貧弱の英雄

カタナヅキ

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番外編 獣人国の刺客

第886話 カノンの誤算

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「あ、危なかった……当たってたら火傷じゃ済まなかったな」
「はっ!?な、何が起きたの!?」
「ちょ、ちょっと貴女!!今、何をしたのよ!?」


ナイが魔石弾を弾くまでの一連の動作はあまりにも素早過ぎたため、カノンの視点では自分が発砲した瞬間、何故か上空で爆発が起きて混乱に陥る。一方でヒナはカノンが何か仕出かしたと思って怒鳴りつける。

ヒナの文句を聞いてカノンは正気を取り戻すと、慌てて彼女は駆け出す。逃げ出したカノンをナイは後を追いかけようとした。


「こら、待てっ!!」
「ち、近づくんじゃないわよ!!」
「ナイ君、危ない!?」


逃げる途中でカノンは魔銃を構えると、それを見たヒナが注意する。ナイは反魔の盾を構えると、カノンは走りながらもナイに目掛けて再び魔石弾を発砲した。


「このっ!!」
「ふんっ!!」
「きゃあっ!?」
「な、何だ!?花火か!?」


走りながらもナイは発射された魔石弾を再び上空へ弾き飛ばし、またもや上空で花火の爆発した。二階も連続で爆発が起きたせいで街道を行き来していた人々は立ち止まる。


「さ、さっきから何なんだ!?」
「何かが爆発したのか?」
「おい、どうなってるんだ!?」
「ちょっと、邪魔よ!!退きなさい!!」
「待てっ!!」


カノンは通行人を潜り抜けながら逃げようとするが、ナイは「跳躍」の技能で街の人々を跳び越えて先回りを行う。


「捕まえた!!」
「きゃああっ!?は、離しなさいよ!!」


まさかナイに先回りされるなど思わず、慌てて引き返そうとしたカノンだったが、ナイに腕を掴まれる。咄嗟に彼女はナイの顔面に魔銃を構えるが、先の攻撃で魔銃の危険性を理解したナイは発砲の寸前に彼女の腕を掴んで上空に発射させる。

ナイがカノンの腕を上げさせたお陰で魔石弾は再び上空に打ち上げ、三度目の爆発を引き起こした。カノンは三度も敵を外したのは初めての経験であり、ナイの対応力に驚かされる。


(こいつ何なのよ!?どうして当たらないの!?)


ナイの反射神経と運動能力は人間どころか高レベルの獣人族の戦士にも勝り、その一方でナイは魔銃の危険性を理解してカノンから取り上げようとした。


「この武器がさっきの爆発を……」
「あ、や、止めなさい!?この変態、誰か助けて!!」
「な、何だ!?襲われているのか!?」
「おい、あんた何してんだ!?」
「ちょっ……」


カノンは悲鳴を上げると通行人がナイの事を痴漢だと誤解して近付くが、この時に後ろから追いかけてきたヒナが声をかける。


「いいえ、皆誤解しないで!!その女はひったくりよ!!私の宝石を盗んだの!!」
「はああっ!?な、何言い出すのよあんた!?」
「何だと、ひったくり犯だと!?」
「くそ、よくも騙そうとしたな!!」
「あからさまに怪しい格好しているしな!!俺は最初から胡散臭いと思ってたぜ!!」
「こ、こいつら……きぃいっ!?」


駆けつけたヒナのお陰でナイの誤解は解け、街の住民はカノンに冷たい視線を向ける。その一方でナイは魔銃の回収を行おうとした。


「こら、離せっ!!指が折れるよ!?」
「い、嫌よ!!これだけは渡せないわ!!」
「もう、いい加減にしなさいよ!!諦めなさい!!」
「このっ……諦めるわけないでしょうがっ!!」


カノンは自分の服の中から火属性の魔石を取り出し、それを見たナイは嫌な予感を覚え、咄嗟に「瞬間加速」を発動してヒナに向かって飛び込む。


「危ない!!」
「きゃあっ!?」
「ふんっ!!」


魔石には子供の頃にナイがよく使用していた「壊裂」と呼ばれる魔道具が取り付けられ、それを利用してカノンは魔石を破壊する。その結果、火属性の魔石が砕けた瞬間に内部の魔力が暴走して爆発を引き起こす――





――街道で爆発が起きた瞬間、ナイは爆発する前にヒナを連れて避難しており、幸いにも爆発に巻き込まれた一般人はいなかった。爆発が原因で派手に煙が舞い上がり、その様子を見てナイはヒナを地面に下ろすと唖然とした。


「ば、爆発した……」
「まさか、自殺したの!?」


煙が消えると爆発が起きた場所にはカノンの姿は見えず、慌ててナイ達はカノンが消えた場所を確認する。爆発する前にカノンが立っていた場所はクレーターが出来上がっており、肝心の彼女の姿は見当たらず、まさか死体ごと吹き飛んだのかと思ったが違和感を抱く。


