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嵐の前の静けさ
第990話 その頃の王都では
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――時は少し前に遡り、グマグ火山にて討伐隊が出向いた日の晩に戻る。白猫亭の刑を任されているヒナは今月の売り上げを確認していると、クロエが訪れて彼女に珈琲を渡す。
「ヒナちゃん、お疲れ様」
「あ、クロエさん……ありがとうございます」
「やっぱり、モモちゃんがいないと寂しいわね」
いつもならばナイがいないときはモモはヒナの傍に居るのだが、彼女がナイの後を追いかけて勝手に出て行った事にヒナは怒っていた。
(全く……ナイ君と一緒に居たいならちゃんと自分の口で言いなさいよ!!)
モモがナイの役に立つためにイリアの助手になった経緯はアルトから聞かされており、彼女が自分に話を通さなかったのは反対されると判断した上での行動だとヒナは見抜いていた。
最初からモモが相談していたら、ヒナも彼女の意思を尊重して止めはしなかった。だが、何の相談も無しに勝手に出て行ったせいでヒナはモモの分の仕事まで行う羽目になり、戻ってきたら説教をするつもりだった。
(もう私達も子供じゃないのよ……いっその事、ナイ君を白猫亭で雇おうかしら)
ナイが白猫亭で働く事になればモモも喜んで一緒に働くだろうが、仮にも国の英雄を一宿屋の従業員として雇い入れるなどできるはずがない。ヒナはクロエが用意してくれた珈琲を飲んで落ち着こうとした時、不意に外が騒がしい事に気付く。
「ん?なにかしら……」
「変ね、こんな時間帯にお客さんが来るとは思えないけど……」
宿屋の入口の方が騒がしい事に気付き、既に時刻は深夜を迎えている。この白猫亭には聖女騎士団の団員が用心棒としているため、何か問題があれば知らせに来るはずだった。
(こんな時間に誰か来たのかしら?でも、心当たりはないけど……)
深夜の時間帯に白猫亭に訪れる非常識な知り合いはおらず、ヒナは酔っ払いでも騒いでいるのかと思ったが、廊下から誰かが走ってくる足音が鳴り響く。
「た、大変っす!!」
「エリナさん!?」
「どうかしたの!?」
白猫亭の用心棒として宿屋に待機していた「エリナ」がノックもせずに部屋の中に入ってきた。彼女は聖女騎士団の団員で弓の名手であり、エルマを除けば彼女が騎士団一の射手と噂されるほどの実力者だった。
エリナは討伐隊に参加せずに白猫亭の警備を任され、宿屋で揉め事が怒れば彼女が対処する。しかし、彼女は何故か焦った表情で廊下の方を指差し、とんでもない事を告げた。
「あ、あの!!エルマさんのお仲間さんが……」
「ど、どうしたの?」
「落ち着きなさい、何があったの?」
「と、とにかく!!こっちに来てください、怪我人がいるんです!!」
「怪我人!?」
エリナの言葉にヒナとクロエは驚き、二人は急いで部屋の外へ出ると宿屋の玄関へ向かう。そして玄関の前で血塗れの状態で倒れているガロとゴンザレスを発見した。
「えっ!?この人達、確かにマホ魔導士のお弟子さん!?」
「そ、そうなんです!!エルマさんとも仲が良い御二人ですよね!?」
「ひ、酷い怪我だわ……すぐに治療しないと!!誰か、薬箱を持ってきて!!」
「ううっ……」
「…………」
ガロの方は呻き声を漏らすが、ゴンザレスの方は身動き一つせず、それを見たクロエは慌てて二人の様子を伺う。ヒナも慌てて二人の元に駆けつけ、エリナは指示された通りに薬箱を運び込む。
「酷い怪我だわ……いったい何があったの?」
「ゴンザレスさん!!しっかりして!!」
「ちょっと、生きてますか!?返事をしてくださいっす!!でないと犬耳をわしゃわしゃしますよ!?いいんですね!?」
「や、止めろぉっ……」
「ぐうっ……」
三人が声をかけるとガロとゴンザレスは瞼を開き、二人とも酷い重傷だったが意識はあった。それを確認したヒナは安堵するが、ここで彼女は二人の身体を確認して違和感を抱く。
(何?この傷……咬まれた?)
