貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1055話 妖刀の入手条件

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「待ってくれ!!様子がおかしい……どうして出てこないんだ?」
「はあっ!?何を言ってるんだい、出てこないなら都合がいいだろう!?」


いつまでも洞窟の中から鎧武者が出てこない事に疑問を抱き、アルトは足を止めて考え込む。鎧武者の力ならば大太刀を利用せずとも、岩石を破壊して脱出する事はできるはずだった。それなのに何時まで経っても出てくる気配はない。

洞窟の中に閉じ込められた鎧武者が出てこない事にアルトは疑問を抱き、中の様子を想像する。洞窟の中には光源になりそうな物はないため、出入口を閉ざされれば洞窟の中は「暗闇」に覆われる。


(暗闇……?)


不意にアルトは暗闇の中に閉じ込められた鎧武者の姿を存在し、頭の中で何かが思いつきそうだった。今現在、鎧武者は暗闇の空間に閉じ込められている。もしかしたら鎧武者は光が届かない場所に閉じ込められると動けなくなるのかもしれない。


(もしも人造ゴーレムが暗闇の中で動けないとしたら……どうして夜なのに動けたんだ?)


現在の時刻は深夜を迎え、普通ならば真っ暗闇に覆われている時間帯である。しかし、牙山は夜だというのに明るく、アルトも他の女性陣の姿をはっきりと捉える事ができた。

その理由は空を見上げれば簡単に判明し、今日は「満月」だった。月の光に照らされている事で深夜だというのにアルト達はお互いの姿を確認出来る程に明るい。


(そうか、今日は満月だったのか……まさか!?)


アルトは自分の考えた「暗い」という単語が引っかかり、あと少しで答えが思いつきそうだった。自分が見落としている事を確かめるため、今までの情報を整理する。


(牙山、牙竜、シノビ一族、巻物……暗闇?)


これらの情報を集めてアルトは熟考し、何時までも動かない彼に他の者たちが心配すると、ここでアルトは遂に思い至る。


(暗闇……暗黒空間……黒……黒髪!?)


全てを悟ったようにアルトは目を見開き、彼は鎧武者が洞窟の中に閉じ込められた事、そしてシノビ一族に妖刀の在り処を記した巻物を託した人間の事を考える。

牙山の事を記した巻物をシノビ一族に管理させたのは間違いなくであり、そして和国の人間にはこの世界の人間にはないあるがあった。


「まさか……いや、それなら説明が付くが」
「アルト王子?いったいどうしたんだい、さっきからぶつぶつと……」
「いや、すまない……だが、もしかしたらだが鎧武者に襲われない方法が見つかったかもしれない」
「えっ!?ど、どうして!?」
「僕の推理が正しければ……よし、ちょっと待ってくれ」


アルトは自分の収納鞄《ストレージバック》の中から色々と道具を取り出し、都合がいい事に彼は黒色の絵具を発見した。暇なときはアルトは風景画を描く癖があり、その絵具を手にしたアルトは手の中に中身を全てぶちまける。


「これだ!!」
「ちょっ!?王子、いったい何を!?」
「何やってんだい!?」


絵具を両手にぶちまけたアルトは自分の髪の毛に塗りたくり、その彼の行動に他の者たちは混乱する。アルトは自分の髪の毛を「黒」に無理やり染めると、先ほど回収した鏡のように煌めく剣と盾を確認して自分の髪の毛が上手い具合に染まった事を確かめると、他の者たちに指示を出す。


「リン副団長、悪いが君の力であの岩石を壊してくれ。この距離から出もできるだろう?」
「えっ……し、しかし、そんな事をすれば奴が出てきます!!」
「分かっている。だが、大丈夫だ。僕の推理が正しければ奴は襲ってこない……もしも奴が和国の人間が作り出した人造ゴーレムだとしたら、きっと和国の人間は自分達の子孫が襲われない細工を施しているはずだ」
「ど、どういう意味だい?アルト王子は和国の子孫じゃないだろう?」
「そうとも言い切れないさ、王国の王族は色々な人間の血を継いでいる……僕の先祖にも和国出身の人間がいるかもしれない」


アルトは笑みを浮かべて自分の髪の毛を確認し、もしも自分の推理が間違っていた場合は彼の身が危険に晒される。だが、それでもアルトは自分の直感を信じて他の者を説得してもう一度だけ鎧武者と接触する事にした――





――準備が整えるとアルトは自分の腰に長いロープを巻き付け、岩石の近くに立つ。彼が自分の身体に巻き付けたロープはテンとルナが握りしめ、二人は洞窟から見えない位置に待機する。

もしもアルトの身が危険に晒されそうだと判断した時、ロープを掴んでいる二人が強制的にアルトを引き寄せて逃げる算段だった。そして洞窟から離れた位置にリンは暴風を構え、洞窟の左右にはヒイロとミイナが姿を隠す。