(いない……逃げたのか?でも、どうやって……)


カノンの姿が見えない事にナイは疑問を抱き、何が起きたのか理解できなかった。そして爆発によって発生した黒煙を見て一般区の見回りを行っていた警備兵が駆けつけてきた――





「――はあっ、はあっ……し、死ぬかと思ったわ」


どうにか爆発から逃れたカノンは既に街道を離れ、彼女は路地裏を通り抜けた先に存在する「空き地」に辿り着いた。この場所はナイがミイナ達と初めて出会った場所であり、彼女は空き地に辿り着くと自分が身に付けていたマントを見て口元に笑みを浮かべる。


「流石は火竜の翼膜で作り出されたマントね……これがなければまずかったわ」


カノンが身に付けていたマントはただのマントではなく、遥か昔に作り出された火竜の素材が利用された魔道具だった。このマントは火竜の死骸から回収された翼膜を利用し、それをマントにして作り出した代物である。

元々このマントはカノンの所有物ではなく、ある人物の暗殺依頼を受けた際、その人物が家宝として大切に保管していた代物をカノンは盗み出した。外見は古ぼけたマントにしか見えないが、火属性の魔力に対して強い耐性を誇り、これを身に付けていれば火竜の吐息でも耐え切れる優れた代物だった。

火竜のマントを身に付けていたお陰でカノンは火属性の魔石を利用した爆発から難を逃れ、煙に乗じて逃げる事ができた。万が一の場合に備えて彼女は「隠密」の技能も習得しており、流石のナイも爆発に気を取られて逃げ出した彼女を捉える事ができなかった。


(仕切り直しね……あんな化物だなんて聞いてないわよ)


カノンはマントを振り払い、とりあえずは爆発の際にこびり付いた汚れを落とすと、彼女はナイの事を思い出して腹立たしい気持ちを抱く。まさか自分の魔銃の攻撃を弾き返す人間が居るとは夢にも思わなかった。。


(大臣の奴が盾を欲しがった理由も分かったわ。あれが反魔の盾……まさか、私の魔石弾まで弾き返すなんて信じられないわね)


ナイが使用した反魔の盾の事を思い返し、もしもあの盾がなければカノンにも十分に勝機はあった。あの盾さえなければカノンはナイを仕留められると考え、同時に反魔の盾の性能を知った事で盾を狙う理由が増える。


(あんな物、大臣なんかに渡してたまるもんですか……あれは何としても手に入れる必要があるわね)


自分の魔銃の攻撃を防ぐ事ができる防具があるなどカノンは許せるはずがなく、大臣の依頼ではナイの反魔の盾も回収する様に命じられているが、カノンは反魔の盾を他の人間に奪われたらまずいと考えた。

絶対の信頼をおいていた魔銃が通じない防具が存在した事にカノンは焦りを抱き、どんな手を使っても彼女は反魔の盾を奪う事を心に誓う。そのためにはカノンは入念な計画を立てる必要がある。


(あの男……只者じゃないわ、私の魔石弾がわね)


ナイとの戦闘を思い返すだけでカノンは身体が震え、魔銃から放たれた魔石弾をナイは獣人族以上の動体視力で捉え、反魔の盾で弾き返した光景を思い出す。高レベルの人間は一般人とは比べ物にならない身体能力や動体視力を得る事はカノンも知っているが、これまでに彼女が殺した相手の中で魔石弾を目で捉えた人物などいない。


(あいつ、いったい何者よ……いえ、誰であろうと関係ないわ)


心を落ち着かせるためにカノンは魔銃を握りしめた状態で銃口を額に押し付け、彼女は心を落ち着かせるときはいつも魔銃を自分の身体に当てて考える。少しでも引き金を引けばとんでもない事態に陥るが、敢えてカノンは自分を窮地に追い込む事で冷静さを取り戻す。

獣人国一の暗殺者であると自負しているカノンは仕事を行う際、どんな失敗を犯したとしても決して落ち込まず、気持ちを切り替えて挽回の方法を考える。心が落ち着くと彼女は額から銃口を外し、魔銃を戻して頬を叩く。


「よし……とりあえず、あいつの情報収集が先ね」


気持ちを切り替えたカノンは標的であるナイの事を調べるために行動を移す。事前に大臣から色々と情報は教えてもらっているが、今一度ナイの情報を調べ直す事を決めて彼女は行動に移った――





――だが、カノンは気付いていなかった。空き地に逃げ込んだ彼女を監視する存在が近くにいた事、そしてその人物は建物の屋根の上で路地裏を歩くカノンを見て様子を伺っていた。
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