貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
937 / 1,110
砂漠の脅威

第920話 師匠は大将軍

しおりを挟む
ナイが向かった先は郊外に存在する「監獄」であり、普通の人間は入る事は許されないがナイが国王から表彰式に授かった「英雄」の証であるメダルを見せると、看守長が中まで案内してくれた。


「すいません。いつも案内してくれてありがとうございます」
「ひひっ、お気になさらず……貴方が来てくれると囚人たちが大人しくしてくれるのでこちらとしても大助かりですよ」


王都の監獄の看守長を勤める男は隻眼の大男であり、名前は「ムジヒ」という。かつて国の将軍だったが執拗に部下を痛めつけたせいで降格され、一時期は監獄の警備兵に左遷された。しかし、本人は囚人を躾けと称して痛めつけられる現状に満足している。

王都の監獄には国内から集められた凶悪犯罪者が収監されており、監視を行う兵士さえも無暗に手を出せない危険な人物も多い。そんな彼等に相手をできるのはムジヒだけであり、彼はどんな人物だろうと臆さずに罰する事から瞬く間に一兵士から看守長に出世した。


「おらぁっ!!お前等、ナイさんが来てくれたぞ!!挨拶はどうした!?」
「ひいっ!?」
「おい、起きろ!!さっさと整列しろ!!」
「す、すいません!!どうか痛めつけないで!!」
「い、いや……別に何もしませんから」


監獄内の「運動場」に赴くと、大勢の囚人がたむろしていた。看守長のムジヒが大声を張り上げると、囚人は慌てて整列を行う。しかし、その中で一人だけ黙々と鍛錬を続ける男が居た。その男の元にナイは赴くと頭を下げた。


「ロランさん、今日も稽古をお願いします」
「……今日も来たのか、懲りもない奴だ」
「じゃ、じゃあ、あっしはこれで失礼します」


運動場で身体を鍛えていたのはロランであり、彼の年齢は50近いが肉体は若い頃から全く衰えておらず、むしろ大将軍として働いていた頃よりも引き締まっていた。

大将軍としてロランは他の人間に指揮する立場を任される事が多く、自身の鍛錬に時間を割く事はできなかった。しかし、囚人として収監されてからは刑務作業の合間に身体を鍛え直し、今では収監される前よりも肉体が鍛えられていた。



――ナイがロランの元に訪れたのは修行を付けるためだった。ある時にナイがロランに面会に訪れた際、彼が収監前よりも身体が引き締まっている事に気づく。話を聞くとロランは一緒に収監されたゴウカのせいで身体を一から鍛え直しているという。


『あの馬鹿が片っ端から絡んでくる囚人を血祭りにしたせいで大変な事になってな。兵士が止めようにも誰も敵わないから俺に泣きついてきた始末だ』
『はあ……』
『あの男と戦うために俺自身も身体を鍛え直す必要があった。兵士共もゴウカを止めてくれるのならと俺の刑務作業も減らしたからな。全く、不甲斐ない奴等だ』
『た、大変ですね……』


監獄に収監されてもゴウカは大人しくせず、彼が暴れ出すと囚人も兵士も止める事ができない。そのために囚人でありながら唯一にゴウカと対抗できるロランが相手を行う。


『奴を止めるのは楽ではないが、お陰で訛っていた勘も取り戻した。今ならばあのリョフにも勝てそうな気さえしてくる』
『リョフ……』
『……冗談だ。奴は強かった、俺が戦ってきた中でも一番の強敵だった』


リョフの事を思い出すとロランは感慨深げな表情を浮かべ、結局はロランはリョフを倒すことはできなかった。勿論、リョフが死霊人形であったために死霊石を破壊しなければ不死身の肉体を持っていたからこそ勝てなかったという理由もあるが、ロランはリョフが自分との闘いで真の実力を出し切ったとは思っていない。


『恐らくだが生前のリョフはもっと強かっただろう』
『えっ!?』
『理由は分からんが、奴は何故か戦う時もこちらの全力を引き出そうとしていた。それに俺との戦闘では敢えて防御を捨てて戦っていた様に思える』


あくまでもロランの予想に過ぎないが、リョフは彼との戦闘では防御を捨てた戦法を取り、攻撃だけに集中していたように思えた。その理由はリョフが求めるのは自分よりも強い人間との戦いであり、もしも自分が殺されても構わないと考えていたからである。

生きていた頃のリョフは不死身の肉体を持ち合わせていないが、王国最強の「ジャンヌ」と相打ちになるほどの実力者だった。そしてロランによればジャンヌは自分よりも強く、そんな彼女と相打ちとなったリョフがナイに勝てた事に疑問を抱く。ナイが強い事は認めるが、それでもジャンヌに匹敵するとは思えない。


『不死身だからといって必ずしも強くなるわけではない。奴が生きていた頃に勝負していたら俺が勝てた保証はない』
『……ロランさんはリョフの事が嫌いだと思ってました』
『奴がジャンヌ王妃を死に至らしめた相手だとは知っている。それでも同じ武人として強者との戦いを求める気持ちは分からなくはない。奴は手段と方法を間違えたがな……』
『……あの、ロランさんにお願いがあるんです』


ナイはロランの話を聞いた後、もしも今後リョフのようにに到達した人間と出会った時、今度は勝てる保証はない。リョフがナイに勝てたのは決して一人で挑んだわけではなく、ロランを初めに他の騎士達のお陰だった。

ロランと騎士達が命を懸けてナイを守ろうとした時、アルの事を思い出したナイは限界を超えて戦うことができた。もしもナイ一人でリョフと対峙していた場合、恐らくは殺されていた。ナイは大切な人を守る時こそ自分の真の力を引き出せると信じた。そして大切な人を守るためにもっと強くなりたいと思った。


『ロランさん!!俺を鍛えてください!!』
『鍛える?囚人の俺が?』
『はい!!ロランさんに鍛えられたら強くなれると思うんです!!』
『……わざわざ俺でなくとも鍛えてくれる人間ならいるだろう』
『それが……』


囚人の自分よりも他の人間に鍛えて貰うように頼めとロランは説得したが、ナイはロラン以外に自分を鍛えてくれる人はいない事を話す。


『最近だと皆と訓練する事もなくなったんです』
『何故だ?』
『えっと……訓練でも全力で戦うと相手を怪我させちゃうので』
『……なるほどな』


火竜を討伐した事からナイは一段と強くなり、恐らくだが今のナイの身体能力は普通の人間ならば「レベル70」に相当する。このレベルに到達した人間は王国内でも数人しかいない。

一年前のナイならば普通の騎士相手でも苦戦したが、火竜の討伐後はナイの相手ができるのは騎士団の副団長のドリスとリン、アッシュ公爵と黄金級冒険者である。他の騎士や兵士では手加減しても怪我をさせてしまう危険があった。


(……この子はまだ若い。成長の余地もあるだろう。もしかしたら王妃様を越える剣士になれるかもしれん)


ナイの年齢はまだ16才であり、ロランの鍛え方によっては今よりも強くなれるかもしれない。実はロランは最強の王国騎士と謳われるジャンヌよりも強い剣士を育てる事が夢であり、監獄に収監されてもロランは王国の未来のためにできる事があった。


『……いいだろう。俺がお前を鍛えてやろう、王国一の騎士に育て上げてやる』
『はい!!よろしくお願いしま……騎士?』


ロランの言葉にナイは疑問を抱くが、こうしてナイは定期的に監獄に訪れ、ロランに鍛えてもらう事になった――





※全盛期のロランはリョフと互角ぐらいです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...