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嵐の前の静けさ
第964話 魔法吸収
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(凄い怪力だ……けど、これなら普通のゴーレムと大して変わらない)
漆黒のゴーレムの攻撃を見たナイは冷静に相手の腕力を分析し、通常種のロックゴーレムや亜種のマグマゴーレムと腕力はそれほど変わらないと判断する。動作も鈍重でかつて王都で戦ったガーゴイルの方が素早くて厄介な相手だった。
「だああっ!!」
「ウオオッ!?」
ナイが振り払った旋斧がゴーレムに衝突すると、あまりの衝撃にゴーレムは数歩ほど後退する。しかし、攻撃を仕掛けたナイはゴーレムのあまりの硬さに腕が痺れてしまう。
(か、硬い!?ガーゴイルなら一発で倒せるだけの力で叩いたのに……)
今現在のナイの腕力ならばロックゴーレム程度の相手を粉砕する事は容易いが、漆黒のゴーレムはロックゴーレムとは比べ物にならない硬度を誇り、彼の攻撃を受けても怯んだ程度である。
ナイは子供の頃に赤毛熊に攻撃して弾き返された事を思い出したが、今のナイは子供の時と違って様々な技術を身に付け、テン仕込みの「剛剣」の剣技も覚えている。
「これならどうだっ!!」
「ウゴォッ!?」
今度は全身の筋力を生かしてナイは旋斧を振り抜くと、ゴーレムの胴体に先ほどよりも強烈な衝撃が広がって巨体が地面に倒れ込む。先ほどは掠り傷を与えるのが精いっぱいだったが、今回の攻撃はゴーレムの胸元の部分が罅割れる程の損傷を与えた。
(よし、通じた!!土鯨よりは硬くないぞ!!)
全力の攻撃ならばゴーレムに攻撃が通じると判断したナイは、今度は旋斧の能力を発動して攻撃を仕掛ける事にした。魔法腕輪に装着している水属性の魔石から魔力を引き出し、旋斧の刀身に魔力を流し込む。
水属性の魔力が旋斧の刃を包み込み、青色の光を灯す。ゴーレム種の共通の弱点である水属性の魔法攻撃でナイはゴーレムに止めを刺そうとした。
「でやぁあああっ!!」
「ウォンッ!?」
しかし、ナイが攻撃を仕掛けようとした瞬間、ビャクが何かに気付いたように鳴き声を上げた。ナイはビャクの思わぬ行動に気を取られたが、既に振り下ろした刃は倒れ込んだゴーレムに叩き付けられる。
「オアアアアアッ……!!」
「うわっ!?」
旋斧の刃が漆黒のゴーレムに触れた瞬間、刃に纏っていた水属性の魔力がゴーレムを凍り付かせる。慌ててナイは旋斧を引き剥がして距離を取ると、しばらくの間は氷漬けになったゴーレムの様子を伺う。
肉体全体が凍り付いたゴーレムを見て、通常種のロックゴーレムならばもう抗う手段はないが、何故かナイは嫌な予感を覚える。このまま攻撃を加えればゴーレムを粉々に砕く事ができるはずなのだが、不用意に近づく事が危険だと直感が告げていた。
(何だ、この感覚……!?)
魔法で生み出した現象は長続きはせず、時間が経過すればゴーレムの氷も溶けてしまう。だから魔法の効果が切れる前に攻撃を仕掛ける事が得策である事は理解しているが、どうしてもナイは近付けない。
(くっ……やるしかない!!)
しかし、いつまでも悩んでいる時間はなく、意を決したナイは旋斧ではなく岩砕剣を引き抜く。一撃の重さならば旋斧よりも硬度と重量がある岩砕剣の方が勝り、渾身の一撃を喰らわせて氷漬けになったゴーレムを破壊するために動く。
「だぁあああっ!!」
「ウォオオンッ!!」
ナイが跳び出した瞬間、ビャクは再び危険を知らせるように鳴き声を上げながら彼の元へ迫り、体当たりしてナイの攻撃を中止させる。攻撃の際中にビャクが邪魔してきた事にナイは驚くが、そのまま飛び込んだビャクに巻き込まれる形で地面に倒れた。
その直後、氷漬けにされていたはずの漆黒のゴーレムの目元が光り輝き、次の瞬間にゴーレムの身体に埋め込まれた黒水晶が今度は青色に光り輝く。そして全体の氷が罅割れて砕け散ると、ゴーレムは上空に目掛けて口元から冷気を放つ。
――アガァアアアアッ!!
