貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1017話 兄(姉)弟の絆

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「御二人の同行は認められません。貴方達はいずれこの国を背負う身……どうか、ご自分の立場をご理解くだされ」
「何故ですか!!アルトだって私達と同じですよ!?」
「アルト王子は飛行船の運転のために止む無く連れて行きます。その代わりに我が命に代えてもアルト王子様はお守りする事を誓います」
「……弟だけに危険な任務を任せ、我々は何もせずに残れというつもりか?」
「何と言われようと今回ばかりは御二人を連れていけませぬ」


ロランに対してバッシュやリノは食い下がるが、彼は頑なに二人の同行を認めない。忠誠を誓う王族に対して真っ向から言い返す事ができるのは大将軍の彼だけである。それに二人にとってロランは武芸を教えてくれた師匠でもあり、他の人間と違って二人とも強く主張はできない。


「アルトだってこの国のために必要な人材です!!ま、まあ昔から色々と問題は起こして来ましたが……最近は立派に務めを果たしています!!」
「それは存じております。アルト王子もこの国に必要な御方……だからこそ私がこの命に代えてもあの方をお守りしましょう。しかし、お二方を連れて行くとなると私だけでは守り切る自信はありません」
「どうしても駄目だというのか?」
「駄目です。仮に国王様が御二人を連れていくように命じられたとしても、私はそれを拒否します。どうしても行きたいのであれば私を大将軍の位から外し、この国から追放して下さい」
「そ、そんな事……できるはずがないでしょう!!」


王命としてバッシュとリノを連れていく事を仮に命令されたとしても、ロランは拒否する事を告げ、今回ばかりは二人を連れていく事は絶対に許さなかった。

グマグ火山の時と違い、今回は「竜種」という強大な敵が生息する地域に向かう。そんな危険地帯にこの国を受け継ぐ立場の三人の王子を連れて行き、万が一にも三人に何かあればこの国は滅びかねない。この国を支える事ができるのはこの三人だけである。


「御二人ともどうかご理解ください。仮に二人を連れて行ったとしても戦力になんら変わりはありませぬ」
「そ、それは私達では力になれないという意味ですか!?」
「ただの魔物や他国の軍隊であれば御二人の力も通じましょう。しかし、相手は常識を超えた怪物です。竜種とはどれほど恐ろしい存在なのか、御二人とも知っているはずです」
「…………」


竜種の恐ろしさに関してはバッシュもリノも嫌という程思い知り、二人は王都を襲撃した火竜を思い出す。あの時は全員が力を合わせて勝利したが、火竜の襲撃によって多くの被害が生まれた。

今回の敵は火竜程の脅威はないと思われるが、それでも火竜と同じ竜種である事から確実に勝てる保証はない。下手をしたら部隊が壊滅する危険性もあり、そんな相手にこれから国を継ぐ立場の人間を連れていけるはずがない。


「バッシュ王子、リノ王女……貴方達の弟を想う気持ちはよく分かります。しかし、御二人を連れて行けば私一人の力では御三方を守れるとは言い切れません。どうか、ご理解ください」
「くっ……」
「……もしもアルトの身に何かあれば、その時は責任を取れるのか?」
「何があろうと私はアルト王子を優先し、守る事を誓います。もしもこの誓いを破られた時、私は自らの手で自分の命を絶ちます」


アルトを守り切る事ができなければ自害するとまで言い張るロランの覚悟にバッシュとリノは何も言い課せず、仕方なく二人はロランにアルトの事を任せる事にした。本音を言えば色々と言いたいことはあるが、どんな言葉を口にしようとロランには通じないと悟る。


「その言葉、忘れるな……アルトを頼みます、先生」
「どうか……弟の事をよろしくお願いします」
「この命に賭けてアルト王子をお守りましょう」


バッシュとリノは最後にロランと握手を交わし、この時にロランは二人の腕が震えている事をに気付く。二人ともアルトを心の底から心配しているのか悟り、ロランは何があろうと自分がアルトを守る事を誓う――





――ロランがバッシュとリノの説得を行っている頃、ナイは準備を終えて飛行船に向かおうとした時、思いもよらぬ邪魔が入った。それはビャクとプルミンであり、ニ匹はナイの服を引っ張って行かせないようにする。


「グルルルッ……!!」
「ぷるぷるっ!!」
「いたたたっ!?ちょっと、痛いって……」
「何々、どうしたの!?」
「ナイ君!?」


白猫亭の前でナイはビャクにマントを引っ張られ、プルミンに頭を噛み付かれる。騒ぎに気付いたヒナとモモが宿屋から出てくると、ナイを飛行船に生かせないようにするビャクとプルミンを見て戸惑う。


「あ、良かった二人とも……ビャクとプルミンを引き剥がすの手伝って!!」
「手伝ってと言われても……」
「もう、ビャクちゃん!!ナイ君のマントが破れちゃうでしょ!?おいたは駄目だよ!!」
「クゥ~ンッ……」


