貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1036話 最強ゴーレム決戦

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「ドゴゴゴゴッ!!」
「ゴアッ!?」


頭突きを繰り出した後、先手を取ったのはドゴンだった。ドゴンは以前よりも素早い動きでブラックゴーレムを殴りつけ、格段に速度が増していた。ブラックゴーレムは反撃する暇もなく、何度も殴りつけられる。


「おおっ!!押してますよ!!」
「ふふふ……今のドゴンはただの人造ゴーレムじゃない、改造を加えた新生ドゴンだ!!」
「な、何だか前よりも痩せてないかい?」


ドゴンは以前よりも全体的に細くなっており、重量が軽くなっていた。そのお陰でゴーレム種の弱点である「鈍重」がなくなり、素早い動作で相手に攻撃を仕掛ける事ができた。

今現在のドゴンは速度を重視して余分な物を削ぎ落し、攻撃速度を上げてブラックゴーレムに追い詰める。この時にブラックゴーレムを殴りつける両拳の方も改造が加えられ、両手は「鉄槌」のように変化できる。


「ドゴォンッ!!」
「ゴアッ!?」
「な、何だい……あの両手、前のと違うのかい?」
「そう、両手を鉄槌の形に変化した事で打撃力が増しているんだ。あれほどの速度で鉄槌を繰り出されたら例えゴーレムキングだろうと破壊できる(はず)!!」
「す、凄いですね……」
「ドゴンちゃん!!頑張れ~!!」


アルトの言葉を聞いてヒナは冷や汗を流し、モモはドゴンの応援を行う。声援に応えるように改造を加えられたドゴンは両手の鉄槌でブラックゴーレムの顔面を殴りつける。


「ドゴンッ!!ドゴンッ!!」
「ウオッ!?ゴアッ……!?」
「嫌がってるよ!!どうやら効いているようだね!!」
「そのまま行くんだドゴン!!君が最強のゴーレムだと証明するんだ!!」
「う~ん……そんなに上手くいきますかね」


ドゴンは一方的にブラックゴーレムを殴りつけ、反撃の隙も与えない。この調子ならばブラックゴーレムを破壊するのも時間の問題だと思われたが、徐々にブラックゴーレムの身体が赤色に変色を始める。


「オオオオッ……!!」
「ドゴンッ!?」
「発熱してますよ!!何だかやばい感じです!!」
「やはりそう来たか……だが、ドゴンには通じない!!ドゴン、あれを使うんだ!!」


ブラックゴーレムの肉体に火属性の魔力が宿り始めた瞬間、それを予測していたかのようにアルトは指を鳴らす。ドゴンはアルトの指示に従って胸元の部分に手を伸ばすと、ドゴンの胸元の部分が割れて凄まじい冷気が放出された。


「ドゴォンッ!!」
「ゴアッ!?」
「な、何だいあれは!?」
「ふっふっふっ……あれこそが僕のドゴンの最終兵器!!大量の水属性の魔石を搭載して作り出した噴射機ならぬ冷射機さ!!」
「冷射機!?」


ドゴンの胸元は元々は開閉式であり、そこにアルトは自分で造り出した魔道具を隠しておいた。彼が作り出したのは飛行船を飛ばすのに利用される「噴射機」を参考にして作り出した新型の魔道具だった。

冷射機と名付けた魔道具は大量の水属性の魔石を搭載し、それを利用して冷気を作り出す。この冷気によってブラックゴーレムが発熱した瞬間、ドゴンは冷気を送り込んで熱を下げる。


「ウオオッ……!?」
「今だ!!敵は固まって硬度も下がったはずだ!!攻撃するなら今しかない!!」
「ドゴンッ!!」


ブラックゴーレムは冷気を浴びた事で身体の発熱が収まり、しかも凍結化した途端にドゴンは攻撃を再開した。大抵の物質は凍らせると硬度が下がるため、それを利用してドゴンはブラックゴーレムを追い込む。

前回の戦闘でアルトはブラックゴーレムの性質を理解し、それに対応できるようにドゴンに改造を施した。そして改造を加えたドゴンはブラックゴーレムの能力を封じ、一方的に殴りつける。


「ドゴォンッ!!」
「ゴアアッ!?」
「よし、決まった!!」
「行けぇっ!!倒せっ!!」
「あと少しだ!!頑張れ!!」


ドゴンの繰り出した拳がブラックゴーレムの顔面を捉え、相手は大きく仰け反る。その隙を逃さずにドゴンは追撃を加えようとしたが、ここでブラックゴーレムの顔面に異変が発生した。


「オアアアッ!!」
「ドゴンッ!?」


仰け反った状態からブラックゴーレムは体勢を立て直すと、ドゴンに組み付く。これによってドゴンは胸元を抑え込まれて冷射機を解放する事ができず、必死に逃れようとするが純粋な腕力はブラックゴーレムが上なのか引き剥がせない。


「ウオオオオオッ!!」
「ドゴォッ……!?」
「まずい、力負けしています!!やっぱり移動速度を重視し過ぎて腕力が弱まってます!!」
「し、しまった!!ドゴン、離れるんだ!!」
「おいおい、大丈夫なのかい!?」
「助けに向かうぞ!!」


