貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1051話 牙山では……

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――同時刻、牙山には銀狼騎士団と聖女騎士団が移動していた。飛行船の警護のために聖女騎士団から訪れたのはテンとアリシアだけであり、他には白狼騎士団からはヒイロも訪れている。ミイナはアルトののために飛行船に残り、この場にはいない。


「ここが噂の牙山かい?話には聞いていたけど……凄い所だね」
「こ、これ全部……骨なんですか?」
「信じられんな……いったい、この地でどれだけの生物が喰われた?」


牙山に辿り着いた王国騎士団は想像を絶する光景を目の当たりにする。牙のような形をした岩山の周囲には大量の骨が散らばっており、この地に300年以上も牙竜は暮らし続けた。

300年の間に牙竜はどれだけの数の魔物や動物を捕食したのかは不明だが、牙山の周囲には無数の骨が散らばっており、その中には大型の魔物の骨も含まれた。かなりひどい死臭が漂っており、テンは鼻を抑えながら顔をしかめる。


「本当にこの場所に妖刀が隠されているのかい?」
「そのはずですが……シノビ殿が解き明かした暗号によればこの岩山の中に隠されているそうです」
「岩山の中……何処か出入口があるんですか?」
「待ってくれ、これを読めばわかる」


本来であれば暗号を解き明かしたシノビがこの場所に訪れ、岩山の出入口を示すのが一番なのだが、彼はナイの追跡のために自分が所属する銀狼騎士団の副団長のリンに暗号を解いた際に作り上げた地図を渡す。

シノビがナイの追跡を申し出たのは彼なりにナイに恩義を感じており、シノビが王国と接点を持てたのはナイのお陰でもある。大分前の話になるがシノビが国王と話をする事ができたのはナイの協力があっての事であり、その借りを返すためにシノビは妹のクノと共にナイの行方を追う。だからリンに地図を渡して牙山の妖刀の確保を代わりに頼む。


「この地図によれば……岩山に入るためには色の違う岩壁を探す必要があるらしい」
「色の違う岩壁?何だいそりゃ……」
「その岩壁の正体は……牙竜だと!?」
「が、牙竜!?どういう事ですか?」


リンの言葉にヒイロは驚愕し、他の者たちも戸惑う。リンは巻物を読みながら牙山に入る方法を確認し、冷や汗を流しながらも侵入方法を話す。


「牙竜は普段、牙山の岩壁に擬態して眠っているそうだ。無駄な体力の消耗を減らすため、牙竜は普段は岩山に張り付いて睡眠をとっているそうだが……その牙竜がへばりつく岩壁が出入口らしい」
「な、何だいそりゃ!?じゃあ、牙竜の奴を倒さなければどっちにしても妖刀は手に入らなかったのかい!?」
「いや、あくまでも牙竜を岩壁に引き剥がせればいいそうです。つまり、誰かが囮役になって牙竜を引き付け、他の者が妖刀の回収を行う……これが正規の手順だそうです」
「そ、そんな……牙竜から逃げるなんて簡単な事じゃありませんよね」
「巻物には十中八九は犠牲は避けられないと書かれていたらしい……」


暗号文を残した先祖も牙山から妖刀を回収する手段の危険性を示し、本来であれば牙山から妖刀を回収する場合は牙竜との接触は避けられなかったらしい。また、牙山に牙竜が住み着いた理由も書かれていた。


「この手紙によると牙山に生息する牙竜は元々は魔物使いが飼育していたらしい」
「魔物使い!?あの牙竜、魔物使いに操られていたのかい!?」
「巻物によれば魔物使いと契約を交わした魔物は不思議な力が宿り、野生で生きていた頃よりも特別な能力に芽生える。牙竜の場合は寿命が延びる効果があるとか……しかも魔物使いが死んだとしてもその効果は消える事はない」
「飛んだ迷惑な話だね!!」


牙山を守り続けた牙竜はかつては魔物使いに使役され、その影響で牙竜は通常の種よりも寿命が延びた。しかも魔物使いの命令で牙山から離れられず、300年もこの地に居続けたのは魔物使いの仕業だと判明する。

尤も牙竜が魔物使いの命令を聞き続けたのは先日までの話であり、現在は新たな主人となったアンの言う事を従って役目を捨てて牙山から離れてしまう。そのせいで現在の牙山を守護する存在はおらず、テン達は堂々と入る事ができた。


「ともかく、その岩山に入る出入口を探せばいいんだね」
「そういう事になります。出入口の目印は牙竜が岩壁に大きな窪みがあるらしく、そこを爆破すれば中に通る道が見つかるとか……」
「爆破ですか!?」
「生半可の威力の爆発では壊れないようにしてあるらしい。ともかく、それらしき岩壁を見かけたら魔剣で攻撃するしかあるまい」


リンの言葉を聞いて王国騎士団は牙山の周囲を移動し、それらしき岩壁を捜索すると、すぐに大きな窪みを発見した。どうやら牙竜が普段張り付いて眠っている岩壁らしく、他の場所と比べて岩壁の色が違った。


