貧弱の英雄

カタナヅキ

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番外編 獣人国の刺客

第900話 英雄VS人造ゴーレム

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嗅覚に優れているビャクも感知能力に優れるプルミンも何も感じ取れないが、マホとエリナだけは危険を感じ取って目を閉じる。この時に二人の細長い耳が微かに動き、見えない誰かに話しかけられている様子だった。


「ふむっ……精霊が囁いておる、どうやら既に儂等は見つかっておるようだな」
「せ、精霊?」
「あたしも感じるっす……風の精霊が警告してます」
「ほう、若いのにそこまではっきりと精霊の言葉を聞き取れるのか。中々やるではないか」


エリナは警戒心を抱いた様子で弓矢を手に取るが、ナイ達は精霊と言われても戸惑う。エルフであるエリナとマホは普通の人間には感じ取れない「風の精霊」なる存在から危険が迫っている事を教えてもらう。


「どうやら敵は近くに潜んでおるようじゃな」
「えっ!?ここに!?」
「ど、何処にいるのですか!?」
「落ち着け、騒ぐのではない。まずは周囲を観察するのじゃ」
「観察……」


マホの言葉を聞いてヒイロは慌てふためくが、ナイはマホの言う通りに「観察眼」の技能を発動させて周辺の様子を伺う。そして何時の間にか自分達が妙にが多い場所を歩いている事に気付く。

迷宮都市の全域が廃墟が広がり、建物が崩壊した場所も多い。だからこそ街道に瓦礫が落ちていても特におかしくはないが、ナイは瓦礫の中から奇妙な形をした物を見つける。


(あの瓦礫は……まさか!?)


咄嗟にナイは瓦礫の一つに狙いを定めて刺剣を引き抜き、剛力を発動させて瓦礫に目掛けて投擲する。この時のナイの行動に他の人間は驚くが、ナイが投げ放った刺剣は瓦礫に的中した瞬間に


「なっ!?まさかっ……」
「ナ、ナイ君!?急にどうしたの!?」
「どうして瓦礫なんかに短剣を……」
「そうか、そういう事だったか……お主等、不思議に思わんのか?ナイが投げたのはミスリル製の短剣じゃぞ。ナイの力ならば鋼鉄の塊であろうと突き刺さる……それなのに弾かれた」
「えっ……ま、まさか!?」


マホの言葉を聞いた者達は驚愕の表情を浮かべ、ナイが攻撃を仕掛けた瓦礫に視線を向ける。瓦礫に人面が浮き上がり、やがて人型へと変形していく。その正体は瓦礫に「擬態」して待ち伏せしていた「人造ゴーレム」であると発覚し、マホ以外の人間は初めてその姿を目にした。

人造ゴーレムの外見はロックゴーレムやマグマゴーレムとは大きく異なり、全長は2メートル程度で並の人間よりは大きいが、巨人族と比べると小ぶりである。だが、普通のゴーレムと異なる点は全身が灰色で覆われており、しかも両腕から水晶のように光り輝く刃が出現した。


「ゴルルルッ!!」
「くっ!?」


人造ゴーレムは自分に向けてミスリルの短剣を投げ飛ばしたナイを狙い、彼に目掛けて突っ込むと両腕の刃を振りかざす。ナイは背中の旋斧と岩砕剣に手を伸ばすが、その前にヒイロとミイナが動いた。


「危ない!!」
「ていっ!!」
「ゴガァッ!?」


ヒイロとミイナは人造ゴーレムの左右から各々の魔剣を放ち、ヒイロは烈火に炎を纏わせ、ミイナは如意斧の柄の部分を伸ばして叩き付ける。しかし、二人の攻撃に対して人造ゴーレムは両腕の刃で容易く弾き返す。


「ゴルゥッ!!」
「きゃあっ!?」
「くぅっ!?」
「ミイナちゃん、ヒイロちゃん!!大丈夫!?」
「このっ!!喰らえっす!!」
「仕方あるまい……スラッシュ」


簡単に人造ゴーレムはヒイロとミイナの攻撃を弾き返すと、それを見たエリナが咄嗟に矢を放つ。彼女の矢はエルマと同様に風属性の魔力を宿し、更にマホも彼女と同時に風属性の砲撃魔法を放つ。

風の魔力を纏った矢とかまいたちのように鋭い風の斬撃が人造ゴーレムの肉体に的中し、筐体が後方へと押し込まれる。しかし、エリナの矢もマホの魔法を受けても人造ゴーレムの肉体は掠り傷さえ負わない。


「ゴルルルッ!!」
「そ、そんな馬鹿な……マホ魔導士の魔法を受けて無傷だなんて!?」
「やはり、この程度の魔法は喰らわんか……」
「これが人造ゴーレム……強い」
「皆、退いてぇっ!!」