モモに叱られたビャクはナイのマントを口から離すが、今度はナイの方に擦り寄ってくる。甘えてくるというよりは縋りつくようにビャクはナイから離れず、プルミンも頭を齧るのを止めてナイに頬ずりを行う。


「ぷるぷる~」
「もう……二人とも言ったでしょ、今回は一緒に連れていく事はできないんだよ。飛行船に乗せられないの」
「ウォンッ!!」
「怒っても駄目!!」
「そういえば二人(匹?)ともナイ君がいない間、寂しそうだったわね……」


ビャクとプルミンはナイが不在の間は白猫亭で面倒を見ていたが、基本的には餌の時以外は二匹とも白猫亭に戻る事はない。前回にアンが襲撃を仕掛けてきた時は二匹とも城壁の上で散歩していた。

王都の規則では人間が飼育している魔獣でも拘束具系の魔道具を取りつける事が義務付けされているが、英雄であるナイのペットという事で特別に二匹とも拘束具の魔道具を取りつけられず、街中を自由に行動する事が許されていた。

街の人々も兵士もすっかり今ではビャク達とも顔なじみであるため、彼等を見て驚く事はない。それどころか子供達に人気でナイがいないときは王都の孤児院で子供達の遊び相手を務める事もある。しかし、今回の遠征は予定よりも大分遅く帰還してしまい、しかも帰って早々にまた飛行船に乗って離れるナイにビャクとプルリンは寂しく感じて引き留めようとする。


「クゥ~ンッ……」
「ぷるぷるっ……」
「ううっ……そんなつぶらな瞳で見ても駄目だよ」
「まるで雨の中で打たれる子犬のような目ね……狼だけど」
「そ、そんな目で見ないで~……」


ナイと一緒に居たい二匹は自分達を連れて行ってほしいとばかりに擦り寄るが、今回の飛行船に乗り込める人員は決まっており、勝手にビャクとプルリンを連れていくわけにはいかない。ナイはどうにか二匹を宥めて残らせようとした時、思いもよらぬ人物が訪れた。


「いいじゃないですか、一緒に連れて行ってあげましょう」
「えっ!?その声は……」
「イリアさん!?」


声がした方向にナイ達は振り返ると、そこには大量の荷物を背負ったイリアの姿があった。彼女は疲れた表情を浮かべて荷物を下ろすと、ナイの傍に座り込むビャクの身体に手を触れる。


「私の研究を手伝ってくれるのなら連れて行ってもいいですよ。話は私が通しておきます」
「えっ、いんですか!?」
「ウォンッ?」
「ぷるんっ?」


イリアの思わぬ言葉にナイは驚き、不思議そうにビャクとプルリンは首を傾げる。まさかイリアがこの二匹を連れていく事を許可するなど思いもよらず、ナイ達は驚きを隠せない。


「ほ、本当にいいんですか!?」
「いいですよ、その代わりに私の研究の手伝いをお願いします」
「研究の手伝い?」
「ええ、これから私達が向かう和国の旧領地……いえ、シノビさんの一族の隠れ里とやらには珍しい植物が生えているそうです。シノビさんとクノさんに直接聞いたところ、この地方で見かけない薬草なんかも生えているそうですし、もしかしたら私の実験に使える素材も手に入るかもしれません。ですけど、非力な私では魔物が生息する地域で素材の回収は行えませんからね。用心棒代わりにビャク君にも手伝ってもらいますよ」
「な、なるほど……でもプルミンも一緒にいいんですか?」
「プルミンさんには私の枕になって貰います」
「ぷるんっ(お安い御用だぜ)」


魔導士のイリアの権限で彼女は自分の研究を手伝う事を条件にビャクとプルミンの同行を許可する。また、彼女がここへ来た目的は別にあり、それはモモに関する事だった。


「それとモモさんも私の助手として一緒に付いて来てもらいますよ」
「えっ!?私も?」
「言ったじゃないですか、私の助手として働いてもらうって……期限は設けてませんでしたからね。今回の作戦まで付き合ってもらいます。ちゃんと給料は払いますよ」
「やった!!ナイ君、また一緒にいられるね!!」
「う、うん……それは嬉しいけど、白猫亭は大丈夫なの?」
「まあ……うちはこの有様だから、しばらくは営業できないし問題ないわ」


ヒナは疲れた表情を浮かべて白猫亭に視線を向け、現在の白猫亭はドゴンとブラックゴーレムの戦闘に巻き込まれて建物が壊れ、現在も修復作業が行われていた。

ちなみに被害を受けたのは白猫亭だけではなく、ここら一帯の建物も同じく工事中でとても店が経営できる状況ではない。工事が終わるまでは白猫亭も営業できず、モモもヒナも暇を持て余していた。
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