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番外編 獣人国の刺客
第889話 大臣の後悔
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――火属性の魔石が砕けて内部の魔力が暴発する寸前、ナイは旋斧の能力を利用する。魔石が砕けて爆炎が発生した瞬間、爆炎を切り裂くように彼は旋斧を全力で振り下ろすと、主人の意思に呼応して旋斧が真の力を発揮する。。
ナイの視界には自分の前方から迫りくる爆炎を旋斧の刃が吸収し、自分を守るかのようにナイの周囲には爆炎は押し寄せなかった。カノンの想定よりも爆発の規模が弱まったのは旋斧が爆炎を吸収したお陰であり、カノンの予想に反して建物に大きな被害がなかったのはナイの旋斧が爆炎を半分近く吸収したお陰だった。
かつて旋斧は火竜の経験石の魔力を吸収した事もあるため、砕けた魔石の魔力を吸い込む事など容易い。しかも昔と違って現在の旋斧は魔力を吸収すると刃全体に光を纏う。この状態の旋斧は火属性の魔力を吸収すると赤色の光を放ち、火竜の魔力を吸収した時よりも美しい。
旋斧の魔力を吸収する能力のお陰で命拾いしたナイはカノンに視線を向け、彼女は心底信じられない表情を浮かべたまま腰を抜かす。今回の作戦のために彼女は手持ちの金を使い果たし、さらには魔銃を利用するために必要な魔石弾も使い込んでしまった。
「う、嘘……あんた、どうして生きてるのよ!?」
「……この剣のお陰だよ」
ナイは赤色の光を放ち続ける旋斧を握りしめ、それを見たカノンは自分の過ちに気付く。彼女は反魔の盾だけを警戒していたが、気を付けるべきだったのは盾ではなく魔剣の方だったのだと悟る。
(ま、まずい……このままだと殺される!!)
追い詰められたカノンは混乱状態に陥り、なんとか逃げようとするが身体が思うように動かない。必死に身体に力を込めようとするが上手く言う事を聞かず、既に彼女の心は折れかけていた。
これまでにカノンは有名な武芸者を暗殺してきた。その中には黄金級冒険者にも匹敵する人間もいたが、目の前に立つナイは彼女が今まで出会った誰よりも恐ろしい存在に見えた。
(いったい何なのこいつ……!?)
最初の襲撃の時はカノンは自分が相手の事をよく調べずに不用意に仕掛けたせいで失敗したと思った。だからこそ彼女は今回の暗殺の際には細心の注意を払い、手持ちの金を全部使い果たしてまで用意した魔石を利用し、万全の準備を整えてから罠まで仕掛けてナイを殺そうとした。
獣人国一の暗殺者を自負するカノンは自分に倒せない相手などいないと思い込んでいた。しかし、彼女の前に現れたナイは外見こそに人間の少年に見えるが、彼女が相対してきたどんな敵よりも恐ろしい力を持つと感じとる。
(これが……貧弱の英雄なの?)
