貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第952話 その頃、王国では……

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――アチイ砂漠にて王国と巨人国の連合軍が土鯨の討伐に成功した頃、ゴノの街に残ったマホ、エルマ、フィルの三人は王国軍の兵士と共に街を襲撃した魔物の捜索を行う。

ゴノの街を襲撃した魔物の正体はトロールの群れだと判明しているが、一体だけ倒されたトロールの死体に「鞭の紋様」が刻まれていた。この紋様は史上最悪の犯罪者「バートン」が魔物に刻む紋様と同じ模様だったが、バートンは間違いなく十数年前に処刑されている。

トロールの群れに紋様を刻んだ魔物使いが居るはずであり、その人間がバートンと何らかの関りを持っていた可能性が高い。魔物使いの正体を確かめるためにマホ達は街に残って調査を勧め、遂にトロールの群れの手掛かりを掴む。


「ここで襲われたのか?」
「は、はい……街へ向かう途中、奴等が急に現れて我々の馬車を襲ってきたのです」
「これは酷いな……」


ゴノの街に向かう途中の商団がトロールの群れに襲われたという報告が届き、街に逃げ延びた商団の人間の案内の元でマホ達は現場へ辿り着く。商団の馬車は見るも無残に破壊され、運び込まれていた積荷は周辺に散らばっていた。


「老師!!これを見てください、食料品が散らばっています!!」
「ふむ……食いしん坊のトロール共が食料を残して立ち去るとは考えられん。という事は何者かに操られているのは間違いないな」
「では、やはり例の街を襲撃したトロールの群れで間違いないのでしょうか?」
「恐らく……もう少し、手がかりになりそうな物は残っておらんのか?」


襲われた商人の話と、積荷の中の食料品が手付かずのまま放置されている事に野生のトロールの仕業ではない事は明白であり、現場を調べると他の証拠も見つかった。


「これは……御二人とも!!これを見てください!!」
「何か見つけましたか!?」
「これは……」


フィルは馬車の残骸の中から倒れている男性を発見し、残念ながら既に事切れていた。しかし、その男性は上半身を剝がされた状態でうつ伏せに倒れ込んでおり、その背中には鋭い刃物か何かで刻まれた紋様があった。


「こ、これは……」
「鞭の……紋様」
「……前に見かけた紋様と同じじゃな」


男性の背中に鞭の紋様が刻まれているのを確認すると、フィルとエルマは顔色を青ざめる。マホでさえも死んだ人間の背中に紋様を刻むなどあまりにも惨い行為だと思ったが、ここで彼女は疑問を抱く。


(この紋様は間違いなくバートンが考えて作り出した紋様……しかし、奴は死体に紋様を刻むような真似はしなかったはず)


バートンは快楽殺人鬼ではあるが、殺した人間の死体に自分の手掛かりになりそうな証拠は残さない。実際に彼に殺された者達は秘密裏に死体は処理されており、殺しを行う時はバートンは慎重に行う。だからこそ何十年も彼は捕まる事はなかった。

しかし、今回の襲撃犯はバートンの紋様を知りながら本物の彼ならばあり得ない行動を行っている。もしも本物のバートンならば死体にわざわざ自分の手掛かりに繋がる紋様を刻むはずがなく、そもそも商団を襲いながら何人かは逃げられた事がおかしい。バートンならば目撃者は一人たりとも生かして返さない。


(何かが引っかかる……あの殺人鬼《バートン》のやり方ではない)


マホ達が現場に赴いたのは逃げ延びた商人から報告を受けたからであり、仮に本物のバートンならば人を襲う時は誰一人見逃すはずがない。必ず最後の一人まで捕まえて殺し、証拠も残さずに立ち去るのが彼のやり方だった。

だが、今回の街の襲撃も商団を襲った犯人はバートンのような慎重に行動をするわけでもなく、それどころか逆に大多数の人間に注目を集めるかのような殺し方を行っている。この事からマホは今回の襲撃犯とバートンは別の人物だと確信する。


(バートンは間違いなく死んだ。ならば誰かがバートンに成りすまして殺人を行っている……となると、いったい何者の仕業じゃ?)


ゴノの街を襲撃したトロールの群れと、商団を襲ったトロールの群れは同じ集団である事は間違いない。生き延びた村人もトロールの肉体に鞭の紋様が刻まれている事は確認しており、この二件の襲撃はトロールの群れを使役する「魔物使い」の仕業なのは確定していた。

しかし、疑問があるとすれば襲撃犯の意図が分からず、何の目的があって街や商団を襲ったのか理由が分からない。調べた限りでは街は被害は大きいが金品や食料の類は強奪されておらず、商団の方も馬車は破壊されたが積荷の方は手付かずのままで被害はない。


(敵の目的は金や物ではない?では何を求めている?)


マホは男性の死体の背中に刻まれた紋様に視線を向け、彼女は言いようのない不安を抱く。100年以上も生き続けた彼女だが、今回の犯人はもしかしたら彼女がこれまでに遭遇したどんな人物よりも「闇」を抱えているかもしれないと考える――
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