貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第965話 ゴーレムの核

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「無事で良かった……でも、危ないから二人とも離れて!!」
「ウォンッ!!」
「ぷるぷるっ(了解)」


ビャクはプルミンを連れて距離を取ると、ナイは改めて崩壊した村長の屋敷を確認する。ゴーレムは瓦礫を押し退けて姿を現した途端、ナイは違和感を抱く。何故か瓦礫から現れたゴーレムの体色が変化しており、先ほどは全身が漆黒に染まっていたというのに何時の間にかマグマゴーレムの如く赤色に変色していた。


(マグマゴーレム!?いや、こいつは……違う!!)


最初は自分が戦っていたゴーレムとは別個体のゴーレムが現れたのかと思ったが、すぐに「観察眼」の技能を発動させたナイはゴーレムの身体に罅が入っている事を見抜き、敵の正体が先ほどまで戦っていたゴーレムと同一個体だと判断する。

ゴーレムの両手には火属性の魔石の原石が握りしめられ、どうやら村長の屋敷に保管されていた魔石の魔力を吸収して変貌したらしい。村長は逃げ出した際に魔石を置き忘れたらしく、ゴーレムは魔石を大きな口に含んだ瞬間に大量の火属性の魔力を吸収した。


「ウオオオオッ!!」
「まずいっ!?」


火属性の魔力を取り込んだ事でゴーレムはマグマゴーレムのように全身を発熱させ、黒水晶の方も赤色に変色した。ナイは直感で危険を感じ取って旋斧を構えると、ゴーレムはナイに目掛けて口元から光線を放つ。


「アガァアアアアッ!!」
「くぅうっ!?」
「ウォンッ!?」
「ぷるるんっ!?」


旋斧を盾代わりにしてナイはゴーレムが口元から放った火属性の魔力を受け止め、先のドリスとの戦闘の時のように魔力を吸収して耐えようとした。しかし、どれほどの魔石を喰らったのかゴーレムは火竜の火炎の吐息《ブレス》級の攻撃を続ける。


「アアアアアッ!!」
「うぐぅっ……!?」
「ウォオオンッ!!」
「ぷるぷるっ!!」


ナイが徐々に押されていく光景を見てビャクもプルミンも見て居られず、ゴーレムの元へ向かおうとした。しかし、それに気づいたゴーレムは首元を動かしてビャク達に攻撃を仕掛けた。


「オアアッ!!」
「キャインッ!?」
「ぷるんっ!?」
「危ない!?」


ビャクは咄嗟に上空へ跳躍し、その背中に乗っていたプルミンはしっかりとしがみつく。どうにかゴーレムが振り払った光線を回避する事には成功したが、そのせいで村に残っていた建物が光線で焼き払われる。

周囲一帯が光線に寄って火の海と化し、これ以上にゴーレムに攻撃をさせていたら村は完全に焼き尽くされてしまう。危険は承知の上でナイはゴーレムを倒すために接近し、先ほど吸収した火属性の魔力を生かして突進した。


(ドリスさんのように真似できるか分からないけど……やるしかない!!)


火属性の魔力を宿した旋斧をナイは後ろに傾けると、ドリスの爆槍を見習って刃から魔力を一気に解放させ、爆炎を利用して一気に加速する。以前にも似た戦法でドリスを打ち破った事を思い出し、あの時以上の火力で加速したナイはゴーレムに突っ込む。


「だあああっ!!」
「アグゥッ!?」


ゴーレムの側頭部に目掛けてナイは旋斧を叩き付けると、先ほどの岩砕剣の一撃で罅割れていた頭部に更なる衝撃が加わって亀裂が広まる。それでも完全な破壊には至らず、ゴーレムは近づいて来たナイを腕で振り払う。


「ウオオッ!!」
「ぐふっ!?」


ナイはゴーレムの怪力によって吹き飛ばされ、それでも空中で身体を回転させてどうにか着地する。何とか倒れる事を阻止したナイはゴーレムに振り返ると、既にナイに狙い定めていた。


「オアアアッ……!!」
「くそっ……!!」


ゴーレムは全体に埋め込まれた黒水晶を赤く発光させ、再び光線を放つ準備を整えていた。もしも光線が直撃すればナイは無事では済まず、旋斧で攻撃を防ぐのも限界があった。

しかし、口元から火属性の魔力を解き放とうとするゴーレムの姿を見てナイはある方法を思いつき、一か八かの賭けになるがこのまま殺されるぐらいならば反撃を繰り出す事にした。


「アガァッ――!!」


ゴーレムが口元を大きく開いた瞬間、ナイは腕を伸ばして「フックショット」を放つ。ナイが装着している「闘拳」は彼の養父であるアルの形見であり、内部にはアルトが改造を施してフックショットを取りつけている。

フックショットがゴーレムの肉体に衝突すると、ナイは闘拳に装着されている風属性の魔石を操作して引き寄せる。正確に言えばゴーレムの元に目掛けてナイの身体が引き寄せられ、光線が放たれる直前にナイは敢えて接近した。


