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番外編 獣人国の刺客
第882話 リョフイの奥の手
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「――おのれ、何が上級回復薬だ!!」
「リョフイ様、落ち着いて下さい!!」
「やかましい!!」
商人としての誇りを持っていたリョフイだったが、王都の何処の店も彼が持ち込んだ商品には目もくれず、怒りを抑えきれずに宿泊した宿屋で当たり散らしてしまう。
ちなみに彼が泊まった宿屋は一般区の中ではかなりの人気を誇り、名前は「白猫亭」という。リョフイはこの宿屋に例の噂になっている「貧弱の英雄」という存在が出入りしていると聞き、その正体を確かめるために大胆にも宿屋に泊まっていた。
(くそ、落ち着け……ここへ来た目的はただの情報収集だ。回復薬の取引など二の次だ)
リョフイとしては滅多に訪れられない王国の王都へ赴き、取引を成功させて大金を得ようと考えていたが、これでは計画が台無しである。だが、今回は持ち込んだ商品が悪かっただけであり、彼は帰国する前に何としても上級回復薬の生成方法と例の「英雄」の調査を行う事にした。
「お前達は急いで例の情報屋を探せ。ネズミという女だ、奴ならば何か知っているだろう」
「は、はい。分かりました」
「儂はここへ残って英雄が戻るのを待つ……どんな小僧か顔を確かめなければな」
表向きは使用人として同行させていた配下にリョウイは情報屋を探す様に指示を出す。だが、彼の誤算は既に情報屋のネズミは亡くなっている事を知らず、そもそも今の王都には情報屋の類を見つけ出すのは不可能に近い――
――時刻は夕方を迎え、一向に戻ってこない配下にリョフイは疑問を抱き、情報屋を探し出すだけでどれほどの時間をかけるつもりかと思った。しかし、夜を間もなく迎える頃に配下達は戻ってきた。
「リョ、リョフイ様……」
「申し訳ございません……」
「お、お前達……何だ、その恰好は!?」
情報収集に向かわせた配下達は戻って来た時は酷い恰好をしており、まるで強盗にでもあったかのようにボロボロの状態だった。彼等は獣人国の密偵の中でも腕利きの暗殺者でもあり、そんな彼等が傷だらけの姿で戻ってきた事にリョフイは戸惑う。
「こ、この国は危険です……すぐに逃げましょう」
「ど、どういう意味だ?」
「情報収集を行っていたら、急に黒い仮面の連中に襲われ……逃げるのが精いっぱいでした」
「直にここにも奴等が訪れるかもしれませぬ……どうか、お逃げ下さい」
「お、お前達!?」
リョフイの配下は報告を終えると倒れ込み、慌てて彼等の様子を調べたリョフイだが、どうやら彼等は死んだ様子はなく、首の裏に針が撃ち込まれていた。この針に痺れ薬か何かが含まれていたらしく、彼等は身体が痺れて動けないだけだった。
痺れ薬で動けなくなった配下達を見てリョフイは危機感を抱き、急いで自分だけでも逃げようとした。しかし、部屋の外に出ようとした時に思いもよらぬ人物と再会した。
「あ、貴方は!?」
「なっ……お、お前は!?」
「ノイ君、この男の顔に見覚えがあるのかい?」
既に部屋の外にはバーリの所で働いていたノイとアルトの姿が存在し、さらに二人以外にもシノビとクノ、そしてバルとモモとヒナの姿があった。ここでリョフイは油断してしまい、部屋で過ごしていた時に化粧を落としていた事を思い出し、彼の素顔を見たノイはリョフイの正体を見抜く。
「ま、間違いありません!!バーリと取引を行っていたのはこの男です!!」
「ぐっ……な、何故だ!?どうして貴様がここに!?」
「このノイは少し前にうちに入った従業員でね。それであんたの顔を最初に見かけた時に違和感を抱いてあたし達に報告してくれたのさ」