口元から吹雪を想像させる勢いでゴーレムは冷気を放出した。その光景を見たナイとビャクは驚愕の表情を浮かべ、もしもあのままナイが不用意にゴーレムに攻撃を仕掛けていた場合、正面から冷気を浴びて凍り付いていた可能性が高い。
(まさか……水属性の魔力を吸収したのか!?)
信じがたい事にゴーレムはナイの放った旋斧の水属性の魔力を吸い上げ、逆に攻撃に利用した。その事実にナイは動揺を隠せず、まさか水属性の魔法が弱点であるはずのゴーレムが、水属性の魔力を吸収して逆に攻撃に利用したという事実に動揺を隠せない。
これまでにナイは魔法を吸収して逆に利用する相手と戦った事もあるが、野生種のゴーレムが水属性の魔法攻撃を行うなど夢にも思わなかった。
「アガァアアアッ!!」
「うわぁっ!?」
「ウォンッ!!」
ゴーレムは冷気を吐き終えると、改めてナイとビャクに目掛けて拳を放つ。咄嗟にビャクはナイの身体を引っ張り上げて回避すると、持ち前の俊足でゴーレムから逃れた。
冷気を吐き終えた瞬間、ゴーレムの身体のあちこちに埋め込まれている水晶が元の色に戻った事にナイは気付き、あの水晶が魔法の力を吸収して蓄積しているのかと考える。実際にナイの水属性の魔法攻撃を吸収した際、ゴーレムに埋め込まれた水晶の色が「青色」に変化した。
(あの水晶、闇属性の魔石かと思ったけど……もう一度試してみるか?)
ナイは旋斧に視線を向け、今度は別属性の魔法攻撃を試す事にした。色々と考えた結果、魔法の属性の中で最も攻撃能力が低い「聖属性」の魔法剣を試す。
(もしも聖属性の魔力まで奪われたらこいつには魔法剣は通じない。けど、試すしかない!!)
聖属性の魔力を宿した事で旋斧は光り輝くと、それを見たゴーレムはナイに目掛けて両腕を伸ばす。その動作を見てゴーレムが再び旋斧から魔力を吸収するつもりだと悟ったナイは、ビャクを下がらせて攻撃を仕掛ける。
「はあああっ!!」
「ウオオオッ!!」
旋斧を正面から振り下ろしてきたナイに対してゴーレムは両腕で受け止めると、金属音が鳴り響く。やはり「剛力」の技能や「剛剣」などの技術を利用して攻撃しなければゴーレムには通じず、それでもナイは力を緩めずに旋斧を押し込む。
ゴーレムは掌越しにナイの旋斧の刃に触れると、手元に埋め込まれた黒水晶が反応して徐々に色が「黒」から「白」に変色する。その途端に旋斧が纏っていた聖属性の魔力が薄れていき、魔力が吸収される光景をナイは間近で確認した。
「やっぱりこいつ……!?」
「オアアアアッ!!」
聖属性の魔力を掌に埋め込まれた黒水晶越しに吸収したゴーレムはナイに顔を向け、再び口元を開いた。それを見たナイはまたもや口から聖属性の魔力を吐き出すつもりなのかと驚き、咄嗟に足元に力を込めて旋斧をゴーレムから引き剥がす。
「離れろっ!!」
「オアッ!?」
ゴーレムを蹴飛ばしてナイは無理やりに旋斧を引き剥がすと、即座に後方へ跳躍して距離を置く。ゴーレムは予想外のナイの行動に驚くが、即座に口元から霧状と化した聖属性の魔力を放出した。
「アガァアアアッ!!」
「くっ!!」
「ウォンッ!?」
聖属性の魔力は吐き出されると「白霧」のように周囲に広がり、ゴーレムの姿を包み隠す。普通ならば霧で姿を消したゴーレムを捕らえる事はできないが、ナイは冷静に意識を集中させる。
(視覚に頼るな……心の目で捕らえるんだ)
ナイは全神経を集中させ、霧の中で彼は旋斧を横向きに構えて「心眼」を発動させる。霧に紛れているいるはずのゴーレムの存在を感じ取った。
ゴーレムがナイの旋斧の射程圏内に入った途端、ナイは目を見開いて剛力の技能を発動させる。そして全力で旋斧を振り払い、自分が唯一生み出した剣技を放つ。
「円斧!!」
「アガァッ――!?」
身体を一回転させて加速したナイはゴーレムの胴体に旋斧を叩き込み、強烈な衝撃を受けたゴーレムは体勢を崩す。霧の中に身を隠していようと「心眼」の前では無意味であり、体勢を崩したゴーレムに対してナイは背中の岩砕剣を掴む。
「だぁあああああっ!!」
「ウガァッ!?」
岩砕剣を抜いたナイは地属性の魔力を送り込み、岩砕剣の重量を増加させた状態でゴーレムの頭部に叩き込む。頑丈さと硬度は旋斧を上回る岩砕剣の一撃を受けたゴーレムは頭部に亀裂が走り、衝撃に耐え切れずに膝を着いた。
二度もナイの渾身の一撃を受けたにも関わらずにゴーレムは砕ける事はなく、単純な肉体の強度はロックゴーレムを遥かに上回る。しかし、二度も強烈な一撃を受けた事でゴーレムの肉体に亀裂ができていた。
(どんなに硬い物でも……罅が入れば必ず砕ける!!)
