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嵐の前の静けさ
第1002話 この命が尽き果てようと……
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――飛行船に全員が戻ると、医療室に大勢の人間が訪れる。彼等は目覚めたナイの身を案じるが、当の本人はイリアの薬のお陰で大分身体が回復していた。
「どうですか?私の作った滋養強壮剤は?」
「うん、身体が楽になったよ。この調子なら今すぐにでも戦えると思うけど……」
「あんまり無理をするんじゃないよ。それにあんたが付いて来たとしても武器がなければどうしようもないだろう?」
「あ、そうだ……ハマーンさんから伝言を頼まれてたんだ。ナイ君の武器はハマーンさんが打ち直してるそうだよ」
「旋斧と岩砕剣を?」
「ううん、ナイ君の装備全部だって」
ナイは言われてみて武器だけではなく、自分が身に付けていた装備品が全て無くなっている事に気付く。どうやらハマーンはナイが意識を失っている間に武具と防具を回収したらしく、彼は船内にある工房に籠ってナイの装備を全て打ち直しているらしい。
いつもならばナイが頼んだ時や、あるいは彼の方から頼んで来た時に装備を渡すのだが、今回はナイが意識を失っている間に無断でハマーンは彼の装備を回収した事になる。ハマーンの行動にナイは疑問を抱き、他の者たちも不思議に思う。
「あの爺さんが許可もなく勝手に持って行ったのか?」
「いくらこの国一番の鍛冶師だからって、それは横暴じゃないのかい?」
「確かにハマーンさんらしくないですね……」
「まあ、別に装備を強くしてくれるのならいいけど……」
ナイ本人は勝手に装備を持っていかれた事に関しては怒っておらず、自分の代わりに装備を強化してくれるのであれば文句はない。しかし、ハマーンの行動にガオウは疑問を抱き、彼はこっそりと医療室を抜け出す――
――ハマーンの工房では作業に集中するために自分の弟子達も追い出し、一心不乱に鉄槌を振り下ろしていた。ナイの装備品の殆どは打ち直したが、残されたのは旋斧と岩砕剣だけだった。
旋斧も岩砕剣も伝説の鍛冶師が造り上げた代物だが、この時代にナイの元に渡るまでその名前は全く知られていなかった。しかし、この二つの魔剣は間違いなく歴史に名前を刻む伝説の聖剣に匹敵する武器だとハマーンは確信する。
(これほどの魔剣を鍛え上げるためにどれほど苦労した事か……羨ましいのう、儂も生きている間にこれほどの名剣を作り上げたかった)
ハマーンは王国一の鍛冶師として知られ、彼の作り出した武器や防具は一級品ばかりで大勢の武芸者が愛用している。しかし、それでも彼は自分が納得するだけの「魔剣」を作り上げた事はない。
魔剣の制作を行った事は一度や二度ではなく、ハマーンは何本か魔剣を作り出した事はある。しかし、それでも彼はロランの「双紅刃」やドリスの「真紅」リンの「暴風」他にもリーナの「蒼月」やナイの「旋斧」や「岩砕剣」といった魔剣と比べると見劣りしてしまう。
(儂にはもう時間は残されておらん……それならばせめて死ぬ前にこの二つの魔剣を鍛え上げ、歴史に名を刻む英雄に相応しい武器に仕上げねばならん)
ハマーンは作業中に何度も彼は咳き込んでは血を吐き出す。恐らく、この仕事を終えればハマーンは二度と鍛冶は行えず、これが正真正銘「鍛冶師ハマーン」の最後の仕事となる。
(悔いはない、ここまで生きてきた事がそもそも奇跡じゃ。だが、頼むから途中で力尽きるな……儂の身体よ)
鉄槌を振り上げる度にハマーンは次の瞬間には自分の心臓が止まってしまうのではないかと思い、それほどまでに彼の身体はもう限界に迫っていた。
それでもハマーンは作業を止めないのは鍛冶師として意地であり、彼は鍛冶師職人として最後の時まで仕事に向き合う事を決めていた。仮に死ぬとしても工房の中で死ねるならば後悔はない。
