貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第985話 絶体絶命

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「畜生!!あんたら、死にたくないなら後ろに居な!!」
「大盾部隊!!防御態勢を取れ!!」
『はっ!!』


大盾や大剣を持つ者は地面に突き刺して盾代わりに利用し、他の者はリーナが作り出す氷塊の後ろに隠れた。ナイは旋斧を取り出すと水属性の魔石から魔力を引き出し、それを旋斧の刃に纏わせる。


(まさかこんな形で使う事になるなんて……)


この時にナイは旋斧に埋め込まれた黒水晶に水属性の魔力を宿し、水晶の色合いが青色へと変化した。ナイはリーナが作り出した氷塊に目掛けて旋斧を突き刺し、水属性の魔力を送り込んで氷塊の規模を拡大化させた。


「やあああっ!!」
「はあああっ!!」
『ゴォオオオオッ!!』


ナイとリーナは叫び声をあげて氷塊を巨大化させると、正面から100を数えるマグマゴーレムが転がり込んできた。全てのマグマゴーレムが傾斜を利用して加速し、次々と氷塊へと突っ込む。

勢いよく加速して転がり込んできたマグマゴーレムが氷塊に衝突した瞬間、亀裂が走って氷塊が砕けかける。しかし、ナイとリーナは水属性の魔力を送り込み、この時にナイは黒水晶に宿した水属性の魔力を引き出す。


「でりゃあああっ!!」
『ゴアッ……!?』


旋斧が魔法腕輪の魔石と黒水晶から引き出した魔力により、通常時の倍近くの水属性の魔力を宿す。刀身が青く光り輝き、亀裂が走った氷塊が元通りに戻り始める。


「耐えろ!!耐えるんだ!!」
「ぐううっ!?」
「大盾部隊を支えろ!!」


氷塊の後ろに隠れきれなかった者達は防魔の盾を構えるバッシュや大盾を所持した騎士の後方に避難し、彼等を必死に後ろから支える。テンとゴウカの元にもマグマゴーレムが転がり落ちてきたが、二人は自力で防いで身を守る。


「くぅっ……まだ結婚もしてないのに死ぬのなんて御免だよ!?」
『ふははっ!!流石にこれは死ぬかもしれんな!!』
「もう少しだ!!諦めるな!!」


大盾部隊と共にロランは他の者を呼びかけ、もう少しで全てのマグマゴーレムが通り過ぎる。しかし、最後の最後で一際大きなマグマゴーレムが迫ってきた。


「ゴガァアアアアッ!!」
「な、何だあの大きさは!?」
「まずい、こっちの方に……」
「支えきれない、逃げるんだ!!」


大盾部隊に目掛けて一際巨大なマグマゴーレムが転がり込み、それを見た騎士達は耐え切れないと判断して退避しようとした。だが、この時に魔法の準備をしていたマリンとマホが動く。


「皆の物、下がれ!!」
『マジックアロー!!』


マホとマリンは杖を構えると、魔法陣を展開させる。そしてマリンは七色に光り輝く魔法陣から次々と光の矢を放ち、マホの方は風属性の魔力で構成した「渦巻」を生み出す。

マリンが使用した「マジックアロー」は砲撃魔法の中でも特殊な部類に入り、このマジックアローは本人が扱える属性の魔法攻撃を行う。例えば火属性の適性がある人間は「炎の矢」水属性の適性がある人間は「水の矢」を打ち込む。マリンの場合はに適性があるらしく、次々と各属性の特徴を併せ持つ光の矢を放つ。


「消えよ!!」
「ゴアッ!?」
「はああっ!!」


先に撃ち込んだマホの「風の渦巻」がマグマゴーレムの全身に纏っていた炎を消し去り、その後に放たれた無数の光の矢がマグマゴーレムに襲い掛かる。複数の属性の魔力の矢が衝突した瞬間、魔力が反発しあって光の衝撃波と化し、跡形もなく吹き飛ばす。


「ゴガァアアッ……!?」
「くっ……奴等、全員転がり終わったようだね!!」
『よし、では反撃開始だ!!』


マグマゴーレムの大群が全て転がり落ちると、テンとロランは大剣を引き抜いて反撃の態勢を取る。しかし、他の者たちはとても戦える状態ではなかった。


「はあっ、はあっ……!?」
「リーナ、大丈夫!?」
「ぐううっ……」
「王子、しっかりして下さい!!」


全員を守るためにリーナは無理をしてしまい、バッシュの方も防魔の盾で防いでいたが、体力を使い果たしてクノに支えられる。

大盾を所持した騎士達も倒れ、全員の大盾が溶解して腕に酷い火傷を負っていた。守られた者達も彼等を支えるために疲弊し、まともに戦える人間は半分も残っていない。



――ゴオオオオッ!!



