貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
1,057 / 1,110
最終章

第1037話 貧弱の英雄VS最強のゴーレム

しおりを挟む
「なっ!?あれを受けてまだ立てるのかい!?」
「皆は下がっててください!!巻き込まれないように!!」
「ナイ君、一人で大丈夫なのかい!?」
「が、頑張って!!もしも怪我をしたらすぐに治してあげるからね!!」


ナイは皆から離れると正気に戻ったアルトは心配そうな声をかけ、モモはナイの応援を行う。そんな二人に対してナイは頷き、ブラックゴーレムの元へ駆け出す。

ブラックゴーレムは現れたナイに対して口元を開き、赤色の光を灯す。それを見たナイはドゴンを吹き飛ばした「熱線」を放射するつもりだと気付き、反魔の盾を構えた。


「アガァアアアアッ!!」
「くぅっ!?」


反魔の盾を利用してナイはブラックゴーレムが吐き出した熱線を受け止めると、まるで鏡に反射するかの如く熱線を別方向へと受け流す。反魔の盾は衝撃と魔法攻撃を跳ね返す性質を持ち、それを利用してナイはブラックゴーレムの攻撃を防ぎながら向かう。


「うおおおおっ!!」
「ゴアッ!?」


旋斧を手にしたナイはブラックゴーレムに振りかざすと、相手は左腕を構えて防ぐ。単純な硬度は通常種のゴーレムとは比べ物にならず、ナイの全力の一撃を受けてもブラックゴーレムには罅も入らない。


(やっぱり硬い……生半可な攻撃は通じないか)


ブラックゴーレムを倒すためにはナイも渾身の一撃を与えなければならず、そう考えると旋斧では威力不足だった。ナイは距離を取ると旋斧を手放し、岩砕剣を引き抜く。一撃の重さならば岩砕剣の方が上であり、更に今回は反魔の盾を利用する。


「喰らえっ!!」
「ゴアアッ!?」


反魔の盾を構えたナイは岩砕剣を叩き付けると、その際に発生した衝撃波をブラックゴーレムに放つ。思いもよらぬ攻撃を受けたブラックゴーレムは体勢を崩し、そんなブラックゴーレムに対してナイは踏み込む。

岩砕剣を両手で握りしめたナイは「剛力」の技能を発揮させ、更にテン仕込みの剛剣の一撃を放つ。全身の筋力を利用してナイは岩砕剣を振り下ろすと、ブラックゴーレムの肉体に衝撃が走った。


「だあああっ!!」
「ウオオッ!!」


ブラックゴーレムはナイの攻撃を両腕を交差して防ぎ、まるで格闘家のような防御をしたブラックゴーレムにナイは驚く。以前に遭遇したブラックゴーレムと比べて魔物使いのアンが使役するブラックゴーレムは格闘家の動作を取り入れ、不用意に近付いてきたナイに対して足払いを行う。


「ウオオッ!!」
「うわっ!?」
「危ない!?」


ナイが足払いを受けて地面に倒れると、ブラックゴーレムは右足を振りかざして踏み潰そうとしてきた。それを見た他の者が声を上げるが、ナイは自分に迫りくる足に対して咄嗟に盾で弾き返す。


「このっ!!」
「ゴアッ!?」


踏み潰そうとした瞬間に反魔の盾によって防がれ、その際に衝撃波が発生してブラックゴーレムの体勢が崩れる。ナイは体勢を立て直すと岩砕剣を振りかざし、今度は一回転しながら叩き込む。


「円斧!!」
「ゴガァッ!?」
「よし、押してるよ!!」
「行けぇっ!!」


回転させる事で勢いを加速させて放つナイの剣技を受け、ブラックゴーレムは後退するとテンとルナが声を上げる。ナイの方が若干押しており、どんな攻撃も反魔の盾で弾き返せる彼が有利だった。

しかし、ブラックゴーレムも怒りを露わにして徐々に発熱し、全身の色が赤色に変色を始める。またもや熱線でも吐き出すつもりなのかとナイは警戒するが、ブラックゴーレムは背中の噴射口から火属性の魔力を放出させて加速を行う。


「ウオオオオッ!!」
「うわっ!?」
「は、早い!?」
「あんなに大きいのに何て早さなの!?」


ブラックゴーレムは加速するとあまりの移動速度にナイは対処しきれず、ブラックゴーレムは上空へと跳び上がる。それを見たナイ達は何をするつもりなのかと見上げると、ブラックゴーレムは空中に浮かんだ状態で両腕を突き出す。


「ゴアアアアッ!!」
「おい、嘘だろ!?」
「そんなまさかっ……逃げろ、ナイ君!!」
「えっ!?」


両腕を構えた瞬間にブラックゴーレムの肩の部分が変形し、背中だけでなはなく両肩にも「噴射口」が誕生した。そして噴射口から火属性の魔力が放出されると、凄まじい勢いで両腕が本体から離れて地上に発射された。

自身の両腕を切り離して地上へ撃ち込んだブラックゴーレムの行動に誰もが驚き、ナイは慌てて避けようとしたが加速した状態のブラックゴーレムの腕は本体よりも移動速度が速く、右拳の方が先にナイの手にしていた反魔の盾と衝突する。


「くううっ!?」
「は、弾き返した!!」
「いや、駄目だ!!」


初撃は防ぐ事に成功したが、この時にナイの反魔の盾が弾き飛んでしまう。どうやらブラックゴーレムは攻撃を仕掛ける際に掌を開いた状態だったらしく、反魔の盾に衝突した時に盾に指が食い込んでいたらしい。

