貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第994話 人造ゴーレムVS新種ゴーレム

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人の手によって作り出された最強の「人造ゴーレム」隕石の落下によって突然変異によって誕生した「ブラックゴーレム」そんな二匹のゴーレム種が向かい合い、最初は力比べを行うように組み合う。


「ドゴォオオンッ!!」
「ウオオオオッ!!」
「ひいいっ!?」
「ば、化物だぁっ!!」


ドゴンとブラックゴーレムが組み合うと、街道に集まっていた人々は逃げ出す。2体のゴーレムはお互いの力を比べるように組み合い、まるで相撲の「手四つ」の状態へ陥る。

体格はドゴンが二回り程大きいが、腕力はどうやら互角らしく、お互いに一歩も引かずに押し合う。やがて二匹は手を離すとその場で殴り合いを始めた。


「ドゴンッ!!」
「オアッ……ウオオッ!!」
「ドゴォッ!?」


ドゴンが殴りつけるとブラックゴーレムも負けずに殴り返し、激しい攻防を繰り返す。肉体がオリハルコンで構成されているドゴンは硬度も桁違いに高く、普通であればロックゴーレム程度ならば一撃で殴り倒す事もできる。

しかし、ブラックゴーレムも隕石によって偶然にも誕生した鉱石で構成され、その硬度はオリハルコンにも劣らない。お互いが殴り合う度に衝撃が地面に伝わり、罅割れが発生した。


「くっ……皆、大丈夫かい!?」
「へ、平気です……」
「げほっ、げほっ……この煙、硫黄臭いぞ!?これじゃあ、鼻が利かねえ……」
「くそっ……逃がすかっ!!」


この時点で煙が晴れてきて正気を取り戻したアルト達もアンが逃げた事を知り、破壊された窓を見てレイラは飛び出す。アリシアも後を追いかけようとしたが、宿屋の外から聞こえてきた声に驚く。


「ドゴォオオンッ!!」
「ウオオオオッ!!」
「な、何ですかあれは!?」
「く、黒いゴーレム!?どうして街中にあんなのが……」
「まさか……報告に会った新種ゴーレムか!?」
「おい、やばいぞ……こっちに近付いてやがる!!」


ブラックゴーレムはドゴンに組み付くと、宿屋に向かって押し込む。それを見たアルト達は慌てて建物の奥に避難すると、ドゴンは押し切られて宿屋の玄関に倒れ込む。


「ドゴォッ!?」
「オオオオッ!!」


ドゴンを押し倒したブラックゴーレムは幾度も彼を殴りつけ、やがてドゴンの頭部が凹み始めた。オリハルコンで構成されているドゴンが凹む光景を見てアルトは信じられず、このままではドゴンが破壊されてしまう。


「ドゴン!!頑張れ、負けるな!!」
「ドゴォオオンッ!!」
「ウオッ!?」


アルトの声援を受けた瞬間にドゴンは目元を光り輝かせ、主人の前で恥を見せられないとばかりにドゴンはブラックゴーレムの巨体を押し退け、逆に両足を掴んで投げ飛ばす。


「ドゴンッ!!」
「ウオオッ!?」
「あ~!?お向かいさんの建物が大変な事にっ!?」
「べ、弁償するよ……この宿屋と一緒に」


ドゴンが投げ飛ばしたせいで白猫亭の向かい側の建物も被害を受け、幸いにも住民は既に逃げていたのか出てくる様子はない。ドゴンとブラックゴーレムはそのまま白猫亭の向かい側の建物の中で殴り合い、建物の壁を破壊しながら戦闘を続ける。

人造ゴーレムと新種ゴーレムの力は全く互角であり、体格はドゴンが勝るが体重の方はブラックゴーレムが勝る。お互いに相手を破壊させるつもりで殴り合うが、ここでブラックゴーレムに異変が生じる。


「ウオオオオッ……!!」
「ドゴォンッ!?」
「な、何だ……あの赤色の光は!?」
「い、嫌な予感がします……皆さん、伏せて!!」


ドゴンと再び組み合ったブラックゴーレムの肉体に埋め込まれていた「黒水晶」が赤く光り輝き始め、これまではブラックゴーレムの肉体にこびりついていた土砂のせいで分からなかったが、ブラックゴーレムの肉体には赤く光り輝く黒水晶が幾つも埋め込まれていた。


(まさかあれがナイ君の言っていた魔力を蓄積させる水晶か!?)


黒水晶の事はアルトも知っており、ハマーンと共にナイが回収した黒水晶を調べていた。彼等が調べたところだとブラックゴーレムは外部から受けた魔法攻撃を吸収し、その魔力を黒水晶に蓄積させ、自由に引き出す事ができるという。

ブラックゴーレムは体内の黒水晶から魔力を引き出し、全身に炎を纏う。通常のマグマゴーレムよりも熱気を放ち、魔力を口元に集中させて「熱線」を放つ。


「アガァアアアアアッ!!」
「ドゴォオオンッ!?」
「ドゴン!?」


熱線を至近距離から受けたドゴンの肉体が吹き飛び、遥か後方に吹き飛ばされた。その光景を見たアルトは目を見開き、まるで火竜の吐息に匹敵する攻撃を繰り出したブラックゴーレムに全員が驚愕した。


(あのドゴンが吹き飛ばされた……伝説の魔法金属で構成されたあのドゴンが!?)


