅ぼされ、生き残った和国の人々は他国に逃げ延びたが、一部の人間は和国の旧領地に引き返して他の人間に気付かれないようにひっそりと暮らす。
ダイダラボッチは国を滅ぼした後に姿を消したと言われるが、実際の所はダイダラボッチは山の中に封じらていた。ゴブリンキングを討伐した後、ナイ達はゴブリンキングの配下の軍勢が拠点にしていた要塞にて大穴を発見し、その底に潜ると古に姿を消した「ダイダラボッチ」を発見して真実を知る。
ゴブリンキングの軍勢がどうしてダイダラボッチの存在に気付いたのかは不明だが、何年もの時を費やして山を掘り起こし、地中に封じられたダイダラボッチを発見した事は間違いない。しかし、完全に掘り起こされる前に王国軍はゴブリンキングの軍勢を殲滅し、樽型爆弾を投下して要塞ごと吹き飛ばして大穴を塞いだ。
(どうしてアンがこの場所へ……いや、そんな事より他の皆に知らせないと!!)
アンがダイダラボッチが封じられた山に訪れた事にナイは危機感を抱き、このまま彼女を行かせるのはまずいと直感で判断した。しかし、仮にナイとビャクが戦闘を仕掛けても牙竜に勝てる保証はない。
昨日の戦闘でもナイは牙竜に殺されかけており、仮にビャクと力を合わせても勝てる見込みはない。他の人間が追いつくまで時間が掛かり、援軍が期待できない状況で戦闘を仕掛けるのは悪手だった。
(早く皆に知らせないと……)
ナイは悩んだ末に他の討伐隊にアンの行動を知らせるため、急いで手紙を書く事にした。ナイは追跡の中断し、自分の身に着けていたマント(グマグ火山でアルトから受け取った耐火性のマント)を広げて親指を噛んで血を滲ませる。そして彼はマントに文字を書き込み、それをビャクに託す。
「ビャク、よく聞け……これを他の仲間に渡すんだ」
「ウォンッ!?」
「しっ……静かに」
ナイはマントをビャクの首に括り付けながら命じると、ビャクは戸惑う表情を浮かべるが今は時間がなかった。もしもアンの狙いが「ダイダラボッチ」だった場合、最悪の事態が引き起こされるかもしれない。
心の中ではナイも有り得ないと思いながらも、アンの能力を思い知らされたナイは最悪の可能性が頭に浮かぶ。その事を他の者に一刻も早く知らせる必要があり、この役目はビャクにしか頼めない事を伝える。
「ビャク、お前の鼻と足ならすぐに他の人達を見つけ出せる。急いでこれを渡すんだ」
「クゥ~ンッ……」
「大丈夫、僕一人でも何とかなるよ……いざという時は本気で逃げるから」
ビャクはナイを一人残していく事に心配するが、今は彼と話している時間も惜しく、こうしている間にもアンと牙竜は移動して見失う可能性もあった。
「頼んだぞ、相棒」
「……ウォンッ」
ナイが拳を突き出すとビャクは頷いて自分の前脚を伸ばし、お互いに手を重ね合わせる。マントを首元にしっかりと括り付けたビャクは、討伐隊の捜索のために先に下山する。
ビャクを見送った後、ナイは「隠密」と「無音歩行」の技能を発動させ、更に「索敵」「気配感知」の技能を同時に発動させる。技能を複数発動させると体力の消耗が激しくなるが、今は気にしている場合ではない。
(絶対に見失ったら駄目だ……)
牙竜の移動速度は山に登り始めてから落ちており、ビャクが傍に居なくても山に慣れているナイならば追いつく事ができた。臭いや気配で勘付かれないように気を付けながらナイは後を追いかける――
――移動を開始してから一時間後、アンを乗せた牙竜はゴブリンの要塞の跡地に到着する。かつてゴブリンキングが従えたホブゴブリンの軍勢が築き上げた要塞は、前回の討伐隊が投下させた樽爆弾によって完全に崩壊していた。
牙竜は要塞の跡地に踏み込むと、アンは牙竜から降りて周囲の様子を伺う。彼女は背中に手を伸ばし、隠し持っていた羊皮紙を取り出す。
(あの羊皮紙は……?)
アンの取り出した羊皮紙が気になったナイは、牙竜に見つからぬように気を付けながら接近する。地図の中身はどうやらこの周辺一帯の地図らしく、前回に王国軍がこの要塞に辿り着いた時に製作された地図だと思われる。アンが王城に忍び込んだ時に巻物と一緒に盗んだ物だった。
地図を王国軍が描いたのはこの地に「ダイダラボッチ」が封じられている事を証明するためであり、地図を頼りにアンは大穴があった場所へ辿り着く。樽型爆弾によって大穴は崩れて現在は埋もれているが、完全に埋まる事はなくクレーターのように変化していた。
「ここね……確かに力を感じるわ」
「グゥウウウッ……!!」
クレーターを見下ろしながらアンは地面に掌を伸ばすと、彼女は何かを勘付いたように冷や汗を流す。牙竜はクレーターを見下ろして警戒し、威嚇するように唸り声を上げる。
(まさか、気付いた……!?)
アンは魔物使いであるため、魔物に対する気配には敏感だった。彼女は地中の中から感じる強大な「生命力」を感じ取り、興奮した様子で牙竜に命令を与えた。
「掘り起こしなさい」
「グギャッ……!?」
「二度は命令しないわよ」
冷たい瞳でアンは牙竜を睨みつけると、彼女の命令に牙竜は驚いた様子を浮かべるが、指示通りにクレーターに向かう。
牙竜の力を利用してクレーターを掘り起こし、地中に眠っている「ダイダラボッチ」を目覚めさせるつもりかだと気付いたナイは愕然とする。確かに牙竜の力ならばそれほど時間を掛けずにダイダラボッチが眠る地層まで掘り起こす事ができるかもしれないが、それでも簡単な話ではない。
(牙竜に掘り起こさせてダイダラボッチを目覚めさせるつもりか……なら、やっぱりアンの目的はダイダラボッチを使役する事か!?)
――魔物使いのアンならば和国を滅ぼした伝説の魔物「ダイダラボッチ」を従えさせる可能性は十分にあった。実際に彼女は災害の象徴と恐れられる竜種をも支配下に置いており、もしもダイダラボッチを目覚めさせてアンが魔物使いの能力で使役した場合、彼女は国を亡ぼす力を持つ魔物を意のままに操る事ができる。
そんな事態に陥れば王国は火竜以上の脅威を敵に回す事を意味しており、冗談抜きで国が滅びるかもしれない。アンの目的を知ったナイはなんとしても止めるべく、危険を承知で彼女の前に姿を現す。
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