「だぁあああっ!!」
「ッ――!?」


光線が口元から放たれる瞬間、ナイは旋斧をゴーレムの顔面に叩き込む。その結果、先の戦闘で既に頭部を負傷していたゴーレムは光線を吐き出そうとした瞬間に口元を刃で塞がれた事により、暴走した魔力が口内に駆け巡って爆発を引き起こす。

ナイの奇策によってゴーレムは自ら放出しようとした火属性の魔力が体内で暴走し、頭部が爆発して吹き飛ぶ。この時にナイの旋斧も弾かれてしまうが、奇跡的にナイは爆発に巻き込まれずに済んだ。

頭部を失ったゴーレムはそのまま動かなくなり、発熱していた肉体も元に戻っていく。赤く発光していた黒水晶も魔力が抜けたように元の色合いに戻り、立ち尽くしたまま動かなくなったゴーレムの胴体を見てナイは一安心する。


「か、勝った……」
「ウォンッ♪」
「ぷるぷるっ♪(←小躍りする)」


ナイが勝利を確信するとビャク達がすぐに駆け寄り、プルミンに至ってはお得意の「ぷるぷるだんす」を披露する。そんな二人を見てナイは笑みを浮かべるが、立ち上がろうとした瞬間にナイは異様な気配を感じた。


「ッ……!!」
「えっ……うわぁっ!?」
「ウォンッ!?」
「ぷるんっ!?」


立ち尽くしたゴーレムの胴体から離れようとした瞬間、唐突にナイは何者かに肩を掴まれ、そのまま持ち上げられる。いったい誰の仕業かとナイは焦ると、彼を掴んだのは頭部を完全に失ったはずのゴーレムだった。


(しまった!?こいつ、まだ動けるのか!!)


ゴーレム種は体内の核を破壊しない限り、例え頭部を失おうと死ぬ事はないのをナイは忘れていた。もしもゴーレムの怪力で地面に叩き付けられたら無事では済まず、咄嗟に「強化術」を発動させた。


「いい加減に……しろぉっ!!」
「ッ……!?」


ナイは強化術を発動させると彼の肉体は聖属性の魔力で覆われ、全身の筋肉を限界以上に強化して驚異的な身体能力を一時的に得る。ゴーレムを上回る腕力でナイは腕を引き剥がすと、今度は逆にゴーレムの身体を掴んで持ち上げた。


「どりゃあああっ!!」
「ッ……!?」
「キャインッ!?」
「ぷるんっ!!(一本!!)」



頭部が存在しないゴーレムは悲鳴を上げる事もできぬまま、ナイの「一本背負い」によって地面に叩き付けられた。この時に破壊された頭部から亀裂が全体に広まり、それを確認したナイは倒すのならば今しかないと判断した。


「ビャク!!剣を!!」
「ウォンッ!!」


ナイが手を伸ばすとビャクは即座に落ちていた岩砕剣を口元に咥え、ナイの元にまで運び出す。ナイはビャクから岩砕剣を受け取ると、今度こそ復活しないように全力の一撃を繰り出す。


「でりゃああああっ!!」
「ッ――!?」


倒れたゴーレムの胴体に今日一番の衝撃が走り、岩砕剣の一撃によって遂にゴーレムの肉体は粉々に砕け散った。この時にゴーレムの胸元の部分に歪な形をした黒色の金属の塊のような物が露わになった。

ナイは金属の塊を拾い上げると、恐らくはこれがゴーレムの核だと思われるが、異様に硬くて強化術状態のナイでさえも破壊はできそうにない。しかし、核を取り出した事でゴーレムは完全に動かなくなり、それを確認したナイはため息を吐き出して座り込む。


「か、勝った……はあっ、きつい」
「ぷるぷるっ」
「あ、プルミン……荷物を持ってきてくれたの?ありがとう、助かったよ……」
「ウォンッ……」


強化術が切れた事で一気に疲労が襲い掛かってきたナイをビャクが支え、急いでプルミンがナイの鞄を頭に乗せて運んできてくれた。

ナイの「強化術」は一時的に超人的な身体能力を得る代わり、術が切れると反動で身動きもできなくなるほどの疲労と筋肉痛に襲われる。そのために強化術の発動直後は回復薬の類を使用しなければならず、こんな時のためにナイはイリアの作ってくれた「仙薬」を口にする。


(ふうっ……しばらくしたら動けそうだな)


どうにか仙薬を口にした事でナイの身体は徐々に回復し、数分もすれば元通りに動けるはずだった。身体を休めている間にナイはゴーレムの体内から出てきた金属の塊に視線を向け、今まで倒してきたゴーレムと比べて異様な形と色合いをした核に疑問を抱く。


(これは何だろう?魔石や魔水晶には見えないけど……)


ゴーレムの核は魔石と同じ効能を持つ鉱石のはずだが、何故かナイが倒した「漆黒のゴーレム」は黒色の金属の塊のような核だった。しかも並の硬さではなく、強化術を発動させたナイの岩砕剣の一撃を受けても傷一つ負っていない。

核を手にしながらナイはこれからどうするべきか考え、ひとまずは身体が回復した後は火山の火口へ向かう事にした。鍛冶師達が見たという火口の「火柱」の事が気にかかり、念のために火口の様子を調べる必要があると判断したナイは身体が回復するまで一休みする事にした――
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