「よし、やってくれ」
「分かりました……はあっ!!」


アルトの号令の元、リンは覚悟を決めた様に鞘から剣を引き抜いて風の斬撃を放つ。斬撃は洞窟を塞ぐ岩石を見事に真っ二つに切り裂き、左右に割れた岩石が地面に倒れ込むと、洞窟の中が月の光に照らされる。そして内部に閉じ込められていた鎧武者が姿を現す。


「ウオオオオッ!!」
「王子!!」
「大丈夫だ……皆は下がっててくれ」


咆哮を放ちながら鎧武者が姿を現すと、アルト以外の者達は武器を握りしめる。しかし、そんな彼女達をアルトは制止すると、全員に姿を隠す様に指示を出す。

洞窟から抜け出した鎧武者は最初に目にしたのはアルトであり、彼の髪の毛を見て一瞬だけ固まる。しばらくの間はお互いに向き合ったまま動かず、アルトは心の中で願う。


(頼む……!!)


アルトの予測では鎧武者が攻撃を仕掛けてきた理由、それはアルト達の中に「黒髪」の人間がいなかったからだ。鎧武者を制作したのは大昔の和国の人間であり、彼等は自分達の子孫のために和国で製作された武具と防具を牙山に封じた時、牙竜の他に守護する存在を作り出した。それこそがアルトの前に立っている「人造ゴーレム」で間違いない。

この推理が正しければ和国の先祖は子孫が訪れた時、人造ゴーレムが子孫を間違っても襲わないように細工を施すはずである。そして和国の人間と他国の人間の異なる点、それは「黒髪」だった。


(シノビ一族は和国の人間の子孫、そしてシノビ君もクノ君も黒髪だった。つまり、和国の血を継ぐ人間は黒髪のはずだ)


自分の髪の毛を黒く染めたアルトは人造ゴーレムに自分が和国の人間の子孫だと思わせるためであり、この時に彼は目を閉じた。和国の人間の子孫は「黒髪」だけではなく、瞳の色も黒色のため、アルトは瞳の色を悟られないように瞼を閉じる。


(頼む!!)


再度心の中でアルトは願いを込めると、人造ゴーレムが自分の元に近付てい来る足音を耳にした。その光景を他の者たちは身を隠しながらも固唾を飲んで見守り、アルトの身体にロープを括り付けたテンとルナはロープを掴む力を強める。

人造ゴーレムはアルトの前に立つと、その場に跪く。その行為にアルト以外の者達は驚き、人造ゴーレムの瞳の色が失われて両手で大太刀を差し出した状態で停止した。


「オマチ、シテマシタ……」
「……えっ?」


その一言を最後に人造ゴーレムは完全に動かなくなり、異変に気付いたアルトは目を開くと、そこには自分に大太刀を差し出した状態で固まった人造ゴーレムの姿があった――





――アルトの予測通り、牙山を守護していた人造ゴーレムはどうやら黒髪の人間は襲わないように設定されていたらしく、アルトの事を和国の子孫だと思い込むと自動的に機能が停止した。

ドゴンと同じく、なんらかの切っ掛けを与えれば再び動き出す可能性もあるが、その前にアルト達は人造ゴーレムを洞窟の中に運び込み、そして大きな布で全身を覆い込む。


「ふうっ……これで大丈夫なはずだ」
「こいつ、死んじゃったのか?」
「いや、死んではいないさ。だけど、こうして全身を布で包めば光は差さない……もう動く事はないだろう」


人造ゴーレムは暗闇の中で停止していた事から考えると、身体に光が差さない場所では動けない事は間違いない。そうでもなければ洞窟に閉じ込められたときに自力で脱出しているはずであり、こうして布で全身を覆い込めば鎧武者がひとりでに動き出すはずがない。


「アルト王子、黒髪の人間が襲われない事を見抜いたのは流石ですが……どうして我々にその役目を与えなかったのですか」
「すまないね、女性の美しい髪を汚すのはどうかと思ったんだ。それに絵具の量から考えても一番髪が短い僕しか染める事ができなかったんだ」
「王子、髪の毛臭うぞ……すぐに洗った方がいい」
「そ、そうかい?だけど、その前にお宝を回収しようじゃないか」


改めてアルトは洞窟の中に並べられた石像を確認し、石像が身に着けた武器や防具を見て興奮が抑えきれない。彼にとっては宝石よりも価値のある代物ばかりであり、すぐに人手を集めて回収するように命じた。


「よし!!飛行船で暇を持て余している者を全員呼び出してくれ!!今日中にこれらを全部運び出すよ!!」
「全部!?この数を!?」
「そうだ、一つ残さず持って帰るんだ!!ああ、早く実験したい……片っ端から持って帰るんだ!!」
「ええ~……もう帰って寝たいぞ」


アルトの言葉に他の者たちは疲れた表情を浮かべ、考えてみれば時刻は深夜を迎えていつもならば眠っている時間帯だった。それでも興奮状態のアルトは抑える事はできず、彼は飛行船に残っている人間達も呼び寄せて武器と防具の回収を行わせた――
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