貧弱の英雄

カタナヅキ

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砂漠の脅威

第939話 砂船の確保

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「このっ、このっ!!よくも儂の可愛い飛行船を傷つけてくれたな!!」
「うぎゃっ!?ちょ、止めっ……ぎゃああっ!?」
「おいおい、爺さん。落ち着けよ、そいつが賊の頭だろ?」


どうやら砂賊の頭は既にハマーンが捕縛したらしく、呆れた様子でガオウは頭を殴り続けるハマーンを引き留める。しかし、怒り足りないハマーンは頭の頭を掴むと甲板の床に抑え込む。


「ほれ、貴様等の正体を話せ!!」
「ひいいっ!?ゆ、許してくれぇっ!!」
「……貴様等、何者だ?」
「た、助けてくれ!!命だけは……」


ハマーンの元に全員が集まると、彼に捕まった砂賊の頭は怯え切った表情を浮かべて命乞いを行う。しかし、いくら命乞いされようとハマーンは許すつもりはない。


「何を抜かしておる!!儂の大事な鮫ちゃんを傷つけおってからに!!」
「鮫ちゃん!?」
「爺さん、この船の模様を気に入ってたのか……」
「ゆ、許して下さい!!どうか命だけは……」


その後、しばらくの間は興奮したハマーンを落ち着かせるために他の者たちが抑えつける――





――しばらく時間が経過すると、砂漠の上で100人近くの砂賊が縄で縛られ、砂の上で正座させられていた。あまりの熱気に砂賊は苦し気な表情を浮かべるが、彼等の尋問が終わるまでは水も与えない。


「まずはお前達の正体を教えてもらおうか」
「だ、だから何度も言ったじゃないですか……俺達はただの砂賊だって!!」
「言葉遣いには気を付けろ……でなければ切り落とすぞ」
「ひいっ!?」


砂賊の頭にバッシュの側近が剣を向けると、頭は怯え切った表情を浮かべていた。そして自分達の頭の姿を見て他の賊は顔色を青ざめ、改めて最悪な状況だと理解させる。

バッシュは捕まえた砂賊の数を把握し、彼等が乗り込んでいた船を確認する。砂船を見るのはバッシュも初めてだが、彼の代わりにアルトが砂船を調べて報告を行う。


「兄上、この砂船は元々は商船だったようです」
「商船だと?それは確かか?」
「はい、船の構造を調べましたが大量の荷物を保管するための倉庫を発見しました。それにマストの部分に巨人国の商船の紋様が刻まれていました」
「という事はお前達は商船を奪い取ったという事か」
「ゆ、許してください!!出来心だったんです!!」


情けなく砂賊の頭は頭を下げて命乞いを行うが、そんな彼等に対してアルトはこれまでの彼等の悪事を推理してバッシュに報告する。


「兄上、彼等が商船を利用していたのは表向きは自分達を商人を装い、他の砂船の警戒を解いて近付いた後に襲う算段だったんでしょう。実際に商人が着込みそうな衣服も大量に保管されていました」
「なるほど……下種らしい考えだ」
「い、いや……それは俺の服の趣味で決してそのような事は……ぎゃあっ!?」
「余計な口を挟むな」


アルトの言葉が図星だったのか盗賊の頭は顔色を青ざめて言い訳を行うが、バッシュの側近が首元に刃を食い込ませて黙らせた。

最早、どのような言い訳をしても言い逃れできる状況ではなく、捕まった砂賊たちは自分達がどうなるのかと震え上がる。しかし、バッシュとしては彼等をここで切り捨てるわけにもいかなかった。


(兄上……ここはあくまでも巨人国の領地、ならば捕まえた賊の処罰は巨人国にさせるべきです)
(分かっている。だが、これだけの人数の賊をどうやって移動させる?街に向かうにしても飛行船を使うわけにはいかないぞ)


捕まえた砂賊の数は100人を越え、これだけの人数を連れて移動するとなると徒歩では厳しい。もしも魔物に見つかって襲われた場合は守り切れず、かといって飛行船の中に捕まえておくのも無理があった。

まさか砂賊に襲われる事態に陥るとは思わず、ここで彼等を始末するのは色々と都合が悪い。アチイ砂漠はあくまでも巨人国の領地であるため、生きて捕らえた賊は巨人国に引き渡さなければならない。


「たくっ、面倒だな……こいつらを始末して砂漠の魔物の餌にしたら楽なのによ」
「うむ、儂の船を傷つけた罰を与えてやりたいところじゃ」
「「「ひいいっ!?」」」


ガオウとハマーンの言葉に賊たちは震え上がるが、現実問題として彼等を何時までも外に放置するわけにもいかない。このまま放置すれば熱中症を起してしまい、最悪の場合は死に至る。

流石にここで砂賊を始末するのは色々と都合が悪く、仕方がないと判断したバッシュは横転した砂船に視線を向けてハマーンに指示を出す。


「ハマーン技師……この砂船を直す事はできるか?」
「直す?この船を?」
「そうだ、この船を飛行船で引っ張り上げて再び動かす事はできるか?」
「おお、それは面白そうじゃ……やってみるかのう」


