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嵐の前の静けさ
第987話 撤退
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「――ナイ!!この馬鹿、何て事を!!」
「ナイ君、しっかりして!!」
「うっ……」
旋斧に蓄積させた魔力を暴発させ、マグマゴーレムを爆破させたナイは至近距離から爆発を受けて意識を失う。他の者が駆けつけた時には彼は酷い火傷を負い、声をかけても意識が戻る様子がない。
彼の活躍のお陰でマグマゴーレムの大半は仕留められ、残ったマグマゴーレムは他の者たちが対処した。リーナもナイが飲ませてくれた魔力回復薬のお陰で回復したが、酷い火傷を負ったナイを見て顔色を青ざめる。
「ナ、ナイ君!!」
「落ち着きな!!まだ死んじゃいない……死なせるもんか!!」
「衛生兵!!早く彼に治療を!!」
「は、はい!!」
ロランの指示を受けて同行していた騎士の中から薬箱を抱えた者が駆けつけ、火傷を負ったナイに治療を施そうとする。しかし、薬箱を開いた途端に騎士は悲鳴を上げた。
「キィイイッ!!」
「うわぁっ!?」
「どうした!?」
薬箱を開いた瞬間に白い小さな生き物が飛び出し、悲鳴を聞きつけたロランが振り返った時にはその生き物は地面を駆け出して逃げようとした。それを見たクノが反射的にクナイを取り出し、逃げ出した生き物に目掛けて放つ。
「はっ!!」
「ギャアッ!?」
「なんだこいつは……ひぃっ!?」
「これは……」
クナイを受けた生き物は地面に串刺しとなり、正体を確かめようとドリスとリンが近寄ると、リンは悲鳴を上げてドリスに抱きつき、一方でドリスの方は正体を確かめて驚く。
「ね、鼠ですわ。多分ですけど、普通の鼠じゃなくて鼠型の魔獣だと思いますけど……」
「何だって!?」
『何で鼠が薬箱の中に……』
「ああっ!?く、薬がっ……!!」
薬箱から出てきた生き物の正体が鼠型の魔獣だと判明して全員が戸惑う中、衛生兵は薬箱を見て悲鳴を上げた。他の者も薬箱を覗き込むと、その惨状を見て顔色を青ざめた。
衛生兵が抱えていた薬箱の中には大量の硝子の破片が散らばっており、底の方には回復薬と思われる液体が溜まっていた。他にも包帯や薬草の粉末が入った小袋が食い破られており、先ほど逃げ出した鼠の仕業なのは間違いない。
「そ、そんな……薬が全部だめになっています!!」
「何だと!?」
「くっ……誰か回復薬をまだ持っている者はいるか!?」
「そ、それなら僕のが!!」
衛生兵が運んでいた薬箱の中身は駄目になってしまったが、討伐隊の隊員は事前に回復薬を手渡されており、マグマゴーレムとの戦闘では使わなかった者達が回復薬を取り出す。その中にはリーナも含まれ、彼女は回復薬をナイの口元に流し込もうとした。
「ナイ君、これを飲んで!!」
「うっ……げほ、げほっ!!」
「ほら、しっかり飲みな!!おい、誰かまだ回復薬が余っている奴は火傷にふりかけな!!」
「儂のを渡そう」
「私のも!!」
『我のも飲め!!』
全員が集まって回復薬が余っている者達はナイの身体に振りかけ、火傷をどうにか治そうとした。しかし、火傷の類の傷は回復薬でも治すのが難しく、本来であれば薬草の粉末などを塗り込んだ後に包帯で巻く方法が効果的だった。しかし、その肝心の薬草の粉末も包帯も鼠に食い散らされてしまって使えない。
この場では本格的な治療は行えず、一刻も早くナイを飛行船にいるはずの薬師のイリアの元に連れていく必要があった。ナイ以外の負傷者も多く、全員が疲労しているのを見てロランは撤退を指示した。
「これより飛行船へ戻るぞ!!殿は俺が務める、先頭は聖女騎士団に任せるぞ!!」
「仕方ないね……ドリス、リン!!あんたらがしっかりとナイを守りな!!」
「ええ、分かりましたわ!!」
「他の負傷者も連れて来い!!私達が守ってやる!!」
「偵察は拙者が!!」
