貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第1001話 人間投擲

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「お前達、退け!!止めを刺す!!」
「ドリス、行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください!!思っていたより深く刺さって……」


ロランの命令を受けたリンは剣を引き抜くと、ドリスに急いで巨大ゴーレムから離れるように促す。しかし、ドリスの真紅は巨大ゴーレムの胸元に深く突き刺さり、引き抜くのに時間が掛かった。

攻撃を受け続けた巨大ゴーレムは怒りの表情を抱き、自分の胸元に立つドリスとリンに目掛けて両腕を伸ばす。それに気づいたリンは慌ててドリスの真紅を抜き取ろうとした。


「早くしろ、握り潰されるぞ!!」
「ま、待ってください!!もう少しで抜けそうですわ!!」
『ゴアアアッ!!』


二人が真紅を抜き取る前に巨大ゴーレムの両手が迫り、二人の身体が握り潰そうとした瞬間、何処からか巨大ゴーレムの腕に「水球」が放たれる。


『ゴアッ!?』
「なっ、この魔法は……マリンさん!?」
「お前、今まで何をしていた!?」
『……寝過ごした』


何処からともなくマリンが現れると、彼女はドリスとリンを握り潰そうとする巨大ゴーレムの両腕に目掛けて水球を放つ。水を苦手とする巨大ゴーレムは彼女の攻撃を嫌がり、その間にドリスとリンは遂に真紅を引き抜く。


「抜けましたわ!!」
「よし、行くぞ!!」
「御二人とも、この鎖を掴んでください!!」


フィルは二人に目掛けて鎖の魔剣を伸ばし、即座にドリスとリンは鎖を掴むとフィルは力尽くで引き寄せる。二人を巨大ゴーレムから引き剥がす事に成功すると、ロランは双紅刃を回転させて魔力を高めていく。

ロランの双紅刃は回転させればさせる程に刃に魔力が宿り、攻撃を強化する機能を持つ。最大まで回転を加えればその一撃はの一撃に匹敵すると言われ、彼は雄たけびを上げながら巨大ゴーレムに目掛けて飛び込む。


「うおおおおおっ!!」
『ゴアッ……!?』


巨大ゴーレムの胸元に目掛けてロランは双紅刃を振り下ろそうとした瞬間、先ほどドリスが真紅を突き刺した箇所から赤色の光が毀れると、それを見たロランは直前で危険を感じ取った。


『ゴガァアアアアッ!!』
「何だとっ!?」
「ロラン大将軍、危ない!?」


巨大ゴーレムは胸元を発光させた瞬間、再び全身に火炎が纏い、それを見たロランは意識が乱れてしまう。このまま彼が攻撃を仕掛ければ火炎に飲み込まれてしまい、急いで他の者が助けようとした。

しかし、地上に存在した者達が動く前に何者かがロランの背後に迫り、空中に浮かんでいる彼に目掛けてその人物は声をかける。


「ロランさん、肩を借ります!!」
「何!?」


声が聞こえたロランは驚いて首を剥けると、そこには蒼月を構えたリーナが何時の間にか自分の背中に迫っていた――





――巨大ゴーレムに氷結爆弾が的中した頃、ナイが無事に目を覚ましたので安心したリーナも戦闘に参加するために甲板にやってきた。彼女は甲板に辿り着くと投石機を発見し、それを見たリーナはある方法を思いつく。


『イリアさん!!これを使って僕を飛ばす事ができる!?』
『はっ?何を言ってるんですか?』
『だから、これで僕をあそこまで飛ばせるの!?』
『ええっ!?飛んでいくの!?』


リーナの突拍子もない発言にイリアだけではなくてモモも驚いたが、リーナとしては地上を降りて向かうよりも投石機を利用して飛び込む方が早く辿り着けると思い、二人に頼んで彼女は投石機に乗り込む。

先ほどの氷結爆弾を放った時に投石機がどの角度で打ち込めば標的に当たるのかは把握済みであり、準備が整い次第にリーナは巨大ゴーレムに目掛けてした。


『どうなっても知りませんからね……発射!!』
『えいっ!!』
『行ってきまぁあああす!!』


投石機を利用してリーナは一気に巨大ゴーレムに目掛けて突っ込むと、この時にロランも同時に跳び上がり、攻撃を仕掛けようとしていた。しかし、リーナの方が圧倒的に移動速度が勝っていたため、彼女はロランを飛び越えて蒼月を振り払う。


「でやぁあああっ!!」
『ゴアアッ!?』


蒼月の一撃によって巨大ゴーレムは胸元の部分の炎が掻き消され、逆に凍り付いてしまう。それを確認したロランは驚いた表情を浮かべるが、彼はこの好機を逃さずに双紅刃を振り下ろす。


「くたばれっ!!」
『ゴギャアアアアアッ!?』


双紅刃の一撃が巨大ゴーレムの肉体を崩壊させ、全体が崩れ落ちていく。巨大ゴーレムは全身が砕け散ると火炎も消え去り、残されたのは通常よりも数倍の近くの大きさの「核」だけが残り、ロランはどうにか核を傷付けずに倒す事ができた事に安堵する。


(危なかった……これだけの大きさの核を破壊すればとんでもない事になっていたな)


ロランは核の大きさを確認し、もしもこれだけの大きさの核を破壊すれば内部の火属性の魔力が暴走し、大爆発を引き起こしていた。そうなれば地上の者達は巻き込まれ、下手をしたら全滅していた可能性もあった。

