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番外編 獣人国の刺客
第899話 迷宮都市の古城
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「二人を見捨てるわけにはいかないんです。ここまで来て引き返せません」
「お前達はあいつらを知らないからそんな事が言えるんだ……あの人造ゴーレムというのは化物だ。俺達も仕事でロックゴーレムと戦った事はあるが、あの人造ゴーレムは格が違う!!」
「それはどういう意味ですか?」
「や、奴等は無敵なんだ……どんな武器も魔法も効かない。しかもゴーレムの弱点の水を浴びても平気なんだ。あいつらに敵う奴なんていない、下手をしたら竜種よりも厄介かもしれない」
迷宮都市に隠れ住んでいる猪頭団は元々は腕利きの傭兵で構成された集団だが、彼等は人造ゴーレムと遭遇した時に嫌でもその強さを思い知らされたと語る。
人造ゴーレムは通常種のゴーレムとは比べ物にならない硬度と力を誇り、巨人族のイノの攻撃を受けてもびくともしなかった。それどころかゴーレム種の弱点の水を浴びても平気で魔術師の砲撃魔法さえも損傷を与えられなかったという。
「俺達は人造ゴーレムに襲われた時、マホ魔導士が居たから助かったんだ……あいつらは無敵だ、どんな攻撃も通じない。見ろ、俺の斧を……こいつはミスリル製なのにこの様だ」
「うわっ……」
「……酷い刃毀れ」
イノは自分が身に付けている斧を差し出すと、その斧の刃は帆毀れが酷く、とても武器として扱える状態ではない。全体が罅割れて今にも砕けかねない状態であり、イノは人造ゴーレムに挑んだ時の事を思い返して身体を震わせる。
「あいつらは普通のゴーレムじゃない、正真正銘の化物だ……悪い事は言わない、あんたらはここで帰った方がいい。リーナとイリアという少女達の事は可哀想だと思うが、とても助けるのは……」
「そんな!?」
「駄目だよ!!リーナちゃんを見捨てるなんて出来ないよ!!ねえ、ナイ君!?」
「……当たり前だよ」
イノからの警告を受けてもナイ達は引き下がるつもりはなく、話している間にも古城に取り残された二人が危険な目に遭っている可能性がある。ここまで来て引き返すわけにはいかず、何と言われようとナイ達は人造ゴーレムを倒して古城へ向かう事を告げる。
「マホ魔導士、古城まで案内して下さい」
「うむ、お主ならそう言うと思ったぞ。よかろう、儂も微力ながら手助けしよう」
「だ、駄目だ!!あんな化物、お前みたいなチビが勝てる相手じゃなっ……!?」
ナイの言葉を聞いてマホは頷き、彼等を古城まで案内しようとした時、イノがナイを止めようと手を伸ばす。しかし、ナイの身体を掴んだ途端にイノは驚愕の表情を浮かべた。
イノと比べたらナイの背丈はせいぜい半分程度であり、体型も華奢でそれほど強そうには見えない。しかし、ナイの身体を掴んだ途端にイノは自分よりも二回りは大きい巨人の身体を掴んだような感覚に襲われる。
(な、何だこいつ……びくともしない!?)