ロランは大将軍として皆を守るために一番危険な殿役を務め、クノが先行して安全を確かめた後にテンが率いる聖女騎士団を先頭に移動を開始する。他の騎士団は負傷者を護衛しながら聖女騎士団の後に続く。
王国軍の最大戦力であるナイが思いもよらぬ形で大怪我を負い、他の者たちも100体以上のマグマゴーレムとの戦闘で肉体的にも精神的にも追い詰められていた。もしもまたマグマゴーレムの大群が襲ってきた場合、今度は全滅の危機もある。
「マホ魔導士、もしも次にマグマゴーレムが現れれば……」
「うむ……広域魔法で対処するしかあるまい」
「老師!!それでは老師の身体が……」
ロランは万が一にマグマゴーレムの大群が再び押し寄せた場合、頼りになるのはマホの「広域魔法」だけだった。広域魔法ならば大多数の敵を一掃できるが、その反動にマホの肉体にも大きな負荷を与える。
「エルマよ、この状況では文句は言うな。若者が命を賭けて戦っているのに儂が命を惜しむわけにはいかん」
「老師……」
マホはナイが命を落としかけた光景を見て、どうして自分がもっと早く動かなかったのかと後悔した。心の何処かでナイならばどんな相手にも負けないと考えてしまい、その過度な期待のせいでナイは思わぬ形で負傷した。
冷静に考えればナイはまだ17才にも満たない少年であり、いくら数々の修羅場を潜り抜けてきたといっても彼は歴戦の武人ではない。マホは大怪我を負ったナイを見てこの子だけは命を賭けても守り通す事を誓う――
「――とまあ、息込んだ割には何事もなく帰ってきたんですね」
「うむ……今思うと、恥ずかしい台詞を言ってしまった」
「ろ、老師……」
一時間後、討伐隊は何事もなく飛行船に帰還していた。船内の医療室にてイリアはマホから報告を受け、ナイと他の負傷者に関しては既に治療が行われた。
「ナイ君……」
「大丈夫だよ、モモちゃん……」
「う~んっ……」
ナイの横たわっているベッドでは左右にリーナとモモが座り、彼の両手を握りしめていた。治療が終わったナイは火傷も完璧に治ったが、今だに意識を取り戻す様子がない。
怪我が治ったのにナイが完全に治らないのは魔力を消耗し過ぎたからであり、完全に魔力を回復するまではしばらくは意識が戻らない。そして眠っている間もモモが魔操術で魔力を流し込み、彼の回復を早めようと頑張っていた。
「それにしてもあのナイさんが倒れるとは……どうやら想像以上に苦戦したようですね」
「それもあるが……まさか、薬箱の中に鼠が紛れておるとは思わんかったな」
「その鼠はどうしましたか?回収してたのなら見せてください、解剖して調べてみますから」
「か、解剖……」
イリアは薬箱に入り込んでいた鼠型の魔獣が気にかかり、その魔獣を連れて帰っていれば解剖して正体を調べられると思ったが、生憎とあのときの状況では魔獣の回収など考える暇もなかった。
「すまんが魔獣は置いて来てしまった。一刻も早く、この船に戻る必要があったからな」
「そうですか。ですけど運良く雨が降ってきて助かりましたね。これで奴等もしばらくは動けませんよ」
「ええ、あの時は本当に助かりました」
撤退の途中で雨が降り注ぎ、そのお陰なのかマグマゴーレムの追跡を受けずに飛行船へ無事に帰還できた。報告によれば最近のグマグ火山は全く雨が降らなかったそうだが、運良く撤退中に雨が降ってきたお陰で命拾いした。まるで天がナイを生かそうと雨を降らしたのではないかと思う程である。
マグマゴーレムは雨が降ると身体に触れないように地中に潜り込む習性があり、そのお陰で雨が降る間は襲われる心配はない。但し、この雨のせいで討伐隊も火山に出向けなくなった。雨の中の行軍は危険という理由もあるが、討伐隊の目的はマグマゴーレムの大群の始末であるため、雨でマグマゴーレムが姿を隠したら倒す事もできない。
「イリアよ、儂等がいない間に船の方は何か問題はなかったか?」
「問題……ありましたね。急にこの部屋にシノビさんが入り込んできて、私を追い出して部屋を占拠したんですよ」
「兄上が!?」
「わっ!?クノさん、居たんですか!?」