偶然とはいえ、リーナのお陰で巨大ゴーレムの攻撃を成功した彼は彼女の援護に礼を言おうとした。しかし、肝心のリーナは着地に失敗したらしく、頭におおきなたんこぶを作った状態で倒れていた。


「いてててっ……頭打ったぁっ……!?」
「だ、大丈夫か?」
「は、はい……」


ロランはリーナの腕を掴んで立ち上がらせると、彼女は涙目を浮かべながらたんこぶを摩る。その様子を見てロランは苦笑いを浮かべ、他の者たちも駆けつけた。


「おい、リーナ!!よくやったね、あんた!!」
「たくっ、良い所を持って行きやがって……」
「大将軍もお疲れさまでした」
「お前達も良く戦った……それにしても、まさかこんな場所にまでマグマゴーレムが攻め寄せてくるとはな」


全員が集まって勝利の喜びを分かち合うが、ロランは改めて自分達が倒したマグマゴーレムの残骸の山を確認する。この場所は飛行船から数キロも離れているのだが、マグマゴーレムの大群がここまで追いかけてきた事に彼は顔をしかめる。

基本的にマグマゴーレムは生息地である火山から遠く離れるような行為は行わず、理由としては彼等が好物としている火属性の魔力が宿った鉱石は火山地帯でしか取れない。仮に火山を離れるとマグマゴーレムは徐々に魔力を失い、力を失って動けなくなる。だからマグマゴーレムが火山地帯から遠く離れる事は有り得ないと思われていた。

しがし、現実にマグマゴーレムは火山から数キロも離れたこの場所にまで攻め込み、しかも雨が降っていても地中を掘り進んで進んできた事にロランは改めて恐ろしく思った。これではこの地も安全とは限らず、早急に飛行船を別の場所に移動させる必要があった。


「一旦、ここよりも遠くに飛行船を移動させる」
「それしかないだろうね……この近くに湖とかはないのかい?そこならマグマゴーレム共も近寄れないだろ?」
「いえ、残念ながらこの近くに湖はありません」


テンの言葉に周辺地域の地図を覚えていた騎士は首を振り、グマグ火山の周辺には飛行船が着水できそうな湖は存在しない事を伝える。マグマゴーレムが何処まで追ってくるのか分からない以上は地上に着地している状態では安心できない。


「私達も相当な数のマグマゴーレムを倒したはずですわ。もう火山に残っているマグマゴーレムもそれほどいないのでは……?」
「うむ、その可能性もある……よし、まだ日も高い。このまま我々はグマグ火山へ向かい、火口付近に存在するマグマゴーレムを掃討するぞ」
「えっ!?本気ですか!?」


ロランの言葉に全員が驚くが、ロランもこの状況で冗談を言う様な人間ではなく、彼は真面目に考えた上でこのまま火山に生息するマグマゴーレムの討伐作戦を終了させる事を伝える。


「何処へ移動したとしてもマグマゴーレムがいつ襲ってくるか分からない。昨日も襲われなかったのは雨が降ったせいだ。もしも雨が降っていなければ奴等は昨日の時点で襲っていた可能性もある」
「それはそうですけど……」
「幸いにも我々は昨日一日休んだ事で疲労は抜けている。今回の戦闘もイリア魔導士の兵器のお陰でマグマゴーレムの殆どを掃討できた」
「まあ、確かにお陰で楽はできたね」


イリアの小樽型爆弾と投石機のお陰で100匹近くのマグマゴーレムの討ちとれた。そんな便利な物があるならばもっと早く使えばよかったのでは、という考えは置いといてロランは今ならば全員が万全の状態で戦える事を確認した。


「今の我々ならばグマグ火山の火口付近に存在するマグマゴーレムを掃討できる。仮に火山の他の場所にマグマゴーレムが残っていたとしても、ここまで倒したマグマゴーレムの数を考慮すればそれほど残っていないはずだ」
「そういえば心なしか涼しくなったような気がするぞ?」
「それもマグマゴーレムを倒した原因かもしれませんわね」


三日前と比べるとグマグ火山付近の熱気が収まり、この理由も数百匹のマグマゴーレムを倒したのが原因だと考えられた。この調子でマグマゴーレムを掃討すればこの地域の環境も安定し、より安全にグマグ火山の火属性の魔石を採取できる。

討伐隊がグマグ火山に派遣された理由はグツグ火山から火属性の魔石が採取できなくなったからであり、今後はグマグ火山で火属性の魔石を採取するしかない。そのためには魔石の採取を妨害するマグマゴーレムを討伐する必要があり、マグマゴーレムとの掃討はどうしても必要な仕事だった。


「各自、準備を整えろ。これが最後の戦いになるだろう……リーナ、ナイとゴウカの様子はどうだ?」
「あ、ナイ君なら目を覚ましたけど……まだ病み上がりだから本調子じゃなさそうです。ゴウカさんはまだ眠ってましたけど……」
「そうか……二人が居れば心強いのだが」
「まあ、あいつらは頑張ってくれたからね。偶にはナイの奴抜きであたしらで何とかしないとね」
「ナイがいなくてもルナが居れば十分だ!!」


ナイとゴウカが討伐隊に参加できないのは戦力的に厳しいが、今回は前回に留守番していた者達も連れて戦力を補強し、飛行船には最低限の人数を残して討伐隊は出発する事が決まる――
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