土鯨戦でどんなに硬い物質でもわずかな罅が入れば、衝撃を与えるだけで砕ける事は学習済みだった。硬い物質ほど意外と砕けやすく、ナイは岩砕剣を振りかざす。しかし、三度目の攻撃を喰らう前にゴーレムは思いもよらぬ行動を取る。
「オアアアッ!!」
「なっ!?」
ゴーレムは身体を「球体」のように丸めると、そのまま後ろに転がって逃げていく。それを見たナイは呆気に取られたが、慌ててゴーレムの後を追いかけようとした。
「待てっ!!逃がすか!!」
球体と化したゴーレムはアルマジロのように転がりながら移動すると、村長の屋敷に目掛けて突っ込む。ゴーレムは壁を崩壊させて中に入り込むと、建物が崩れてしまう。それを見たナイは建物の中に逃げ込んだプルミンの事を思い出し、慌てて駆け寄る。
「まずいっ!!プルミン!?」
「ぷるんっ?」
「ウォンッ!!」
慌ててナイは崩壊した建物に駆けつけようとしたが、何処からかプルミンとビャクの鳴き声が響く。驚いた彼は振り返ると、そこにはプルリンを頭に乗せたビャクが座り込んでおり、どうやらナイがゴーレムと戦っている間にビャクがプルミンを保護していたらしい。
漆黒のゴーレムの攻撃を見たナイは冷静に相手の腕力を分析し、通常種のロックゴーレムや亜種のマグマゴーレムと腕力はそれほど変わらないと判断する。動作も鈍重でかつて王都で戦ったガーゴイルの方が素早くて厄介な相手だった。
「だああっ!!」
「ウオオッ!?」
ナイが振り払った旋斧がゴーレムに衝突すると、あまりの衝撃にゴーレムは数歩ほど後退する。しかし、攻撃を仕掛けたナイはゴーレムのあまりの硬さに腕が痺れてしまう。
(か、硬い!?ガーゴイルなら一発で倒せるだけの力で叩いたのに……)
今現在のナイの腕力ならばロックゴーレム程度の相手を粉砕する事は容易いが、漆黒のゴーレムはロックゴーレムとは比べ物にならない硬度を誇り、彼の攻撃を受けても怯んだ程度である。
ナイは子供の頃に赤毛熊に攻撃して弾き返された事を思い出したが、今のナイは子供の時と違って様々な技術を身に付け、テン仕込みの「剛剣」の剣技も覚えている。
「これならどうだっ!!」
「ウゴォッ!?」
今度は全身の筋力を生かしてナイは旋斧を振り抜くと、ゴーレムの胴体に先ほどよりも強烈な衝撃が広がって巨体が地面に倒れ込む。先ほどは掠り傷を与えるのが精いっぱいだったが、今回の攻撃はゴーレムの胸元の部分が罅割れる程の損傷を与えた。
(よし、通じた!!土鯨よりは硬くないぞ!!)