カノンはこの状況では逃げ切る事はできないと判断すると、魔銃を手放して項垂れる。その様子を見てナイはカノンが降伏するつもりになったのだと判断し、旋斧を下ろした。
「……拙者の出番はなかったでござるな」
二人の様子を近くの建物の屋根から見下ろす人影があり、その正体はクノだった。彼女は昼間にカノンが騒ぎを起こした時から見張りを行い、いざという時は自分が捕まえるつもりだった。しかし、ナイのお陰で自分が手を下さずともカノンの捕縛に成功した事に安堵する――
――その後、カノンはナイの手で警備兵に突き出され、彼女が所有してい魔銃は回収されて魔道具職人を目指すアルトの元に送られる。魔銃は勇者が関わる遺跡で発見された代物という事で彼は強い興味を抱き、現在は冒険者稼業を引退して鍛冶師に専念しているハマーンと共に魔銃の研究を行う。
カノンの方は心が折れたせいか意外な程にあっさりと自分がこれまでに犯した悪事を話す。そしてカノンが獣人国の大臣「シバイ」と繋がりを持ち、彼に依頼されてナイを暗殺しに訪れた事までも話す。
彼女は大臣から雇われた暗殺者ではあるが、別に彼に忠誠を誓っているわけでもないので洗いざらい彼女が知る限りの大臣の悪行を伝える。この事で王国は獣人国の大臣の正体を掴み、そしてシンと繋がっていた人物だと見抜く事ができた。
しかし、カノンの情報だけでは獣人国の大臣を追い詰める事はできず、そもそも彼女が行った悪事も全て獣人国内で起きた出来事であるために王国では彼女を裁けない。仮にカノンを獣人国に送り込めば大臣が何としても始末しようとすると考えられるため、一先ずの間はカノンは王国の監獄で管理する事になる。
今回の一件で王国は獣人国を裏で操る黒幕の存在に気付き、後に大臣は「貧弱の英雄」に手を掛けた事を一生後悔する事になる――
「――おのれっ!!あの女め、何が獣人国一の暗殺者だ!!」
「シバイ様!!お、落ち着いて下さい!!」
カノンが獣人国を離れてからしばらく経つと、獣人国に送り込んだ間者の報告からカノンは捕まっている事が判明した。これで王国の人間にシバイがカノンを利用して何人もの人間を暗殺している事も知られてしまう。
王国の元宰相であるシンとシバイは繋がりがあった事も知られたのは間違いないが、だからといってシバイの権力が揺らぐ事はない。カノンがいくら情報を吐いたところで彼女はシバイが悪事を行う直接的な証拠は持っていない。
(ええい、あの女一人に任せた事が間違いだったか……貧弱の英雄を侮り過ぎたか)
自分の屋敷の使用人を追い払った後、シバイは頭を抱えて今後の事を考える。カノンのせいで色々と不味い事態に陥っていたが、彼女を王国に送り込む時点である程度の覚悟はしていた。
今回の失敗はシバイがカノンの事を信頼し過ぎていた事であり、彼女ならば王国の英雄を殺す事もできると踏んでいた。しかし、シバイの失敗の原因は「貧弱の英雄」の力を侮った事である。
獣人国では竜種という存在は非常に恐れられ、自分達ではどうしようもない圧倒的な存在だと認識していた。その竜種である火竜を王国が討ち取ったという報告を聞いた時は驚いたが、その火竜を討伐を果たしたのが当時は成人年齢にも満たしていなかった少年と聞いてシバイは信じられなかった。
(古代の魔道具を持つカノンを返り討ちにするとは……これは考えを改めなければならん)
シバイは貧弱の英雄は放置できぬ存在だと改めて考え直し、もしも噂通りに貧弱の英雄が竜種を打ち倒す力を持つ存在ならば放置はできない。
獣人国では最も恐れられたマジク魔導士が亡くなり、更に先の事件で王国はロラン大将軍を失った。だからこそシバイは今現在の獣人国の軍隊ならば王国に勝ち目はあると思っていた。しかし、火竜の首を送りつけられたときから状況は一変する。
(あの火竜の首さえなければ……!!)
獣人国の王都に送り付けられた火竜の首は未だに残っており、冷凍保存という形で保管されていた。竜種の素材など滅多に手に入る代物ではなく、後々に何かに使えるかもしれないので一応は保管しておいた。
(火竜を討ち取ったという貧弱の英雄さえいなくなれば王国の脅威もなくなると思ったが……)
少し前まではシバイに同調して王国に戦を仕掛ける事に賛成していた家臣も多かったが、火竜の首を送りつけられた途端に反戦派となった。実際に王国に火竜を討ち取れる軍事力があるかどうかは不明だが、報告によれば火竜を討ち取った少年こそ「貧弱の英雄」と呼ばれる存在という事は発覚している。
貧弱の英雄の噂は王国内だけではなく、獣人国の間でも噂が広まりつつあった。貧弱の英雄は魔導士や大将軍をも上回る脅威的な存在として認識されつつあり、そのせいで貧弱の英雄が居る限りは獣人国は王国に勝ち目はないと考える者も少なくない。
しかし、逆に言えば王国の戦力の中で最も恐れらている存在は「貧弱の英雄」であるナイ一人であり、もしも彼が不慮の事故か何かで亡くなれば獣人国の最大の脅威は消えてなくなり、今まで反戦派だった人間も態度を切り替えて戦を仕掛ける事に賛成するかもしれない。
(何としても殺さねば……!!)