「僕がその話を聞いて姉上に頼んでシノビ君とクノ君に協力してもらい、監視させていたんだ。そしたら驚く事に君の所の使用人が情報屋を探しているそうでね、怪しいと思って彼等に対処してもらったんだ」
「中々の手練れだったが、我々の敵ではない」
「その通りでござる」
「ぐぅうっ……!!」
リョフイの目の前でシノビとハンゾウは吹き矢を取り出し、それを見たリョフイはまんまと自分が嵌められた事を知る。しかし、まさかバーリの元で働いていたノイが白猫亭で働いているなど夢にも思わなかった。
ノイが白猫亭に働き始めたのは偶然であり、実を言えば彼女は家族と夫と共に現在は王都で暮らしている。理由としてはリョフイの顔を知るのは彼女だけであり、アルトが白猫亭の主人を任されているヒナに頼んで雇ってもらう。
客の一人が部屋の中で暴れたと聞いてヒナは違和感を抱き、彼女は内密にテン達に連絡を行う。話を聞いたテンは怪しんで黒面のシノビとクノを呼び出し、リョフイの行動は監視された。そして彼が連れてきた使用人の怪しい行動を見抜いたシノビとクノはすぐに他の人間に報告を行い、この場所に全員が集まった。
「さてと……君達には色々と聞かせて貰おうか」
「ま、待て!!誤解だ、これは誤解だ!!」
「何が誤解だ!!往生際が悪いんだよ、この小悪党!!」
「ぐふぅっ!?」
この状況で言い逃れしようとするリョフイに対して容赦なくテンは腹に膝蹴りを叩き込み、リョフイは苦痛の表情を浮かべながら跪く。そんな彼に対してテンは頭を掴んで無理やり顔を上げさせると、凄まじい迫力を放ちながら答える。
「あんたが運び込んだガーゴイルのせいでうちのガキ共が死にかけたからね……あんたの正体や目的、洗いざらい白状してもらうよ!!」
「き、貴様等ぁっ……!!」
「おっと、抵抗するのはやめておいた方がいい。それと君が運んだ荷物の方も調べさせてもらうよ」
「荷物……!?」
リョフイはテンに捕まり、アルトから運び込んできた荷物の事を言われてある事を思い出す。彼は笑みを浮かべ、懐に隠していた「笛」を取り出す。
以前にリョフイはバーリにガーゴイルを引き渡す際、彼にガーゴイルを目覚めさせる魔道具とその使い方を教えた。そして今回の運び込んだ荷物の中にもリョフイは切札を隠しており、彼は笛を吹いて呼び寄せる。
「死ぬのは……貴様等の方だ!!」
「何!?」
「その笛を取り上げろ!!」
「もう遅い!!」
笛を取り出したリョフイは口元に運び込み、慌ててテンとシノビが動こうとしたが、彼が笛を吹いた瞬間に聞いた事もない音色が鳴り響く。すると、彼の部屋の中から物音がすると、扉を破壊して予想外の存在が出現した。
「シャアアアッ!!」
「ガ、ガーゴイル!?」
「また運び出していたのか!?」
「ふははっ!!死ねぇっ!!」
万が一の保険としてリョフイはガーゴイルを荷物の中に紛れ込ませて運び込み、彼の「魔笛」の音色で覚醒したガーゴイルはテンに襲い掛かった。テンは咄嗟にリョフイを放り込んで飛び掛かってきたガーゴイルと取っ組み合う。
「このっ……うわぁっ!?」
「テン、大丈夫か!?」
「無駄だ!!そのガーゴイルはバーリ如きに渡した失敗作とは違う!!儂の命令を完璧に聞く完全体だ!!」
ガーゴイルは自分の主人であるリョフイを拘束していたテンに襲い掛かり、彼女を力ずくで引き剥がし、そのまま押し寄せる。慌ててアルトはノイを連れて離れると、シノビとクノとルナはテンを救うために武器を抜いた。
「このっ!!」
「せいっ!!」
「テンを離せっ!!」
「シャアアッ!!」
三人の攻撃に対してガーゴイルは背中の羽根を利用し、自分の全身を覆い隠す。白猫亭を強襲した吸血鬼のように羽根を扱い、三人の攻撃は魔法金属並に硬い羽根によって弾かれてしまう。
テンを含めてここに集まったのは手練れ揃いだが、リョフイが完全体と称したガーゴイルは体型こそは従来のガーゴイルよりも小型ではあるが、能力自体は「ガーゴイル亜種」にも劣りはしない。
