貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第989話 船内の作戦会議

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――ロランの号令の元、負傷者を除く騎士と冒険者が甲板に集まり、彼から今日一日は休息日として各自身体を休めるように伝えられる。その後、各騎士団の騎士団長と副団長と魔導士は呼び出され、会議室で話し合いが行われた。


「昨日の段階で我々は150匹以上のマグマゴーレムの討伐に成功した。初日しては十分な成果だが、敵の数が未知数である以上は素直に喜べん」
「こうしてみると凄いですね、マグマゴーレムは普通だったら白銀級冒険者でも手こずる相手なのに……」
「慣れてしまえばどうという事はない。奴等の溶岩の肉体は厄介だが、動作自体は単調で読みやすいからな」


初日で討伐隊はマグマゴーレムとの戦闘を経験し、敵がどのように立ち回るのか知れた事は大きな収穫だった。最初のうちは苦戦していた者もマグマゴーレムとの戦闘を経験した事で立ちまわり方を覚えた。次の行軍の時は前回の時よりも上手く戦う事ができる。

問題があるとすれば戦力面の不安があり、昨日の戦闘では思いもよらぬ奇襲を受けて負傷者を大勢出てしまった。


「昨日の作戦の失敗は我々が団体行動を取っていたからだ。部隊分けをしたといっても、我々は一定の距離間隔を開いているだけで同じ道を辿って行動していた」
「確かに大人数で行動して相手に気付かれたとしか思えないな」
「そこでこれからは我々は本格的に部隊を分け、別々の方角から山頂へ目指す方針に切り替える。部隊の編制は3つ、我が猛虎騎士団、金狼騎士団、銀狼騎士団の三部隊だ」
「ちょっと待ちな!!なんで聖女騎士団と白狼騎士団が省かれてるんだい!?」
「話は最後まで聞け……聖女騎士団の団員は各騎士団の援護役として参加してもらう。それと一番人数が少ない白狼騎士団はこの船の守護を任せるぞ。他にも各騎士団が人員を割いて飛行船の警護に当たって貰う」
「まあ、私とミイナだけですからね……」
「ナイがいるから十分」


白狼騎士団は少数精鋭でヒイロとミイナしかおらず、一応はナイも表向きは白狼騎士団に所属しているが、それでも三人しかいない。もっと人数を増やすべきなのだが、生憎と他の騎士団と比べて知名度がないせいで入団希望者も少ない。

貧弱の英雄の名声を考えればナイが所属する白狼騎士団に入りたいと思う人間は多いが、今現在は王国騎士の制度が代わり、昔よりも騎士に入れる条件が厳しくなった。それが原因で白狼騎士団は常に人材不足であり、アルトの悩みの種だった。


「テン、お前は俺の部隊に入って貰う。ルナ、今日はお前も付いてこい。雨のお陰で大分熱気も収まっただろう」
「よし!!あたしも暴れるぞ!!」
「シノビ、クノ……お前達は例の鼠の魔獣が飛行船にいないのか調べてもらう。リノ王女も念のために飛行船に残って下さい」
「仕方ありませんね……」
「「承知した(でござる)!!」」


飛行船の守護は引き続き同じ人間が任され、クノは今回は飛行船に残る事が決まり、その代わりに昨日残っていたフィルは討伐隊に同行する事になった。


「フィル、お前は金狼騎士団に配属してもらう」
「えっ!?僕がですか?」
「おいおい、俺はまた留守番か!?」
「案ずるな、お前にも出番は与える。だが、件の魔獣も気になる。ガオウ、お前が船内に隠れていた魔獣を見つけだそうだな?お前以外に適任はいない、この船を守れるのはお前だけだ」
「へっ、へへっ……大将軍にそこまで言われたら仕方ないな」
『……ちょろい(ぼそっ)』


ガオウは自分が留守番する事に不満を抱くが、ロランに頼まれては断り切れず、大将軍である彼に事から自分の実力を高く評価されていると思った。そんな彼にマリンが呆れるが、彼女にもロランは告げる。


「作戦の決行は明日だが、もしもゴウカがそれまでに回復しなければマリンは銀狼騎士団に入って貰う。昨日はゴウカに守られていたようだが、もしもゴウカが不在の時は他の者に守ってもらう」
『……別にゴウカが居なくても私一人で十分』
「よく言うぜ、昨日から元気ないじゃないか?パパがいないと寂しいでちゅか~?」
『死にたいの?』


マリンはガオウのからかいの言葉に本気の殺気を放ち、杖を取り出すが慌ててフィルが間に割って入って止めた。


「や、止めて下さい!!恥ずかしい、それでも二人とも黄金級冒険者ですか!?リーナさんを見習って……あれ、リーナさんは?」
「リーナさんは看病中ですよ。愛しのナイ君が心配で離れたくないそうです」
「い、愛しの……」
「おい、しっかりしろ!!」
『急にどうしたの?』


リーナがナイの看病のために会議に参加していなかった事を知り、フィルは愕然とした。彼はナイの事は尊敬しているが、同時にリーナの事は異性として意識しており、二人が深い仲だと知らされて衝撃を隠せない。