シバイは諦めずにナイの暗殺を企てるが、後に彼はナイの殺害に拘った事を後悔する事になる。最初から王国への侵攻など考えず、両国の友好的な関係を維持する事に専念していれば彼は後悔する事はなかったが、既に手遅れだった――
ナイの視界には自分の前方から迫りくる爆炎を旋斧の刃が吸収し、自分を守るかのようにナイの周囲には爆炎は押し寄せなかった。カノンの想定よりも爆発の規模が弱まったのは旋斧が爆炎を吸収したお陰であり、カノンの予想に反して建物に大きな被害がなかったのはナイの旋斧が爆炎を半分近く吸収したお陰だった。
かつて旋斧は火竜の経験石の魔力を吸収した事もあるため、砕けた魔石の魔力を吸い込む事など容易い。しかも昔と違って現在の旋斧は魔力を吸収すると刃全体に光を纏う。この状態の旋斧は火属性の魔力を吸収すると赤色の光を放ち、火竜の魔力を吸収した時よりも美しい。
旋斧の魔力を吸収する能力のお陰で命拾いしたナイはカノンに視線を向け、彼女は心底信じられない表情を浮かべたまま腰を抜かす。今回の作戦のために彼女は手持ちの金を使い果たし、さらには魔銃を利用するために必要な魔石弾も使い込んでしまった。
「う、嘘……あんた、どうして生きてるのよ!?」
「……この剣のお陰だよ」
ナイは赤色の光を放ち続ける旋斧を握りしめ、それを見たカノンは自分の過ちに気付く。彼女は反魔の盾だけを警戒していたが、気を付けるべきだったのは盾ではなく魔剣の方だったのだと悟る。
(ま、まずい……このままだと殺される!!)
追い詰められたカノンは混乱状態に陥り、なんとか逃げようとするが身体が思うように動かない。必死に身体に力を込めようとするが上手く言う事を聞かず、既に彼女の心は折れかけていた。
これまでにカノンは有名な武芸者を暗殺してきた。その中には黄金級冒険者にも匹敵する人間もいたが、目の前に立つナイは彼女が今まで出会った誰よりも恐ろしい存在に見えた。
(いったい何なのこいつ……!?)
最初の襲撃の時はカノンは自分が相手の事をよく調べずに不用意に仕掛けたせいで失敗したと思った。だからこそ彼女は今回の暗殺の際には細心の注意を払い、手持ちの金を全部使い果たしてまで用意した魔石を利用し、万全の準備を整えてから罠まで仕掛けてナイを殺そうとした。
獣人国一の暗殺者を自負するカノンは自分に倒せない相手などいないと思い込んでいた。しかし、彼女の前に現れたナイは外見こそに人間の少年に見えるが、彼女が相対してきたどんな敵よりも恐ろしい力を持つと感じとる。
(これが……貧弱の英雄なの?)