アルトはドゴンこそがこの世界で最強のゴーレムだと信じていた。しかし、そのドゴンを吹き飛ばしたブラックゴーレムを見て、自分の考えが間違っていたと嫌でも認識させられる。

ブラックゴーレムの戦闘力はこれまでにアルトが遭遇したゴーレムとは比べ物にならず、その戦闘力は最早「ゴーレムキング」にも匹敵するか、下手をしたらそれ以上の力を持つ存在かもしれない。

竜種と同様に災害級として認識されているゴーレムキングだが、それを上回る力を持つかもしれないブラックゴーレムを前にして誰もが愕然とした。これほどの力を持つ相手にレイラもエリナもガロもゴンザレスさえも何も行動できない。


(動け、動くんだ……殺されるぞ!!)


アルトは必死に身体を動かそうとするが、本能がブラックゴーレムに勝てないと告げていた。そのせいで身体がまるで肉食獣を前にした小動物のように怯えて動かず、その間にもブラックゴーレムはアルト達に振り返る。


「ウオオオオッ!!」
「「ひぃっ!?」」
「く、くそがっ……!!」
「ぐうっ……!!」
「王子、下がって下さい!!」


ブラックゴーレムが咆哮を放つとヒナとクロエは悲鳴を上げ、ガロとゴンザレスは負傷した身でありながら無理やり起き上がろうとした。レイラは階段を降りてアルトの元に向かうが、既にブラックゴーレムは次の攻撃準備に入っていた。

白猫亭に向けてブラックゴーレムは口元を開き、先ほどのように熱線を放つつもりなのか口内から赤色の光を放つ。それを見たアルトはもう駄目かと思ったが、この時に彼は自分が普段から身に付けている「護身用」の魔道具を思い出す。


(そうだ……まだ、これがあった!!)


諦めるには早いと思い直したアルトは腰に差している筒状の魔道具を取り出す。この魔道具はアルトが作り出した物であり、筒の蓋を開いた瞬間に闇属性の魔力で構成された黒霧が放たれる。


「喰らえっ!!」
「アガァッ!?」


アルトはブラックゴーレムに向けて黒霧を放ち、本来は煙幕代わりに利用して逃げ出すための魔道具だった。しかし、煙幕を受けた瞬間にブラックゴーレムは何故か苦しみはじめ、必死に煙幕を振り払おうとした。


「ウオオオッ!?」
「な、何だ!?」
「効いてるのか!?」
「嫌がっているように見えますが……」


黒霧を浴びたブラックゴーレムは混乱している様子を見てアルト達は戸惑い、やがて黒霧から逃れるためにブラックゴーレムは地面に向けて拳を振り下ろす。


「ウオオッ!!」
「あっ!?」
「に、逃げるぞ!!」
「いや、いい……行かせるんだ」


地中を掘り進めて逃げようとするブラックゴーレムを見てガロ達は動こうとしたが、それを制したのはアルトだった。仮にここでブラックゴーレムが逃げるのを止めたところでアルト達にはブラックゴーレムを倒す手段がない。

予想外にもアルトの魔道具のお陰でブラックゴーレムは地中に退散し、全員が生き延びる事ができた。皆が安堵する中、アリシアは思い出したようにアンを追ったレイラを追いかける。


「しまった……王子、間もなくここに聖女騎士団が到着するはずです!!それまではここで待機して下さい!!」
「ああ、分かった……」
「エリナ、しっかりと王子と皆さんをお守りするんですよ!!」
「うぃっす!!」


アリシアはエリナにこの場を任せて駆け出し、逃走したアンとそれを追うレイラを探す――





――同時刻、レイラはアンを追いかけて路地裏に辿り着いた。アンは疲れた表情で建物の行き止まりに追い詰められ、双剣を構えたレイラが逃げ道を塞ぐように立っていた。


「もう逃がさない……お前は危険だ、ここで殺す」
「はあっ、はあっ……」
「僕を呼んでも無駄だ。この距離なら私の剣がお前の首を斬る」


路地裏にアンが逃げ込んだ時点でレイラは何かしらの罠を仕掛けていると判断し、彼女がガロとゴンザレスを襲った鼠型の魔獣をけしかけるつもりかと思った。しかし、予想に反して路地裏には何も存在せず、アンが何か仕掛ける様子もない。

目の前のアンを見てレイラは彼女をここで殺すと決め、仮にアルトがここにいれば彼女を捕まえるように告げたかもしれない。しかし、長年の戦士の勘でアンをここで殺さなければ後悔すると告げていた。


(この女は危険過ぎる、生かしておくわけにはいかない)


レイラは双剣を構えるとアンに目掛けて攻撃を仕掛けようとした。しかし、そんな彼女の考えを読み取ったようにアンは笑みを浮かべる。


「残念ね……時間切れよ」
「何を言って……なっ!?」
「さよなら」


アンはレイラの後方に向けて視線を向け、その彼女の態度と言葉に自分の後方に何か居ると知ったレイラは振り帰り、信じられない光景を目の当たりにした――
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