力尽くで抑えつけられたドゴンを見て他の者たちも救出に向かおうとしたが、時は既に遅く、ブラックゴーレムは全身を発熱させて徐々に肉体が赤色に変色を始めていた。


「ゴアアアアアッ!!」
「ドゴォンッ!?」
「まずい!?皆、伏せな!!」
「わあっ!?」
「きゃあっ!?」


ドゴンを拘束した状態でブラックゴーレムは口元に赤色の光を放つと、それを見たテンは咄嗟にヒナとモモの身体を掴んで身体を伏せる。他の者たちも彼女に続いて身体を伏せるが、アルトだけはドゴンの名前を叫びながら彼を助けに向かおうとした。


「ド、ドゴォオオンッ!!」
「駄目です、王子様!?」
「死んじゃいますよ!?」


しかし、アルトの後ろからイリアとエリナが飛び込んで彼を押し倒し、次の瞬間にブラックゴーレムは至近距離からドゴンに向けて火属性の魔力を吐き出す。本来ならばにしか放てないはずの「火炎の吐息」をブラックゴーレムはドゴンの顔面に浴びせた。


「アガァアアアッ!!」
「ッ――!?」
「止めろ、止めるんだぁあああっ!!」


至近距離から熱線を受けたドゴンは顔の形が変形し、それどころか吹き飛ばされたドゴンが後方に存在した飛行船の中に突っ込み、再び飛行船が激しく揺れ動く。

三度もブラックゴーレムの攻撃を受けた飛行船は大破寸前であり、これ以上に攻撃を受けたら沈みかねない。しかも最悪な事にドゴンを吹き飛ばしたブラックゴーレムは発熱が収まらず、今度は背中の噴射口を開いて加速しようとしていた。


「ゴアアアッ……!!」
「ちょっ!?あの化物、本当に船を壊すつもりですよ!!」
「や、やばい!!何とかしな!?」
「何とかって……どうすればいいんですか!?」
「ド、ドゴン……ドゴォンッ!!」


ブラックゴーレムが飛行船に突っ込もうとしている事に気付いた者達はあわてふためくが、その中でアルトだけは船の中に突っ込んだドゴンの名前を叫ぶ。そんな彼に気付いたブラックゴーレムはアルトに視線を向け、彼に身体を向けて照準を定める。


「ゴオオオッ!!」
「やばい!?あいつ、こっちに突っ込むつもりだよ!!」
「ちょっと!!アルト王子、早く逃げますよ!!」
「ううっ……」
「号泣!?そんなにあのゴーレムが大事だったんですか!?」
「で、でも早く逃げないと死んじゃうよ!?」


項垂れるアルトに他の者が必死に彼を連れて逃げようとするが、既にブラックゴーレムは準備を整えていた。今度は標的を逃さず、先ほどよりも移動速度を上げるつもりなのか地面に両手を喰い込ませて背中から火属性の魔力を放出する。

凄まじい勢いでブラックゴーレムの背中に存在する噴射口から魔力が解き放たれ、地面に掴んだ両手を離せばブラックゴーレムは最高速度でアルトに突っ込む。直撃すればアルトどころか彼の周りにいる人間達も死ぬ事は間違いなく、更に飛行船の方も確実に破壊できる。



――ウォオオオオッ!!



ブラックゴーレムは両手を離した瞬間、凄まじい速度で突っ込む。その光景を目にした者達はもう駄目かと思った時、何者かが間に割って入って円盤型の「盾」を構える。


「させるかぁっ!!」
「ゴアッ――!?」


加速状態のブラックゴーレムの前に現れたのは「反魔の盾」を構えたナイであり、彼は正面からブラックゴーレムの体当たりを受け止めた。普通ならばナイは吹き飛んでいてもおかしくはないが、彼の装備する反魔の盾はあらゆる衝撃を跳ね返す性質を持つ盾だった。

ブラックゴーレムと盾が衝突した瞬間、凄まじい衝撃波が発生して地面に亀裂が走り、ブラックゴーレムとナイはお互いに後方へ吹き飛ぶ。ナイはアルト達の立っている方向へ飛ばされ、ブラックゴーレムの方は後方に存在した木々に身体をぶつけて何本もの大木を巻き込んで倒れ込む。


「うわぁっ!?」
「きゃあっ!?」
「ぐふぅっ!?」
「ひゃんっ!?」


ナイは仲間達を巻き込んで地面に倒れ込み、この際に彼はモモを押し倒す形で彼女の胸元に顔を突っ込む。反魔の盾が上手く衝撃を跳ね返してくれたが、完全には防ぎきれずに吹き飛んでしまった。


「いたたっ……ご、ごめん、モモ……怪我してない」
「う、うん……怪我はしてないけど……あっ、そこはくすぐったいよぅっ」
「ちょ、ちょっと……こんな時にいちゃつかないでよ」
「いててっ……ど、どうなったんだい?」


ナイとモモはお互いに頬を赤らめながらも立ち上がり、他の者たちも何とか起き上がる。彼等は派手に吹き飛んだブラックゴーレムに視線を向け、ナイは地面に落ちていた反魔の盾を拾い上げる。


(ふうっ……ありがとう、助かったよゴマン)


反魔の盾を手にしたナイは亡き親友の事を思い出し、もしも反魔の盾がなければナイは皆を守る事はできなかった。だが、まだ戦闘は終わっていないので気を抜く事はできず、ナイは反魔の盾を左腕に装備してブラックゴーレムの様子を伺う。

ブラックゴーレムは先ほどの衝撃で派手に吹き飛び、何本もの大木を破壊しながら地面に倒れ込む。普通の生物ならば生きていないだろうが、ブラックゴーレムはゆっくりと身体を起き上げる。
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