貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
948 / 1,110
砂漠の脅威

第931話 ドワーフの里

しおりを挟む
――回収できるだけのポイズンタートルの素材を運び終えた後、飛行船は次の目的地の前にグツグ火山へ向かう。グツグ火山に暮らす鍛冶師達は山の麓に村を作り、いきなり空を飛ぶ船が下りてきたのを見て村に暮らすドワーフ達は度肝を抜かす。

飛行船から降りてきたバッシュは自分達が王都から訪れた事、そして現在は飛行船でアチイ砂漠に向かっている最中だと伝える。彼はグツグ火山で採掘される火属性の魔石を分けてほしい事を伝えると、鍛冶師達は最初は難色を示した。


「いくらこの国の王子様の頼みと言えど、この火山で採れた物は俺達の物ですよ」
「確かに俺達はこの国に住まわせてもらっているが、こっちだって命懸けで火山から魔石を採掘してるんだ。そんな苦労して手に入れた魔石を無償で引き渡す事はできませんね」
「悪いんだが俺達の魔石が欲しければそれ相応の対価を支払ってもらいたい」
「ふむ……」


話し合いの場にてバッシュは厳つい顔つきのドワーフの鍛冶師達に囲まれ、彼等は相手が王族だからといって遠慮はせず、魔石を引き渡す代わりに相応の対価を求めた。

仮にも一国の王子に対して無礼な態度を取る彼等に王国騎士達は苛立つが、ドワーフという種族は相手が目上の者であろうと自分に利益を与える相手で無ければ敬う事はしない。それを知った上でバッシュは交渉材料として用意した代物を引き渡す。


「……それならば受け取った魔石の量の二倍ほどのミスリル鉱石を引き渡す、といったらどうだ?」
「ミスリル鉱石……だと!?」
「そ、それは本当ですかい?」
「馬鹿な、そんな量のミスリル鉱石を用意できるはずが……」
「おい、ナイに例の物を運ぶように伝えてくれ」
「はっ!!」


バッシュの言葉に鍛冶師達は驚愕の表情を浮かべるが、バッシュは側近の騎士に命じてナイを呼び出す。しばらくすると両手に巨大なミスリル鉱石を抱えたナイが部屋の中に入り込む。


「失礼しま~す」
「うおっ!?」
「な、何じゃ!?」
「こ、これは……ミスリル鉱石か!?」


恐らくは100キロ以上はあると思われるミスリル鉱石をナイは軽々と持ち上げながら部屋の中に入ると、床の上に置いて鍛冶師達に見せつける。あまりの重量に床が軋むが、鍛冶師達は信じられない大きさのミスリル鉱石を見て動揺を隠せない。


「な、何と巨大な鉱石じゃ……こ、これを何処で手に入れた!?」
「そこまで教えるつもりはない。だが、これだけのミスリル鉱石があれば色々な物が作り出せるだろう?」
「む、むうっ……」


火属性の魔石とミスリル鉱石の価値はややミスリル鉱石が勝り、しかもバッシュの要求は自分達が用意したミスリル鉱石の半分の量の魔石の要求である。その事を考えれば鍛冶師達にとっては悪くない条件だが、話が上手すぎて怪しく感じてしまう。

しかし、今回の取引相手はこの国の王子であるため、商人や貴族などよりもずっと信頼における相手である。そもそも王族の権限を使えば強制的にグツグ火山に暮らす鍛冶師から資源を回収する事も不可能ではない。それにも関わらずにバッシュは鍛冶師達と対等な取引を持ちかけてきた事に鍛冶師達は思い悩む。


(おい、どうする?取引を引き受けるか?)
(馬鹿を言え、こんな都合の良い取引があるか。きっと裏があるんだろ……)
(だが、王族がわざわざ俺達の所まで訪れて騙そうなんてあり得るのかな?俺達を騙して得する事なんてないだろう)
(う、う~ん……)


ドワーフ達は今回の取引の件について話し合うがまとまらず、どうするべきか思い悩む。そんな彼等の様子を見てバッシュはまた側近の兵士に指示を出す。


「ハマーンを連れて来い」
「はっ!!」
「ハマーン?それってまさか……あの王都の鍛冶師か!?」


ハマーンの名前を耳にした途端にグツグ火山の鍛冶師達は動揺を示し、やがてハマーンが部屋の中に訪れると彼を見て鍛冶師達は戸惑う。


「これはこれは久しぶりじゃな、グツグ火山の鍛冶師の諸君。儂の事を覚えているか」
「お、お前は……昔、ここに来たことがあるな」
「まさか、お前が王都で有名な鍛冶師の?」
「いったいどうしてお前がここに……」
「まあまあ、落ち着いて……それよりも儂の話を聞いてくれんか?」


かつてハマーンはグツグ火山の鍛冶師達と顔を合わせた事があり、彼の事を覚えていた鍛冶師達は王族のバッシュと行動を共にしている事に驚く。しかし、ハマーンはそんな彼等に対して取引の交渉を行う。


「儂が王都で鍛冶師をしておることは噂で聞いた事はあるだろう?ここへ訪れるのに利用した飛行船の設計も実は儂が関わっておる」
「な、何だと!?」
「あの飛行船を作ったというのか?」
「うむ、儂の生涯最高の作品といっても過言ではない」
「し、信じられない……!!」


飛行船を実際に目撃した鍛冶師達はハマーンが飛行船の開発に関わっていた事に驚きを隠せず、嫉妬と羨望の視線をハマーンに向ける。それほどまでに彼等にとって飛行船は素晴らしい作品だった。


