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砂漠の脅威
第923話 鎖の魔剣
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「始めっ!!」
「うおおおおっ!!」
「っ……!?」
模擬戦が開始した瞬間にフィルは咆哮をあげると、彼は両手に持っていた双剣を掲げる。その行為にナイは戸惑うが、ただの気合を入れるための動作だったのか特に何も仕掛けては来ない。
距離を取った状態で動かないナイを見てフィルは笑みを浮かべ、彼は右手に持っていた剣の柄を手放すと、柄に伸びている鎖の部分を掴んで振り回す。まるで鎖鎌の如くフィルは片側の水晶の剣を振り回すと、勢いよくナイに目掛けて放つ。
「はああっ!!」
「なっ!?」
剣を投げ飛ばしてきたフィルにナイは驚くが、双剣同士に繋がれている鎖の長さを把握して攻撃が届かない位置まで移動しようとした。だが、ここでナイの脳裏にミイナが愛用する「如意斧」が思い浮かぶ。
(まずいっ!!)
ミイナが扱う如意斧は彼女の意思に従って柄の部分を自由自在に伸ばす事ができる。それを思い出したナイは直感でフィルの双剣の柄に繋がれた「鎖」も如意斧のように長さを調整できるのではないかと考え、反射的に旋斧で投げつけられた剣を弾き返す。
「このっ!!」
「ちっ……まだまだ!!」
剣を弾かれたフィルは舌打ちするが、弾き飛ばされても彼が鎖を引き寄せると瞬く間に手元に戻る。この時にナイは「観察眼」を発動させて鎖の長さを把握し、間違いなく攻撃を仕掛けた時と比べて鎖の長さが変化していた。
(危なかった……避けようとしてたら大変な目に遭っていた)
どうやらフィルの扱う双剣を繋ぐ鎖は長短を調整できるらしく、恐らくはミイナの如意斧と同じような能力を持つと思われた。しかし、フィルの「双剣の魔剣」は鎖をただ伸ばすだけではなく、他にも能力を隠し持っていた。
基本的に魔剣は一つの能力しか持ち合わせておらず、例えばヒイロやドリスの魔剣や魔槍は炎の力を宿し、テンの退魔刀は魔法を絶つ力を持つ。ナイの旋斧は各属性の魔法剣を扱えるが、それは旋斧が外部から魔力を吸収してその力を使いこなす能力を持っているだけに過ぎない(聖属性の魔力を与える事で自己修復も可能だが)。
しかし、フィルが所有する魔剣は元々は全く同じ能力を持つ魔剣が二つと、それを繋ぎ合わせる特別製の鎖型の魔道具を利用している。この魔道具はフィルの意思である程度の長さまで鎖を伸ばし、自由に操作する事ができる。そして鎖を双剣に繋げる事で彼の意思で自由自在に動かす事ができた。
――だが、それはあくまでも鎖型の魔道具の能力であって魔剣の真の能力ではない。フィルが手にした二つの魔剣の真の能力は相手が魔法や魔法剣を発動させた時に効果を発揮する。
フィルは鎖を利用して再び片方の剣を振り回し、距離を保った状態のまま動かない。ナイはフィルの様子を見て近付かなければどうしようもないと悟る。
(ここからだとこっちの攻撃が届かない……近付くしかないか)
生憎とナイには遠距離からの攻撃手段は持ち合わせておらず、一応は刺剣を投げつけるという方法もあるが、フィルが鎖で剣を回転させる姿を見て下手な飛び道具は通じないと判断した。
刺剣などの武器を投げつけてもフィルが回転させた剣で弾かれるのは目に見えており、それならば接近して直接斬りかかる方がいい。しかし、今回はあくまでも模擬戦であって決闘ではない。まさか本気でナイもフィルに斬りかかるわけにはいかず、思うように戦えない。
(近づかないといけないのは分かってるけど……上手く手加減できるかな)
仮にナイが全力の一撃を繰り出せばフィルの命が危うく、先ほど腕を掴んだ時にナイはフィルの腕力を把握していた。もしもナイが全力で攻撃を繰り出せばフィルが全力で防御しても、彼の腕力ではナイの圧倒的な力には耐え切れずに攻撃を受けてしまう。
(とりあえず、気絶させるぐらいの力でいいかな)
