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砂漠の脅威
第920話 師匠は大将軍
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ナイが向かった先は郊外に存在する「監獄」であり、普通の人間は入る事は許されないがナイが国王から表彰式に授かった「英雄」の証であるメダルを見せると、看守長が中まで案内してくれた。
「すいません。いつも案内してくれてありがとうございます」
「ひひっ、お気になさらず……貴方が来てくれると囚人たちが大人しくしてくれるのでこちらとしても大助かりですよ」
王都の監獄の看守長を勤める男は隻眼の大男であり、名前は「ムジヒ」という。かつて国の将軍だったが執拗に部下を痛めつけたせいで降格され、一時期は監獄の警備兵に左遷された。しかし、本人は囚人を躾けと称して痛めつけられる現状に満足している。
王都の監獄には国内から集められた凶悪犯罪者が収監されており、監視を行う兵士さえも無暗に手を出せない危険な人物も多い。そんな彼等に相手をできるのはムジヒだけであり、彼はどんな人物だろうと臆さずに罰する事から瞬く間に一兵士から看守長に出世した。
「おらぁっ!!お前等、ナイさんが来てくれたぞ!!挨拶はどうした!?」
「ひいっ!?」
「おい、起きろ!!さっさと整列しろ!!」
「す、すいません!!どうか痛めつけないで!!」
「い、いや……別に何もしませんから」
監獄内の「運動場」に赴くと、大勢の囚人がたむろしていた。看守長のムジヒが大声を張り上げると、囚人は慌てて整列を行う。しかし、その中で一人だけ黙々と鍛錬を続ける男が居た。その男の元にナイは赴くと頭を下げた。
「ロランさん、今日も稽古をお願いします」
「……今日も来たのか、懲りもない奴だ」
「じゃ、じゃあ、あっしはこれで失礼します」
運動場で身体を鍛えていたのはロランであり、彼の年齢は50近いが肉体は若い頃から全く衰えておらず、むしろ大将軍として働いていた頃よりも引き締まっていた。
大将軍としてロランは他の人間に指揮する立場を任される事が多く、自身の鍛錬に時間を割く事はできなかった。しかし、囚人として収監されてからは刑務作業の合間に身体を鍛え直し、今では収監される前よりも肉体が鍛えられていた。
――ナイがロランの元に訪れたのは修行を付けるためだった。ある時にナイがロランに面会に訪れた際、彼が収監前よりも身体が引き締まっている事に気づく。話を聞くとロランは一緒に収監されたゴウカのせいで身体を一から鍛え直しているという。
『あの馬鹿が片っ端から絡んでくる囚人を血祭りにしたせいで大変な事になってな。兵士が止めようにも誰も敵わないから俺に泣きついてきた始末だ』
『はあ……』
『あの男と戦うために俺自身も身体を鍛え直す必要があった。兵士共もゴウカを止めてくれるのならと俺の刑務作業も減らしたからな。全く、不甲斐ない奴等だ』
『た、大変ですね……』
監獄に収監されてもゴウカは大人しくせず、彼が暴れ出すと囚人も兵士も止める事ができない。そのために囚人でありながら唯一にゴウカと対抗できるロランが相手を行う。
『奴を止めるのは楽ではないが、お陰で訛っていた勘も取り戻した。今ならばあのリョフにも勝てそうな気さえしてくる』
『リョフ……』
『……冗談だ。奴は強かった、俺が戦ってきた中でも一番の強敵だった』
リョフの事を思い出すとロランは感慨深げな表情を浮かべ、結局はロランはリョフを倒すことはできなかった。勿論、リョフが死霊人形であったために死霊石を破壊しなければ不死身の肉体を持っていたからこそ勝てなかったという理由もあるが、ロランはリョフが自分との闘いで真の実力を出し切ったとは思っていない。
『恐らくだが生前のリョフはもっと強かっただろう』
『えっ!?』
『理由は分からんが、奴は何故か戦う時もこちらの全力を引き出そうとしていた。それに俺との戦闘では敢えて防御を捨てて戦っていた様に思える』
あくまでもロランの予想に過ぎないが、リョフは彼との戦闘では防御を捨てた戦法を取り、攻撃だけに集中していたように思えた。その理由はリョフが求めるのは自分よりも強い人間との戦いであり、もしも自分が殺されても構わないと考えていたからである。
生きていた頃のリョフは不死身の肉体を持ち合わせていないが、王国最強の「ジャンヌ」と相打ちになるほどの実力者だった。そしてロランによればジャンヌは自分よりも強く、そんな彼女と相打ちとなったリョフがナイに勝てた事に疑問を抱く。ナイが強い事は認めるが、それでもジャンヌに匹敵するとは思えない。
『不死身だからといって必ずしも強くなるわけではない。奴が生きていた頃に勝負していたら俺が勝てた保証はない』