全力の攻撃ならばゴーレムに攻撃が通じると判断したナイは、今度は旋斧の能力を発動して攻撃を仕掛ける事にした。魔法腕輪に装着している水属性の魔石から魔力を引き出し、旋斧の刀身に魔力を流し込む。
水属性の魔力が旋斧の刃を包み込み、青色の光を灯す。ゴーレム種の共通の弱点である水属性の魔法攻撃でナイはゴーレムに止めを刺そうとした。
「でやぁあああっ!!」
「ウォンッ!?」
しかし、ナイが攻撃を仕掛けようとした瞬間、ビャクが何かに気付いたように鳴き声を上げた。ナイはビャクの思わぬ行動に気を取られたが、既に振り下ろした刃は倒れ込んだゴーレムに叩き付けられる。
「オアアアアアッ……!!」
「うわっ!?」
旋斧の刃が漆黒のゴーレムに触れた瞬間、刃に纏っていた水属性の魔力がゴーレムを凍り付かせる。慌ててナイは旋斧を引き剥がして距離を取ると、しばらくの間は氷漬けになったゴーレムの様子を伺う。
肉体全体が凍り付いたゴーレムを見て、通常種のロックゴーレムならばもう抗う手段はないが、何故かナイは嫌な予感を覚える。このまま攻撃を加えればゴーレムを粉々に砕く事ができるはずなのだが、不用意に近づく事が危険だと直感が告げていた。
(何だ、この感覚……!?)
魔法で生み出した現象は長続きはせず、時間が経過すればゴーレムの氷も溶けてしまう。だから魔法の効果が切れる前に攻撃を仕掛ける事が得策である事は理解しているが、どうしてもナイは近付けない。
(くっ……やるしかない!!)
しかし、いつまでも悩んでいる時間はなく、意を決したナイは旋斧ではなく岩砕剣を引き抜く。一撃の重さならば旋斧よりも硬度と重量がある岩砕剣の方が勝り、渾身の一撃を喰らわせて氷漬けになったゴーレムを破壊するために動く。
「だぁあああっ!!」
「ウォオオンッ!!」
ナイが跳び出した瞬間、ビャクは再び危険を知らせるように鳴き声を上げながら彼の元へ迫り、体当たりしてナイの攻撃を中止させる。攻撃の際中にビャクが邪魔してきた事にナイは驚くが、そのまま飛び込んだビャクに巻き込まれる形で地面に倒れた。
その直後、氷漬けにされていたはずの漆黒のゴーレムの目元が光り輝き、次の瞬間にゴーレムの身体に埋め込まれた黒水晶が今度は青色に光り輝く。そして全体の氷が罅割れて砕け散ると、ゴーレムは上空に目掛けて口元から冷気を放つ。
――アガァアアアアッ!!
口元から吹雪を想像させる勢いでゴーレムは冷気を放出した。その光景を見たナイとビャクは驚愕の表情を浮かべ、もしもあのままナイが不用意にゴーレムに攻撃を仕掛けていた場合、正面から冷気を浴びて凍り付いていた可能性が高い。
(まさか……水属性の魔力を吸収したのか!?)
信じがたい事にゴーレムはナイの放った旋斧の水属性の魔力を吸い上げ、逆に攻撃に利用した。その事実にナイは動揺を隠せず、まさか水属性の魔法が弱点であるはずのゴーレムが、水属性の魔力を吸収して逆に攻撃に利用したという事実に動揺を隠せない。
これまでにナイは魔法を吸収して逆に利用する相手と戦った事もあるが、野生種のゴーレムが水属性の魔法攻撃を行うなど夢にも思わなかった。
「アガァアアアッ!!」
「うわぁっ!?」
「ウォンッ!!」
ゴーレムは冷気を吐き終えると、改めてナイとビャクに目掛けて拳を放つ。咄嗟にビャクはナイの身体を引っ張り上げて回避すると、持ち前の俊足でゴーレムから逃れた。
冷気を吐き終えた瞬間、ゴーレムの身体のあちこちに埋め込まれている水晶が元の色に戻った事にナイは気付き、あの水晶が魔法の力を吸収して蓄積しているのかと考える。実際にナイの水属性の魔法攻撃を吸収した際、ゴーレムに埋め込まれた水晶の色が「青色」に変化した。
(あの水晶、闇属性の魔石かと思ったけど……もう一度試してみるか?)
ナイは旋斧に視線を向け、今度は別属性の魔法攻撃を試す事にした。色々と考えた結果、魔法の属性の中で最も攻撃能力が低い「聖属性」の魔法剣を試す。
(もしも聖属性の魔力まで奪われたらこいつには魔法剣は通じない。けど、試すしかない!!)