そんな黄金級冒険者達の姿にロランは心の中で「こいつらは大丈夫なのか?」と思いながらも作戦変更を伝え、今日の所は解散した。会議を終えた後、イリアは思うところがあって医療室に戻ると、ナイのベッドにモモとリーナが入り込んで一緒に眠っている姿を見る。


「う~ん……ナイ君、くすぐったいよう」
「ナイ君、あったかい……」
「うう~んっ……」
「全く、こんな時に呑気な人たちですね」


ナイは二人に抱きつかれて少し苦しそうな表情を浮かべ、その様子を見届けたイリアは呆れた表情を浮かべる。この時に彼女はナイのベッドの横に置いてある机に視線を向け、そこにはナイの装備が並べられていた。

彼女はナイの所有物である魔法腕輪を手にすると、彼女は魔法腕輪に嵌め込まれた「煌魔石」を取り外す。この煌魔石はイリアとモモが協力して作り出した代物だが、何故か魔石に僅かに罅割れが入っていて現在は使い物にならない。


(この罅割れ……自然にこうなったとは考えにくいですね)


煌魔石を製作する際、イリアは間違いなく状態確認を行った。その時は煌魔石に罅割れなど存在せず、魔力が漏れていたとは考えられない。しかし、現実に煌魔石に罅割れがあったせいでナイは思わぬ大怪我を負う羽目になった。

仮に煌魔石が万全の状態ならばナイは完全に魔力を回復させ、マグマゴーレム如きに後れを取る事は有り得なかった。問題があるとすれば煌魔石がどの段階で壊れていたかであり、少なくともイリアが確認した時は煌魔石に罅割れていなかったのは間違いない。


(ナイさんが戦闘中に誤って煌魔石を壊した可能性もありますが、それにしては他の魔石が無傷なのが気にかかりますね)


ナイの魔法腕輪には煌魔石以外にも各属性の魔石が嵌め込まれており、これらの類は一切の傷がなかった。仮に煌魔石が戦闘の最中に罅割れた場合、同じく魔法腕輪に嵌め込まれていた魔石が無傷なのがイリアは違和感を抱く。


(この煌魔石を私がモモさんに渡したのは昨日の出来事……その間、モモさんが管理をずさんにして煌魔石に罅が割れた可能性もありますけど、大好きなナイさんに渡す代物をいい加減に管理するとは思えませんね)


モモの性格を考えたらナイに渡す大切な煌魔石を雑に扱うはずがなく、少なくとも彼女がナイに煌魔石を渡した時は罅割れが入っていたとは気づいていなかった。しかし、イリアが管理していた時とナイが戦闘で煌魔石を壊していなかった場合、煌魔石が壊れた時間帯はモモが管理していた時としか考えられない。


(モモさんは私の仕事を手伝いを終えた後、自分の部屋に戻ったはず……そういえば昨日、モモさんが気になる事を言ってましたね)


イリアは昨日のモモとのやり取りを思い返し、彼女はイリアの仕事を手伝う時に妙に欠伸をしていた。それが気になったイリアはモモに眠いのかと尋ねた。


『さっきから欠伸ばっかりしてますけど、昨日は遅くまで起きてたんですか?』
『うん……昨日、夜に起きちゃったんだよね。部屋の中で変な音がして起きてみたんだけど、別に何もなくて……』
『音?』
『えっとね、何か鼠みたいな鳴き声が聞こえた気がするの。でも、部屋の中を見ても何もいなくて……』
『鼠、ですか』


話を聞いた時はイリアはまだ鼠の魔獣の件は知らず、その時はあまり気にしなかったが、今考えればモモが聞いた鼠の鳴き声は例の「魔獣」の可能性が高い。

モモの部屋に魔獣が侵入したとすれば煌魔石が壊れた原因は魔獣の可能性もあり、モモが眠っている間に魔獣が彼女の煌魔石に嚙り付いて細工を施した可能性がある。


(まさか魔獣が煌魔石を破壊しようとした?でも、どうしてそんな事を……)


食べ物の類ならばともかく、モモが持っていた煌魔石に魔獣が嚙り付く理由が分からず、これも魔獣を使役する魔物使いの仕業なのかとイリアは考える。もしかしたら魔物使いはナイが使用する煌魔石を破壊する事で彼を追い詰めようとしたのかと思った。

だが、疑問があるのはどうして魔物使いはナイが煌魔石を利用するのを知っていたかであり、そもそもモモが飛行船に乗り込んできたのは偶々彼女がナイの役に立ちたくてイリアの手伝い役を申し出たからである。その事を魔物使いが知っているのかとどうか気になった。

仮に魔物使いがナイが使用している煌魔石の製作はモモが行っていると知っていたとしても、彼が煌魔石を受け取る時期までは分からない。昨日のうちにナイが煌魔石を受け取ったのはただの偶然であり、偶々ナイが所有していた煌魔石が魔力が切れかかっていたので交代したに過ぎない。


(敵の目的はナイさんの煌魔石だった?いや、何か腑に落ちませんね……魔石、傷つける……魔石?)


イリアはあと少しで魔物使いの真意が掴めそうな気がしたが、手がかりが足りない。いくら考えても今の段階では何も分からず、彼女はとりあえずは魔獣の探索を行う人間の報告を待つ事にした――
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