『……ロランさんはリョフの事が嫌いだと思ってました』
『奴がジャンヌ王妃を死に至らしめた相手だとは知っている。それでも同じ武人として強者との戦いを求める気持ちは分からなくはない。奴は手段と方法を間違えたがな……』
『……あの、ロランさんにお願いがあるんです』
ナイはロランの話を聞いた後、もしも今後リョフのように武の高みに到達した人間と出会った時、今度は勝てる保証はない。リョフがナイに勝てたのは決して一人で挑んだわけではなく、ロランを初めに他の騎士達のお陰だった。
ロランと騎士達が命を懸けてナイを守ろうとした時、アルの事を思い出したナイは限界を超えて戦うことができた。もしもナイ一人でリョフと対峙していた場合、恐らくは殺されていた。ナイは大切な人を守る時こそ自分の真の力を引き出せると信じた。そして大切な人を守るためにもっと強くなりたいと思った。
『ロランさん!!俺を鍛えてください!!』
『鍛える?囚人の俺が?』
『はい!!ロランさんに鍛えられたら強くなれると思うんです!!』
『……わざわざ俺でなくとも鍛えてくれる人間ならいるだろう』
『それが……』
囚人の自分よりも他の人間に鍛えて貰うように頼めとロランは説得したが、ナイはロラン以外に自分を鍛えてくれる人はいない事を話す。
『最近だと皆と訓練する事もなくなったんです』
『何故だ?』
『えっと……訓練でも全力で戦うと相手を怪我させちゃうので』
『……なるほどな』
火竜を討伐した事からナイは一段と強くなり、恐らくだが今のナイの身体能力は普通の人間ならば「レベル70」に相当する。このレベルに到達した人間は王国内でも数人しかいない。
一年前のナイならば普通の騎士相手でも苦戦したが、火竜の討伐後はナイの相手ができるのは騎士団の副団長のドリスとリン、アッシュ公爵と黄金級冒険者である。他の騎士や兵士では手加減しても怪我をさせてしまう危険があった。
(……この子はまだ若い。成長の余地もあるだろう。もしかしたら王妃様を越える剣士になれるかもしれん)
ナイの年齢はまだ16才であり、ロランの鍛え方によっては今よりも強くなれるかもしれない。実はロランは最強の王国騎士と謳われるジャンヌよりも強い剣士を育てる事が夢であり、監獄に収監されてもロランは王国の未来のためにできる事があった。
『……いいだろう。俺がお前を鍛えてやろう、王国一の騎士に育て上げてやる』
『はい!!よろしくお願いしま……騎士?』
ロランの言葉にナイは疑問を抱くが、こうしてナイは定期的に監獄に訪れ、ロランに鍛えてもらう事になった――
※全盛期のロランはリョフと互角ぐらいです。
「すいません。いつも案内してくれてありがとうございます」
「ひひっ、お気になさらず……貴方が来てくれると囚人たちが大人しくしてくれるのでこちらとしても大助かりですよ」
王都の監獄の看守長を勤める男は隻眼の大男であり、名前は「ムジヒ」という。かつて国の将軍だったが執拗に部下を痛めつけたせいで降格され、一時期は監獄の警備兵に左遷された。しかし、本人は囚人を躾けと称して痛めつけられる現状に満足している。
王都の監獄には国内から集められた凶悪犯罪者が収監されており、監視を行う兵士さえも無暗に手を出せない危険な人物も多い。そんな彼等に相手をできるのはムジヒだけであり、彼はどんな人物だろうと臆さずに罰する事から瞬く間に一兵士から看守長に出世した。
「おらぁっ!!お前等、ナイさんが来てくれたぞ!!挨拶はどうした!?」
「ひいっ!?」
「おい、起きろ!!さっさと整列しろ!!」
「す、すいません!!どうか痛めつけないで!!」
「い、いや……別に何もしませんから」
監獄内の「運動場」に赴くと、大勢の囚人がたむろしていた。看守長のムジヒが大声を張り上げると、囚人は慌てて整列を行う。しかし、その中で一人だけ黙々と鍛錬を続ける男が居た。その男の元にナイは赴くと頭を下げた。
「ロランさん、今日も稽古をお願いします」
「……今日も来たのか、懲りもない奴だ」
「じゃ、じゃあ、あっしはこれで失礼します」
運動場で身体を鍛えていたのはロランであり、彼の年齢は50近いが肉体は若い頃から全く衰えておらず、むしろ大将軍として働いていた頃よりも引き締まっていた。
大将軍としてロランは他の人間に指揮する立場を任される事が多く、自身の鍛錬に時間を割く事はできなかった。しかし、囚人として収監されてからは刑務作業の合間に身体を鍛え直し、今では収監される前よりも肉体が鍛えられていた。
――ナイがロランの元に訪れたのは修行を付けるためだった。ある時にナイがロランに面会に訪れた際、彼が収監前よりも身体が引き締まっている事に気づく。話を聞くとロランは一緒に収監されたゴウカのせいで身体を一から鍛え直しているという。
『あの馬鹿が片っ端から絡んでくる囚人を血祭りにしたせいで大変な事になってな。兵士が止めようにも誰も敵わないから俺に泣きついてきた始末だ』