天井から声がして全員が顔を見上げると天井に張り付くクノが存在し、ヤモリのように天井に張り付いていた彼女は床に降りると詳しく話を尋ねる。
「兄上が占拠したとはどういう事でござる?」
「急にこの部屋に来て「気配を感じる」とか言い出して、私を追い出して部屋の中に物を無茶苦茶に漁ったんですよ。今は元に戻したんですけど掃除が大変だったんですからね」
「どうしてシノビ殿がそんな事を……」
「知りませんよ。部屋を荒すだけ荒した後に勝手に出て行ったんですから」
「むうっ……兄者は何か見つけたのでござるか?」
イリアの話を聞いてクノは腕を組み、シノビの行動に疑問を抱く。イリアとしては医療室を荒されて文句を言いたい所だが、そのシノビは今も船内を忙しなく動き回って何処にいるのか見当もつかない。
不審な行動を取っていたのはシノビだけではなく、実は他にも何名か彼のように船内を動き回る物が居た。その人物はガオウとフィルであり、二人もシノビと同様に船内を探索していた事をイリアは語る。
「そういえばガオウさんとフィルさんも船内を走り回ってましたね。詳しい話はこの二人に聞いたらどうですか?」
「そうでござるな……では、拙者は聞き込みしてくるでござる」
「私も行きましょう。他の方も何か知ってるかもしれませんし……」
「イリアよ、怪我人の治療が終わるまでどれくらいかかる?」
「それほど時間は掛かりませんよ。明日の朝には全員完治しています」
「流石じゃな」
負傷者が飛行船に戻った時にイリアが迅速に適確な治療を行い、そのお陰で全員が助かった。マグマゴーレムとの戦闘でかなりの数の負傷者が現れたが、明日の朝には全員が治って何事もなく動けるまでに回復するという。
但し、思っていた以上に薬の消費が激しく、飛行船内に保管している薬もあまり余裕はなくなった。それに薬箱に忍び込んでいた魔獣の件もあり、これからは薬は厳重に保管しなければならない。
「また例の鼠が現れないようにここにも見張りが必要ですね」
「分かった。儂がロランに伝えておこう……その前にひと眠りさせてもらうぞ」
「どうぞ、ベッドなら空きがありますから好きに使ってください」
マホも先の戦闘で魔力を使いすぎており、彼女はしばらくの間眠る事にした――
「ナイ君、しっかりして!!」
「うっ……」
旋斧に蓄積させた魔力を暴発させ、マグマゴーレムを爆破させたナイは至近距離から爆発を受けて意識を失う。他の者が駆けつけた時には彼は酷い火傷を負い、声をかけても意識が戻る様子がない。
彼の活躍のお陰でマグマゴーレムの大半は仕留められ、残ったマグマゴーレムは他の者たちが対処した。リーナもナイが飲ませてくれた魔力回復薬のお陰で回復したが、酷い火傷を負ったナイを見て顔色を青ざめる。
「ナ、ナイ君!!」
「落ち着きな!!まだ死んじゃいない……死なせるもんか!!」
「衛生兵!!早く彼に治療を!!」
「は、はい!!」
ロランの指示を受けて同行していた騎士の中から薬箱を抱えた者が駆けつけ、火傷を負ったナイに治療を施そうとする。しかし、薬箱を開いた途端に騎士は悲鳴を上げた。
「キィイイッ!!」
「うわぁっ!?」
「どうした!?」
薬箱を開いた瞬間に白い小さな生き物が飛び出し、悲鳴を聞きつけたロランが振り返った時にはその生き物は地面を駆け出して逃げようとした。それを見たクノが反射的にクナイを取り出し、逃げ出した生き物に目掛けて放つ。
「はっ!!」
「ギャアッ!?」
「なんだこいつは……ひぃっ!?」
「これは……」
クナイを受けた生き物は地面に串刺しとなり、正体を確かめようとドリスとリンが近寄ると、リンは悲鳴を上げてドリスに抱きつき、一方でドリスの方は正体を確かめて驚く。
「ね、鼠ですわ。多分ですけど、普通の鼠じゃなくて鼠型の魔獣だと思いますけど……」
「何だって!?」
『何で鼠が薬箱の中に……』
「ああっ!?く、薬がっ……!!」
薬箱から出てきた生き物の正体が鼠型の魔獣だと判明して全員が戸惑う中、衛生兵は薬箱を見て悲鳴を上げた。他の者も薬箱を覗き込むと、その惨状を見て顔色を青ざめた。