カノンはこの状況では逃げ切る事はできないと判断すると、魔銃を手放して項垂れる。その様子を見てナイはカノンが降伏するつもりになったのだと判断し、旋斧を下ろした。
「……拙者の出番はなかったでござるな」
二人の様子を近くの建物の屋根から見下ろす人影があり、その正体はクノだった。彼女は昼間にカノンが騒ぎを起こした時から見張りを行い、いざという時は自分が捕まえるつもりだった。しかし、ナイのお陰で自分が手を下さずともカノンの捕縛に成功した事に安堵する――
――その後、カノンはナイの手で警備兵に突き出され、彼女が所有してい魔銃は回収されて魔道具職人を目指すアルトの元に送られる。魔銃は勇者が関わる遺跡で発見された代物という事で彼は強い興味を抱き、現在は冒険者稼業を引退して鍛冶師に専念しているハマーンと共に魔銃の研究を行う。
カノンの方は心が折れたせいか意外な程にあっさりと自分がこれまでに犯した悪事を話す。そしてカノンが獣人国の大臣「シバイ」と繋がりを持ち、彼に依頼されてナイを暗殺しに訪れた事までも話す。
彼女は大臣から雇われた暗殺者ではあるが、別に彼に忠誠を誓っているわけでもないので洗いざらい彼女が知る限りの大臣の悪行を伝える。この事で王国は獣人国の大臣の正体を掴み、そしてシンと繋がっていた人物だと見抜く事ができた。
しかし、カノンの情報だけでは獣人国の大臣を追い詰める事はできず、そもそも彼女が行った悪事も全て獣人国内で起きた出来事であるために王国では彼女を裁けない。仮にカノンを獣人国に送り込めば大臣が何としても始末しようとすると考えられるため、一先ずの間はカノンは王国の監獄で管理する事になる。
今回の一件で王国は獣人国を裏で操る黒幕の存在に気付き、後に大臣は「貧弱の英雄」に手を掛けた事を一生後悔する事になる――
「――おのれっ!!あの女め、何が獣人国一の暗殺者だ!!」
「シバイ様!!お、落ち着いて下さい!!」
カノンが獣人国を離れてからしばらく経つと、獣人国に送り込んだ間者の報告からカノンは捕まっている事が判明した。これで王国の人間にシバイがカノンを利用して何人もの人間を暗殺している事も知られてしまう。
王国の元宰相であるシンとシバイは繋がりがあった事も知られたのは間違いないが、だからといってシバイの権力が揺らぐ事はない。カノンがいくら情報を吐いたところで彼女はシバイが悪事を行う直接的な証拠は持っていない。
(ええい、あの女一人に任せた事が間違いだったか……貧弱の英雄を侮り過ぎたか)
自分の屋敷の使用人を追い払った後、シバイは頭を抱えて今後の事を考える。カノンのせいで色々と不味い事態に陥っていたが、彼女を王国に送り込む時点である程度の覚悟はしていた。
今回の失敗はシバイがカノンの事を信頼し過ぎていた事であり、彼女ならば王国の英雄を殺す事もできると踏んでいた。しかし、シバイの失敗の原因は「貧弱の英雄」の力を侮った事である。
獣人国では竜種という存在は非常に恐れられ、自分達ではどうしようもない圧倒的な存在だと認識していた。その竜種である火竜を王国が討ち取ったという報告を聞いた時は驚いたが、その火竜を討伐を果たしたのが当時は成人年齢にも満たしていなかった少年と聞いてシバイは信じられなかった。
(古代の魔道具を持つカノンを返り討ちにするとは……これは考えを改めなければならん)
シバイは貧弱の英雄は放置できぬ存在だと改めて考え直し、もしも噂通りに貧弱の英雄が竜種を打ち倒す力を持つ存在ならば放置はできない。
獣人国では最も恐れられたマジク魔導士が亡くなり、更に先の事件で王国はロラン大将軍を失った。だからこそシバイは今現在の獣人国の軍隊ならば王国に勝ち目はあると思っていた。しかし、火竜の首を送りつけられたときから状況は一変する。
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貧弱の英雄の噂は王国内だけではなく、獣人国の間でも噂が広まりつつあった。貧弱の英雄は魔導士や大将軍をも上回る脅威的な存在として認識されつつあり、そのせいで貧弱の英雄が居る限りは獣人国は王国に勝ち目はないと考える者も少なくない。
しかし、逆に言えば王国の戦力の中で最も恐れらている存在は「貧弱の英雄」であるナイ一人であり、もしも彼が不慮の事故か何かで亡くなれば獣人国の最大の脅威は消えてなくなり、今まで反戦派だった人間も態度を切り替えて戦を仕掛ける事に賛成するかもしれない。
(何としても殺さねば……!!)
シバイは諦めずにナイの暗殺を企てるが、後に彼はナイの殺害に拘った事を後悔する事になる。最初から王国への侵攻など考えず、両国の友好的な関係を維持する事に専念していれば彼は後悔する事はなかったが、既に手遅れだった――
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