ガロもゴンザレスも身体のあちこちに無数の小さな鼠に噛みつかれたような傷跡が存在し、血が滲んで止まる様子がない。慌ててヒナはエリナにお湯が入った桶と綺麗な布を用意させ、傷口の消毒から行う。
傷口を消毒した後に薬草の粉末を塗りつけ、その上に包帯を巻く事で応急処置を行う。本当なら回復薬の類があれば良かったのだが、生憎と白猫亭に備蓄はなく、ひとまずは応急処置を済ませて二人に話を聞く。
「いったい何があったの!?」
「くっ……油断した、まさか灰鼠《ラット》如きに……」
「ううっ……血が足りない、肉を持ってきてくれ」
「お肉!?お肉が食べたいんですか!?」
「駄目よ、まずは治療が先よ!!誰か薬師か治癒魔導士を呼んでこないと……」
「薬師……こんな時にイシさんがいれば」
ヒナはクロエの言葉を聞いて真っ先に思いついたのは半年前まで王城で働いていた薬師の「イシ」を思い出す。彼はイリアの師匠であり、半年前に宰相の悪事を暴露した人物でもある。宰相が亡くなった後は彼はこれまでの悪事を償うため、監獄に自らの意思で収監された。
「そうだ、聖女騎士団の先輩の中に回復魔法を使える人がいますから、その人を呼んできますね!!」
「待て!!迂闊に外に出るな……襲われるぞ!!」
「えっ!?」
「ガロ、さんでしたよね?それってどういう意味ですか?」
エリナが聖女騎士団の屯所に向かおうとすると、それをガロが必死に引き留める。彼の言葉と反応にヒナは尋ねると、ガロは顔色を青くしながらも自分達の身に何が起きたのかを語った――
――時は一時間ほど前まで遡り、ガロとゴンザレスは夜中に見回りを行っていた。二人が最近起きた謎の失踪事件を調べ、事件の犯行が夜中に行われている事を突き止めて彼等は夜の街を歩き回る。
これまでの事件は一般区と商業区で行われている事を突き止め、二人はこの二つの区画を歩き回って調査を行う。そして今日、遂に怪しげな行動を取る人物を発見した。
「おい、ガロ……あれを見ろ」
「どうした?」
「女の人が絡まれているぞ」
ゴンザレスの言葉にガロは視線を向けると、そこにはマントで身体を覆い隠す女性に群がる二人の男が存在した。質の悪いチンピラらしく、女性に絡んできているらしい。
「なあ、姉ちゃんよ。こんな場所で一人で歩いているという事は娼婦か何かだろ?俺達の相手をしてくれよ」
「へへへっ……金は払うぜ?一人銅貨一枚でどうだ」
「…………」
女性は男達の言葉を聞いても表情すら変えず、黙って立ち去ろうとした。その態度の二人の男は苛立ちを抱き、彼女の肩を掴む。
「おい、無視してんじゃねえよ!!」
「少しばかり顔が良いからって調子乗ってんじゃねえぞっ!!」
「…………」
「ちっ……おい、何してやがる!!」
男達に絡まれる女性を見てガロは面倒に思いながらも助けようと声をかけた。この時に男達はガロとゴンザレスに気が付き、彼等は二人を見て顔色を青ざめる。
「げっ!?冒険者か!?」
「うわ、巨人族!?おい、逃げるぞ!!」
「待ちやがれっ!!」
ガロが身に付けている白銀級の冒険者バッジとゴンザレスの巨体を見て男達は相手が悪いと判断したのか、急いで逃げ出そうとした。それを見たガロは追いかけようとした時、女性が腕を伸ばして制止した。
どうして止めるのかとガロは驚いたが、女性がした行動はガロを止めるためではなく、彼女の伸ばした腕から白色の鼠が飛び出した。その鼠は凄まじい速さで駆けつけ、背後から男達を襲い掛かる。
「キィイッ!!」
「えっ……ぎゃああっ!?」
「うわっ!?な、何だ!?」
「ガロ!!あれを見ろ!!」
「くそっ!?何が起きてやがる!?」
女性の服から出てきた白色の鼠は男の一人に襲い掛かり、頸動脈を噛み切る。男は首筋から凄まじい勢いで血を噴き出し、それを見たもう一人の男は恐怖の表情を浮かべて逃げ出す。