「シャアアッ!!」
「がはぁっ!?」
「テン!?」
「ちっ……そちらの男を狙えっ!!」
ガーゴイルによってテンは壁に叩き付けられると、シノビは即座にガーゴイルを操るリョフイに狙いを変え、彼に向けてクノに指示を出す。
「投っ!!」
「ぬおっ!?」
「シャアアッ!!」
クノはリョフイに向けてクナイを放つが、咄嗟にガーゴイルは翼を伸ばして彼を庇い、そのままリョフイの身体を抱き上げて窓へ向かう。
「シャアアッ!!」
「ぐううっ!?」
「しまった、逃げられるぞ!?」
「いや……」
窓から外へ飛び出したガーゴイルとリョフイを見てルナは彼等が外へ逃げると思ったが、シノビの方は不敵な笑みを浮かべた。外にも既に見張りは立たせており、その人物ならばガーゴイルを逃がす事はないと確信していた――
――窓から抜け出したガーゴイルはリョフイを抱えた状態で空を飛び、とりあえずは白猫亭の屋根の上に降り立つ。リョフイは荒い息を吐きながら魔笛を握りしめ、どうにか逃げる事に成功した事に安堵する。
「くそっ!!あの女がまさかこんな場所で働いていたとは……すぐに逃げるぞ!!」
「シャアアッ……!?」
「ん?どうした?」
ガーゴイルに指示を出そうとしたリョフイだったが、唐突にガーゴイルが何か怯えた表情を浮かべ、その反応に疑問を抱いた彼はガーゴイルの視線の先に顔を剥ける。
「よっこいしょっと」
「は?」
ガーゴイルの視線の先には屋根の上に降り立つ少年の姿が存在し、その少年の背中には二つの大剣を背負っていた。突如として現れた少年にリョフイは呆気にとられるが、ガーゴイルの方は何故か怯える様に身体を震わせる。
リョフイが見た限りではこの国では珍しい黒髪の少年にしか見えないが、ガーゴイルの目には少年の姿がまるで恐ろしい怪物の姿のように見えていた。しかし、主人を守るように調教されてきたガーゴイルは逃げ出す事ができず、リョフイの前に立って少年と向かい合う。
「リョフイ様、落ち着いて下さい!!」
「やかましい!!」
商人としての誇りを持っていたリョフイだったが、王都の何処の店も彼が持ち込んだ商品には目もくれず、怒りを抑えきれずに宿泊した宿屋で当たり散らしてしまう。
ちなみに彼が泊まった宿屋は一般区の中ではかなりの人気を誇り、名前は「白猫亭」という。リョフイはこの宿屋に例の噂になっている「貧弱の英雄」という存在が出入りしていると聞き、その正体を確かめるために大胆にも宿屋に泊まっていた。
(くそ、落ち着け……ここへ来た目的はただの情報収集だ。回復薬の取引など二の次だ)
リョフイとしては滅多に訪れられない王国の王都へ赴き、取引を成功させて大金を得ようと考えていたが、これでは計画が台無しである。だが、今回は持ち込んだ商品が悪かっただけであり、彼は帰国する前に何としても上級回復薬の生成方法と例の「英雄」の調査を行う事にした。
「お前達は急いで例の情報屋を探せ。ネズミという女だ、奴ならば何か知っているだろう」
「は、はい。分かりました」
「儂はここへ残って英雄が戻るのを待つ……どんな小僧か顔を確かめなければな」
表向きは使用人として同行させていた配下にリョウイは情報屋を探す様に指示を出す。だが、彼の誤算は既に情報屋のネズミは亡くなっている事を知らず、そもそも今の王都には情報屋の類を見つけ出すのは不可能に近い――
――時刻は夕方を迎え、一向に戻ってこない配下にリョフイは疑問を抱き、情報屋を探し出すだけでどれほどの時間をかけるつもりかと思った。しかし、夜を間もなく迎える頃に配下達は戻ってきた。
「リョ、リョフイ様……」
「申し訳ございません……」
「お、お前達……何だ、その恰好は!?」
