貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1044話 討伐隊VS牙竜

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「はああっ!!」
「はうっ!?」


衝撃波の正体はリンの「風の斬撃」であり、威力を調整してナイの身体を傷つけずに吹き飛ばす。牙竜の背中から離れる事に成功したナイは地面に落下するが、それを駆けつけたガオウが受け止めた。


「おっと!!危ねえ!!」
「がふっ……ガオウ、さん?」
「よう、大丈夫か王子様?」


ガオウはナイを下ろすと、地面に衝突した牙竜は慌てて体勢を持ち直す。ナイを押し潰すために背中から地面に突っ込んだが、あと少しという事で邪魔された事に怒りを抱く。


「グアアアアアッ!!」
「うおっ……何て迫力だ」
「火竜よりも厄介そうだな」
「これは中々歯ごたえの有りそうな敵ですわね!!」
「うむ」


リンとガオウ以外にもドリスとロランが現れ、その姿を見てナイは討伐隊が駆けつけた事を知る。先に逃がしたシノビ達が無事に合流して駆けつけてくれたらしい。

ロランは双紅刃を構えるとリン達も武器を構えるが、他の者はどうしたのかとナイは不思議に思うと、ガオウがナイの疑問に気づいたように応える。


「他の奴等は遅れてやってくる。安心しろ、それまでの間はしっかりと俺が……」
「グギャアアッ!!」
「って、いきなりかよ!?」
「うわわっ!?」


ナイとガオウの元に目掛けて牙竜が突っ込み、それを見たガオウは咄嗟にナイを抱えて攻撃を躱す。ここまでの戦闘でナイは疲弊しきっており、まともに戦える状態ではない。


「グアアッ!!」
「うおおっ!?こっち来んぁっ!!」
「いかん!!全員、援護しろ!!」
「了解!!うちの将来の団員に手を出すな!!」
「どさくさに紛れて何を言ってますの!?」


ロランの号令の元、リンとドリスは牙竜の元に目掛けて駆け出す。牙竜は側面から近付いてくるドリスとリンに気付き、尻尾を振りかざして放つ。


「グアッ!!」
「避けろっ!!」
「言われなくてもっ!!」


振り払われた尻尾に対してドリスとリンは上空に跳んで回避すると、二人は飛び上がった際にお互いの魔剣と魔槍を交わし、息を合わせた攻撃を行う。


「爆炎!!」
「風斬り!!」
「グギャアッ!?」


ドリスの真紅が爆炎を纏うとリンの暴風が風の斬撃を放ち、炎の斬撃がに牙竜に襲い掛かる。思いもよらぬ攻撃を受けた牙竜は怯み、その隙を逃さずにロランが駆け出す。

移動の際中に双紅刃を振り回しながらロランは刃に魔力を蓄積させ、最大の一撃を放つために振りかざす。牙竜の右腕に目掛けて双紅刃が叩きつけられる。


「ふんっ!!」
「グギャアアアアッ!?」
「うおっ……さ、流石は大将軍!!」
「凄い……!!」


ナイの攻撃でさえも掠り傷を与えるのがやっとだったが、ロランの振り下ろした双紅刃は牙竜の右腕に生えている羽根を切り裂き、派手な血飛沫が舞い上がる。

ロラン達の攻撃を受けた牙竜は慌てて距離を置き、身体に纏った炎を掻き消すために川に飛び込む。しかし、魔法で造り出した炎は簡単に消える事はなく、水中でも燃え続けて牙竜を苦しめる。



――グァアアアアッ……!?



牙竜の苦痛の声が森の中に響き渡り、それを確認したナイは皆と力を合わせれば倒せると思ったが、彼は知らなかった。牙竜という竜種は追い詰められれば追い詰められる程に恐ろしい力を発揮する事を――





――同時刻、森の中では他の者たちも谷へ向けて移動していた。頭にプルミンを乗せたビャクが先行し、その背中にはシノビが乗り込んでいた。


「ここを抜ければ谷に辿り着く!!急いで来い!!」
「はあっ、はあっ……て、てめえだけ楽してんじゃねえよ!!」
「くっ……森の中を歩くのは苦手だ」
「皆、急ごう!!このままだとナイ君が……」
「は、はい!!」


森の中を歩いているのは白銀級冒険者のガロとゴンザレスと黄金冒険者のリーナとフィル、他にも十数名の王国騎士が続いていた。ロラン達は先に向かったが、他の者は大分遅れていた。

リーナ達は谷までそれほど離れていない距離にまで辿り着き、あと数十秒もしないうちに目的地に辿り着ける距離まで迫っていた。しかし、移動の途中で先頭を歩いていたビャクは立ち止まる。