「ひ、ひいいいっ!?」
「キィイッ!!」
「止めろっ!!」
もう一人の男に目掛けて鼠が追いかけ、それを見たガロは止めようと双剣に手を伸ばす。この時に彼は女性の横を通り抜けると、女性は一瞬だけガロを見て冒険者バッジを身に付けている事を知る。ガロは男に飛び掛かろうとする鼠に対して双剣を振りかざす。
「キィイッ!!」
「させるかっ!!」
「うひぃっ!?」
鼠が飛びついた瞬間、ガロは双剣を振り下ろして鼠を切り裂く。悲鳴を上げる暇もなく切り裂かれた鼠の死骸が地面に落ちると、ガロのお陰で命が助かった男は悲鳴を上げながら逃げ出す。
「ひぃいいいいっ!?」
「ちっ……おい、てめえ!!」
「ガロ!!もう逃げたぞ!!」
「何だと!?」
ガロは女性に怒鳴りつけようとしたが、ゴンザレスは既に女性が逃げ出した事を伝える。ガロが振り返った時には既に裏路地に駆け出す女性の姿が見えた。武器を直したガロはゴンザレスに指示を出す。
「ゴンザレス!!挟み撃ちだ!!」
「おうっ!!」
ガロは足に力を加えると速度を上昇させて跳躍し、女性の頭上を跳び越えて道を塞ぐ。後方からはゴンザレスが追いかけ、二人は遂に女性の前後を塞ぐ。
「こんな所に逃げたのが仇になったな……お前を拘束する!!抵抗するようなら容赦しないぞ!!」
「大人しく捕まってくれるなら手荒な真似はしない」
「…………」
ガロの言葉を聞いても女性は何も言い返さず、その間にゴンザレスが額に汗を流しながら女性の背後に立つ。彼は女性を捕まえようと手を伸ばした時、不意に異様な気配を感じ取った。
女性を追い詰めたつもりのガロとゴンザレスだったが、裏路地に入った瞬間に視線を感じ取り、すぐに視線の正体が判明する。二人が立っている通路には何時の間にか無数の鼠が集まっており、目元を赤く光り輝かせながら二人を睨みつけていた。
「ヒナちゃん、お疲れ様」
「あ、クロエさん……ありがとうございます」
「やっぱり、モモちゃんがいないと寂しいわね」
いつもならばナイがいないときはモモはヒナの傍に居るのだが、彼女がナイの後を追いかけて勝手に出て行った事にヒナは怒っていた。
(全く……ナイ君と一緒に居たいならちゃんと自分の口で言いなさいよ!!)
モモがナイの役に立つためにイリアの助手になった経緯はアルトから聞かされており、彼女が自分に話を通さなかったのは反対されると判断した上での行動だとヒナは見抜いていた。
最初からモモが相談していたら、ヒナも彼女の意思を尊重して止めはしなかった。だが、何の相談も無しに勝手に出て行ったせいでヒナはモモの分の仕事まで行う羽目になり、戻ってきたら説教をするつもりだった。
(もう私達も子供じゃないのよ……いっその事、ナイ君を白猫亭で雇おうかしら)
ナイが白猫亭で働く事になればモモも喜んで一緒に働くだろうが、仮にも国の英雄を一宿屋の従業員として雇い入れるなどできるはずがない。ヒナはクロエが用意してくれた珈琲を飲んで落ち着こうとした時、不意に外が騒がしい事に気付く。
「ん?なにかしら……」
「変ね、こんな時間帯にお客さんが来るとは思えないけど……」
宿屋の入口の方が騒がしい事に気付き、既に時刻は深夜を迎えている。この白猫亭には聖女騎士団の団員が用心棒としているため、何か問題があれば知らせに来るはずだった。
(こんな時間に誰か来たのかしら?でも、心当たりはないけど……)
深夜の時間帯に白猫亭に訪れる非常識な知り合いはおらず、ヒナは酔っ払いでも騒いでいるのかと思ったが、廊下から誰かが走ってくる足音が鳴り響く。
「た、大変っす!!」
「エリナさん!?」
「どうかしたの!?」