剛力などの筋力を強化する技能は扱わず、当然だが強化術の類も使用するわけにはいかない。技能や魔法の力を頼らずにナイはフィルを倒すために近付こうとした。しかし、そんな彼に対してフィルは逆に動く。
「うおおおっ!!」
フィルの方から接近してきた事にナイは一瞬だけ驚いたが、すぐに武器を構える。この時にフィルは両手の双剣の柄を離すと、鎖を握りしめて同時に双剣をナイに向けて放つ。
「鋏断ち!!」
「うわっ!?」
まるで鋏の如く双剣がナイの左右から迫り、慌ててナイは上空に跳躍して攻撃を躱す。ナイが跳んだ直後に二つの双剣の刃が衝突して火花を散らす。
空中に回避したナイを見てフィルは笑みを浮かべ、逃げ場のない空中ではナイは次の攻撃は避けきれない。フィルはナイが地面に降り立つ前に鎖を引き寄せると、今度は身体を回転させて双剣を重ね合わせた状態で振り回す。
「回転鋏!!」
「くっ!?」
空中に浮かんだナイに向けて折り重なった鎖の魔剣が迫り、手にしていた旋斧でナイは攻撃を受ける。しかし、足場がない空中では攻撃を受けても踏ん張る事ができず、衝撃を受けたナイは地面に叩き付けられそうになった。
しかし、地面へ墜落する寸前にナイは受身を取って衝撃を和らげる。それを見たフィルは余裕の笑みを浮かべ、追撃の好機を逃さずに続けて攻撃を繰り出す。
「投擲鋏!!」
「うわっ!?」
倒れたナイに目掛けてフィルは双剣を投げ放つと、迫りくる二つの刃を見てナイは咄嗟に旋斧だけではなく、岩砕剣を抜いて両手で弾き返す。
「このっ!!」
「ちっ……流石は英雄、中々やりますね」
二つの大剣を手にしたナイを見てフィルは舌打ちしながらも鎖を引き寄せて双剣を回収すると、ここまでの攻防を見ていた他の人間達は驚嘆の声を上げる。
「やるじゃないかい、あの坊や……ナイを相手によく戦っているよ」
「ううっ……ナ、ナイ君は大丈夫かな?」
「見た所、一方的にあの男の人が押しているわね。けど……ナイ君が負けるのは想像できないわね」
観戦していたテンは素直にフィルの実力に感心する一方、モモは心配そうな表情を浮かべてナイを見守る。ヒナもフィルが優位に立っているように見えるが、何故か彼女はナイがフィルに敗れる姿が想像つかない。
他の者たちも一見はフィルが押しているように見えるにも関わらず、ナイの真の実力を知る者はここまでの攻防を見ても彼が負けるとは微塵も思わない。むしろ、ここからが本番だと思っていた。
「中々やりますわね、彼……ですけど」
「ああ、そろそろナイも動くだろう」
「……ここからが見ものだな」
戦闘の一部始終を見て誰もがナイの勝利を確信していた。フィルは確かに黄金級冒険者に恥じぬ強さを見せつけたが、彼を相手にしているのは間違いなく国内「最強」の剣士である。
「……爺さん、俺は寝るわ。終わったら起してくれ」
「ん?お主、試合を見ないのか?」
「これ以上は見る必要ねぇよ……どうせすぐに終わる」
「えっ……?」
フィルと因縁があるガオウでさえもこれ以上に勝負は長続きしないと判断し、これ以上は見る必要はないと判断して彼は先に船に乗り込む。そんなガオウの態度にハマーンとリーナは呆気に取られるが、すぐに二人は視線をナイ達へ戻す。
両手に旋斧と岩砕剣を手にしたナイはフィルと向き合い、彼が手にしている「鎖の魔剣」を観察する。予想以上にあの鎖が厄介でナイの間合いが届かない場所からフィルは攻撃を仕掛けてくる事から苦戦してしまった。
「どうしましたか?降参するなら今の内ですよ。所詮、英雄といってもこの程度の……」
「降参はしないよ……そろそろ終わらせるよ」
「何だと!?」
ここまで優勢に戦っていたフィルは余裕の態度を取るが、そんな彼に対してナイは覚悟を決めた表情を浮かべてゆっくりと歩む。自分に近付いてくるナイを見てフィルは何故か悪寒を覚え、急に彼の身体が何倍にも大きくなったように感じられた。
(な、何だこいつの迫力は!?馬鹿なっ……この僕が圧倒されているだと!?)