「ぷるるんっ!?」
「スンスンッ……ウォンッ!?」
「わあっ!?どうしたのビャク君?」
「この臭いは……まさか!?」


シノビもビャクに遅れて異変に気付き、彼は周囲を見渡して武器に手を伸ばす。リーナは二人の反応から何か見つけたのかと思ったが、シノビはある方向を指差す。


「そこかっ!!」
「わっ!?」
「キィイッ!?」


ビャクの背中から飛び降りたシノビは駆け出すと、彼は草むらに目掛けてクナイを放つ。その直後、小さな鼠が姿を現す。


「な、なに!?」
「いったいどうした!?」
「落ち着け……こいつを見ろ」


シノビは仕留めた鼠を指差すと、全員が覗き込んで鼠の毛皮が白い事に気付く。リーナはすぐに鼠の正体が「白鼠」と呼ばれる魔獣だと気付き、シノビはいち早く気付いて仕留めた。


「この森に白鼠は生息していない……つまり、奴の僕という事だ」
「奴……魔物使いの事!?」
「どうやら奴は我々の行動を監視しているようだ。油断するな、何処で見られているか分からんぞ」
「そんな……」


リーナはシノビの言葉を聞いて警戒するように周囲を振り返るが、今の所は怪しい影は見当たらない。一刻も早くナイ達の元へ向かわねばならないのに魔物使いに警戒しなければならない事に焦れる。

ナイ達との距離はそれほどの距離はなく、あと少しという所で辿り着けるのに魔物使いを警戒しながら進まなければならない事に焦りを抱く。しかし、焦っていても状況は好転せず、シノビは他の者に警戒するように注意しながら自分は先頭を歩く。


「油断するな、どんな罠が仕掛けられているのか分からん」
「罠って……どんな罠だよ」
「魔物を伏せているという事?」
「いや、近くに強い気配は感じない……だが、魔物を伏せる以外にも罠を仕掛ける事はできるだろう」


説明しながらシノビは草むらを掻き分け、彼は何かを見つけて眉をしかめる。シノビの反応に気付いた他の者たちは様子を伺うと、彼は拾い上げた物を見せた。


「これを見ろ」
「これは……魔石?」
「そうだ、しかもただの魔石ではない。マグマゴーレムの核だろう」
「核!?」


草むらの中に隠れていたのはマグマゴーレムの核であり、シノビは慎重に拾い上げて他の者に見せつけた。


「こいつも魔物使いの仕業か!?」
「そういう事だ……奴の能力ならばマグマゴーレムを従えて核を強制的に回収する事もできる。恐らく、あちこちに仕掛けているだろう」
「ええっ!?」
「おい、待て……マグマゴーレムの核は普通の火属性の魔石よりもやばいんだろ!?」
「通常の火属性の魔石の何倍もの魔力を秘めている……これが爆発すればとんでもない被害を及ぼす」


マグマゴーレムの核は市販の魔石の何倍もの魔力を秘めており、もしも傷ついて内部の魔力が暴走した場合、大爆発を引き起こす。

爆発の威力は赤毛熊などの魔物も簡単に吹き飛ばす威力を誇り、それが森のあちこちに設置されていたとしたら大変な事態に陥る。シノビは慎重に回収したマグマゴーレムの核を懐にしまい、周囲の様子を伺う。


「お前達もここから先は慎重に進め……一つでも誤って爆発すれば取り返しのつかない事態に陥るぞ」
「お、おう……」
「だが、ここまで来たら急いで移動して森を抜け出した方がいいのでは?」
「抜け出した先に罠が仕掛けられていない保証はないぞ。それに後から続く部隊はどうなる?迅速に罠を解除して先へ進む以外に方法はない」
「それは……そうかも」


仮に森を抜け出したとしても罠が仕掛けられている可能性があり、後続の部隊は急いでナイ達の援護に向かう事ができなくなった。リーナはナイの事が心配であるが、自分が勝手に行動するわけにはいかず、彼女はナイ達の無事を祈る――





――その一方で谷の方では傷ついた牙竜を相手にロランとドリスとリンが向かい合っていた。この三人が他の誰よりも早くに谷に到着できたのは三人の持つ武器が関わっていた。

リンの場合は暴風を利用して風を纏って高速移動を行い、ドリスの場合は真紅の能力で槍の柄の部分から火属性の魔力を放出して加速し、そしてロランの場合は双紅刃を利用した特殊な移動法を身に着けていた。


「グアアアアッ!!」
「逃さん!!」


傷を負って逃げ出そうとする牙竜に対し、ロランは両手で抱えた双紅刃を振り回すと、ある程度の魔力を蓄積した状態で駆け出す。ロランは移動の際中に地面に向けて双紅刃を叩き付け、その際に刃から重力の衝撃波を生み出して加速を行う。

双紅刃を叩き付ける事で衝撃波を放ち、それを利用してロランは高速移動を行う。この移動方法は見た目以上に緻密な魔力操作を行う必要があり、必要以上に魔力を込めると移動速度と距離が大変な事になって下手をしたら自爆しかねない。

ロランがこの移動法を身に着けるのに十年の歳月を費やし、そのお陰で彼は牙竜と同等以上の移動速度で追撃を行えた。逃げ出そうとする牙竜に対し、その背中に容赦なく攻撃を加える。


「ぬんっ!!」
「グギャアッ!?」


双紅刃の刃が牙竜の背中を斬りつけ、血飛沫が舞い上がる。傷を受けた牙竜はその場に倒れ込み、悔しがるように牙を剥きだしにしてロランを睨みつけた。
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