貧弱の英雄

カタナヅキ

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砂漠の脅威

第943話 貧弱の英雄の実力

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「あの武器は……」
「錘と呼ばれる武器だ。だが、あれほどの大きさの錘は巨人族にしか扱えないだろうがな」


ライトンが両手に所有する武器は「錘」であり、柄の先端に金属製の球状の錘の取り付けられた武器だった。王国では見かけない武器であり、しかも巨人族の扱う錘は通常の錘よりも大きい。

錘を両手に持ったライトンは素振りを行い、重量がありそうな武器にも関わらずに軽々と振り回す。それを見たナイは緊張感を抱き、その一方で彼も二つの大剣を抜いて軽く素振りを行う。


「ふうっ……せいっ!!はあっ!!」
「ぬうっ……!?」


勝負の前にナイも軽く大剣を振って身体を慣らしておくと、その素振りを見てライトンや他の巨人族は驚愕する。人間の剣士が大剣を扱う事自体が珍しいが、ナイの場合は二つの大剣を使いこなしている。しかも尋常ではない速度で大剣を振り回していた。

彼の素振りを見ただけでライトンは只者ではないと気付き、相手が非力な人間だからと侮っていた自分を戒める。そしてナイとライトンは試合場に移動すると、審判役は大将軍のテランが務める。


「今回の試合はあくまでもお互いの力比べが目的だ。どちらかが倒れるか、相手が降参するまで試合を続けてもらうぞ」
「分かりました」
「望むところです」


ナイはテランの言葉を聞いて頷き、試合内容に関しては王国に存在する闘技場と同じ規則だった。人前で戦う事はナイも慣れているが、今回の場合は巨人国と王国の誇りが掛かっているので無様に負ける事は許されない。

ライトンの方も自分が負ければ王国の力を認めざるを得ず、土鯨の討伐に王国の援軍も受け入れなければならない。そんな事態に陥れば巨人国の恥になるため、彼は何としてもナイに負けられなかった。


(必ず勝つ!!)


気合を込めたライトンはナイを見下ろし、その気迫にナイは気圧されそうになるが、心を落ち着かせて今まで戦った敵を思い出す。


(大丈夫……リョフやロランさんと比べればこの人は怖くない)


かつて自分が戦った最強の戦士リョフと、わざわざ訓練の相手をしてくれたロランを思い出してナイは心を落ち着かせる。そして正々堂々とライトンと向かい合うと、自分よりも倍近くの大きさを誇るライトンを相手に物怖じしないナイの姿に周囲の巨人は感心する。


「あのライトンを前にして全く動揺していないとは……」
「あれが王国の武人か……」
「若いとはいえ、大した男だ」


巨人族の兵士でさえもナイの堂々とした態度に感心してしまい、大将軍のテランもナイの態度を見て彼がこの若さで数々の修羅場を潜り抜けてきた事を察する。しかし、それでも彼等はライトンの勝利を確信していた。


「両者、準備はいいな?」
「はい!!」
「何時でも……」


二人の準備が整ったのを確認すると、テランは腕を上げて試合の合図を行う。


「始めっ!!」
「うおおおおっ!!」
「だああっ!!」


テランの腕が下ろされた瞬間にライトンとナイが同時に駆け出し、互いに距離を詰めると利き手の武器を振り下ろす。ライトンは錘を横から振りかざすと、ナイは旋斧を同じように横向きに振り払う。

二人の武器が衝突した瞬間、激しい金属音と軽い衝撃波が試合場に広がり、その光景を目にしていた者達は目を見開く。ライトンとナイはお互いの右腕が痺れてしまい、信じられない表情を浮かべる。


(馬鹿なっ!?この俺の一撃を正面から弾いただとっ!?)
(いったぁっ!?す、凄い力だ……この人、ルナと同じかそれ以上の力を持っている!?)


ライトンは人間であるナイに自分の攻撃を弾かれた事に衝撃を受け、その一方でナイの方も聖女騎士団の中ではテンに上回る腕力を誇るルナと同等か、下手をしたらそれ以上の腕力をライトンが持っている事に気付く。

巨人族は見た目通りの怪力を誇るが、ナイが今までに出会った巨人族の中でこれほどの力を持つ相手はゴウカだけである。腕力だけならばライトンは巨人国の中でも1、2を誇り、逆に言えばそれだけの力を持つ巨人族にナイは渡り合っていた。


「ぐっ……まだまだ!!」
「くぅっ……このぉっ!!」
「「「うおおっ!?」」」


今度は左手の武器をナイとライトンは振りかざすと、再び激しい金属音が鳴り響く。岩砕剣と錘が衝突した瞬間に試合場に振動が走り、やはりどちらも腕が痺れて後退ってしまう。


(馬鹿なっ、そんな馬鹿なっ!!こんな人間の小僧が俺と互角の力だと!?)
(ご、剛力も使っているのに押し返せないなんて……この人、本当に強い!?)