いくら力を込めようとイノはナイの身体を動かす事ができず、それどころかナイは自分の身体を掴むイノの腕を簡単に引き剥がす。それだけの行為でイノはナイの膂力が巨人族の自分よりも勝る事に気づき、動揺を隠せない。
「心配してくれた事はありがとうございます。けど、僕達は先に進みます……邪魔をしないでください」
「お、お前……何者だ?人間じゃないのか?」
「人間ですよ、多分」
イノの言葉にナイは苦笑いを浮かべ、彼はマホの案内の元で古城へ向かう。それを見てもイノは止める事はできず、他の者もナイの後に続いて古城へと向かう。その様子をイノの配下は見送り、彼等は心配した表情を浮かべる。
「お、お頭……本当にあいつらを行かせていいんですか?」
「まだ全員、ガキ同然でしたよ。いくら魔導士が一緒だからって危険過ぎやしませんか?」
「……いや、放っておけ」
「お頭?どうしたんですか?」
去っていくナイ達の後ろ姿を猪頭団は見送る事しかできず、この時にイノはナイに掴まれた自分の腕を見て震える。彼の右手にはナイに掴まれた際に彼の指の痣がくっきりと残っており、これは巨人族であるイノがナイに力負けをした事を証明する証拠だった。
人間の少年にしか見えないが、巨人族である自分をも上回る力を見せたナイに対してイノは震えが止まらず、人の姿をしながら巨人をも上回る力を誇るナイに対してイノは期待感さえ抱く。
(もしかしたらあの小僧なら……)
人造ゴーレムの恐ろしさは嫌という程にイノも思い知らされたが、その人造ゴーレムと初めて遭遇した時以上にイノはナイに対して恐怖を抱き、もしかしたら自分はとんでもない相手に余計な忠告をしたのではないかと考えてしまう――
「――あれが古城、ですか」
「そうじゃ。この旧王都の象徴であり、かつては王国の王城じゃ」
「す、凄い……今の王都の王城よりも大きいのでは?」
「わあっ……すご~い」
マホの案内の元、ナイ達は古城が視界に入る距離まで辿り着く。迷宮都市の王城は現在の王都の王城と比べても壮大さを感じさせ、ナイがこれまでに見てきたどんな建造物よりも巨大な城だった。
旧王都がまだ迷宮都市と呼ばれる前の時代、この都市には十万人を超える人間が暮らしていたと言われている。しかも暮らしていたのは人間だけではなく、多数の種族が暮らしていたいう。
魔物に滅ぼされる前はこの旧王都が王国の中心であり、巨大な城は王国の象徴その物だった。しかし、国の象徴だった城も現在は人間が居なくなった事で朽ち果てかけていた。
「儂の祖母によればかつてこの場所は世界で一番多くの種族が暮らす平和な場所だと聞かされておった。しかし、繁殖期を迎えた魔物の襲撃によって一年も持たずにこの王都は放棄されてしまったと聞いて居る」
「た、たった1年で……」
「昔の時代は今よりも魔物の対抗策が少ない時代だったからのう……ほれ、ここが教会じゃ。この場所だけは魔物が近付かないから身体を休める事ができるぞ」
古城への道中、マホは迷宮都市に存在する陽光教会の建物がある場所も案内してくれた。現在はこの建物に在中しているのはリーナと共に捜索に赴いた冒険者達であり、彼等も王都に帰れずに教会に引きこもっていた。
「今は皆は疲れて眠っているが、建物の中にはリーナと同行した金級冒険者が数名休んでおる。彼等も二人を助けようと古城の周辺を捜索しておったが、流石に体力の限界を迎えて今は休ませておる」
「そうだったんですか……」
「そうそう、冒険者の中には儂の弟子のガロもおるぞ。覚えておるか?」
「えっ……ガロ君?」
マホによると今回の迷宮都市の魔物の生態系の調査にはガロも参加していたらしく、彼は「白銀級冒険者」にまで昇格を果たしていた。冒険者になったばかりの頃は問題ばかり起こしていたが、他の冒険者と接して行動するようになってから人間的に成長し、リーナよりも早くに白銀級冒険者まで昇格を果たしたらしい。
ナイはガロと初めて会った時から一方的に突っかかってこられたが、ガロは会う度に肉体も精神も成長し、今では黄金級冒険者候補とさえ噂されている。。
「こんな短い間に白銀級冒険者なんて凄いですね!!」
「うむ、冒険者活動を始めてから一年程度で白金級級冒険者に昇格を果たした人間はおらん。あのリーナでさえも金級冒険者になるまでは2年もかかった聞いておるからな、流石は我が自慢の弟子じゃ」
「そ、それは本当に凄いですね。たった一年で白銀級冒険者になるなんて……」
「でも、リーナさんは14才の時から冒険者だったんですよね?それから二年で黄金級まで上り詰めたリーナさんの方がまだ凄いんじゃないすか?」
「むうっ……それを言われるとな」