「…………」
そんなハマーンの様子を扉の隙間から伺う人物が存在した。その人物はガオウであり、彼はハマーンとは数年程度の付き合いだが、それでも彼の事は同じ冒険者として尊敬していた。
『なんじゃい小僧?その程度の腕で儂に武器を打てじゃと?三年早いわ!!』
『くそがっ……てめえ、本当に爺かよ?』
最初に出会った頃、ガオウはハマーンが鍛冶師でありながら冒険者稼業を行っていると知って気に入らず、彼に喧嘩を売った。しかし、結果は惨敗だった。それ以降、ガオウはハマーンを目の敵にしていた。
『小僧、今日も来たのか。懲りない奴じゃな……』
『うるせっ!!いいから勝負しやがれ!!』
『はははっ、分かった分かった。根性だけは一人前じゃな……よし、ではお主が儂に一度でも勝てたらお主のために武器を打ってやろう』
『はっ、はあっ!?要るかよ、そんなもん!!』
『まあ、そういうな。ほれほれ、かかってこんか』
一方的にハマーンはガオウと約束を取り付けると、彼はガオウとの勝負し続けた。そしてある日、遂にガオウはハマーンに初めて勝利した時、彼は約束を果たすために傷だらけの状態で彼を工房へ招く。
『おい、爺さん……無理をするなよ、怪我してんじゃねえか』
『何を言うか……約束したじゃろう、お主のために武器を作るとな』
『だからって、そんな傷で無茶をしたら死んじまうぞ?』
『ふんっ、舐めるでない。この程度の傷では死なん』
ガオウとの試合で敗れたハマーンは深手を負ったが、応急処置を済ませた途端に彼を工房まで連れ出す。そして以前に約束した通りに彼はガオウのために武器の製作を行う。
ハマーンは工房に辿り着くとガオウの身体を調べ、彼がどんな武器が欲しいのかを確認し、それに見合った武器の制作を行う。全身に包帯を巻きながらも彼は武器を作り上げるため、鬼気迫る表情で鉄槌を振り下ろす。
『おい、もう止めろ!!血が滲んでるぞ!?』
『やかましい!!いいからお主は黙って見ておれ……安心しろ、例え死のうと儂は約束を果たす!!』
『じ、爺さん……』
『ドワーフはな、真に認めた相手にしか望みの武器は造らん!!お主は儂に勝った、ならばお主に相応しい武器を儂が作らねばならん!!』
ドワーフの鍛冶師としてハマーンは誇りを持っており、彼は認めた人物のためならば仮に自分の肉体がどうなると武器を作る事を止めない。そして出来上がったのは現在もガオウが使用している鉤爪であり、名前はないが魔剣にも劣らぬ武器を作り出す。
『ほれ、できたぞ……これがお主の武器じゃ』
『……すげぇっ、初めて持つのにしっくりくる』
『大切に扱え、もしも壊れたとしても儂が治してや……うっ!?』
『爺さん!?』
ハマーンは仕事を終えた瞬間に倒れ込み、その後は三日三晩も意識が戻らずにベッドに横たわっていた。この一件からガオウはハマーンと縁を深め、彼の事を尊敬に値する鍛冶師だと認識した。
その後、ガオウはハマーンの元にちょくちょく訪れては装備を打ち直して貰う。ガオウはハマーン以外の鍛冶師には自分の装備を預ける気はなく、黄金級冒険者に昇格した後もハマーンに頼っていた。
『爺さん、あんた何時まで鍛冶師をやるつもりだ?もう昔みたいに身体も動かないんだろう?』
『余計な心配をするな、無論死ぬまでじゃ……あと数年は頑張れる』
『よく言うぜ……こんだけ弟子が居るんだ、もう引退して田舎に隠居すればいいじゃないか』
『バカタレ!!儂以外に誰がお前の装備を打ち直せると思っておる!?』
数か月ほど前にガオウはハマーンの元に赴き、彼に装備を見直して貰った。この時は軽口を叩けるだけの元気はハマーンにあったが、それから彼の元に訪れるとよく咳をする姿を見かけた。
『げほっ……げほっ!!』
『おい、爺さん……また風邪か?』
『う、うむ……』
『あんまり無理するなよ』
『年寄り扱いするな、儂は平気じゃ!!』
会う度にハマーンは咳き込む姿を見てガオウは心配するが、そんな彼にハマーンは強気な態度を貫く。しかし、誰がどう見てもハマーンの身体はもう限界が近い。