疲労と負傷で動けない者達にマグマゴーレムの大群が迫り、正に絶体絶命の状況へ追い込まれた。しかし、それでも戦える者は武器を手にして立ち上がる。


「ゴオオオッ!!」
「ひいいっ!?」
「情けない声を上げるんじゃないよ!!それでも騎士かい!?」


倒れ込んだ騎士に襲い掛かろうとしたマグマゴーレムにテンは駆けつけ、彼女は退魔刀を突き刺してマグマゴーレムを押し込む。マグマゴーレムは背後に存在した岩石に叩き付けられる。


「ゴアッ……!?」
「はあっ、はあっ……くそっ、ルナの奴を連れてくれば良かったね!!」
『ぬんっ!!』


テンがマグマゴーレムの一匹を倒すと、少し離れた場所ではゴウカがマグマゴーレムの集団に囲まれ、ドラゴンスレイヤーで薙ぎ倒す。彼だけは討伐隊の中で全く疲れを見せず、一人でも十分に対応できていた。

殆どの者が先ほどのマグマゴーレムの攻撃で体力を使い果たしていた。気が緩んでいた時に攻撃された事もあり、精神的なショックが大きくて心が折れかけていた。


「も、もう駄目だ……」
「くそっ……」
「何が駄目だ!!立て、立って戦え!!貴様等はそれでも誇り高き王国騎士か!?」
「ロ、ロラン大将軍……!?」


ロランは自ら前に出ると勇猛果敢にマグマゴーレムの集団に突っ込み、双紅刃を振りかざして敵を打ち倒す。彼は戦いながらも騎士達に声をかけ、この絶望的な状況を覆そうとする。


「生き残りたければ戦え!!最後まで諦めるな!!例え、死ぬとしても騎士としての誇りを最後まで貫け!!」
「う、うおおおおっ!!」
「このぉっ!!」
「ロラン大将軍に続け!!」


ロランの言葉に鼓舞された騎士達は起き上がり、最後まで諦めずにマグマゴーレムへ挑む。彼のお陰で士気は上がったが、それでも体力の限界を迎えている事には間違いなく、動きが鈍かった。


(くっ……何か、何か手はないのか!?)


ナイはリーナの身体を支えながら周囲の様子を伺い、この状況を打破する方法を探す。しかし、良案は全く思い浮かばず、考えている間にも彼の元にマグマゴーレムが迫る。


「ゴオオッ!!」
「ゴアッ!!」
「くそっ!!」
「ナ、ナイ君……逃げて」


リーナを肩に抱えながらナイは旋斧を振り回し、マグマゴーレムが近付けないように牽制を行う。そんな彼に対してリーナは意識を失いかけながらも逃げるように訴えるが、彼女を置いて逃げる事などナイにはできない。

先ほどの防御でリーナは魔力を使いすぎてしまい、このままでは彼女は死んでしまう。一刻も早く薬を飲ませる必要があるが、それをしようにもマグマゴーレムが邪魔で彼女を治療できなかった。


(こいつら邪魔だ!!でも、離れたら他の人の所に……)


人を抱えた状態では流石のナイも本気で戦う事はできず、近づいてくるマグマゴーレムを旋斧で追っ払いながら打開策を必死に考える。


(どうすればいい!?どうすれば……)


雨でも降ればマグマゴーレムも引き返すかだろうが、生憎と空は雲一つない青空が広がり、自然の恵みには期待できそうにない。マホやマリンが魔法で何とかできないのかとナイは顔を向けるが、二人の元にもマグマゴーレムが迫って他の者を援護する余裕はなかった。


「ゴオオッ!!」
「老師、こっちです!!」
「くっ……」
「……多すぎる」


マホとマリンはエルマに抱えられた状態で逃げ出し、二人は魔法を発動させる余裕もなかった。そもそも乱戦状態では魔法で敵だけを狙い撃つ事も難しく、下手に魔法を使えば他の者を巻き込みかねないために規模の大きい魔法は使えない。


「嵐突!!」
「爆槍!!」
『ゴアアッ!?』


ドリスとリンは背中を合わせて迫りくるマグマゴーレムの対処を行い、二人は汗を流しながらも戦っていた。状況を把握したナイはこのままでは大勢の被害者が生まれると判断した。

戦闘不能に陥ったリーナを抱えながらでは全力で戦う事はできず、こんな事ならば飛行船からもっと味方を連れてくるか、あるいはビャクを連れ込めば良かったと後悔する。しかし、後悔した所で状況は変わらず、手持ちの装備でナイはこの状況を切り抜ける方法を考えた。


(諦めるな、何か方法があるはずだ……そうだ!?)


ナイはアルトから借りていた収納鞄を思い出し、この中には彼が普段から持ち歩いている様々な魔道具が入っているはずだった。この状況を打破できる魔道具が入っているかもしれず、ナイはリーナを抱えながら鞄に手を伸ばす。


(何かないか、何か……これは!?)


収納鞄の中からナイはある物を取り出し、それは先ほど回収したマグマゴーレムの核だった。イリアに頼まれてナイは核をいくつかを回収していたが、ここでマグマゴーレムの特徴を思い出す。

マグマゴーレムの主食は火属性の魔石の原石であり、そしてマグマゴーレムの核は加工すれば良質な火属性の魔石となる。それならばも別個体のマグマゴーレムにとっては餌同然ではないのかと思ったナイは鞄から核を取り出して放り込む。
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