バッシュの言葉にハマーンは笑みを浮かべ、彼は早速飛行船を動かす準備を行う――





――横転した砂船を引き上げるために飛行船を急遽発進させ、砂船と飛行船を繋げるためにナイが引き抜いた鎖付きの銛が再利用された。


「よし、引っ張れ!!」
『「「「おおおおっ!!」」」


飛行船が浮き上がると甲板には大勢の男が集まり、砂船から射出された銛を固定して引き上げる。砂船が浮上すると横転していた砂船もゆっくりと引き上げられ、どうにか体勢を立て直す事に成功した。


「よし、成功したぞ!!」
「す、すげぇっ……」
「ほ、本当に船が浮いた……何なんだよあれ!?」
「砂船じゃなかったのか……」


砂賊はナイ達が乗っていた飛行船を砂船の類だと思い込んでいたが、実際は空を飛ぶ船だと知って驚愕の表情を浮かべる。彼等は最初に飛行船を見かけた時はただの商船だと思い込んでいたが、まさか王都から訪れた飛行船などとは夢にも思わなかった。

どうにか飛行船の力で砂船を元通りに起き上がらせると、その後は破損した箇所を確認して修復作業を行う。幸いな事に砂船を構成する船は海を移動する船よりも頑丈にできており、ハマーンや彼の弟子達が確認した限りでは破損個所は殆どない事が判明する。


「王子、この船なら少し修理すればまた動けそうじゃ。だが、儂等には砂船を動かす操舵技術はないぞ?」
「十分だ、この盗賊達を閉じ込めておく場所を確保できれば問題はない」


砂船を直したとしても生憎と船を動かす操舵手はおらず、残念ながらナイ達では砂船は運転する事はできない。だが、盗賊達を捕まえて管理する場所としては十分であり、捕縛した状態の彼等を船内に押し込めておく。


「一応は言っておくが、もしも不審な行動をしたら貴様等を始末する。いくらここが他国の領地であろうと我々に危害を加えるつもりならば容赦はしない」
「は、はひっ!!」
「もう逆らいません!!」


盗賊達を砂船の船内に閉じ込める際にバッシュは念入りに注意すると、もう反抗する意思も折れたのか盗賊達は逃げる様に船内の倉庫に引きこもる。元々は商船だったので大量の荷物を預けられるように船内には大きな倉庫が内蔵され、ここに閉じ込めて置けば盗賊達はどうしようもできない。


「ふうっ……これで一件落着かな」
「いや、そうでもないよ。盗賊達は閉じ込める事はできてもまだ問題は残っている」
「え!?まだ何か問題が!?」
「うむ、重要な問題じゃ……」


アルトとハマーンの言葉にナイは驚き、まだ他にどんな問題が残っているのかと緊張すると、二人は目を光り輝かせて砂船を駆け出す。


「この船の調査さ!!いったいどんな原理で砂漠を移動しているのか突き止めないといけない!!」
「うほぉっ!!砂船に乗るのは儂等も初めてじゃからな!!色々と調べつくすぞ!!」
「ええっ……」
「……あの二人は放っておけ、いずれこの船も巨人国に引き渡す必要がある。その前に調べられる所は調べたいんだろう」


まるで子供のように船の中を駆けまわるアルトとハマーンにナイ達は呆れるが、バッシュの言う通りにこの船は盗まれた商船なのでいずれ返却しなければならない。

巨人国に引き渡す前にアルト達は砂船の構造を調べ上げるつもりらしく、その後は二人は連絡の使者が戻ってくるまで砂船の中を駆け巡って調査を続けた――





――時刻は夕方を迎えると、街に向けて出発した使者が無事に戻ってきた。但し、帰ってきたのはリンだけでドリスの姿はなく、彼女は戻ってくると早々に水を要求し、小さめの壺に入った水を用意すると一気に飲み込む。


「ぷはぁっ!!はあっ、はあっ……し、死ぬかと思った」
「リン、大丈夫か?」
「ええ、申し訳ございません。ここまで戻る道中で色々とありましたから……」
「それで首尾はどうじゃ?」


砂漠の道中はかなり苦労をさせられたらしく、リンの衣服はあちこちが汚れていた。砂漠の行軍は相当に苦労したらしく、それでも任務を達成して戻ってきた。


「街に滞在していた巨人国の軍隊と接触を図る事に成功しました。既に我々が砂漠に赴いている事を伝えています」
「そうか……軍隊を率いているのは巨人国の大将軍か?」
「はい、我々が風属性の魔石を運んできた事を知ると喜びましたが、飛行船で軍勢を率いて赴いた事には気分を害しておりました」
「まあ、当然と言えば当然の反応じゃな」


巨人国は王国側に協力を求めたのは砂船を動かすのに必要な風属性の魔石の提供だけだったが、まさか王国が飛行船で騎士団を率いて応援に駆けつけるなどとは予想もしなかった。

しかし、約束通りに巨人国側が要求した風属性の魔石を運び込んだ事は確かであるため、巨人国軍としてはこのまま王国の軍隊を無下に追い返す事はできない。ここで追い払う様な真似をすれば魔石の引き渡しを拒否される恐れもあり、それだけは巨人国側も避けなければならない。魔物の討伐のためにはどうしても砂船を動かす必要があり、王国の協力が必要不可欠だった。
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