「……飛行船の設計には他の鍛冶師の方も関わっていたのでは?」
「ああ、特に魔導大砲などの兵器の内臓はイリアの提案だったと聞いているが……」
「ま、まあまあ……話も上手くいきそうですし、ここは黙っておきましょう」


ハマーンの発言にドリスとバッシュはこそこそと話し合うが、グツグ火山の鍛冶師達はハマーンの話を信じ込んで彼等はその場で膝を着いて懇願する。


「た、頼む!!是非、俺達に飛行船を作った時の事を詳しく話してくれ!!」
「鍛冶師なら……いや、職人なら死ぬ前に歴史に名前を刻むような大作を残したいんだ!!」
「いったいどんな発想があればあんなに立派な船を作れるんだ!!」
「うむ、まあ話すのもやぶさかではないが……本題を忘れてはならんぞ」
「あ、ああ……魔石とミスリル鉱石の交換だな?本当に渡した分の魔石の倍の量のミスリル鉱石を用意してくれるのなら俺達に文句はねえ!!」


鍛冶師達は一刻も早くにハマーンが飛行船を設計した時の話を聞くため、魔石とミスリル鉱石の交換の取引を承諾した。

彼等からすればいつでも採掘できる魔石よりも、色々な用途に扱えるミスリル鉱石の方が貴重であり、討伐隊にとっても飛行船に必要な燃料になる火属性の魔石を余分に手に入る。しかも鍛冶師に引き渡すミスリル鉱石は先の戦闘で倒したポイズンタートルから採取した代物であるため、帰りにマル湖に立ち寄れば採取できなかった分のミスリル鉱石も手に入る。


「では儂が飛行船の開発を国王陛下に頼まれた時の話からしようか」
「こ、国王が直々に飛行船の依頼を!?」
「す、すげぇっ……あんた、大した奴だよ!!」
「色々と聞かせてくれ!!あ、おい!!お茶を持ってこい!!」


鍛冶師達は王子であるバッシュよりもハマーンの方を丁重に持て成し、彼から飛行船の開発に至るまでの経緯を詳しく尋ねる。その様子を他の者は何とも言えない表情で見守るが、バッシュはため息を吐いて船に一足先に戻る事にした。


「ここでの用事は住んだ……燃料を積み次第、すぐに出発するぞ」
「そうですわね……」
「全く、これだからドワーフは……」
「あははっ……」


この場はハマーンに任せてナイ達は一足先に飛行船へ戻り、グツグ火山の鍛冶師達が約束通りに火属性の魔石を運び出すまで待つ事にした――





――翌日の朝、ハマーンは大分酒に酔った状態で戻ってきた。どうやらグツグ火山の鍛冶師達に盛大に歓迎されたらしく、彼は酔っ払った状態ながらも約束通りに大量の火属性の魔石を持ち返ってきた。


「ひっくっ……いやぁっ、あいつら中々話の分かる奴等でしてな。ほれ、予定の数よりも倍近くの魔石を渡してくれたぞ」
「それは大手柄だったな、ハマーンよ……だが、その調子でお前は飛行船を運転できるのか?」
「うぃっくっ……大丈夫、この程度の酒なんて飲んだうちにも入らない。それにドワーフにとって酒なんて水と大して変わらない……うぷぅっ!?」
「ちょっ……師匠!?」


戻ってきたハマーンは昨日の夜に深酒した影響か戻ってきて早々に嘔吐してしまい、その後は意識を失って治療室に運び込まれる。どうやら鍛冶師達に飛行船の話をするために余程飲まされたらしく、この状態ではとても運転は任せられない。

この飛行船の運転を行えるのはハマーンしかおらず、彼の部下達も飛行船を動かす事はできない。そのためにハマーンが目覚めるまでは飛行船は動かす事はできず、バッシュは頭を抱えてしまう。


「全く……飲み過ぎだ」
「バッシュ王子、我々はどうすれば……」
「どうすればもなにもハマーンがこんな状態では飛行船は飛ばせられない……目が覚めるまで出発を遅らせるしかあるまい」
「え~っ……ここ、何もないから飽きたのに」
「仕方ありませんわね……」


ハマーンが酒の影響で寝入ってしまい、この状態ではしばらくは目に覚ませそうにないためにバッシュは飛行船の出発時間を変更する。尤も飛行船の移動速度ならばすぐに後れを取り戻せるため、焦らずにいつでも出発できるように船に待機する。

しかし、飛行船の待機中に昨日の交渉の場に存在した鍛冶師達が慌てた様子で訪れ、彼等はバッシュの面会を申し込んできた。飛行船に訪れたドワーフ達はただならぬ雰囲気だったため、見張りの兵士はバッシュに鍛冶師達の事を伝えると、彼はすぐに面会に応じた。


「バ、バッシュ王子!!良かった、まだここに居られましたか!!」
「お前達は昨日の……まだ我々に用事か?」
「そ、それが大変なんです!!グツグ火山の方に見た事もない魔物が現れて……鉱山に採掘に向かった俺達の仲間が酷い怪我をしたんです!!」
「怪我だと?」
「王子、イリアさんに診てもらいましょう!!」
「分かった、許可しよう」


鍛冶師達の話を聞いて怪我人がいると聞きつけたドリスは飛行船に乗っている薬師のイリアに治療をさせるようにバッシュに促し、彼もすぐに許可した――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

処理中です...