自分よりも小柄なはずのナイが唐突に大きくなったように錯覚したフィルは冷や汗を流し、彼は反射的に鎖の魔剣を手放して自分が最も得意とする技を繰り出す。
「はああああっ!!」
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
「か、風が!?」
両手で鎖を握りしめたフィルは本物の鎖鎌の如く、左右で剣を高速回転させる。しかも回転する事に刃は加速していき、扇風機のように風圧を発生させて観戦していた人間達も慌てて距離を取る。
あまりの回転速度に刃は目では捉えきれず、この状態で攻撃を繰り出されれば凄まじい加速が加わる。この技でフィルはかつて「赤毛熊」を一撃で殺した事があり、彼が繰り出せる最高の技だった。
「喰らえっ……撃鋏!!」
「っ……!!」
フィルは右手で高速回転させていた剣を繰り出すと、ナイの元に目掛けて凄まじい速度で刃が向かう。それでも人並外れた反射神経でナイはフィルが攻撃を繰り出す動作を見切り、彼が剣を投げる前に回避行動に移っていた。
「くっ!?」
「避けても無駄だ!!」
初撃はどうにか躱したナイだったが、それを予想していたフィルは今度は反対の左手で回転させていた剣を放つ。回避した直後に次の攻撃が繰り出され、造船所に金属音が鳴り響く。
「ふんっ!!」
「なぁっ!?」
二回目の攻撃に対してナイは旋斧を構えると「迎撃」の技能を発動させ、正面から刃を受け止めるのではなく、大剣の刃を利用して上手く攻撃の軌道を受け流す。その結果、鎖の魔剣は勢い余ってあらぬ方向に跳んでしまい、フィルの手元から離れてしまう。
自ら武器を手放した形になったフィルは唖然とした表情を浮かべるが、ナイは空中に弾かれた鎖の魔剣を見て両手の大剣を手放して手を伸ばす。すると空中から落下してきた鎖の魔剣を彼は見事に掴み取り、それを見たフィルは顔色を青ざめた。
「うおおおおっ!!」
「っ……!?」
模擬戦が開始した瞬間にフィルは咆哮をあげると、彼は両手に持っていた双剣を掲げる。その行為にナイは戸惑うが、ただの気合を入れるための動作だったのか特に何も仕掛けては来ない。
距離を取った状態で動かないナイを見てフィルは笑みを浮かべ、彼は右手に持っていた剣の柄を手放すと、柄に伸びている鎖の部分を掴んで振り回す。まるで鎖鎌の如くフィルは片側の水晶の剣を振り回すと、勢いよくナイに目掛けて放つ。
「はああっ!!」
「なっ!?」
剣を投げ飛ばしてきたフィルにナイは驚くが、双剣同士に繋がれている鎖の長さを把握して攻撃が届かない位置まで移動しようとした。だが、ここでナイの脳裏にミイナが愛用する「如意斧」が思い浮かぶ。
(まずいっ!!)