ガロは約一年で白銀級冒険者に昇格したが、リーナの場合はまだ14才の時に冒険者になって二年で黄金級冒険者にまで昇格を果たした。ガロが冒険者になった年齢はナイの一つ上の16才のため、一概にもガロがリーナを越えたとは言い難い。それに白銀級冒険者が黄金級冒険者に昇格するのは決して簡単な事ではない。
「そういえばエルマさんとゴンザレス君は元気ですか?最近は二人とも姿を見なかったような……」
「エルマは聖女騎士団の手伝いでとある任務に取り掛かっておる。ゴンザレスは武者修行の旅に出ておる。三人共もう儂が面倒を見る必要はないほどに立派に成長した……少し、寂しい気はするがな」
「そうだったんですか……」
「どうじゃ?お主等も儂の弟子にならんか?今ならば歓迎するぞ」
「えっ!?マジっすか!?魔導士様の弟子にしてくれるんですか!?」
「はははっ、冗談じゃ」
マホはずっと自分に付き従っていた三人の弟子達が独り立ちした事に寂しく思い、半ば冗談で同じエルフであるエリナに弟子の勧誘を行う。だが、会話の途中でマホは何かに気付いた様に足を止め、彼女は杖を天に翳す。
「待て……これはまずいな、風の精霊が騒いでおる」
「えっ……精霊?」
「あ、兄貴……まずいっす、あたしも嫌な予感がします」
「どうしたんですか急に?」
「何か感じるの?」
急に立ち止まったマホは杖を空に掲げて眉をしかめ、彼女の隣を歩いていたエリナも何かに勘付いた様に弓矢を構える。しかし、他の者達は特に怪しい気配など感じず、慌ててモモは自分が抱えていたプルミンに尋ねる。
「え、えっ?プルミンちゃんは何か感じる?」
「ぷるんっ?」
「ビャク、臭いは?」
「スンスンッ……クゥ~ンッ?」
ナイはビャクに臭いを探らせるが、彼も特に怪しい臭いも気配も感知しない。しかし、エルフであるマホとエリナだけは何かを勘付いたように臨戦態勢へと入ると、他の者たちも二人の反応を見て只事ではないと判断して一か所に集まって警戒した。
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人造ゴーレムは通常種のゴーレムとは比べ物にならない硬度と力を誇り、巨人族のイノの攻撃を受けてもびくともしなかった。それどころかゴーレム種の弱点の水を浴びても平気で魔術師の砲撃魔法さえも損傷を与えられなかったという。
「俺達は人造ゴーレムに襲われた時、マホ魔導士が居たから助かったんだ……あいつらは無敵だ、どんな攻撃も通じない。見ろ、俺の斧を……こいつはミスリル製なのにこの様だ」
「うわっ……」
「……酷い刃毀れ」
イノは自分が身に付けている斧を差し出すと、その斧の刃は帆毀れが酷く、とても武器として扱える状態ではない。全体が罅割れて今にも砕けかねない状態であり、イノは人造ゴーレムに挑んだ時の事を思い返して身体を震わせる。
「あいつらは普通のゴーレムじゃない、正真正銘の化物だ……悪い事は言わない、あんたらはここで帰った方がいい。リーナとイリアという少女達の事は可哀想だと思うが、とても助けるのは……」
「そんな!?」
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「……当たり前だよ」
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「マホ魔導士、古城まで案内して下さい」
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(な、何だこいつ……びくともしない!?)
いくら力を込めようとイノはナイの身体を動かす事ができず、それどころかナイは自分の身体を掴むイノの腕を簡単に引き剥がす。それだけの行為でイノはナイの膂力が巨人族の自分よりも勝る事に気づき、動揺を隠せない。
「心配してくれた事はありがとうございます。けど、僕達は先に進みます……邪魔をしないでください」
「お、お前……何者だ?人間じゃないのか?」
「人間ですよ、多分」
イノの言葉にナイは苦笑いを浮かべ、彼はマホの案内の元で古城へ向かう。それを見てもイノは止める事はできず、他の者もナイの後に続いて古城へと向かう。その様子をイノの配下は見送り、彼等は心配した表情を浮かべる。
「お、お頭……本当にあいつらを行かせていいんですか?」
「まだ全員、ガキ同然でしたよ。いくら魔導士が一緒だからって危険過ぎやしませんか?」
「……いや、放っておけ」
「お頭?どうしたんですか?」
去っていくナイ達の後ろ姿を猪頭団は見送る事しかできず、この時にイノはナイに掴まれた自分の腕を見て震える。彼の右手にはナイに掴まれた際に彼の指の痣がくっきりと残っており、これは巨人族であるイノがナイに力負けをした事を証明する証拠だった。