情報収集に向かわせた配下達は戻って来た時は酷い恰好をしており、まるで強盗にでもあったかのようにボロボロの状態だった。彼等は獣人国の密偵の中でも腕利きの暗殺者でもあり、そんな彼等が傷だらけの姿で戻ってきた事にリョフイは戸惑う。
「こ、この国は危険です……すぐに逃げましょう」
「ど、どういう意味だ?」
「情報収集を行っていたら、急に黒い仮面の連中に襲われ……逃げるのが精いっぱいでした」
「直にここにも奴等が訪れるかもしれませぬ……どうか、お逃げ下さい」
「お、お前達!?」
リョフイの配下は報告を終えると倒れ込み、慌てて彼等の様子を調べたリョフイだが、どうやら彼等は死んだ様子はなく、首の裏に針が撃ち込まれていた。この針に痺れ薬か何かが含まれていたらしく、彼等は身体が痺れて動けないだけだった。
痺れ薬で動けなくなった配下達を見てリョフイは危機感を抱き、急いで自分だけでも逃げようとした。しかし、部屋の外に出ようとした時に思いもよらぬ人物と再会した。
「あ、貴方は!?」
「なっ……お、お前は!?」
「ノイ君、この男の顔に見覚えがあるのかい?」
既に部屋の外にはバーリの所で働いていたノイとアルトの姿が存在し、さらに二人以外にもシノビとクノ、そしてバルとモモとヒナの姿があった。ここでリョフイは油断してしまい、部屋で過ごしていた時に化粧を落としていた事を思い出し、彼の素顔を見たノイはリョフイの正体を見抜く。
「ま、間違いありません!!バーリと取引を行っていたのはこの男です!!」
「ぐっ……な、何故だ!?どうして貴様がここに!?」
「このノイは少し前にうちに入った従業員でね。それであんたの顔を最初に見かけた時に違和感を抱いてあたし達に報告してくれたのさ」
「僕がその話を聞いて姉上に頼んでシノビ君とクノ君に協力してもらい、監視させていたんだ。そしたら驚く事に君の所の使用人が情報屋を探しているそうでね、怪しいと思って彼等に対処してもらったんだ」
「中々の手練れだったが、我々の敵ではない」
「その通りでござる」
「ぐぅうっ……!!」
リョフイの目の前でシノビとハンゾウは吹き矢を取り出し、それを見たリョフイはまんまと自分が嵌められた事を知る。しかし、まさかバーリの元で働いていたノイが白猫亭で働いているなど夢にも思わなかった。
ノイが白猫亭に働き始めたのは偶然であり、実を言えば彼女は家族と夫と共に現在は王都で暮らしている。理由としてはリョフイの顔を知るのは彼女だけであり、アルトが白猫亭の主人を任されているヒナに頼んで雇ってもらう。
客の一人が部屋の中で暴れたと聞いてヒナは違和感を抱き、彼女は内密にテン達に連絡を行う。話を聞いたテンは怪しんで黒面のシノビとクノを呼び出し、リョフイの行動は監視された。そして彼が連れてきた使用人の怪しい行動を見抜いたシノビとクノはすぐに他の人間に報告を行い、この場所に全員が集まった。
「さてと……君達には色々と聞かせて貰おうか」
「ま、待て!!誤解だ、これは誤解だ!!」
「何が誤解だ!!往生際が悪いんだよ、この小悪党!!」
「ぐふぅっ!?」
この状況で言い逃れしようとするリョフイに対して容赦なくテンは腹に膝蹴りを叩き込み、リョフイは苦痛の表情を浮かべながら跪く。そんな彼に対してテンは頭を掴んで無理やり顔を上げさせると、凄まじい迫力を放ちながら答える。
「あんたが運び込んだガーゴイルのせいでうちのガキ共が死にかけたからね……あんたの正体や目的、洗いざらい白状してもらうよ!!」
「き、貴様等ぁっ……!!」
「おっと、抵抗するのはやめておいた方がいい。それと君が運んだ荷物の方も調べさせてもらうよ」
「荷物……!?」
リョフイはテンに捕まり、アルトから運び込んできた荷物の事を言われてある事を思い出す。彼は笑みを浮かべ、懐に隠していた「笛」を取り出す。
