貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1010話 思いもよらぬ再会

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『ふはははっ!!相変わらず仲が良さそうだな、お前達!!』
「えっ!?その声は」


見回りの途中、ナイ達は聞き覚えのあるを耳にした。三人は驚いて振り返ると、黄金級冒険者のゴウカとマリンの姿があった。どうして二人がここにいるのかとナイ達は驚き、彼の元へ向かう。


「ゴウカさん!!どうしてこんな所に!?」
『ん?我等は散歩をしてただけだぞ?』
「散歩って……もう外に出られたんですか?」
『その点は大丈夫……もうゴウカは囚人じゃない、正式に釈放された』


ゴウカとロランは一年前の事件で監獄に収監され、グマグ火山のマグマゴーレムの討伐のために彼等は仮釈放された。王都へ引き返してからは二人は王城で監視されていたが、先日に国王は二人の罪を許して正式に釈放させたという。

グマグ火山のマグマゴーレムの討伐作戦の際、ゴウカもロランも大きな功績を上げた事を認められて特別に罪が許された。ロランは大将軍に復帰し、そしてゴウカの方も無事に黄金級冒険者に復帰した。但し、彼の場合はマリンの監視付きでなければ行動しなければならず、完全に復帰したわけではない。


『こいつが問題を起こそうとすれば私が止める……そういう約束で冒険者に戻る事を許された』
『そのせいで何処へ行くにもこいつを連れて行かなければならなくてな!!まるで子持ちの父親になった気分だ!!』
『うるさい、耳元で騒ぐな』
「そ、そうだったんですか……お勤めご苦労様でした」


ロランとゴウカが正式に釈放された事は喜ばしく、恐らく国王としては聖女騎士団が不在の間、ロランとゴウカを復帰させる事で王都の治安を維持しようと考えたのだろう。大将軍と最強の黄金級冒険者が復帰したと聞けば悪党も王都から逃げ出す。


「それで御二人はどうしてこんな時間帯に散歩を?もう夜ですよ?」
『夜の散歩も偶にはいいではないか。それより、こうして会えたのだから手合わせをしてみるか?久しぶりに冒険者ギルドに戻って他の冒険者と手合わせをしたんだが、どいつもこいつも手応えがなくてな』
『こいつのせいで新しく入った冒険者の何人かが心が折れた。もしかしたら明日には何人か辞めるかも知れない』
「そ、それは……可哀想ですね」


ゴウカは復帰した直後に冒険者ギルドへ赴き、彼が不在の間に冒険者になった者達を相手に組手を行った。彼の事を知らない冒険者達はゴウカの提案に乗り、最強の黄金級冒険者がどの程度の実力なのか推し量ろうとした人間も多数いた。

しかし、ゴウカが居ない間に冒険者になった者達は彼の恐ろしさを知らず、たった一日で新人の冒険者全員が心を折られた。自分の腕に自信があった新人冒険者も圧倒的な実力差を思い知らされ、その中には心を折られて冒険者を止めようと考えた者もいる。


『全く、冒険者の質も落ちたな!!俺がいない間にどれだけの冒険者が育ったのかと期待していたが、あの程度では到底冒険者は務まらん!!』
「ちなみにガオウさんとは……」
『おお、もちろん戦ったぞ!!ガオウの奴はちゃんと腕を上げていたな!!まあ、勝負は当然俺の勝ちだったが!!』
「そうなんですか……」


ゴウカを敵視しているガオウも当然彼に挑んだが、結局はいつも通りに返り討ちにされたらしい。この一年の間にガオウも腕を上げたが、ゴウカの方は一年間もロランと同じ牢獄で過ごし、彼と共に腕を磨いでいたので身体は鈍るどころかさらに腕を上げたらしい。


『そうだ少年!!これから闘技場に行かないか!?前の時は手合わせだったが、久々に俺も本気を出せる相手と戦いたい!!ここでどちらが上か決着を着けようではないか!!』
「えっ!?ナイさんとゴウカさんが!?」
「それは確かに気になる」
「ちょっ……」
『勝手な事を言うな!!誰がお前の尻拭いをすると思うんだ!?』


ゴウカはナイがどの程度成長したのか気にかかり、飛行船で彼と手合わせをした時は他の者に止められて決着は着かなかった。そのためにゴウカは機会があればナイと戦いたいと思っていた。

マリンはぽかぽかとゴウカを殴りつけて止めようとするが、ゴウカは我慢できずにナイに試合を申し込む。しかし、ナイとしてはゴウカと戦えばただでは済まないと思い、どうにか考え直すように説得する。


「いや、今は仕事中ですから……」
『むう、仕事か……それならば仕方ないな』
「あれ!?意外とあっさりと退きましたね!?」
『俺の事を何だと思っている。流石に真面目に仕事をする人間の邪魔するほど子供ではないぞ!!』
『どの口が言う……』


ゴウカは意外なほどにナイの言葉にあっさりと従い、今は業務中なので彼にこれ以上にちょっかいを掛けようとはしなかった。意外と聞き分けが良いゴウカにナイは安堵するが、次の彼の言葉にナイは戸惑う。