人間の少年にしか見えないが、巨人族である自分をも上回る力を見せたナイに対してイノは震えが止まらず、人の姿をしながら巨人をも上回る力を誇るナイに対してイノは期待感さえ抱く。
(もしかしたらあの小僧なら……)
人造ゴーレムの恐ろしさは嫌という程にイノも思い知らされたが、その人造ゴーレムと初めて遭遇した時以上にイノはナイに対して恐怖を抱き、もしかしたら自分はとんでもない相手に余計な忠告をしたのではないかと考えてしまう――
「――あれが古城、ですか」
「そうじゃ。この旧王都の象徴であり、かつては王国の王城じゃ」
「す、凄い……今の王都の王城よりも大きいのでは?」
「わあっ……すご~い」
マホの案内の元、ナイ達は古城が視界に入る距離まで辿り着く。迷宮都市の王城は現在の王都の王城と比べても壮大さを感じさせ、ナイがこれまでに見てきたどんな建造物よりも巨大な城だった。
旧王都がまだ迷宮都市と呼ばれる前の時代、この都市には十万人を超える人間が暮らしていたと言われている。しかも暮らしていたのは人間だけではなく、多数の種族が暮らしていたいう。
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「た、たった1年で……」
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「今は皆は疲れて眠っているが、建物の中にはリーナと同行した金級冒険者が数名休んでおる。彼等も二人を助けようと古城の周辺を捜索しておったが、流石に体力の限界を迎えて今は休ませておる」
「そうだったんですか……」
「そうそう、冒険者の中には儂の弟子のガロもおるぞ。覚えておるか?」
「えっ……ガロ君?」
マホによると今回の迷宮都市の魔物の生態系の調査にはガロも参加していたらしく、彼は「白銀級冒険者」にまで昇格を果たしていた。冒険者になったばかりの頃は問題ばかり起こしていたが、他の冒険者と接して行動するようになってから人間的に成長し、リーナよりも早くに白銀級冒険者まで昇格を果たしたらしい。
ナイはガロと初めて会った時から一方的に突っかかってこられたが、ガロは会う度に肉体も精神も成長し、今では黄金級冒険者候補とさえ噂されている。。
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「でも、リーナさんは14才の時から冒険者だったんですよね?それから二年で黄金級まで上り詰めたリーナさんの方がまだ凄いんじゃないすか?」
「むうっ……それを言われるとな」
ガロは約一年で白銀級冒険者に昇格したが、リーナの場合はまだ14才の時に冒険者になって二年で黄金級冒険者にまで昇格を果たした。ガロが冒険者になった年齢はナイの一つ上の16才のため、一概にもガロがリーナを越えたとは言い難い。それに白銀級冒険者が黄金級冒険者に昇格するのは決して簡単な事ではない。
「そういえばエルマさんとゴンザレス君は元気ですか?最近は二人とも姿を見なかったような……」
「エルマは聖女騎士団の手伝いでとある任務に取り掛かっておる。ゴンザレスは武者修行の旅に出ておる。三人共もう儂が面倒を見る必要はないほどに立派に成長した……少し、寂しい気はするがな」
「そうだったんですか……」
「どうじゃ?お主等も儂の弟子にならんか?今ならば歓迎するぞ」
「えっ!?マジっすか!?魔導士様の弟子にしてくれるんですか!?」
「はははっ、冗談じゃ」
マホはずっと自分に付き従っていた三人の弟子達が独り立ちした事に寂しく思い、半ば冗談で同じエルフであるエリナに弟子の勧誘を行う。だが、会話の途中でマホは何かに気付いた様に足を止め、彼女は杖を天に翳す。
「待て……これはまずいな、風の精霊が騒いでおる」
「えっ……精霊?」
「あ、兄貴……まずいっす、あたしも嫌な予感がします」
「どうしたんですか急に?」
「何か感じるの?」
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「え、えっ?プルミンちゃんは何か感じる?」
「ぷるんっ?」
「ビャク、臭いは?」
「スンスンッ……クゥ~ンッ?」
ナイはビャクに臭いを探らせるが、彼も特に怪しい臭いも気配も感知しない。しかし、エルフであるマホとエリナだけは何かを勘付いたように臨戦態勢へと入ると、他の者たちも二人の反応を見て只事ではないと判断して一か所に集まって警戒した。
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