白猫亭の用心棒として宿屋に待機していた「エリナ」がノックもせずに部屋の中に入ってきた。彼女は聖女騎士団の団員で弓の名手であり、エルマを除けば彼女が騎士団一の射手と噂されるほどの実力者だった。
エリナは討伐隊に参加せずに白猫亭の警備を任され、宿屋で揉め事が怒れば彼女が対処する。しかし、彼女は何故か焦った表情で廊下の方を指差し、とんでもない事を告げた。
「あ、あの!!エルマさんのお仲間さんが……」
「ど、どうしたの?」
「落ち着きなさい、何があったの?」
「と、とにかく!!こっちに来てください、怪我人がいるんです!!」
「怪我人!?」
エリナの言葉にヒナとクロエは驚き、二人は急いで部屋の外へ出ると宿屋の玄関へ向かう。そして玄関の前で血塗れの状態で倒れているガロとゴンザレスを発見した。
「えっ!?この人達、確かにマホ魔導士のお弟子さん!?」
「そ、そうなんです!!エルマさんとも仲が良い御二人ですよね!?」
「ひ、酷い怪我だわ……すぐに治療しないと!!誰か、薬箱を持ってきて!!」
「ううっ……」
「…………」
ガロの方は呻き声を漏らすが、ゴンザレスの方は身動き一つせず、それを見たクロエは慌てて二人の様子を伺う。ヒナも慌てて二人の元に駆けつけ、エリナは指示された通りに薬箱を運び込む。
「酷い怪我だわ……いったい何があったの?」
「ゴンザレスさん!!しっかりして!!」
「ちょっと、生きてますか!?返事をしてくださいっす!!でないと犬耳をわしゃわしゃしますよ!?いいんですね!?」
「や、止めろぉっ……」
「ぐうっ……」
三人が声をかけるとガロとゴンザレスは瞼を開き、二人とも酷い重傷だったが意識はあった。それを確認したヒナは安堵するが、ここで彼女は二人の身体を確認して違和感を抱く。
(何?この傷……咬まれた?)
ガロもゴンザレスも身体のあちこちに無数の小さな鼠に噛みつかれたような傷跡が存在し、血が滲んで止まる様子がない。慌ててヒナはエリナにお湯が入った桶と綺麗な布を用意させ、傷口の消毒から行う。
傷口を消毒した後に薬草の粉末を塗りつけ、その上に包帯を巻く事で応急処置を行う。本当なら回復薬の類があれば良かったのだが、生憎と白猫亭に備蓄はなく、ひとまずは応急処置を済ませて二人に話を聞く。
「いったい何があったの!?」
「くっ……油断した、まさか灰鼠《ラット》如きに……」
「ううっ……血が足りない、肉を持ってきてくれ」
「お肉!?お肉が食べたいんですか!?」
「駄目よ、まずは治療が先よ!!誰か薬師か治癒魔導士を呼んでこないと……」
「薬師……こんな時にイシさんがいれば」
ヒナはクロエの言葉を聞いて真っ先に思いついたのは半年前まで王城で働いていた薬師の「イシ」を思い出す。彼はイリアの師匠であり、半年前に宰相の悪事を暴露した人物でもある。宰相が亡くなった後は彼はこれまでの悪事を償うため、監獄に自らの意思で収監された。
「そうだ、聖女騎士団の先輩の中に回復魔法を使える人がいますから、その人を呼んできますね!!」
「待て!!迂闊に外に出るな……襲われるぞ!!」
「えっ!?」
「ガロ、さんでしたよね?それってどういう意味ですか?」
エリナが聖女騎士団の屯所に向かおうとすると、それをガロが必死に引き留める。彼の言葉と反応にヒナは尋ねると、ガロは顔色を青くしながらも自分達の身に何が起きたのかを語った――
――時は一時間ほど前まで遡り、ガロとゴンザレスは夜中に見回りを行っていた。二人が最近起きた謎の失踪事件を調べ、事件の犯行が夜中に行われている事を突き止めて彼等は夜の街を歩き回る。
これまでの事件は一般区と商業区で行われている事を突き止め、二人はこの二つの区画を歩き回って調査を行う。そして今日、遂に怪しげな行動を取る人物を発見した。
「おい、ガロ……あれを見ろ」
「どうした?」
「女の人が絡まれているぞ」