『ならば仕事が終わった後ならばいいんだな?』
「えっ……」
『よし、それならば俺も見回りを付き合うぞ!!仕事を早く終わらせればそれだけ早く勝負できるからな!!』
「ちょっ、何を言い出すんですか!?」
『まあ、いいではないか。黄金級冒険者が二人も付き合うんだぞ?すぐに仕事も終わるはず!!』
『私も巻き込むな!?』


ゴウカの思わぬ発言に他の者たちが戸惑い、ナイも本当にゴウカが自分と戦うためだけに見回りの仕事を手伝うつもりなのかと焦る。しかし、この時に彼は視界の端にある物を捉えて目を見開く。


「あれは……」
『ん?急にどうした?』
「すいません、ちょっと離れます!!」
「あ、ナイさん!?」
「何処へ行くの?」


視界の端に捉えた生き物を見てナイは駆け出し、そんな彼の行動に他の者たちは戸惑う。全速力で駆け出したナイは生物の後を追いかけ、人気のない路地裏に移動する。

相手を見失わない様にナイは「暗視」と「観察眼」の技能を発動させ、一瞬たりとも目を離さない。やがてナイが辿り着いた場所はヒイロ達と最初に出会った建物に囲まれた空き地であり、そこに辿り着くとナイは追いかけていた生物を捕まえる。


「捕まえた!!」
「チュウッ!?」


ナイが捕まえた生物の正体は「白色」の毛皮で覆われた鼠型の魔獣だった。この魔獣は船内でも見かけた魔獣で間違いなく、ナイは魔物使いのアンが操っていた魔獣と同じ種の魔獣を見つけて捕まえた。


「チュチュッ……!!」
「こら、大人しくしろ……猫の餌にしちゃうぞ!!」
「そいつは勘弁してほしいね……うちの新入りなんだよ」
「えっ……」


魔獣が逃げないようにナイはしっかりと捕まえると、何処からか老婆の声が聞こえてきた。彼は驚いて振り返ると、そこには一年前に消息を絶ったはずの人物が立っていた。



――王都にはかつて灰鼠《ラット》と呼ばれる魔獣を従える使の情報屋が存在した。その名前は「ネズミ」彼女は聖女騎士団の団長を務めるテンの育ての親であり、一年前に姿を消したはずの老婆だった。



風の噂ではネズミは殺されたと囁かれ、テンも彼女が生きている事はないと語った。しかし、その死んだはずのネズミが自分の元に現れた事にナイは戸惑いを隠せない。


「ネズミさん!?生きてたんですか!?」
「勝手に殺すんじゃないよ。まあ、死にかけたのは事実だけどね……」
「いったい何があったんですか?」
「……話すと長くなるから、まずはあたしの可愛い鼠を離してくれないかい?」
「あ、はい……」
「チュチュウッ!!」


ナイは言われるがままに白鼠を解放すると、ネズミの元に白鼠は向かい、彼女の肩の上に移動する。その様子を見届けた鼠は笑みを浮かべ、改めてナイと向き合う。


「あんた、久しぶりだね。名前はナイだったね」
「ネズミさん、生きててよかった……テンさんは知ってるんですか?」
「いいや、知らないだろうね。あたしは今度こそ完璧に身を隠したからね」
「今までどうしてたんですか?何で急にいなくなったんですか?」
「……その辺の話をすると本当に長くなるよ。それでも聞きたいのかい?」
「教えてください!!」


ネズミはナイの返事を聞いて溜息を吐き出し、彼と話をする前に自分の身に何か起きたのかを語り出す――





――約一年前、ネズミは宰相に命を狙われると知ってシノビに情報を託した。その情報の内容とは宰相が王国を裏で牛耳っている事、これまでに起きた事件に彼が関わっているという内容だった。

当然だがそんな情報を流せば宰相が黙っているはずがなく、彼女の元に刺客を送り込む。ネズミは死を覚悟したが、意外な事に彼女を見逃したのは「シャドウ」だった。彼はネズミを殺すために派遣されたが、シャドウはネズミを殺さずに見逃す。


『お前とは長い付き合いだ。だから生かしてやってもいい』
『何のつもりだい?あんたが私に情けをかけるなんて?』
『勘違いするな、お前の情報収集力は侮れない……そう思っただけだ』


シャドウはネズミの魔物を利用した情報収集力の高さを惜しみ、一度だけ彼女を見逃すことにした。ネズミはすぐに王都から離れ、別の遠い街で「白面」の監視下の元で暮らしていた。

しかし、宰相とシャドウが死んだ後、彼等に従っていた白面の組織も壊滅した。それによってネズミは自由を得た。それでも彼女は王都に戻らなかったのはもうテンと関りを持つのを避けたためである。


『あの子はもう立派に生きていける……あたしなんて必要ないね』


王都から拠点を移したネズミは今まで通りに情報屋として生きてきた。しかし、そんな彼女の元に思いもよらぬ噂が届く。それは例の魔物使いアンに関する事だった。史上最悪の犯罪者と謳われたバートンの娘が聖女騎士団の団員を殺したという話を聞き、彼女はその話を聞いて真実を確かめるために王都へと戻ってきたという。
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