ライトンは自分の攻撃を二度も正面から弾き返したナイに衝撃を受けたが、ナイの方も剛力でっ筋力を強化しても互角が精いっぱいである事に動揺を隠せない。

二人は両腕の痺れが抜けるまでは動けず、しばらくの間はお互いの様子見を行う。そして改めてナイとライトンは距離を開いた。


「はあっ、はあっ……」
「ぐぅっ……」


まだ試合は始まったばかりだがナイとライトンは汗を流し、自分とほぼ互角の膂力を持つ相手と戦うのはライトンは初めてだった。ナイは自分よりも腕力が強い人間と戦った事は何度もあるが、ライトンは子供の頃から大人が相手であろうと腕力で負けた事はない。

ライトンは巨人族の中でも腕力に優れ、彼は若いながらに次の大将軍候補として認知されているのはこの腕力のお陰である。巨人族の間では力が強い者が優遇される風習があり、だからこそ20代前半でありながらライトンは巨人族の中でも高い地位に就いている。

しかし、その彼が自慢とする腕力が人間の少年と互角という事実にライトンは許せず、彼は自分が非力な人間如きに負けるはずがないと彼は怒りを露わにする。


「ふざけるなぁっ!!」
「うわっ!?」
「いかん、ライトン!!落ち着け!!」
暴走する気か!?」


ライトンはナイに対して両手の錘を掲げて接近すると、鬼気迫る表情で向かってきたライトンにナイは驚いて「跳躍」の技能を発動させて別の場所へ移動する。

直後にライトンが振り下ろした錘が試合場の石畳に叩き付けられ、その衝撃で石畳が罅割れて軍船に振動が走る。先ほどよりもライトンの攻撃力が増しており、まともに受ければナイの身が危ない。


「がああああっ!!」
「うわわっ!?」
「まずい、止めるんだ!!」
「頭に血が上ってやがる!!」
「テラン大将軍!!このままでは殺してしまいますよ!?」
「…………」


まるで獣のようにライトンはめちゃくちゃに錘を振り回し、その姿を見た巨人族の兵士は慌ててテランに試合を中断するように宣言する。このままではテランがナイを殺しかねず、そんな事になれば大変な事態に陥る。

しかし、テランはライトンの暴走する姿を見ても試合を止める事はせず、巨人族の間では一度取り決めたは外部の人間が邪魔する事はできない。今回の場合は表向きは試合として通しているが、実質的には王国と巨人国の代表同士の決闘に等しい。


「王子!!このままではナイが!!」
「止めるべきでは!?」
「いや……ここで俺達が止める事はできない」


観戦していたドリスとリンもライトンが普通の状態ではない事に気付き、バッシュに試合を止めるべきだと進言するが彼は了承しない。確かに今のライトンが普通の状態とは思えないが、だからといってここで試合を無理に中断すれば今回の目的が果たされない。

この試合はナイが勝たなければ巨人国軍は王国軍の加勢を認めず、ここまでの苦労が水の泡となる。それにバッシュは信じていた、彼ならばこの程度の苦境を乗り越える事ができる事を。


「うがぁあああっ!!」
「くっ……」


錘を振りかざして近付いてくるライトンに対して、ナイは両手の武器で対応しようとした時、ここでバッシュが声をかけた。


「ナイ!!思い出せ、お前の武器はその二つの大剣だけじゃない!!」
「っ!?」


バッシュの声を聞いたナイは彼に視線を向けると、彼は「防魔の盾」を見せつけた。その光景を見てナイはある事を思い出し、自分には心強い味方がいる事を今の今まで忘れていた。

即座にナイは背中に抱えていた「反魔の盾」を取り出し、二つの大剣を手放して盾を構える。反魔の盾は普段から大剣と同じように背中に装備していた事を忘れていたナイだったが、この状況下で彼はライトンの攻撃を受けるために取り出す。


「やああっ!!」
「があああっ!!」


強烈な衝撃音が響き渡り、ライトンが振り下ろした錘が反魔の盾に衝突した。その瞬間、ナイの足元の地面に亀裂が走るが、同時に反魔の盾から強烈な衝撃波が発生してライトンを吹き飛ばす。


「がはぁあああっ!?」
「くぅっ……!?」
「何ぃっ!?」


ライトンが吹き飛ばされる光景を見てテランは驚愕の声を上げ、自ら振り下ろした錘の攻撃が跳ね返される形となったライトンは場外まで吹き飛び、他の巨人族の兵士を巻き込んで甲板に倒れ込む。


「うわぁっ!?」
「あぐぅっ!?」
「がはぁっ……!?」


数名の兵士を巻き込んで甲板に倒れ込んだライトンを見て他の者たちは唖然とするが、その一方で反魔の盾を抱えたナイの方は膝を着き、両腕と両足の痺れに涙を流す。


「いったぁっ……し、死ぬかと思った」
「まさか、その盾はあの噂の……!?」


テランはナイの姿を見て彼が所有する「反魔の盾」に気付き、かなり前に王国が反魔の盾の所有権をある少年に委ねたという話を思い出す。

反魔の盾はあらゆる攻撃を跳ね返すと言われているが、あくまでも噂だけしか聞いた事がなく、まさかライトン程の猛者の攻撃を跳ね返す防具があるなどテランは夢にも思わなかった。
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