聖属性の魔力を宿した事で旋斧は光り輝くと、それを見たゴーレムはナイに目掛けて両腕を伸ばす。その動作を見てゴーレムが再び旋斧から魔力を吸収するつもりだと悟ったナイは、ビャクを下がらせて攻撃を仕掛ける。
「はあああっ!!」
「ウオオオッ!!」
旋斧を正面から振り下ろしてきたナイに対してゴーレムは両腕で受け止めると、金属音が鳴り響く。やはり「剛力」の技能や「剛剣」などの技術を利用して攻撃しなければゴーレムには通じず、それでもナイは力を緩めずに旋斧を押し込む。
ゴーレムは掌越しにナイの旋斧の刃に触れると、手元に埋め込まれた黒水晶が反応して徐々に色が「黒」から「白」に変色する。その途端に旋斧が纏っていた聖属性の魔力が薄れていき、魔力が吸収される光景をナイは間近で確認した。
「やっぱりこいつ……!?」
「オアアアアッ!!」
聖属性の魔力を掌に埋め込まれた黒水晶越しに吸収したゴーレムはナイに顔を向け、再び口元を開いた。それを見たナイはまたもや口から聖属性の魔力を吐き出すつもりなのかと驚き、咄嗟に足元に力を込めて旋斧をゴーレムから引き剥がす。
「離れろっ!!」
「オアッ!?」
ゴーレムを蹴飛ばしてナイは無理やりに旋斧を引き剥がすと、即座に後方へ跳躍して距離を置く。ゴーレムは予想外のナイの行動に驚くが、即座に口元から霧状と化した聖属性の魔力を放出した。
「アガァアアアッ!!」
「くっ!!」
「ウォンッ!?」
聖属性の魔力は吐き出されると「白霧」のように周囲に広がり、ゴーレムの姿を包み隠す。普通ならば霧で姿を消したゴーレムを捕らえる事はできないが、ナイは冷静に意識を集中させる。
(視覚に頼るな……心の目で捕らえるんだ)
ナイは全神経を集中させ、霧の中で彼は旋斧を横向きに構えて「心眼」を発動させる。霧に紛れているいるはずのゴーレムの存在を感じ取った。
ゴーレムがナイの旋斧の射程圏内に入った途端、ナイは目を見開いて剛力の技能を発動させる。そして全力で旋斧を振り払い、自分が唯一生み出した剣技を放つ。
「円斧!!」
「アガァッ――!?」
身体を一回転させて加速したナイはゴーレムの胴体に旋斧を叩き込み、強烈な衝撃を受けたゴーレムは体勢を崩す。霧の中に身を隠していようと「心眼」の前では無意味であり、体勢を崩したゴーレムに対してナイは背中の岩砕剣を掴む。
「だぁあああああっ!!」
「ウガァッ!?」
岩砕剣を抜いたナイは地属性の魔力を送り込み、岩砕剣の重量を増加させた状態でゴーレムの頭部に叩き込む。頑丈さと硬度は旋斧を上回る岩砕剣の一撃を受けたゴーレムは頭部に亀裂が走り、衝撃に耐え切れずに膝を着いた。
二度もナイの渾身の一撃を受けたにも関わらずにゴーレムは砕ける事はなく、単純な肉体の強度はロックゴーレムを遥かに上回る。しかし、二度も強烈な一撃を受けた事でゴーレムの肉体に亀裂ができていた。
(どんなに硬い物でも……罅が入れば必ず砕ける!!)
土鯨戦でどんなに硬い物質でもわずかな罅が入れば、衝撃を与えるだけで砕ける事は学習済みだった。硬い物質ほど意外と砕けやすく、ナイは岩砕剣を振りかざす。しかし、三度目の攻撃を喰らう前にゴーレムは思いもよらぬ行動を取る。
「オアアアッ!!」
「なっ!?」
ゴーレムは身体を「球体」のように丸めると、そのまま後ろに転がって逃げていく。それを見たナイは呆気に取られたが、慌ててゴーレムの後を追いかけようとした。
「待てっ!!逃がすか!!」
球体と化したゴーレムはアルマジロのように転がりながら移動すると、村長の屋敷に目掛けて突っ込む。ゴーレムは壁を崩壊させて中に入り込むと、建物が崩れてしまう。それを見たナイは建物の中に逃げ込んだプルミンの事を思い出し、慌てて駆け寄る。
「まずいっ!!プルミン!?」
「ぷるんっ?」
「ウォンッ!!」
慌ててナイは崩壊した建物に駆けつけようとしたが、何処からかプルミンとビャクの鳴き声が響く。驚いた彼は振り返ると、そこにはプルリンを頭に乗せたビャクが座り込んでおり、どうやらナイがゴーレムと戦っている間にビャクがプルミンを保護していたらしい。
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