ゴンザレスの言葉にガロは視線を向けると、そこにはマントで身体を覆い隠す女性に群がる二人の男が存在した。質の悪いチンピラらしく、女性に絡んできているらしい。
「なあ、姉ちゃんよ。こんな場所で一人で歩いているという事は娼婦か何かだろ?俺達の相手をしてくれよ」
「へへへっ……金は払うぜ?一人銅貨一枚でどうだ」
「…………」
女性は男達の言葉を聞いても表情すら変えず、黙って立ち去ろうとした。その態度の二人の男は苛立ちを抱き、彼女の肩を掴む。
「おい、無視してんじゃねえよ!!」
「少しばかり顔が良いからって調子乗ってんじゃねえぞっ!!」
「…………」
「ちっ……おい、何してやがる!!」
男達に絡まれる女性を見てガロは面倒に思いながらも助けようと声をかけた。この時に男達はガロとゴンザレスに気が付き、彼等は二人を見て顔色を青ざめる。
「げっ!?冒険者か!?」
「うわ、巨人族!?おい、逃げるぞ!!」
「待ちやがれっ!!」
ガロが身に付けている白銀級の冒険者バッジとゴンザレスの巨体を見て男達は相手が悪いと判断したのか、急いで逃げ出そうとした。それを見たガロは追いかけようとした時、女性が腕を伸ばして制止した。
どうして止めるのかとガロは驚いたが、女性がした行動はガロを止めるためではなく、彼女の伸ばした腕から白色の鼠が飛び出した。その鼠は凄まじい速さで駆けつけ、背後から男達を襲い掛かる。
「キィイッ!!」
「えっ……ぎゃああっ!?」
「うわっ!?な、何だ!?」
「ガロ!!あれを見ろ!!」
「くそっ!?何が起きてやがる!?」
女性の服から出てきた白色の鼠は男の一人に襲い掛かり、頸動脈を噛み切る。男は首筋から凄まじい勢いで血を噴き出し、それを見たもう一人の男は恐怖の表情を浮かべて逃げ出す。
「ひ、ひいいいっ!?」
「キィイッ!!」
「止めろっ!!」
もう一人の男に目掛けて鼠が追いかけ、それを見たガロは止めようと双剣に手を伸ばす。この時に彼は女性の横を通り抜けると、女性は一瞬だけガロを見て冒険者バッジを身に付けている事を知る。ガロは男に飛び掛かろうとする鼠に対して双剣を振りかざす。
「キィイッ!!」
「させるかっ!!」
「うひぃっ!?」
鼠が飛びついた瞬間、ガロは双剣を振り下ろして鼠を切り裂く。悲鳴を上げる暇もなく切り裂かれた鼠の死骸が地面に落ちると、ガロのお陰で命が助かった男は悲鳴を上げながら逃げ出す。
「ひぃいいいいっ!?」
「ちっ……おい、てめえ!!」
「ガロ!!もう逃げたぞ!!」
「何だと!?」
ガロは女性に怒鳴りつけようとしたが、ゴンザレスは既に女性が逃げ出した事を伝える。ガロが振り返った時には既に裏路地に駆け出す女性の姿が見えた。武器を直したガロはゴンザレスに指示を出す。
「ゴンザレス!!挟み撃ちだ!!」
「おうっ!!」
ガロは足に力を加えると速度を上昇させて跳躍し、女性の頭上を跳び越えて道を塞ぐ。後方からはゴンザレスが追いかけ、二人は遂に女性の前後を塞ぐ。
「こんな所に逃げたのが仇になったな……お前を拘束する!!抵抗するようなら容赦しないぞ!!」
「大人しく捕まってくれるなら手荒な真似はしない」
「…………」
ガロの言葉を聞いても女性は何も言い返さず、その間にゴンザレスが額に汗を流しながら女性の背後に立つ。彼は女性を捕まえようと手を伸ばした時、不意に異様な気配を感じ取った。
女性を追い詰めたつもりのガロとゴンザレスだったが、裏路地に入った瞬間に視線を感じ取り、すぐに視線の正体が判明する。二人が立っている通路には何時の間にか無数の鼠が集まっており、目元を赤く光り輝かせながら二人を睨みつけていた。
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