貧弱の英雄

カタナヅキ

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砂漠の脅威

第938話 砂漠の盗賊

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「ふうっ……それにしてもこんな場所に人が住んでいるとはね。いや、こんな場所だからこそ人が暮らしているのかもしれない」
「えっ……どういう意味ですか?」
「普通の人間が暮らすには適さない場所だからこそ、敢えて暮らす人間もいるという事さ」
「よく意味が分からない……」
「どういう意味?」


アルトの話にナイ達は首を傾げると、アルトはアチイ砂漠の環境の厳しさを利用してたくましく生きる人々の事を話す。


「このアチイ砂漠は確かに人間が暮らすには厳しい環境だ。それでもここに人が集まる理由は何だと思う?」
「う、う~ん……」
「暑すぎて頭が回らない、もっと分かりやすく説明してほしい……」
「理由か……あ、もしかして商業のため?」
「その通りさ」


王国と巨人国の境に存在するアチイ砂漠は、両国が商業を行うためにはどうしても通らねばならない地帯である。そこで巨人国は敢えてこのアチイ砂漠を自らの国の領土として仕立て上げ、この砂漠に人が暮らせる街を作り出す。

普通ならば人が暮らすには厳しすぎる環境だが、この砂漠に人が暮らす様になったお陰で両国の商業は大きく発展した。特に砂船が完成してからは両国の商業が盛んになり、砂漠に暮らす人々も両国の恩恵を受けてそれなりに裕福な生活を送れるようになった。


「この砂漠は本来は人が好んで暮らさないような場所だが、二つの国を繋げるという重要な役目がある。だから人を集めてここに街を作ったんだろう」
「へ、へえっ……色々と考える人もいるんですね」
「商売の話は難しい……」
「なるほど……そういえばもしかしたらドルトンさんも同じような事を話してたな」


ナイはイチノに訪れた時にドルトンにアチイ砂漠に向かう事を伝えると、彼もアルトと同じような話をしてくれた。彼も商人であるためにアチイ砂漠が両国の商業にどれほど重要な拠点なのか知っていたのだろう。


「さてと……連絡が来るまでしばらくの間はここで待機する必要がある。それまでの間は僕達も地図を確認してこの辺りの地理を把握しておこうか」
「地理も何も……」
「……何処を見ても同じような風景にしか見えない」


アルトの話を聞いてナイ達は窓を見つめ、どこもかしこも似たような風景が広がっているため、地図があっても自分達の居場所がどこなのかも分かりにくい。

草原と違って砂漠の場合は道しるべになりそうな物は少なく、それに地図を確認する限りだと砂漠の街まで相当な距離が存在した。連絡役の使者として派遣されたドリスとリンの部隊もいつ戻ってくるか分からず、だからこそナイ達は待ち惚ける。


「ふうっ……ドリスさんとリンさん、無事に戻ってくると良いけど」
「あの二人ならきっと大丈夫さ。それよりも僕が気になるのは……」
「ん?何か気になるの?」
「いや、あくまで噂で聞いた事があるだけなんだが……この砂漠には魔物以外の脅威がいるらしい」
「魔物以外の脅威?」


ナイ達はアルトの言葉に彼に視線を向けると、アルトは昔にアチイ砂漠に関するある噂を聞いた事があった。その噂の内容とはアチイ砂漠には魔物以外にも恐れなければならない存在がいるという話だった。


「以前に僕はアチイ砂漠に訪れた事がある冒険者から興味深い話を聞いた事がある」
「それはどんな話ですか?」
「ああ、何でもこの砂漠には砂船を利用して盗賊紛いの行動を行う悪党がいるらしい。そいつらは砂漠の賊という事で「砂賊」と言われているらしいんだ」
「砂賊?」
「海賊なら聞いた事はあるけど、砂賊なんて初めて聞いた」


アルトによればこちらの砂漠には砂賊と呼ばれる悪党が存在し、その砂賊は砂船を駆使してアチイ砂漠を訪れる人々を襲い、金品や食料を強奪しているという。


「砂賊は砂船を巧みに操り、それを利用して砂漠に訪れる人々を危険に晒す恐ろしい集団だと聞いている。そんな奴等に見つかったら大変な事になるだろうね」
「ちょ、ちょっと!!変な事を言わないでくださいよ!!」
「はははっ……まあ、大丈夫さ。ここはまだ砂漠の入口だし、早々に砂賊に見つかるなんて事は……うわっ!?」
「何っ!?」


話の途中で飛行船に振動が伝わり、何が起きたのかとナイ達は窓を確認する。すると、砂丘をかき分けながらこちらに接近する「砂船」の姿が確認できた。


「な、何ですか今の揺れは!?」
「それよりも窓を見て……船が近付いている」
「驚いたな、あれが砂船か!!まさか本当に砂漠を移動する船を見る機会が訪れるなんて……」
「喜んでる場合じゃないよ!!あの船、こっちに向けて何か飛ばしてるよ!?」


砂丘をかき分けながら移動する砂船はナイ達が乗っている飛行船に目掛けて接近し、砂船の甲板には巨大なボーガンのような射出装置が組み込まれていた。


「あの船……まさか、こっちに攻撃を仕掛けるつもりか!?」
「もしかしてさっきの振動は……アルト王子、部屋で待機していてください!!」
「まさかこんな場所で襲撃してくるなんて……!!」