衛生兵が抱えていた薬箱の中には大量の硝子の破片が散らばっており、底の方には回復薬と思われる液体が溜まっていた。他にも包帯や薬草の粉末が入った小袋が食い破られており、先ほど逃げ出した鼠の仕業なのは間違いない。
「そ、そんな……薬が全部だめになっています!!」
「何だと!?」
「くっ……誰か回復薬をまだ持っている者はいるか!?」
「そ、それなら僕のが!!」
衛生兵が運んでいた薬箱の中身は駄目になってしまったが、討伐隊の隊員は事前に回復薬を手渡されており、マグマゴーレムとの戦闘では使わなかった者達が回復薬を取り出す。その中にはリーナも含まれ、彼女は回復薬をナイの口元に流し込もうとした。
「ナイ君、これを飲んで!!」
「うっ……げほ、げほっ!!」
「ほら、しっかり飲みな!!おい、誰かまだ回復薬が余っている奴は火傷にふりかけな!!」
「儂のを渡そう」
「私のも!!」
『我のも飲め!!』
全員が集まって回復薬が余っている者達はナイの身体に振りかけ、火傷をどうにか治そうとした。しかし、火傷の類の傷は回復薬でも治すのが難しく、本来であれば薬草の粉末などを塗り込んだ後に包帯で巻く方法が効果的だった。しかし、その肝心の薬草の粉末も包帯も鼠に食い散らされてしまって使えない。
この場では本格的な治療は行えず、一刻も早くナイを飛行船にいるはずの薬師のイリアの元に連れていく必要があった。ナイ以外の負傷者も多く、全員が疲労しているのを見てロランは撤退を指示した。
「これより飛行船へ戻るぞ!!殿は俺が務める、先頭は聖女騎士団に任せるぞ!!」
「仕方ないね……ドリス、リン!!あんたらがしっかりとナイを守りな!!」
「ええ、分かりましたわ!!」
「他の負傷者も連れて来い!!私達が守ってやる!!」
「偵察は拙者が!!」
ロランは大将軍として皆を守るために一番危険な殿役を務め、クノが先行して安全を確かめた後にテンが率いる聖女騎士団を先頭に移動を開始する。他の騎士団は負傷者を護衛しながら聖女騎士団の後に続く。
王国軍の最大戦力であるナイが思いもよらぬ形で大怪我を負い、他の者たちも100体以上のマグマゴーレムとの戦闘で肉体的にも精神的にも追い詰められていた。もしもまたマグマゴーレムの大群が襲ってきた場合、今度は全滅の危機もある。
「マホ魔導士、もしも次にマグマゴーレムが現れれば……」
「うむ……広域魔法で対処するしかあるまい」
「老師!!それでは老師の身体が……」
ロランは万が一にマグマゴーレムの大群が再び押し寄せた場合、頼りになるのはマホの「広域魔法」だけだった。広域魔法ならば大多数の敵を一掃できるが、その反動にマホの肉体にも大きな負荷を与える。
「エルマよ、この状況では文句は言うな。若者が命を賭けて戦っているのに儂が命を惜しむわけにはいかん」
「老師……」
マホはナイが命を落としかけた光景を見て、どうして自分がもっと早く動かなかったのかと後悔した。心の何処かでナイならばどんな相手にも負けないと考えてしまい、その過度な期待のせいでナイは思わぬ形で負傷した。
冷静に考えればナイはまだ17才にも満たない少年であり、いくら数々の修羅場を潜り抜けてきたといっても彼は歴戦の武人ではない。マホは大怪我を負ったナイを見てこの子だけは命を賭けても守り通す事を誓う――
「――とまあ、息込んだ割には何事もなく帰ってきたんですね」
「うむ……今思うと、恥ずかしい台詞を言ってしまった」
「ろ、老師……」
一時間後、討伐隊は何事もなく飛行船に帰還していた。船内の医療室にてイリアはマホから報告を受け、ナイと他の負傷者に関しては既に治療が行われた。
「ナイ君……」
「大丈夫だよ、モモちゃん……」
「う~んっ……」
ナイの横たわっているベッドでは左右にリーナとモモが座り、彼の両手を握りしめていた。治療が終わったナイは火傷も完璧に治ったが、今だに意識を取り戻す様子がない。
怪我が治ったのにナイが完全に治らないのは魔力を消耗し過ぎたからであり、完全に魔力を回復するまではしばらくは意識が戻らない。そして眠っている間もモモが魔操術で魔力を流し込み、彼の回復を早めようと頑張っていた。