それとなく彼の弟子がハマーンに薬師に診てもらうと、薬師の話によれば長年の鍛冶と冒険者の仕事を続けたせいでハマーンの肉体に大きな負担を抱え、これ以上に今の仕事を続けると半年も持たないと宣言された。その事をガオウは弟子たちに伝えられ、衝撃を受ける。
『ガオウさん、お願いします。どうか師を止めてください……』
『あの人は本気で死ぬつもりです……俺達は鍛冶師としてあの人の気持ちは痛いほど分かります。ですけど、それでも少しでも長生きしてほしいんです』
『ガオウさん、あんたなら止められる。あの人はガオウさんの事を息子の様に思ってますから……』
『…………』
ハマーンの弟子達は鍛冶師としてハマーンの事を尊敬しているが、それでも彼等はハマーンに長生きしてほしかった。だからこそ身体が限界なのに仕事を続けるハマーンを止める事はできない。しかし、鍛冶師ではないガオウからならハマーンに仕事を止めるように告げる事ができると相談してきた。
ガオウもハマーンには長生きしてほしいという気持ちはあるが、それが本当に彼にとっての幸せなのかと考えてしまう。ハマーンの望みは最期の時まで鍛冶師として生きる事であり、もしも鍛冶師を止めれば彼は自分の望みを叶えられなくなる。
『――爺さん、また武器が壊れちまった。直してくれよ!!』
『なんじゃい、また来たのか……ゴウカにやられたか?』
『うるせえな、さっさと直してくれよ』
『全く仕方ない奴じゃ』
結局はガオウはハマーンを止めるような真似はせず、彼の鍛冶師として最期を迎える時が来るまで彼に頼る事にした。ハマーン自信が長生きするつもりがないのであれば彼を止めるような真似はせず、残り短い人生ならば彼の好きなようにさせるのが一番だとガオウは考えた――
(――爺さん、あんたの最期を見届けてやるぜ)
時は現代に戻り、一心不乱にナイの旋斧と岩砕剣を鉄槌で叩き付けるハマーンの姿をガオウはこっそりと覗き、他の者を工房へ近づけさせない。彼は今、残り少ない命を費やして仕事に励んでいる。ならばガオウに止めれるはずがなく、彼はここへ残る事にした――
「どうですか?私の作った滋養強壮剤は?」
「うん、身体が楽になったよ。この調子なら今すぐにでも戦えると思うけど……」
「あんまり無理をするんじゃないよ。それにあんたが付いて来たとしても武器がなければどうしようもないだろう?」
「あ、そうだ……ハマーンさんから伝言を頼まれてたんだ。ナイ君の武器はハマーンさんが打ち直してるそうだよ」
「旋斧と岩砕剣を?」
「ううん、ナイ君の装備全部だって」
ナイは言われてみて武器だけではなく、自分が身に付けていた装備品が全て無くなっている事に気付く。どうやらハマーンはナイが意識を失っている間に武具と防具を回収したらしく、彼は船内にある工房に籠ってナイの装備を全て打ち直しているらしい。
いつもならばナイが頼んだ時や、あるいは彼の方から頼んで来た時に装備を渡すのだが、今回はナイが意識を失っている間に無断でハマーンは彼の装備を回収した事になる。ハマーンの行動にナイは疑問を抱き、他の者たちも不思議に思う。
「あの爺さんが許可もなく勝手に持って行ったのか?」
「いくらこの国一番の鍛冶師だからって、それは横暴じゃないのかい?」
「確かにハマーンさんらしくないですね……」
「まあ、別に装備を強くしてくれるのならいいけど……」
ナイ本人は勝手に装備を持っていかれた事に関しては怒っておらず、自分の代わりに装備を強化してくれるのであれば文句はない。しかし、ハマーンの行動にガオウは疑問を抱き、彼はこっそりと医療室を抜け出す――
――ハマーンの工房では作業に集中するために自分の弟子達も追い出し、一心不乱に鉄槌を振り下ろしていた。ナイの装備品の殆どは打ち直したが、残されたのは旋斧と岩砕剣だけだった。