ミイナが扱う如意斧は彼女の意思に従って柄の部分を自由自在に伸ばす事ができる。それを思い出したナイは直感でフィルの双剣の柄に繋がれた「鎖」も如意斧のように長さを調整できるのではないかと考え、反射的に旋斧で投げつけられた剣を弾き返す。
「このっ!!」
「ちっ……まだまだ!!」
剣を弾かれたフィルは舌打ちするが、弾き飛ばされても彼が鎖を引き寄せると瞬く間に手元に戻る。この時にナイは「観察眼」を発動させて鎖の長さを把握し、間違いなく攻撃を仕掛けた時と比べて鎖の長さが変化していた。
(危なかった……避けようとしてたら大変な目に遭っていた)
どうやらフィルの扱う双剣を繋ぐ鎖は長短を調整できるらしく、恐らくはミイナの如意斧と同じような能力を持つと思われた。しかし、フィルの「双剣の魔剣」は鎖をただ伸ばすだけではなく、他にも能力を隠し持っていた。
基本的に魔剣は一つの能力しか持ち合わせておらず、例えばヒイロやドリスの魔剣や魔槍は炎の力を宿し、テンの退魔刀は魔法を絶つ力を持つ。ナイの旋斧は各属性の魔法剣を扱えるが、それは旋斧が外部から魔力を吸収してその力を使いこなす能力を持っているだけに過ぎない(聖属性の魔力を与える事で自己修復も可能だが)。
しかし、フィルが所有する魔剣は元々は全く同じ能力を持つ魔剣が二つと、それを繋ぎ合わせる特別製の鎖型の魔道具を利用している。この魔道具はフィルの意思である程度の長さまで鎖を伸ばし、自由に操作する事ができる。そして鎖を双剣に繋げる事で彼の意思で自由自在に動かす事ができた。
――だが、それはあくまでも鎖型の魔道具の能力であって魔剣の真の能力ではない。フィルが手にした二つの魔剣の真の能力は相手が魔法や魔法剣を発動させた時に効果を発揮する。
フィルは鎖を利用して再び片方の剣を振り回し、距離を保った状態のまま動かない。ナイはフィルの様子を見て近付かなければどうしようもないと悟る。
(ここからだとこっちの攻撃が届かない……近付くしかないか)
生憎とナイには遠距離からの攻撃手段は持ち合わせておらず、一応は刺剣を投げつけるという方法もあるが、フィルが鎖で剣を回転させる姿を見て下手な飛び道具は通じないと判断した。
刺剣などの武器を投げつけてもフィルが回転させた剣で弾かれるのは目に見えており、それならば接近して直接斬りかかる方がいい。しかし、今回はあくまでも模擬戦であって決闘ではない。まさか本気でナイもフィルに斬りかかるわけにはいかず、思うように戦えない。
(近づかないといけないのは分かってるけど……上手く手加減できるかな)
仮にナイが全力の一撃を繰り出せばフィルの命が危うく、先ほど腕を掴んだ時にナイはフィルの腕力を把握していた。もしもナイが全力で攻撃を繰り出せばフィルが全力で防御しても、彼の腕力ではナイの圧倒的な力には耐え切れずに攻撃を受けてしまう。
(とりあえず、気絶させるぐらいの力でいいかな)
剛力などの筋力を強化する技能は扱わず、当然だが強化術の類も使用するわけにはいかない。技能や魔法の力を頼らずにナイはフィルを倒すために近付こうとした。しかし、そんな彼に対してフィルは逆に動く。
「うおおおっ!!」
フィルの方から接近してきた事にナイは一瞬だけ驚いたが、すぐに武器を構える。この時にフィルは両手の双剣の柄を離すと、鎖を握りしめて同時に双剣をナイに向けて放つ。
「鋏断ち!!」
「うわっ!?」
まるで鋏の如く双剣がナイの左右から迫り、慌ててナイは上空に跳躍して攻撃を躱す。ナイが跳んだ直後に二つの双剣の刃が衝突して火花を散らす。
空中に回避したナイを見てフィルは笑みを浮かべ、逃げ場のない空中ではナイは次の攻撃は避けきれない。フィルはナイが地面に降り立つ前に鎖を引き寄せると、今度は身体を回転させて双剣を重ね合わせた状態で振り回す。
「回転鋏!!」
「くっ!?」
空中に浮かんだナイに向けて折り重なった鎖の魔剣が迫り、手にしていた旋斧でナイは攻撃を受ける。しかし、足場がない空中では攻撃を受けても踏ん張る事ができず、衝撃を受けたナイは地面に叩き付けられそうになった。
しかし、地面へ墜落する寸前にナイは受身を取って衝撃を和らげる。それを見たフィルは余裕の笑みを浮かべ、追撃の好機を逃さずに続けて攻撃を繰り出す。
「投擲鋏!!」
「うわっ!?」
倒れたナイに目掛けてフィルは双剣を投げ放つと、迫りくる二つの刃を見てナイは咄嗟に旋斧だけではなく、岩砕剣を抜いて両手で弾き返す。