「それにしてもあのナイさんが倒れるとは……どうやら想像以上に苦戦したようですね」
「それもあるが……まさか、薬箱の中に鼠が紛れておるとは思わんかったな」
「その鼠はどうしましたか?回収してたのなら見せてください、解剖して調べてみますから」
「か、解剖……」
イリアは薬箱に入り込んでいた鼠型の魔獣が気にかかり、その魔獣を連れて帰っていれば解剖して正体を調べられると思ったが、生憎とあのときの状況では魔獣の回収など考える暇もなかった。
「すまんが魔獣は置いて来てしまった。一刻も早く、この船に戻る必要があったからな」
「そうですか。ですけど運良く雨が降ってきて助かりましたね。これで奴等もしばらくは動けませんよ」
「ええ、あの時は本当に助かりました」
撤退の途中で雨が降り注ぎ、そのお陰なのかマグマゴーレムの追跡を受けずに飛行船へ無事に帰還できた。報告によれば最近のグマグ火山は全く雨が降らなかったそうだが、運良く撤退中に雨が降ってきたお陰で命拾いした。まるで天がナイを生かそうと雨を降らしたのではないかと思う程である。
マグマゴーレムは雨が降ると身体に触れないように地中に潜り込む習性があり、そのお陰で雨が降る間は襲われる心配はない。但し、この雨のせいで討伐隊も火山に出向けなくなった。雨の中の行軍は危険という理由もあるが、討伐隊の目的はマグマゴーレムの大群の始末であるため、雨でマグマゴーレムが姿を隠したら倒す事もできない。
「イリアよ、儂等がいない間に船の方は何か問題はなかったか?」
「問題……ありましたね。急にこの部屋にシノビさんが入り込んできて、私を追い出して部屋を占拠したんですよ」
「兄上が!?」
「わっ!?クノさん、居たんですか!?」
天井から声がして全員が顔を見上げると天井に張り付くクノが存在し、ヤモリのように天井に張り付いていた彼女は床に降りると詳しく話を尋ねる。
「兄上が占拠したとはどういう事でござる?」
「急にこの部屋に来て「気配を感じる」とか言い出して、私を追い出して部屋の中に物を無茶苦茶に漁ったんですよ。今は元に戻したんですけど掃除が大変だったんですからね」
「どうしてシノビ殿がそんな事を……」
「知りませんよ。部屋を荒すだけ荒した後に勝手に出て行ったんですから」
「むうっ……兄者は何か見つけたのでござるか?」
イリアの話を聞いてクノは腕を組み、シノビの行動に疑問を抱く。イリアとしては医療室を荒されて文句を言いたい所だが、そのシノビは今も船内を忙しなく動き回って何処にいるのか見当もつかない。
不審な行動を取っていたのはシノビだけではなく、実は他にも何名か彼のように船内を動き回る物が居た。その人物はガオウとフィルであり、二人もシノビと同様に船内を探索していた事をイリアは語る。
「そういえばガオウさんとフィルさんも船内を走り回ってましたね。詳しい話はこの二人に聞いたらどうですか?」
「そうでござるな……では、拙者は聞き込みしてくるでござる」
「私も行きましょう。他の方も何か知ってるかもしれませんし……」
「イリアよ、怪我人の治療が終わるまでどれくらいかかる?」
「それほど時間は掛かりませんよ。明日の朝には全員完治しています」
「流石じゃな」
負傷者が飛行船に戻った時にイリアが迅速に適確な治療を行い、そのお陰で全員が助かった。マグマゴーレムとの戦闘でかなりの数の負傷者が現れたが、明日の朝には全員が治って何事もなく動けるまでに回復するという。
但し、思っていた以上に薬の消費が激しく、飛行船内に保管している薬もあまり余裕はなくなった。それに薬箱に忍び込んでいた魔獣の件もあり、これからは薬は厳重に保管しなければならない。
「また例の鼠が現れないようにここにも見張りが必要ですね」
「分かった。儂がロランに伝えておこう……その前にひと眠りさせてもらうぞ」
「どうぞ、ベッドなら空きがありますから好きに使ってください」
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