旋斧も岩砕剣も伝説の鍛冶師が造り上げた代物だが、この時代にナイの元に渡るまでその名前は全く知られていなかった。しかし、この二つの魔剣は間違いなく歴史に名前を刻む伝説の聖剣に匹敵する武器だとハマーンは確信する。
(これほどの魔剣を鍛え上げるためにどれほど苦労した事か……羨ましいのう、儂も生きている間にこれほどの名剣を作り上げたかった)
ハマーンは王国一の鍛冶師として知られ、彼の作り出した武器や防具は一級品ばかりで大勢の武芸者が愛用している。しかし、それでも彼は自分が納得するだけの「魔剣」を作り上げた事はない。
魔剣の制作を行った事は一度や二度ではなく、ハマーンは何本か魔剣を作り出した事はある。しかし、それでも彼はロランの「双紅刃」やドリスの「真紅」リンの「暴風」他にもリーナの「蒼月」やナイの「旋斧」や「岩砕剣」といった魔剣と比べると見劣りしてしまう。
(儂にはもう時間は残されておらん……それならばせめて死ぬ前にこの二つの魔剣を鍛え上げ、歴史に名を刻む英雄に相応しい武器に仕上げねばならん)
ハマーンは作業中に何度も彼は咳き込んでは血を吐き出す。恐らく、この仕事を終えればハマーンは二度と鍛冶は行えず、これが正真正銘「鍛冶師ハマーン」の最後の仕事となる。
(悔いはない、ここまで生きてきた事がそもそも奇跡じゃ。だが、頼むから途中で力尽きるな……儂の身体よ)
鉄槌を振り上げる度にハマーンは次の瞬間には自分の心臓が止まってしまうのではないかと思い、それほどまでに彼の身体はもう限界に迫っていた。
それでもハマーンは作業を止めないのは鍛冶師として意地であり、彼は鍛冶師職人として最後の時まで仕事に向き合う事を決めていた。仮に死ぬとしても工房の中で死ねるならば後悔はない。
「…………」
そんなハマーンの様子を扉の隙間から伺う人物が存在した。その人物はガオウであり、彼はハマーンとは数年程度の付き合いだが、それでも彼の事は同じ冒険者として尊敬していた。
『なんじゃい小僧?その程度の腕で儂に武器を打てじゃと?三年早いわ!!』
『くそがっ……てめえ、本当に爺かよ?』
最初に出会った頃、ガオウはハマーンが鍛冶師でありながら冒険者稼業を行っていると知って気に入らず、彼に喧嘩を売った。しかし、結果は惨敗だった。それ以降、ガオウはハマーンを目の敵にしていた。
『小僧、今日も来たのか。懲りない奴じゃな……』
『うるせっ!!いいから勝負しやがれ!!』
『はははっ、分かった分かった。根性だけは一人前じゃな……よし、ではお主が儂に一度でも勝てたらお主のために武器を打ってやろう』
『はっ、はあっ!?要るかよ、そんなもん!!』
『まあ、そういうな。ほれほれ、かかってこんか』
一方的にハマーンはガオウと約束を取り付けると、彼はガオウとの勝負し続けた。そしてある日、遂にガオウはハマーンに初めて勝利した時、彼は約束を果たすために傷だらけの状態で彼を工房へ招く。
『おい、爺さん……無理をするなよ、怪我してんじゃねえか』
『何を言うか……約束したじゃろう、お主のために武器を作るとな』
『だからって、そんな傷で無茶をしたら死んじまうぞ?』
『ふんっ、舐めるでない。この程度の傷では死なん』
ガオウとの試合で敗れたハマーンは深手を負ったが、応急処置を済ませた途端に彼を工房まで連れ出す。そして以前に約束した通りに彼はガオウのために武器の製作を行う。
ハマーンは工房に辿り着くとガオウの身体を調べ、彼がどんな武器が欲しいのかを確認し、それに見合った武器の制作を行う。全身に包帯を巻きながらも彼は武器を作り上げるため、鬼気迫る表情で鉄槌を振り下ろす。
『おい、もう止めろ!!血が滲んでるぞ!?』
『やかましい!!いいからお主は黙って見ておれ……安心しろ、例え死のうと儂は約束を果たす!!』
『じ、爺さん……』
『ドワーフはな、真に認めた相手にしか望みの武器は造らん!!お主は儂に勝った、ならばお主に相応しい武器を儂が作らねばならん!!』