「このっ!!」
「ちっ……流石は英雄、中々やりますね」
二つの大剣を手にしたナイを見てフィルは舌打ちしながらも鎖を引き寄せて双剣を回収すると、ここまでの攻防を見ていた他の人間達は驚嘆の声を上げる。
「やるじゃないかい、あの坊や……ナイを相手によく戦っているよ」
「ううっ……ナ、ナイ君は大丈夫かな?」
「見た所、一方的にあの男の人が押しているわね。けど……ナイ君が負けるのは想像できないわね」
観戦していたテンは素直にフィルの実力に感心する一方、モモは心配そうな表情を浮かべてナイを見守る。ヒナもフィルが優位に立っているように見えるが、何故か彼女はナイがフィルに敗れる姿が想像つかない。
他の者たちも一見はフィルが押しているように見えるにも関わらず、ナイの真の実力を知る者はここまでの攻防を見ても彼が負けるとは微塵も思わない。むしろ、ここからが本番だと思っていた。
「中々やりますわね、彼……ですけど」
「ああ、そろそろナイも動くだろう」
「……ここからが見ものだな」
戦闘の一部始終を見て誰もがナイの勝利を確信していた。フィルは確かに黄金級冒険者に恥じぬ強さを見せつけたが、彼を相手にしているのは間違いなく国内「最強」の剣士である。
「……爺さん、俺は寝るわ。終わったら起してくれ」
「ん?お主、試合を見ないのか?」
「これ以上は見る必要ねぇよ……どうせすぐに終わる」
「えっ……?」
フィルと因縁があるガオウでさえもこれ以上に勝負は長続きしないと判断し、これ以上は見る必要はないと判断して彼は先に船に乗り込む。そんなガオウの態度にハマーンとリーナは呆気に取られるが、すぐに二人は視線をナイ達へ戻す。
両手に旋斧と岩砕剣を手にしたナイはフィルと向き合い、彼が手にしている「鎖の魔剣」を観察する。予想以上にあの鎖が厄介でナイの間合いが届かない場所からフィルは攻撃を仕掛けてくる事から苦戦してしまった。
「どうしましたか?降参するなら今の内ですよ。所詮、英雄といってもこの程度の……」
「降参はしないよ……そろそろ終わらせるよ」
「何だと!?」
ここまで優勢に戦っていたフィルは余裕の態度を取るが、そんな彼に対してナイは覚悟を決めた表情を浮かべてゆっくりと歩む。自分に近付いてくるナイを見てフィルは何故か悪寒を覚え、急に彼の身体が何倍にも大きくなったように感じられた。
(な、何だこいつの迫力は!?馬鹿なっ……この僕が圧倒されているだと!?)
自分よりも小柄なはずのナイが唐突に大きくなったように錯覚したフィルは冷や汗を流し、彼は反射的に鎖の魔剣を手放して自分が最も得意とする技を繰り出す。
「はああああっ!!」
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
「か、風が!?」
両手で鎖を握りしめたフィルは本物の鎖鎌の如く、左右で剣を高速回転させる。しかも回転する事に刃は加速していき、扇風機のように風圧を発生させて観戦していた人間達も慌てて距離を取る。
あまりの回転速度に刃は目では捉えきれず、この状態で攻撃を繰り出されれば凄まじい加速が加わる。この技でフィルはかつて「赤毛熊」を一撃で殺した事があり、彼が繰り出せる最高の技だった。
「喰らえっ……撃鋏!!」
「っ……!!」
フィルは右手で高速回転させていた剣を繰り出すと、ナイの元に目掛けて凄まじい速度で刃が向かう。それでも人並外れた反射神経でナイはフィルが攻撃を繰り出す動作を見切り、彼が剣を投げる前に回避行動に移っていた。
「くっ!?」
「避けても無駄だ!!」
初撃はどうにか躱したナイだったが、それを予想していたフィルは今度は反対の左手で回転させていた剣を放つ。回避した直後に次の攻撃が繰り出され、造船所に金属音が鳴り響く。
「ふんっ!!」
「なぁっ!?」
二回目の攻撃に対してナイは旋斧を構えると「迎撃」の技能を発動させ、正面から刃を受け止めるのではなく、大剣の刃を利用して上手く攻撃の軌道を受け流す。その結果、鎖の魔剣は勢い余ってあらぬ方向に跳んでしまい、フィルの手元から離れてしまう。
自ら武器を手放した形になったフィルは唖然とした表情を浮かべるが、ナイは空中に弾かれた鎖の魔剣を見て両手の大剣を手放して手を伸ばす。すると空中から落下してきた鎖の魔剣を彼は見事に掴み取り、それを見たフィルは顔色を青ざめた。
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