盾が弾かれたナイは続けて放たれた左腕に対して岩砕剣で防ぐしかなく、衝撃に備えて大剣を支える。そして岩砕剣に左拳が衝突した瞬間、地面にクレーターが出来上がる程の衝撃がナイへと襲い掛かった。


「がはぁっ……!?」
「ナ、ナイくぅうんっ!!」
「モモ、駄目よ!!今近付いたら……!!」


ナイがブラックゴーレムの攻撃を受けて地面に倒れる姿を見て、反射的にモモは彼を助けるために飛び出そうとしたがヒナに止められた。

空中に浮かんでいたブラックゴーレムは地面に倒れたナイを見ると、容赦せずに今度は自分の身体ごと体当たりするつもりなのか突っ込んできた。それを見たナイは目を見開き、避ける事もできずに直撃を受けてしまう。


「ゴアアアアッ!!」
「うわぁああああっ!?」
「止めてぇえええっ!!」


ブラックゴーレムの突進を見てモモは悲鳴を上げ、ナイの身体に再び強烈な衝撃が広がる。それを見た者達はナイが死んだのではないかと思ったが、ナイは手にしていた岩砕剣でブラックゴーレムを防いでいた。


「ぐはぁっ……!!」
「ゴオオッ……!?」


自分の体当たりも岩砕剣で受け止めたナイにブラックゴーレムは驚くが、衝撃を完全に受け切れるはずがなく、ナイは血反吐を吐いて地面に力なく倒れ込む。それを見たブラックゴーレムはもうナイが動けないと判断し、それでも確実に止めを刺す岩砕剣越しに足を押し付けて踏み潰そうとした。


「ウオオオオッ!!」
「がああっ……!?」
「や、止めるんだ!!」
「もう見てられないぞ!!」
「ナイ君!!」
「ちくしょうがっ!!」


ナイが踏み潰されそうな姿を見て他の者たちは居てもたってもいられず、彼を救うために駆け出そうとした。しかし、それを予測していたかのようにブラックゴーレムは振り返り、口元に赤色の光を灯す。


「まずい!?皆、散るんだ!!」
「モモ、危ない!!」
「わあっ!?」
「アガァアアアアッ!!」


ブラックゴーレムはテン達に対して口元から熱線を放ち、それを事前に予想したアルトは全員に散らばるように指示を出す。しかし、直撃は避けられても熱線が地面に衝突した瞬間に爆発を起こす。

爆発の衝撃でテン達は吹き飛ばされ、全員が地面に倒れ込む。その光景を確認したブラックゴーレムは邪魔者が消えたと判断してナイの止めを刺す事に集中しようとした。しかし、ここで足元に違和感を感じる。


「おいっ……お前、今何をした……!?」
「ゴアッ……!?」
「皆に……手を出すな!!」


ブラックゴーレムがナイを見下ろした瞬間、今までにない気迫をナイは放ち、凄まじい腕力を発揮してナイはブラックゴーレムを持ち上げる。ブラックゴーレムの体重はロックゴーレムの十倍以上の重量を誇るが、ナイは傷を負った状態でブラックゴーレムを持ち上げると、地面に叩き付けた。


「だあああっ!!」
「ゴアッ!?アガァッ!?ウオッ!?」


力任せにナイは何度もブラックゴーレムを地面に叩き付け、最終的にはブラックゴーレムの巨体を振り回す。あまりの腕力にブラックゴーレムは抵抗する事ができず、そのまま投げ飛ばされてしまう。


「うりゃあああっ!!」
「ゴアアアッ!?」


投げ飛ばされたブラックゴーレムは悲鳴を上げながら湖に向けて突っ込み、そのまま水中に沈んでしまう。普通のゴーレムならば水が弱点で戦闘不能なのだが、特殊な鉱石で構成されているブラックゴーレムには通じない。

水中に沈みながらもブラックゴーレムは身体を発熱させ、再び赤色に変色すると噴射口から火属性の魔力を噴き出す。水中でも高速移動ができるらしく、ブラックゴーレムは水面に浮上すると怒りの咆哮を放つ。


「ウオオオオッ!!」
「くそっ……まだ動けるのか」


ナイは再生術を発動させてどうにか身体が動けるまでに回復すると、再び空中に浮上したブラックゴーレムを見て舌打ちを行う。ここまでの戦闘でブラックゴーレムに有効的な損傷は与えられておらず、その代わりに先ほどの攻撃でブラックゴーレムは両腕を失っていた。


(切り離した両腕は動かす事ができないのか……待てよ、そういえば前の時は……)


前回に戦ったブラックゴーレムは身体の各所に埋め込まれている黒水晶に魔力を吸収し、それを利用して攻撃を行っていた事をナイは思い出す。今回現れたブラックゴーレムも身体の各所に埋め込まれた黒水晶に火属性の魔力を宿していた。

以前の時はブラックゴーレムは吸収した魔力を解放すればすぐに魔力切れを引き起こしたが、今回のブラックゴーレムは凄まじい勢いで火属性の魔力を放出しているにも関わらず、魔力が切れる様子がない。よほど黒水晶に魔力を蓄積しているのかと思われるが、その魔力はどうやって手に入れたのかナイは気になった。

しかし、今はブラックゴーレムが魔力を蓄積させた方法よりも倒す方法を考えなければならず、この時にナイはブラックゴーレムから切り離された両腕に視線を向けた。両腕にも黒水晶が存在し、まだ魔力が残っているのか赤々と光っているのを確認すると、ナイはある事を思いつく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...