「なるほど、ここがその壊さないといけない岩壁かい?」
「そういう事になりますね……岩の様に見えますが、実際は地属性の魔法で練り固められた土砂だそうです。但し、その硬度は金剛石をも上回ると書かれています」
「金剛石ね……」


テンは色違いの岩壁を叩いて確認し、触れた感じでは岩のようにしか思えない。しかし、ここを破壊すれば岩山の中に隠されている妖刀を回収できるため、彼女は気合を込めて退魔刀を叩き付ける。


「うおりゃあっ!!」
「きゃっ!?」


彼女が全身の力を込めて退魔刀を岩壁に叩き込むと、表面の部分が少し削れるが壊す事はできなかった。逆に攻撃を仕掛けたテンの方が腕が痺れてしまい、彼女は退魔刀を手放すと涙目を浮かべる。


「いてててっ……さ、流石に硬いね。あたしの剛剣でもびくともしないなんて」
「テンさんでも壊せないんですか!?」
「これは想像以上に硬そうだな……ふんっ!!」


リンも試しに風の斬撃を放つが、先ほどのテンと同様に岩壁を少し削り取る程度の損傷しか与えられず、表面を欠ける程度で罅すら入らない。鋼鉄を容易く切り裂く風の刃さえも通さない程の頑丈さだった。


「なんて硬さだい……こいつは確かに骨が折れそうだね」
「やはり、爆破するしかないのでしょうか……」
「爆破といっても、下手に威力が大きすぎては岩山が壊れるのでは……」
「だが、生半可な威力ではこの岩壁は崩せない。さて、どうしたものか……」


爆弾の材料となる素材は一応は持って来たが、岩壁を破壊するには相当な威力の爆弾を作り出す必要がある。下手に威力を上げ過ぎれば岩山が崩壊する危険性もあり、その場合は内部に秘められている妖刀も危険に晒される。

出入口を塞ぐ岩壁だけを壊す爆弾を作るとなると難しく、テンは悩んだ末に仕方なくある人物の協力を仰ぐ事にした。


「しょうがないね……ヒイロ、あんたの所の主人を呼び出して来な」
「えっ?」
「アルト王子の事だよ。魔道具職人の王子様なら爆弾ぐらい簡単に作れるだろう?」
「あっ……な、なるほど!!」


テンの言葉を聞いてヒイロはアルトの技術力を思い出し、普段から色々な魔道具を製作している彼ならば爆弾を作り出すのは造作もない事かもしれない。すぐにヒイロは飛行船へと引き換えし、アルトに事情を伝える事にした――





――飛行船に残っていたアルトはミイナと他に何名かと協力してもらい、ドゴンの改造を施していた。ブラックゴーレムとの戦闘でドゴンも損傷し、その修理と更なる改造のために彼は尽力していた。


「アルト王子、このブラックゴーレムから回収した素材も使えそうですよ」
「よし、すぐに改造に取り掛かろう。工房の準備はできたかい?」
「一応は造りましたが……マグマゴーレムの核を利用して作った炉です」
「ドゴン……」


アルトは飛行船の修理中、ドゴンの改造に必要不可欠な「工房」を造り出した。ブラックゴーレムとの戦闘で飛行船は大きな損害を受け、この際にアルトはそれを利用して飛行船の修理の傍らに工房を作りあげる。

オリハルコンで構成されているドゴンを改造するためには普通の炉では火力不足だと判断し、アルトは回収したマグマゴーレムの核を利用する。これらはブラックゴーレムに内蔵されていた代物であり、マグマゴーレムの核を利用して強力な熱を引きだす。


「安心してくれドゴン、君が次に目覚めた時は世界最強のゴーレムになるんだ。ゴーレムキングもブラックゴーレムも上回る地上最強のゴーレムに生まれ変わる!!」
「ドゴンッ(←期待の眼差し)」
「「「…………」」」


アルトとドゴンのやり取りに他の者達は何か言いたげな表情を浮かべるが、ここまで来たらもう彼等を止める事はできず、最後まで付き合う事にした。


「よし、じゃあ改造を開始するぞ。イリア、準備はいいかい?」
「分かりましたよ。私も素材がなくて薬作りもできませんからね。ここまで来たら最後まで付き合いますよ」
「ああ、頼んだよ。これが成功したら……一緒にご飯でも行こう」
「報酬がしょぼくないですか!?」
「あ、割勘で頼むよ」
「報酬ですらない!?」


イリアは突っ込みしながらも炉の準備を行い、この時にアルトはドゴンに嵌め込んだ自分の王族の証であるペンダントを回収する。このペンダントを回収するとドゴンは意思のない人造ゴーレムに戻るが、改造作業中は彼の意識がない方が好都合だった。


「ドゴン、すぐに目を覚ませるからね……」
「ドゴン……」
「よし、改造開始だ!!ランファンさん、ゴンザレス君頼むよ」
「分かった」
「こうか?」


全ての準備を整えたアルトは炉の中にドゴンを押し込むため、巨人族のランファンとゴンザレスに協力して貰い、ドゴンを運び出して貰う。この場には他にもルナやガロの姿もあり、アルトが土下座で協力を申し込まれた者達が勢揃いしていた。
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