以前にリョフイはバーリにガーゴイルを引き渡す際、彼にガーゴイルを目覚めさせる魔道具とその使い方を教えた。そして今回の運び込んだ荷物の中にもリョフイは切札を隠しており、彼は笛を吹いて呼び寄せる。
「死ぬのは……貴様等の方だ!!」
「何!?」
「その笛を取り上げろ!!」
「もう遅い!!」
笛を取り出したリョフイは口元に運び込み、慌ててテンとシノビが動こうとしたが、彼が笛を吹いた瞬間に聞いた事もない音色が鳴り響く。すると、彼の部屋の中から物音がすると、扉を破壊して予想外の存在が出現した。
「シャアアアッ!!」
「ガ、ガーゴイル!?」
「また運び出していたのか!?」
「ふははっ!!死ねぇっ!!」
万が一の保険としてリョフイはガーゴイルを荷物の中に紛れ込ませて運び込み、彼の「魔笛」の音色で覚醒したガーゴイルはテンに襲い掛かった。テンは咄嗟にリョフイを放り込んで飛び掛かってきたガーゴイルと取っ組み合う。
「このっ……うわぁっ!?」
「テン、大丈夫か!?」
「無駄だ!!そのガーゴイルはバーリ如きに渡した失敗作とは違う!!儂の命令を完璧に聞く完全体だ!!」
ガーゴイルは自分の主人であるリョフイを拘束していたテンに襲い掛かり、彼女を力ずくで引き剥がし、そのまま押し寄せる。慌ててアルトはノイを連れて離れると、シノビとクノとルナはテンを救うために武器を抜いた。
「このっ!!」
「せいっ!!」
「テンを離せっ!!」
「シャアアッ!!」
三人の攻撃に対してガーゴイルは背中の羽根を利用し、自分の全身を覆い隠す。白猫亭を強襲した吸血鬼のように羽根を扱い、三人の攻撃は魔法金属並に硬い羽根によって弾かれてしまう。
テンを含めてここに集まったのは手練れ揃いだが、リョフイが完全体と称したガーゴイルは体型こそは従来のガーゴイルよりも小型ではあるが、能力自体は「ガーゴイル亜種」にも劣りはしない。
「シャアアッ!!」
「がはぁっ!?」
「テン!?」
「ちっ……そちらの男を狙えっ!!」
ガーゴイルによってテンは壁に叩き付けられると、シノビは即座にガーゴイルを操るリョフイに狙いを変え、彼に向けてクノに指示を出す。
「投っ!!」
「ぬおっ!?」
「シャアアッ!!」
クノはリョフイに向けてクナイを放つが、咄嗟にガーゴイルは翼を伸ばして彼を庇い、そのままリョフイの身体を抱き上げて窓へ向かう。
「シャアアッ!!」
「ぐううっ!?」
「しまった、逃げられるぞ!?」
「いや……」
窓から外へ飛び出したガーゴイルとリョフイを見てルナは彼等が外へ逃げると思ったが、シノビの方は不敵な笑みを浮かべた。外にも既に見張りは立たせており、その人物ならばガーゴイルを逃がす事はないと確信していた――
――窓から抜け出したガーゴイルはリョフイを抱えた状態で空を飛び、とりあえずは白猫亭の屋根の上に降り立つ。リョフイは荒い息を吐きながら魔笛を握りしめ、どうにか逃げる事に成功した事に安堵する。
「くそっ!!あの女がまさかこんな場所で働いていたとは……すぐに逃げるぞ!!」
「シャアアッ……!?」
「ん?どうした?」
ガーゴイルに指示を出そうとしたリョフイだったが、唐突にガーゴイルが何か怯えた表情を浮かべ、その反応に疑問を抱いた彼はガーゴイルの視線の先に顔を剥ける。
「よっこいしょっと」
「は?」
ガーゴイルの視線の先には屋根の上に降り立つ少年の姿が存在し、その少年の背中には二つの大剣を背負っていた。突如として現れた少年にリョフイは呆気にとられるが、ガーゴイルの方は何故か怯える様に身体を震わせる。
リョフイが見た限りではこの国では珍しい黒髪の少年にしか見えないが、ガーゴイルの目には少年の姿がまるで恐ろしい怪物の姿のように見えていた。しかし、主人を守るように調教されてきたガーゴイルは逃げ出す事ができず、リョフイの前に立って少年と向かい合う。
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