ドワーフの鍛冶師としてハマーンは誇りを持っており、彼は認めた人物のためならば仮に自分の肉体がどうなると武器を作る事を止めない。そして出来上がったのは現在もガオウが使用している鉤爪であり、名前はないが魔剣にも劣らぬ武器を作り出す。
『ほれ、できたぞ……これがお主の武器じゃ』
『……すげぇっ、初めて持つのにしっくりくる』
『大切に扱え、もしも壊れたとしても儂が治してや……うっ!?』
『爺さん!?』
ハマーンは仕事を終えた瞬間に倒れ込み、その後は三日三晩も意識が戻らずにベッドに横たわっていた。この一件からガオウはハマーンと縁を深め、彼の事を尊敬に値する鍛冶師だと認識した。
その後、ガオウはハマーンの元にちょくちょく訪れては装備を打ち直して貰う。ガオウはハマーン以外の鍛冶師には自分の装備を預ける気はなく、黄金級冒険者に昇格した後もハマーンに頼っていた。
『爺さん、あんた何時まで鍛冶師をやるつもりだ?もう昔みたいに身体も動かないんだろう?』
『余計な心配をするな、無論死ぬまでじゃ……あと数年は頑張れる』
『よく言うぜ……こんだけ弟子が居るんだ、もう引退して田舎に隠居すればいいじゃないか』
『バカタレ!!儂以外に誰がお前の装備を打ち直せると思っておる!?』
数か月ほど前にガオウはハマーンの元に赴き、彼に装備を見直して貰った。この時は軽口を叩けるだけの元気はハマーンにあったが、それから彼の元に訪れるとよく咳をする姿を見かけた。
『げほっ……げほっ!!』
『おい、爺さん……また風邪か?』
『う、うむ……』
『あんまり無理するなよ』
『年寄り扱いするな、儂は平気じゃ!!』
会う度にハマーンは咳き込む姿を見てガオウは心配するが、そんな彼にハマーンは強気な態度を貫く。しかし、誰がどう見てもハマーンの身体はもう限界が近い。
それとなく彼の弟子がハマーンに薬師に診てもらうと、薬師の話によれば長年の鍛冶と冒険者の仕事を続けたせいでハマーンの肉体に大きな負担を抱え、これ以上に今の仕事を続けると半年も持たないと宣言された。その事をガオウは弟子たちに伝えられ、衝撃を受ける。
『ガオウさん、お願いします。どうか師を止めてください……』
『あの人は本気で死ぬつもりです……俺達は鍛冶師としてあの人の気持ちは痛いほど分かります。ですけど、それでも少しでも長生きしてほしいんです』
『ガオウさん、あんたなら止められる。あの人はガオウさんの事を息子の様に思ってますから……』
『…………』
ハマーンの弟子達は鍛冶師としてハマーンの事を尊敬しているが、それでも彼等はハマーンに長生きしてほしかった。だからこそ身体が限界なのに仕事を続けるハマーンを止める事はできない。しかし、鍛冶師ではないガオウからならハマーンに仕事を止めるように告げる事ができると相談してきた。
ガオウもハマーンには長生きしてほしいという気持ちはあるが、それが本当に彼にとっての幸せなのかと考えてしまう。ハマーンの望みは最期の時まで鍛冶師として生きる事であり、もしも鍛冶師を止めれば彼は自分の望みを叶えられなくなる。
『――爺さん、また武器が壊れちまった。直してくれよ!!』
『なんじゃい、また来たのか……ゴウカにやられたか?』
『うるせえな、さっさと直してくれよ』
『全く仕方ない奴じゃ』
結局はガオウはハマーンを止めるような真似はせず、彼の鍛冶師として最期を迎える時が来るまで彼に頼る事にした。ハマーン自信が長生きするつもりがないのであれば彼を止めるような真似はせず、残り短い人生ならば彼の好きなようにさせるのが一番だとガオウは考えた――
(――爺さん、あんたの最期を見届けてやるぜ)
時は現代に戻り、一心不乱にナイの旋斧と岩砕剣を鉄槌で叩き付けるハマーンの姿をガオウはこっそりと覗き、他の者を工房へ近づけさせない。彼は今、残り少ない命を費やして仕事に励んでいる。ならばガオウに止めれるはずがなく、彼はここへ残る事にした――
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