『はあ……』
『あの男と戦うために俺自身も身体を鍛え直す必要があった。兵士共もゴウカを止めてくれるのならと俺の刑務作業も減らしたからな。全く、不甲斐ない奴等だ』
『た、大変ですね……』
監獄に収監されてもゴウカは大人しくせず、彼が暴れ出すと囚人も兵士も止める事ができない。そのために囚人でありながら唯一にゴウカと対抗できるロランが相手を行う。
『奴を止めるのは楽ではないが、お陰で訛っていた勘も取り戻した。今ならばあのリョフにも勝てそうな気さえしてくる』
『リョフ……』
『……冗談だ。奴は強かった、俺が戦ってきた中でも一番の強敵だった』
リョフの事を思い出すとロランは感慨深げな表情を浮かべ、結局はロランはリョフを倒すことはできなかった。勿論、リョフが死霊人形であったために死霊石を破壊しなければ不死身の肉体を持っていたからこそ勝てなかったという理由もあるが、ロランはリョフが自分との闘いで真の実力を出し切ったとは思っていない。
『恐らくだが生前のリョフはもっと強かっただろう』
『えっ!?』
『理由は分からんが、奴は何故か戦う時もこちらの全力を引き出そうとしていた。それに俺との戦闘では敢えて防御を捨てて戦っていた様に思える』
あくまでもロランの予想に過ぎないが、リョフは彼との戦闘では防御を捨てた戦法を取り、攻撃だけに集中していたように思えた。その理由はリョフが求めるのは自分よりも強い人間との戦いであり、もしも自分が殺されても構わないと考えていたからである。
生きていた頃のリョフは不死身の肉体を持ち合わせていないが、王国最強の「ジャンヌ」と相打ちになるほどの実力者だった。そしてロランによればジャンヌは自分よりも強く、そんな彼女と相打ちとなったリョフがナイに勝てた事に疑問を抱く。ナイが強い事は認めるが、それでもジャンヌに匹敵するとは思えない。
『不死身だからといって必ずしも強くなるわけではない。奴が生きていた頃に勝負していたら俺が勝てた保証はない』
『……ロランさんはリョフの事が嫌いだと思ってました』
『奴がジャンヌ王妃を死に至らしめた相手だとは知っている。それでも同じ武人として強者との戦いを求める気持ちは分からなくはない。奴は手段と方法を間違えたがな……』
『……あの、ロランさんにお願いがあるんです』
ナイはロランの話を聞いた後、もしも今後リョフのように武の高みに到達した人間と出会った時、今度は勝てる保証はない。リョフがナイに勝てたのは決して一人で挑んだわけではなく、ロランを初めに他の騎士達のお陰だった。
ロランと騎士達が命を懸けてナイを守ろうとした時、アルの事を思い出したナイは限界を超えて戦うことができた。もしもナイ一人でリョフと対峙していた場合、恐らくは殺されていた。ナイは大切な人を守る時こそ自分の真の力を引き出せると信じた。そして大切な人を守るためにもっと強くなりたいと思った。
『ロランさん!!俺を鍛えてください!!』
『鍛える?囚人の俺が?』
『はい!!ロランさんに鍛えられたら強くなれると思うんです!!』
『……わざわざ俺でなくとも鍛えてくれる人間ならいるだろう』
『それが……』
囚人の自分よりも他の人間に鍛えて貰うように頼めとロランは説得したが、ナイはロラン以外に自分を鍛えてくれる人はいない事を話す。
『最近だと皆と訓練する事もなくなったんです』
『何故だ?』
『えっと……訓練でも全力で戦うと相手を怪我させちゃうので』
『……なるほどな』
火竜を討伐した事からナイは一段と強くなり、恐らくだが今のナイの身体能力は普通の人間ならば「レベル70」に相当する。このレベルに到達した人間は王国内でも数人しかいない。
一年前のナイならば普通の騎士相手でも苦戦したが、火竜の討伐後はナイの相手ができるのは騎士団の副団長のドリスとリン、アッシュ公爵と黄金級冒険者である。他の騎士や兵士では手加減しても怪我をさせてしまう危険があった。
(……この子はまだ若い。成長の余地もあるだろう。もしかしたら王妃様を越える剣士になれるかもしれん)
ナイの年齢はまだ16才であり、ロランの鍛え方によっては今よりも強くなれるかもしれない。実はロランは最強の王国騎士と謳われるジャンヌよりも強い剣士を育てる事が夢であり、監獄に収監されてもロランは王国の未来のためにできる事があった。
『……いいだろう。俺がお前を鍛えてやろう、王国一の騎士に育て上げてやる』
『はい!!よろしくお願いしま……騎士?』
ロランの言葉にナイは疑問を抱くが、こうしてナイは定期的に監獄に訪れ、ロランに鍛えてもらう事になった――
※全盛期のロランはリョフと互角ぐらいです。
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