先ほどの飛行船の衝撃はこちらに迫る砂船から攻撃を受けたらしく、この時にナイは「観察眼」の技能を発動させて砂船の様子を伺う。

砂船の甲板には巨大ボーガンを想像させる射出装置が幾つも設置され、鋼鉄製の銛が装填されていた。先ほどの船の揺れは砂船が発射した銛のような投擲物が当たったらしく、更に砂船は次々と射出する。


「危ない!!皆、身体を伏せて!!」
「うわわっ!?」
「アルト王子、伏せてください!!」
「くぅっ……!!」


砂船から次々と投擲物が発射され、飛行船の舷に撃ち込まれていく。しかも今回の銛には鎖が繋げられており、砂船と飛行船が引き寄せられて横合わせの形となる。


「あいつら……この船に乗り込む気か!?」
「まずい、僕の事は良いから君達も外に向かってくれ!!」
「は、はい!!」
「むうっ……折角休んでいたのに」


飛行船と砂船が横並びになる形となり、ナイ達は慌てて甲板の方へ移動を行う。アルトは戦えないので部屋に待機させ、三人は甲板に向かうと既に戦闘は始まっていた。


「なんじゃお主等は!!よくも儂の船を!!」
「はっ、丁度いい憂さ晴らしだ!!」
「うりゃりゃりゃっ!!」
「「「ぎゃあああっ!?」」」


既に甲板には人が集まっており、その中には黄金冒険者達の姿もあった。ハマーンは船を傷つけられた事に怒って鉄槌を振り回し、離れた場所ではガオウが持ち前の身軽さを生かして甲板を飛び回っていた。リーナも負けじと蒼月を振り回して甲板に乗り込んできた賊を討ち取る。


「ちぃっ!!何だこいつら、やたらと強いぞ!?」
「落ち着け!!ただの護衛の冒険者だろう!!」
「いや、でも……こいつらの格好、何だか普通じゃないぞ!?」
「言っている場合か!!いいから戦えっ!!」


砂賊たちは自分達が乗り込んだ船に冒険者や騎士のような格好をした者達が乗り込んでいる事に戸惑うが、それでも構わずに攻め寄せる。賊の数は多く、恐らくは人数だけならばナイ達よりも多い。


「な、何なんですかこれは……まさか、本当にアルト王子の言っていた砂賊!?」
「落ち着いて……こいつら、大した事はない」
「二人とも気を付けて!!僕は船に食い込んだ銛の方を何とかしてくる!!」


ナイはミイナとヒイロに油断しないように注意すると、自分は船同士を繋げる銛を何とかするために動く。ナイは邪魔をする砂賊を蹴散らしながら銛へ近づき、力ずくで引っこ抜こうとした。


「よし、これを抜けば……」
「おいおい、何の真似だ!?そいつが簡単に抜けると思ってて……うおおっ!?」
「ふんぬらばっ!!」


砂賊の乗っている砂船から射出された銛は鎖で繋がっており、この鎖のせいで飛行船と砂船は離れる事はできなかった。だが、ナイが力を込めた瞬間に二つの船が大きく揺れ、あっさりとナイは銛の一つを引っこ抜く。

巨人族であろうと持ち上げる事も困難なはずの銛を普通の少年にしか見えないナイが抜いた事に砂賊は度肝を抜かれ、更にナイは次々と銛を力ずくで引っこ抜く。やがて銛が引き抜かれる度に砂船は傾き始め、徐々に二つの船が離れ始める。


「ま、まずい!!おい、誰かあのガキを止めろ!!船がこのままだと横転しちまうぞ!?」
「そ、そんな事を言われても!!こいつら、やたらと強くて……ぎゃああっ!?」
「ナイを援護しろ!!誰一人、近づけさせるな!!王国騎士の力を見せつけろ!!」
『うおおおおっ!!』


バッシュの指示の元、ナイの行動を邪魔しようとする砂賊たちは王国騎士が阻む。弓矢などでナイを直接に狙おうとする輩はバッシュが「防魔の盾」で防ぎ、ナイの行動を援護する。


「あと一つ!!」
「よし、やれ!!」
「「「や、止めてくれぇえええっ!!」」」


最後の銛を掴んだナイを見て砂賊は悲鳴を上げるが、ナイは勢いよく引き抜くと砂賊の船は飛行船から離れて徐々に傾き始める。慌てて砂船に残っていた砂賊は舵を斬ろうとするが、この時にナイは離れ始める砂船に向けて飛び込み、岩砕剣を船の舷に叩き込む。


「どりゃあああああっ!!」
「「「うわぁああああっ!?」」」


ナイの一撃によって帆は折れてしまい、船は完全に転倒した。甲板に立っていた砂賊は地上に叩き付けられる。地面が砂であった事が幸いして全員死ぬ事はなかったが、完全に砂船の方は横転してしまう。

砂船が転倒した際にナイも危うく巻き込まれそうになったが、フックショットを飛行船に打ち込んで難を逃れる。鋼線を手繰り寄せて甲板へ戻ると、バッシュが無事を確認する。


「大丈夫か?」
「あ、はい」
「ふっ……大した奴だ」


バッシュはナイが帰還すると横転した砂船に視線を向け、そして甲板に残っている砂賊に視線を向ける。既に甲板に残っていた砂賊は全員が王国騎士達に打ちのめされており、その中の一人はハマーンに何度も頭を小突かれていた。
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