エリナとマホの攻撃を受けても無傷だった人造ゴーレムに全員が驚愕するが、プルミンを抱えたモモが駆けつける。彼女は左右からプルリンを押し込むと、大量の水を人造ゴーレムに目掛けて吐き出させる。


「やっちゃえっ!!」
「ぷるしゃああっ!!」
「ゴルゥッ!?」


大量の水がプルミンの口元から放たれ、全身に水を浴びた人造ゴーレムは怯んだ。通常種のゴーレムならばこの時点で身体が溶け始めてもおかしくはないのだが、人造ゴーレムは水を浴びても特に肉体に変化はない。

事前の情報通りに人造ゴーレムにはゴーレム共通の弱点である水は効かない事が証明され、それどころか水を浴びせられた人造ゴーレムは怒りを抱いたのかモモの元に向かう。


「ゴルルルルッ!!」
「わああっ!?」
「ぷるるんっ!?」
「いかんっ、止まれ!!」


プルリンの放水を浴びながらも人造ゴーレムはモモに近付き、彼女に目掛けて右手の刃を繰り出そうとした。それを見たマホが咄嗟に魔法を放とうとした時、彼女よりも先に人造ゴーレムの前に人影が現れる。


「だぁあああっ!!」
「ゴガァアアアッ!?」
「「「えっ!?」」」


強烈な衝撃が人造ゴーレムへと襲い掛かり、吹き飛とばされた人造ゴーレムは廃墟に衝突する。あまりの威力に衝突した建物が崩壊し、人造ゴーレムは大量の瓦礫の中に生き埋めとなる。

攻撃を仕掛けたのは当然ナイであり、彼は岩砕剣を手にしてモモを庇うように立つ。モモは萎んだプルリンを抱えながらも自分を救ってくれたナイの後ろに隠れ、大量の瓦礫に埋もれた人造ゴーレムの元に視線を向けた。


「あ、ありがとう……もう駄目かと思ったよ~」
「モモが無事でよかったよ」
「た、倒したのですか?」
「普通のゴーレムだったら間違いなく倒してるはずだけど……」


瓦礫に埋もれた人造ゴーレムの様子を全員が伺うと、しばらくすると大量の瓦礫を払いのけて人造ゴーレムが姿を現す。


「ゴルァアアアッ!!」
「わあっ!?凄い怒ってるよ!?」
「怒ってる……か」
「……皆の者、ここはナイに任せるのだ。儂らはどうやら邪魔なようじゃな」
「えっ!?で、でも……」
「大丈夫、皆は下がってて」


マホの言葉に全員が戸惑うが、ナイは彼女の言葉に頷き、改めて人造ゴーレムと向かい合う。人造ゴーレムの方は怒りを露わにして両手の刃物を構えると、ここで人造ゴーレムの腕に変化が起きた。


「ゴルルルルッ!!」
「な、なんですかあれは!?」
「腕が……回り始めた!?」
「ほう、そんな芸当も出来たのか……」


人造ゴーレムの両腕が回転を始め、まるでのように回転させながらナイの元へ迫る。その光景を見たヒイロ達は驚くがナイは一切動じず、岩砕剣を横向きに構えた。


(落ち着け、焦るな……この一撃で終わらせる)


迫りくる人造ゴーレムを視界に捉えながらもナイは意識を集中させ、この半年の間に覚えたの準備を行う。ナイは数々の視線を乗り越えてきた事で新しい剣技を編み出し、人造ゴーレムが自分の武器の間合いに入り込んだ瞬間に目を見開く。

人造ゴーレムが両腕を突き出そうとした瞬間、ナイは一瞬だけ聖属性の魔力を活性化させる。それは「強化術」を一瞬だけ発動させる甲に等しく、全身全霊の一撃を人造ゴーレムに向けて叩き込む。


「はぁああああっ!!」
「ゴガァッ――!?」


先ほどよりも速く、重く、何よりも圧倒的な気迫でナイは岩砕剣を人造ゴーレムの頭部に目掛けて叩き込む。



――人造ゴーレムの頭部に岩砕剣の刃がめり込み、魔法金属のミスリルの短剣でさえも掠り傷さえ負わせられなかったはずの人造ゴーレムの肉体を真っ二つに切り裂く。



あまりの威力に人造ゴーレムの刃を切り裂くだけではなく、ナイの振り下ろした岩砕剣の刃は地面にめり込んで亀裂を生じさせた。そして左右に切り裂かれた人造ゴーレムは硬直し、ゆっくりと地面に倒れ込む。

切断面には人造ゴーレムの核だと思われる「ダイヤモンド」のように光り輝く核が露出し、ナイは人造ゴーレムの肉体ごと斬って体内の核を破壊した。しかも彼はあろう事か岩砕剣を地面から引き抜くと、何ともないように呟く。


「ふうっ……これなら火竜の方がまだ手応えがあったな」


黄金冒険者でさえも倒す事ができなかったという人造ゴーレムをナイは一撃で打ち倒し、岩砕剣を背中に戻した――
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